灰は龍炎に惹かれて   作:ジルバ

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最近思ふ事、ウルサス(国家)とウルサス(人種)が……ややこしい

あとアークナイツ5周年おめでとうございます!


アークナイツ、そしてロドスの未来に……太陽あれ!!


第12話:人の中の可能性

遊撃隊とスノーデビル達と戦場を共にするようになって年単位の時が経った。

……しかしタルラとパトリオットとの関係に目立った進展は現れてはいない。

 

パトリオットは作戦終了後に戦場を眺める習慣があるようで、タルラはいつもそのときの彼に話しかけている。

彼は彼女の話をただ黙って聞くだけで決して言葉を返すことはない。まるで彼女の真意を測るかのように一通り話を聞くと、遊撃隊を率いて拠点へと帰投する。その繰り返しが今日まで続いているのだ。

 

私も彼と何度か接触を受けたことがあるが……なんというか、エレーナの言っていたようにかなり石頭な男だ。

親しくなったエレーナと兄弟たちから聞いたが、彼らも遊撃隊を率いたパトリオットの手で源石鉱山から救われたそうだ。

彼はそんなエレーナを養子として引き取り、育て、戦士“フロストノヴァ”に大成させたとも。

 

彼は決して悪い男ではない。見かけに騙されたが彼は決して怪物などでなく、彼もまたれっきとした“ヒト”だ。……200年以上戦場に身を投じているらしいが。

 

そう、だからこそだろうか。

 

私には彼が──

 

 

 

────“信じること”を恐れているように思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く立て!いつまでそこで固まっている気だ!?」

「お前の冷気のせいでこうなっているんだよ、この白ウサギが…!」

 

我々は今、遊撃隊とスノーデビル小隊と共にもはや日課と化してしまった源石鉱山に拠点を構えているウルサス駐屯軍への襲撃を敢行していた。

その最前線では主力であるタルラとフロストノヴァが──

 

 

 

「いくらお前の炎がちっぽけなものだろうとこの程度で動けなくなるとは情けないぞ!」

「何が「この程度」だ……ウルサス人の武器を凍らせるほどの冷気だぞ。そんな甘いものじゃないだろう!?」

 

戦場に焔と氷の華が咲き誇り、感染者監視官たちが消し飛ぶ。

 

二人は口喧嘩しながら群がるウルサスの雑兵達をアーツで蹴散らしていた。

 

その無双する戦い様は戦場の英雄と評されうる程のものである。……口喧嘩さえ聞かなければの話だが。

 

 

「……あの二人は戦場でくらい仲良くできんのか…?」

「口のほうはともかく息の合ったコンビネーションしてんじゃねぇかよ。タルラの奴も姐さんも素直じゃねぇが体は正直ってやつなんだろうさ」

「お前は何を言っているんだ?酒豪なのは構わんが酒も程々に──」

「大事な作戦の決行前にスピッタース一気飲みして戦ってたアンタには絶対言われたかねぇッ!」

「いや、だからあれは水だと思ってだな……」

 

そしてアッシュとスノーデビルのアジンもまた駐屯軍の兵達を得物とアーツで捌きながら駄弁っていた。

 

「…フロストノヴァに出会ってからというものの、タルラは修行により一層力を入れるようになった。……相手になる私の身にもなってもらいたいものだが

「ビックベアも姐さん相手に大変そうだったなァ」

「思考も似ているとは…成程な、これが喧嘩するほど仲が良いということなのか……なァッ!!?」

 

突撃してきたウルサスコマンドーの突撃槍をアッシュは“煙の特大剣”の戦技「踏み込み」で受け止め、体重を乗せた渾身の振り下ろしの一撃によってウルサスコマンドーが原型を失い断命する。

 

仲間を容易く屠っていく感染者の戦士を先導する炎の龍と襤褸纏いの黒騎士、そしてスノーデビル小隊を率いる冷たい悪魔を前にウルサスの兵士達が気圧され始める。

 

 

 

その時だ

 

彼等の中の一人が徐に視線の先にあったソレに指を指し、それを皮切にウルサスの兵士達が目を動かす。

 

 

“祭壇”があった。血のように赤黒い波動を放つ禍々しい祭壇が戦場に屹立していた。

ソレを見た彼らの顔に恐怖が鮮明に浮かび上がり、我先にと敵に無防備な背中を晒し、戦場から逃走し始めた。

 

「なっ…!?チィッ!逃がすものかよ……ッ!!」

「おう、アッシュお疲れさん!追わなくて良いぜ」

 

敵前逃亡を図る駐屯軍の兵たちを逃がすまいと駆けだそうとするアッシュだったが、彼の肩を持ったアジンが引き留める。

 

「何を馬鹿な──」

 

アッシュがそれから先を言おうとしたが口から出ることはなかった。

 

 

 

「──大旦那が戦ってるとこを見たことあるか?アッシュ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配置についたその男は不動の山嶺のようにただそこに立ち、眼前の駐屯軍の者たちを視ていた。

逃げる先で佇んでいるその男は彼らの生命(いのち)の──運命の死を告げる使徒……あるいはそのものだ。

 

前方には死を告げる怪物が、左右には彼の──パトリオットの遊撃隊が、そして後方には逃避を試みた炎の龍と雪原の悪魔の手勢が。

 

……もはや我らの運命は定まってしまった。生き延びることは不可能だ。

そう悟った兵士たちはめに立ちはだかる運命の死に突き進むことを選んだ。

 

 

天地が悲痛に震え始める。

彼等の選択を見届けた黒きウェンディゴは、手に握る巨戟を投げ放ち──

 

 

 

──ウルサスの陰鬱な雲に覆われていた空が穿たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッシュは突如現れた蒼穹の空を、そして先程まで駐屯軍のいた筈の場所にぼっかりと空いた大穴を茫然と見ることしかできなかった。

 

文字通りの人災と言うべき一撃であった。これほどの大規模な攻撃が神や古竜といった超常的な力を有する上位者でなく、たった一人の人間によるものだとはこの目で確と見たにも関わらず信じられない……

 

(……どうやらタルラはとんでもない男を仲間に引き入れようとしていたようだな…)

 

アッシュは戦場の後処理に行ったアジンと別れ、タルラとフロストノヴァの元に向かった。

 

 

「……無事か?タルラ」

「ん?アッシュか。あぁ、見ての通り無事だよ。そっちも()()()()()()()()()()()()

「おかげさまでな。……しかし凄まじいな、パトリオットという男は。我々が出るまでも無かったのではないか?」

「それは違うぞ、アッシュ。我々が奴らの気を引き、稼いだ時間で遊撃隊が包囲を完成し……父さんの配置が間に合ったんだ」

 

「……我が娘の言う通りだ」

その場にいる三人の耳に厳かな老戦士の声が聞こえ、漆黒の鎧を鳴らしながらパトリオットが現れた。

 

「遠方からではあったが君の戦いぶりを見させて貰った。エレーナが認めただけあって、優れた戦士のようだ」

「父さん、それは黙っておけと…!」

「……貴公には遠く及ばんよ。だがその賞賛の言葉、有難く受け取らせてもらう」

 

このテラにこの男を相手取れる実力……あるいは軽く返り討ちにできるような力を持つ者がいるのだろうか?

世界というものは広い、きっといるはずだ。

……そうわらわらといることは無いことを祈ろう

 

──本当にこのテラ(世界)は……魔境だ

 

勝手にアッシュが気を滅入らせている間にタルラは一歩前に歩み出て頭を下げた。

 

「ご支援感謝します、ミスター」

「──タルラ。雪原を離れようというのか?ウルサスの鉄甲に粉砕されるぞ」

パトリオットもタルラの方へと身体を向け彼女を見下ろすが、礼に対して何も言わず問いを投げかける。

 

彼の問いは以前から聞かされていた──彼女の理想への道筋についてのものであった。

 

「父さん……どうして今そのことを話すんだ?私達は勝ったじゃないか──」

 

「盾兵達は既に資源の回収に向かった。通信でお前の小隊も向かわせろ」

 

パトリオットは目の前に立つタルラから目を離すことなく、フロストノヴァに指示を与え黙らせる。

 

「……分かった。──私だ、疲れているだろうが次の指示を……」

 

アッシュは担いでいた“煙の特大剣”を地面に深く突き立て、その岩盤のごとき刀身に背を預けることにした。

彼はパトリオットが今までとは違う姿勢でこの場に臨んでいることに気付いたのだ。

 

パトリオットは今まではタルラの理想について聞くことに徹していたように思う。

 

そして今……おそらく彼はソレに対する自分の意思を伝える段階に移った。

 

「──君の計画はあらゆる者を死に追いやるものだ」

 

それに対してタルラがどう返し、納得させるのか。そう──これはパトリオットとタルラの“対話”だ。

この場において私に出来ることもすべきことも何一つ無い。する気もない。

 

ただ、タルラを見守るだけだ。

 

一度深呼吸をしたタルラはパトリオットの深紅の眼を見据え直し、口を開いた。

「……西北凍原にずっとしがみついていては私達は生きていけません、隊が大きくなればより多くの食料や資源補給が必要になります。現に今、私達を支持する村よりも嫌う村の方が多くなっている。…たとえ私たちが耕作を手伝ったとしてもどれだけ収穫できるでしょう?農地だって監視隊に荒らされるかもしれません。遊撃隊なら連中を簡単に撃退できますが…普通の感染者たちには無理です」

 

 

食料は数に限りのある物資の中でも特に重要な資源だ。何せ人間が生きている限り生きるために常に必要とするものなのだから。

昔のように食べなくとも良い己の分の食料を他の者に分け与えてどうにかなることもなくなってしまった。

 

「君は皆の死期を早めようとしている」

「私たちは凍原を離れるしかありません。サーミや荒れ地に行くのではなく……東、あるいは南の温かい土地へ行くべきです」

「それでどうやって生きていく?これ程多くの感染者をどうやって生かしていくというのだ?」

 

「しかし、都市やその周辺で暮らす感染者たちは凍原よりも多くいます」

「問題なく暮らせているのか?」

「酷い暮らしです」

「……彼らを吸収するつもりか?」

「いいえ、団結するのです」

 

ヒートアップしていく二人の弁戦。

それに伴ってか蚊帳の外にあるアッシュとフロストノヴァにすら重圧が及んでいた……。

 

 

「帝国が彼らに目をつけた時……扇動者である君が矢面に立つことになるぞ」

 

「私の元に団結するのではありません──同じ理念の下に団結するのです」

 

それを聞いたパトリオットの深紅の眼光が眼窩から漏れ出ん程に強まり、彼を中心にバキバキと地面に亀裂が走る。

 

「理念だと…?理念など実践されなければただの幻想だ。凍原に生きる感染者は無知でも愚かでもない。……私たちは幻想など抱かない…!」

 

(幻想……幻想か。確かにそうだな)

 

パトリオットの言い分も最もである。如何に高尚な理念や重大な使命を持っていたとしてもそれを果たさなければ意味は無い。

 

実際にロードラン、ロスリックで道半ばに斃れていった者たちをこの目で見てきた。

……決して認めたくはないが何も為せなかった彼等の生は……無意味だった。

 

彼も……パトリオットもそういった者たちの最期を見届けてきたのだろう。

 

彼は私と似ている。

長い時と己の命を戦いに捧げ、積み上げた屍の上で、尚も独りで戦い続ける亡霊のような者同士。違いは積み上げてきたモノが己のものか敵のものかだ。

 

「君の計画に優れた点があるのは認めよう。しかし、君の構想は取り立てて画期的というわけでもない」

 

しかしそれ以上に明確な違いが彼と私を大きく別っているように思う

 

「どれだけの戦略家がこの凍原で落ちぶれて死んでいると思う?」

 

彼は私と違って……きっとそれでもと懸命に足搔きその末に使命を成し遂げた者を見たことがないのではないか?

 

「君の言っていることがどうやって成し遂げられるのか、何を根拠に実現できると確信できるのかが私には解らない」

 

──だから、タルラを信じることができないのではないだろうか?

 

「私は何度でも言い続けますよ。凍原を転々とすることは結局緩慢な自死に過ぎません……あなたもよくわかっているでしょう?」

「私の娘なら君を信じるかもしれない。だが私は……現実に絶望したことさえなく、ひたすらに机上の空論を唱えている者を信じはしない」

「………」

 

タルラはそれ以上パトリオットと問答することなく、背を向けて歩き始めた。

 

「タルラ?どこに行くんだ?」

「採掘場だ。心配ない、生存者がいないか確認しに行くだけだ」

 

(…今回も結果だけを見れば失敗か。とはいえタルラが有言実行していけば彼もいづれは認めるだろう──)

 

「──待ってくれ。君にも用がある」

 

背もたれにしていた“煙の特大剣”を地面から引き抜きタルラの後を追おうとするアッシュだったがパトリオットが呼び止めた。

 

「父さん?」

 

「………私にも用向きがあったとはな」

「君にも聞きたいことができた」

「…何なりと」

 

アッシュはアッシュはタルラがやってみせたように遊撃隊の長たる巨大なウェンディゴに正面から相対した。

 

「そうかしこまらなくて良い。単純な質問だ──君は何故……彼女についていくと決めることができたのだ?」

(…ほう?)

 

彼の魂胆は読めない。ただ気になったからなのか、或いはアプローチを変えて彼女のことを試そうとしているのか。計算づくで動く彼ならば恐らくは後者だろう。

 

「私達の話を聞いていただろう。彼女の語ることに一理があったのは確かだ……しかし…彼女の理想は余りにも先の見通せぬものだとは思わないか?彼女はまだ若く、まだ何も知らず、何も見通せてなどいない。……君は自分の命をそんな孺子に預けられると断言できるのか?」

 

(孺子とは……随分な言い様だな)

 

さて、どう答えてやろうか?

その問いに対してYESとNOのどちらも返す気になれんな。…どう答えたものか。

預ける命など幾らでもある……それではタルラの顔は立てられんか。

 

……あぁ、丁度良い。彼には悪いが私から言いたかったことだけ言って退散させてもらうとしよう。

 

アッシュは“煙の特大剣”をソウルに還し、新たに一振りの直剣を手にし、その手の中で遊ばせ始める。

それは──何の変哲もないただの“ロングソード”だ。

その剣は──アッシュの名を貰う以前の無名の亡者だった彼をロードランで薪の王の座へと導いた得物の一振りだった

 

突然のその行為に訝しむパトリオットにアッシュは己の答えを返した。

 

「パトリオットよ、私がタルラについていった理由はな。──可能性を見たからだ」

「………可能性だと…?」

 

アッシュの脳裏には王たちの化身の遺した“王たちのソウル”の見せた記憶が焼き付いていた。

ソレの見せた光景が己がテラに根付いた今もなお色を褪せる事無く──息づいている。

 

数の暴力に押しつぶされた者達、罠にまんまと引っ掛かり死んでしまった者達、足を踏み外して命を落とした者達、格上の存在である英雄や騎士、そして竜やデーモンを相手に何度も死にながらも打ち克った者達。

そんな彼等は諦めることなく抗い続け、最期に……胸の中に秘めた“ナニカ”に従い、薪の王となった。

 

「そうだ。私も貴公と同じように道半ばで果てた者たちを見てきた。──だがそれと同時に何度地に膝をつき、斃れようとも、不撓不屈の意思で立ち上がり使命を成し遂げた者達の姿を見た。……彼等が私に示して見せた人の秘める可能性──その炎があの日のタルラの内にも視えたのだ」

 

──絶対に成し遂げてみせる……!

 

「…だからこそ私は彼女が私に語った理想をいつか成し遂げられると信じ、そして()()()をこの目で見届けることを決心できた……私の回答は以上だ」

 

「人の秘める可能性……?そんなもの──」

 

──在りえない……

 

パトリオットがタルラとの問答の中で決して見せなかった動揺の感情が彼の言葉から現れていた。

恐らくは私の推測通りなのだろう。彼はその眼で小さな存在が大業を成すのを見たことが無かったのだ。

 

「……貴公はリアリストだ。それは美徳でもあるが──度が過ぎれば話は変わる。貴公は疑り深くなってしまっていると見える。少しだけでも良い、タルラを信じ、見守ってみてくれ。……私が貴公に言いたかったことはこれだけだ…ではな」

「あっおい!」

アッシュは足を止めることなく今度こそ採掘場のある方向へと歩き去っていった。

 

「……行こう、エレーナ。遊撃隊と合流する」

「…ハァ……了解だ。父さん」

去りゆくアッシュの背から目を離し、パトリオットは兜の内から咳を漏らしながらフロストノヴァと共にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──タルラ」

「……あぁ、すまない。置きざりにしてしまったな」

「なに、気にするな。少しパトリオットと話して遅れただけだ。……彼に君のことをしっかり見るように言ってきた。効果はあるかは分からんが…」

 

「そうだったのか……ありがとう」

 

先の対談を引きずってかタルラが心なしか萎れているように見える。

タルラのことだからすぐに立ち直るだろう、そう思ったとき──

 

ミシリ……

 

何かが軋むような音が微かに聞こえた。

 

「誰かいるのか?」

 

……返事は無い。が、誰かがそこにいる

 

納刀していた“ロングソード”に手をかけたアッシュだったがタルラが彼を制し、隠れている者に聞こえるように声を掛ける。

 

「……そこにいるのは分かっている。私達に敵意は無い」

「そ、それ以上近寄るな!近寄ったら撃つッ……!」

「あ、あの人感染者だよ!サーシャ、感染者なら僕のアーツで追い払えるよ……!」

 

もう隠れることは無意味と考えてか、姿を現したのはサヴラとリーベリの二人の少年であった。

 

サヴラの少年はサーシャ、リーベリの少年はイーノという名を持っていた。

 

幼き感染者であるこの少年たちと私達は──この日、この採掘場にて出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此度の作戦は長期的なものでかなりの遠出であったが故にその二人の少年を連れて最終的に拠点へ帰るのは明日の早朝になった。なんせ多勢の行軍、深い夜闇で行動するのは危険すぎるとのご達しだ。

 

 

戦士たちが寝静まった夜半にアッシュとタルラは彼の灯した篝火の傍で座り込んでいた。

パチパチと螺旋の剣の起こした火が立てる音を聞きながら“戦神の盾”の上で鉛筆を動かすタルラを見ながらアッシュはぼやく。

 

「……まったく、ようやく手に入れた移動都市をよもや裏切り者に明け渡すとはな……」

「ハハ……パトリオットも彼らを裏切り者と言っていたよ。だが私は私の下に集ってくれた者たちの力を貸して貰っている身だ。彼らの事情があった以上、文句は言えないさ」

「……あの移動都市なら動かす燃料が無くとも感染者が大手を振って人らしく暮らすことのできる場所として機能した……君の理想の一歩に成り得た筈だ。それを君は──」

棒に振ったのだ、と言おうとしたがタルラが口の前に人差し指を立てて制す。

そして彼女の膝の上で熟睡するイーノとサーシャの髪を軽く梳いてやりながら、二人の寝顔を見たタルラは薄く笑みを浮かべる。

 

「……この話は済んだことだ。それに住むための都市なら他にもあてがある」

「たしか……チェルノボーグだったか。しかしあそこは……」

「そう、今も健在の非感染者が住む移動都市だ。団結した我々の訴えを認めてもらえば隠れて生きる必要もなくなる。……私達の──感染者の暮らせる都市ができる…!」

 

そう言って鉛筆を強く握り締めるタルラの姿にアッシュはクツクツと嗤う。

あの日、己に理想を語った彼女の眼の奥にて燃ゆる炎に陰りは無い。

 

やはり彼女なら─為せる。

どんな障害や脅威を前にしても命ある限り何度でも挑み、打ち砕き前へと進むだろう。

……我らがそうだったように。

 

「……クク、その前にパトリオットの勧誘が先だろう?」

「彼の助力は必須だ。認めてもらうまで何年でも粘るとも」

「ほう、あと100年も待たねばならんのか。先は長いな」

「おいっ…!」

「クハハ!冗談、冗談だよ。だから尻尾で殴るな殴るな」

 

 

気の済むまでアッシュの背中をその尻尾で叩いたタルラはそのまま止めていた手を再び動かし始めた。

 

「君というやつは……」

「馬鹿にして悪かったよ……それで?さっきから書いてるそれはなんだ?」

「これか?見ての通り手紙だよ」

「例の都市にいるという協力者とやら宛てか?」

 

「いや、これはな……私の妹へ宛てた手紙だ」

「ほう、それはそれは……ん?い、妹!?

仏の顔も三度まで……とはいかずついにアッシュの逃亡騎士の兜を被った頭頂部にタルラの鉄槌が下された。

 

「まったく……二人が起きるだろう…!」

……すまん、初耳だった故な…しかし、君の妹か……」

「名はチェンという。…今どこにいるのかは分からない。それ故これを含めた今までに書いてきた手紙は自分の気持ちの整理の為のものだ。順調に育っていれば……背は私と同じくらいかな」

「チェン…その名、覚えておこう。……ということは以前私にしてくれた話と合わせるとお前を攫ったコシチェイとやらはまだ幼かった君たち姉妹を離れ離れにした訳か。私のコシチェイなる男への心象は悪化するばかりだな」

 

「あんなヤツの心象なんてそれで良いさ……チェンは今頃どうしてるのだろうな…」

「……君が諦めることなく前へと進み続けていれば…きっとその手紙がチェンに届くだろうよ」

「ハハッ!そんなんじゃ満足しないぞ。アリーナとお前にもいつかチェンに会わせてやる」

 

「ほう!それは楽しみだな。しかし…クク、私達の手を焼いてきた君の妹だ。その娘の周囲の者たちはさぞかし苦労していることだろうなァ」

「お前今日はやけに私に失礼じゃないか……?」

「スノーデビル共との酒の飲み比べを制してきたからかもな?」

「…この酒上戸めっ!」

「クハハハッ!!この私に酒でやり合う気か!?いつも練習死合で半殺しにされてきた分、今度こそは君を完膚なきまで打ち負かして──」

 

「「う…うーん……?」」

 

「「あっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……人の縁とは数奇なものである。それを面白いと言う者もいるが、私に言わせれば──

 

 

 

 

 

 

──心底から恨めしいものだ。……それこそ呪い殺してやりたいくらいに

 

 

 

 

 

 




“ウルサスコマンドーの手甲”
ウルサス軍の先兵、ウルサスコマンドーの手甲

機動力と突破力を損なわぬ為かその装甲は非常に軽量で
それでいてある程度の防御性能も備えられている
彼等の主任務である非武装の手勢を相手取るには十分な装備だろう







あとがきの時間だ

ほぼ本編通りな回でしたね。一応パトリオットと絡みはしましたけど

アッシュについてですが、彼は王たちのソウルの見せた薪の王…多くのプレイヤー達が何度死のうと諦めずに挑み続けて戦い抜いた姿が眼とソウルに焼き付いたことでキレイな主任みたいな価値観を持つようになったんですね。独自解釈の塊だァ…





次回、幕間:其の力は何の為に


幕間をあと一回挟みます。サーシャとアリーナの出番です。
その後に…私が全力注いだ結構アツい感じのお話を出す予定です。そこでアリーナもガッツリ出ます(大事なことなのでry

………そう、タルラの過去編の終盤に入るのです。


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