東京都八王子の精神科病院「滝山病院」に入院していた患者3人が死亡したのは、適切な医療がおこなわれなかったためだとして、遺族5人が10月31日、当時の院長や病院を運営していた医療法人社団を相手取り、総額約8840万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
●死亡した患者、床ずれが骨まで達する
滝山病院をめぐっては、看護師らによる患者虐待事件が発覚し、入院中の患者が相次いで亡くなるなどの問題が指摘されてきた。当時の院長は事件後に辞任し、病院を運営していた医療法人社団は名称を変更。病院名も改められている。
訴状によると、2022年1月に死亡した川崎鋼一さんは、うつ病の悪化により通院での透析が困難になり、2018年6月に滝山病院へ入院した。しかし、仙骨部に重度の褥瘡(じょくそう、一般的には「床ずれ」)が生じ、2021年11月にはその深さが骨まで達していたという。
同年12月に川崎さんが心肺停止となった際、病院側は「急性心筋梗塞」と診断したが、もともと肺胞の毛細血管が破綻しており、止血が必要だったにもかかわらず、血栓を溶かす働きをする薬剤を継続して投与した。その結果、出血が助長され、閉塞性ショックまたは貧血による循環不全で死亡した──と原告側は主張している。
他の患者2人も、入院後に適切な栄養管理や体位変更といったケアを受けられずに、1年以内に死亡したとうったえている。
滝山病院に入院中に死亡した患者の仙骨部分にあった褥瘡(代理人の相原啓介弁護士の提供)
●「父に申し訳ないことしたと悔やんでいる」遺族の思い
この日の提訴後、原告の一人と弁護団とが東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。
これまで滝山病院での虐待事件に取り組んできた相原啓介弁護士は「病院の中でおこなわれていたことは『杜撰な医療』という言葉では語り尽くせない。むしろ反医療、人が亡くなる方向で医療がおこなわれていた。本質的な問題はそこにある」と指摘した。
また、川崎さんの遺族の男性は「やっとこういう形で提訴できたことを父も喜んでいると思う。今日に至るまで私も病院に行って父の看護記録を見るなどしてきたが、本当に父に申し訳ないことをしたなと悔やんでいる。いまだに真実はわからない」と語った。
滝山病院に入院中に死亡した患者の壊死した足(代理人の相原啓介弁護士の提供)
一方、被告となった医療法人社団に電話で取材を試みたところ、まだ訴状が届いておらず、提訴されたこと自体を確認できない状態で、現段階では回答を得られなかった。