灰は龍炎に惹かれて   作:ジルバ

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ほぼ方針通りな投稿間隔ですな
日々現れてはプライベートを脅かす面倒事を片付けるのはいつだって面倒なものだ(スティンガー並感

今回はメッサ長いです。なんと平均文字数+約6000!!


しかし…ついに今年にアニメ3期ですか……興奮してきたな…







幕間:氷は輪舞し灰は紅く燃ゆる

その後、遊撃隊、そしてスノーデビル小隊はタルラの立ち上げた感染者の自助組織の拠点に駐在し、我々は彼らと共に行動するようになった

 

そう、タルラの交渉の末にあくまで彼等は我々の擁する非戦闘員の感染者達を盾として護るためにそうしているだけだ。パトリオットはタルラの志に共感はしなかった。

 

──あの廃墟街での作戦は半分成功した。今はそれだけで十分だ。

 

遊撃隊たちと共にあの街から帰投した時にタルラはそう言っていたが、その後の彼への説得もうまくいかず難航している現状はいつまで続くのか。

 

とはいえ、我々にできることは遊撃隊の日々行っている奴隷とされた感染者を救出を目的とした源石鉱山への襲撃作戦に参加し、少しでもタルラがパトリオットと言葉を交わせる機会を作ることだけだ。

 

タルラがパトリオットの攻略に齷齪している日々の中、私はスノーデビルや遊撃隊の戦士と戦場で仲を深めながら、拠点で平穏生活を送る──

 

「アッシュさん、勝負だ!今日こそあんたに勝ってみせる!!」

「フロストノヴァとの決闘を制したアンタに勝てば決闘に応じないフロストノヴァに勝ったと言えるだろう!!」

「また貴公等か……!来る日も来る日も…よくもまぁ飽きないな…いいだろう、速攻で返り討ちにしてやる…ッ!」

 

……そんな日々をある日を境に送ることができなくなっていた…

 

 

 

その日とは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは日課となった鉱山襲撃を終えた後に巻き起こった

 

「……フロストノヴァ、申し訳ない。完全に私の非だった、どうか許してくれまいか」

「許さん」

「すまん!悪かった!脳死で作戦に臨んでいた私が悪かった!この通りだッ!どうか許し──」

 

許 さ ん

 

 

監視官を殲滅し終えた源石鉱山の麓で、苦しい顔をしたスノーデビル小隊の者たちが遠巻きから見守る中アッシュは憤怒の形相で見下ろすフロストノヴァの前で土下座を敢行していた。

 

しかし極東の誠意を表す姿勢である土下座を以てしてもフロストノヴァの怒りは収まることなく寧ろより一層彼女の顔は険しくなる一方であった。

 

だが、彼女の怒りの故は最もなことであった。

 

作戦中、アッシュは帝国精鋭先鋒を相手取っていた。アッシュにとってウルサス軍の実力派の歩兵である帝国精鋭先鋒はハッキリ言って面倒の一言に尽きる敵だった。

ただでさえ攻防に秀でた難敵な癖に、瀕死になるとさらにその攻撃性を増すという先鋒の意味をはき違えた強敵である帝国精鋭先鋒を効率良く処する為に彼が相手の射程外から“太陽の光の槍”や“ソウルの結晶槍”といった長射程、高威力のスペルを連射する戦法を多用するようになるのはそう時間がかかることではなかった。

 

アッシュがこの作戦で連発していたのは……“苗床の残滓”だった。

ポイポイと“苗床の残滓”を無感動に投げ続けていたアッシュは気付かなかったのだ、

 

その近くでアーツによる援護射撃を行っていたフロストノヴァのマントに火の飛沫が飛び散っていたことを

 

しかしそのことに戦闘に専念していたフロストノヴァも気づくことなく二人が気づいたのは彼女のマントが焼け焦げている有様を発見してからだった……

 

 

「……お前、さっき何を言いかけた?」

「え…」

「こう言おうとしたよな?「たかがマント、いくらでも替えなどあるだろう」……と」

 

……確かに言いかけた。彼女が激怒していることに気づかなければ最後まで言い切っていただろう。

 

──まずい…

 

「そのマントに何か思い入れがあったのなら修繕して見せよう!贖罪になるのなら何でもするッ!!」

 

この仲違いは清算せねば今後の作戦行動やその為諸々に支障が出かねない。

そう確信したアッシュは土下座する頭を積もった雪に兜がめり込むほどに深く下げてフロストノヴァに全力で許しを請うた。

 

「ほう……何でも?」

「それで気が済むのならこの身を煮るなり焼くなり好きにして貰って構わない……!」

「……そうか」

 

それを聞いたフロストノヴァは踵を返し、歩き始めた。

 

 

……アーツで氷像にでもされるのだろうか?蘇った自分を見た彼女はどんな顔をするのだろうか?

 

徐々に遠のく足音を聞きながらアッシュがそんなことを考えている内に、フロストノヴァは足を止めてアッシュへと振り向く。

 

「顔を上げろ」

彼女の言葉に従って顔を上げると彼女は短剣を抜剣し、アッシュに切っ先を向けて言い放った。

 

「私と──決闘しろ」

「け……決闘?」

「そうだ、お前の妙なアーツで武器を出すが良い」

「……罰ではなく…決闘を?」

 

フロストノヴァに言い渡された予想の斜め上を行く内容に私は間抜けにも聞き返してしまった。

 

「タルラの奴がうんざりするほどにお前のことを我が事のように自慢してきていたのでな。いつかその実力を見せてもらおうと思っていた。いい機会だ、ここでお前を見定めるとしよう」

 

……タルラよ、パトリオットを攻略する片手間にわざわざ私の喧伝をしてくれる暇があったとはな。帰ったら礼として苔玉をお前に馳走してやろう。絶対に

 

(彼女も決めたことは曲げはしない……仕方ない…が)

 

そっと首を動かしスノーデビル小隊の面々に視線を送る。彼女の身を案じる者たちとしてはこの状況はどうなのだろうか。

視線を向けられたことに気付いた彼等は皆肩を竦め、首を横に振る。

もうどうしようもないのか……いや、アジンが何か言おうとしている。

 

アジンは徐に手元に大きな氷塊を作り出し、大柄のスノーデビル小隊の特殊近距離戦闘員──アイスピッカーのビックベアに耳打ちすると、ビックベアが得物である長刀を巧みに振るい氷塊を薄く切り、文字らしきものを刻み付けた。

 

 

恐らくフロストノヴァに訊かれたくないことを伝えたいのだろう。

アジンが見せてきた氷塊には──

 

 

 

 

 

姐さんに詠唱させないように立ち回ってくれ!

 

「…………」

「どうした?…まさか怖気づいたか?」

 

 

アジンよ、スノーデビル小隊よ、諫めるのを諦めてくれるな。私に注文を付けるな。

睨み付けると彼等は何を勘違いしたのか全員でグッドラック!とでもいうかのようにハンドサインを送ってきた。

 

良いだろう、注文承った。

お前たちにも苔玉の刑をくれてやるから覚えておけよ?

 

 

……さっさと勝ってやるとしよう

 

アッシュの右腕の先に蒼白いソウルの粒子が集まり“レドの大鎚”が顕れ、掴み取った“レドの大鎚”をフロストノヴァに向けてジェスチャー“不死隊の儀礼”で応じる。

身の丈を裕に超え、常人では持ち上げることすら叶わぬ巨躯を誇る漆黒の戦鎚の威容にスノーデビル達が興奮や驚愕の声を上げる。

 

「開始の合図をしろ、ビックベア」

 

「……分かった。一撃を先に入れた方が勝利とする。…異論は?」

「「無い」」

 

「よし、それでは……始めッ!」

 

(面倒は嫌いだ……さっさと終わらせよう)

先手を取ったのはアッシュだった。呪術“炸裂火球”を投げつける。

集弾性の低く、近くで撃たねば碌な威力の出ない呪術だがあくまで目的はアーツを使わせないための牽制だ。

目論見通りフロストノヴァは火球の群れに対し、迎撃でなく氷壁での防御を選択した。

戦いはまだ始まったばかり。相手の手札を割っていくターンという訳だ。

 

だが、アッシュとしては相手に何かさせる隙を与えぬ短期決戦を望む。

 

フロストノヴァが“炸裂火球”を防御した隙に、地を蹴ったアッシュがフロストノヴァとの彼我の距離を一気に詰める。

フロストノヴァの方も攻勢に移り崩れた防壁の向こうからアーツの礫を飛ばす。

 

氷の礫をレドの大鎚の鎚身で弾き、眼前に迫った彼女に戦技「岩呼び」で岩を纏った大鎚を振り下ろす。

 

フロストノヴァは優れたアーツ術師だ。ならばそのご自慢のアーツを使われる前にこちらの本分である近接戦闘に持ち込めばいい。

そう考えての一連の戦術であった。

 

しかし、フロストノヴァは術師である以前に──「戦士」なのだ

 

 

ガァァンッ!

 

「な……」

「フフフ……重い、な」

 

アッシュの有する武器の中でも最重量を誇る筈の“レドの大鎚”が氷の刀身を得た彼女の短剣によって受け止められた。

(その簡単に手折れてしまいそうな細腕のどこにこんな力があるのだ…!?)

ただのコータスの娘でこれなのだからテラの実力者界隈は魔境である。

 

刹那の拮抗、フロストノヴァは氷剣を斜にし横へと飛び退き、彼女がいた場所に大鎚が叩きつけられた。

 

すぐに首を動かし視界にフロストノヴァを収めるが、既に彼女周囲に黒い氷の槍が構築されており、此方へと向けられていた。

 

彼女にアーツの行使を許してしまったことに内心で舌打ちしつつ来たる苛烈な集中攻撃を回避せんと横へのローリングの為に体を傾け──

 

グンッ……

 

(──!?)

 

が、右腕が──否、“レドの大鎚”がびくともせずにアッシュを引き留めた。

 

(何…ッ!?)

 

見れば“レドの大鎚”は氷にその鎚身が覆い尽くされ氷塊となって地面に固定されてしまっているではないか。しかも今もなお氷はその勢力を広げ柄を握る右手に迫ってくる─!

アッシュは寸でのところで大鎚を手放しローリングすることで襲い来る氷槍達から難を逃れた。

 

 

……何をされた?アーツの詠唱は聞こえなかった。彼女のアーツも受けた覚えは……

 

(…受けたな、それも諸に)

初撃でフロストノヴァが放った氷の礫、あれを“レドの大鎚”で弾いた…恐らくその時に大鎚に付着した氷の欠片が広がっていき大鎚を覆っていったのだろう。

 

氷槍が着弾した場所をふと見れば“レドの大鎚”は完全に氷の塊の核となり見事な氷像の一部となっていた。

 

「賢明な判断だ。少しでも逡巡していればお前もその戦鎚と運命を共にしていただろう」

「……一撃入れるどころか殺して勝とうとしていないか?」

「お前がタルラの言うような強き戦士ならばこの程度を避けられるだろう?──そら!続けるぞッ!」

 

いうや否や、アッシュの頭上に幾本もの氷の槍が現れる

「ッ!“ウルサススラング”めが…ッ!」

 

空となった両の手に“羽の騎士の断頭斧”を装備し、再びローリングするが、間髪入れずに彼女が右のつま先で地面を叩くとそこから氷の針山が起こりアッシュを喰らわんと地面を走る。

 

(この攻撃…やはり彼女はあの女を思い出させてくれるな……!)

 

脳裏に蘇る双鎌で己の首を刈り取らんと迫りくる絵画で会敵したあの修道女の恐姿。

 

あの女も氷を地に走らせて凍傷に陥らせてきたんだったか……あの女と違いフロストノヴァのこの攻撃は凍傷所で済ませてはくれないだろうが。

 

──何としてでも再び彼女の懐に潜り込まなければ

 

迫る触れれば終わるであろう氷の針山から飛び退いて回避するアッシュ、しかしそれは悪手だった。

 

(!?しまっ──)

 

宙で無防備な状態になったその明確な隙を雪原の悪魔は逃さない。

 

 

 

──彼女の手から発射された巨氷の砲弾がアッシュを捉えた

 

 

「おぉ!き、決まっちまったか……!?」

「…死んだらどうする気なんだよ、姐さんは」

「…え、こんな…こんな戦いのせいでアッシュさんが死んだんですか!?」

 

 

騒めくビックベアを除いたスノーデビル小隊達、しかし当人のフロストノヴァは砲弾の起こした雪煙の中を睨んでいた。

 

──まだだ、まだ終わらんよ

 

「ッフン!」

 

その瞬間、雪煙を切り裂かれ、二振りの斧が本懐を果たさんとフロストノヴァの首へと目掛け一直線に迫る。

 

短剣とアーツユニットで双斧を弾き飛ばしたフロストノヴァ、しかしさらに第二波が現れる──!

 

「……ほう」

 

──雪煙から健在の姿のアッシュが飛び出でる。

そう、あの刹那に彼は迫る不可避の氷の砲撃を苦渋の決断で“狼騎士の大盾”を犠牲にして直撃を免れていたのだ。

 

視界が晴れ、フロストノヴァを完全に捕捉したアッシュは狙いを定めるように左手を前に突き出し、新たな得物たる“銀騎士の槍”を強く引き絞り──フロストノヴァへと突撃した。

 

 

その俊足の一刺に彼女に氷のアーツを行使する為の猶予はなく、防御する為の短剣とアーツユニットも既に振るい切っておりその余勢では左右へ回避する体勢を取る前に彼の槍が届く。

 

──取った

 

勝利を確信し、寸前で止めるために足を積雪に突き刺そうとした瞬間、

 

(……!!?)

 

フロストノヴァの姿が消えた。

 

何処に、とアッシュが両目を動かそうとするがその前に“銀騎士の槍”が上からの重い衝撃を受ける。

 

……まるで踏みつけられたような、そんな衝撃。

 

まさか、と思い、上を見上げると──

 

 

 

──突き出した槍の上にフロストノヴァが立っていた。

 

「フフ、良い眼だ…驚いたか?」

「……ぐぉッ!?」

 

ダンッ!!

 

彼女はコータス(ウサギ)として生を受けた。ウルサス()が怪力に恵まれているように、ドラコ()が丈夫で強靭な体と尾を持つように、故に彼女にとってその足で飛んで跳ねるはお手の物ということなのだろう。

 

 

「興が乗った、お前にも聴かせてやろう──私の歌を」

 

さらに“銀騎士の槍”を踏み台に、フロストノヴァは高く跳び上がりアッシュの頭上を取る。

 

 

──Sleep,sleep……おやすみ♪

 

雪原に透き通るような、哀し気な子守歌の歌唱が始まった。

 

──可愛い子よ♪

 

「ッ!しまった……!」

「!?姐さん!やめろ、歌うな!!」

 

彼らの声を気にも留めずフロストノヴァは歌い続ける

 

──Close,close,幸せな寝顔見せて♪

「チィッ…!」

彼女の手から小さな氷が生まれ、鋭い刃へと成長しながら螺旋を描き舞い踊りアッシュへと降り注ぐ。

“苗床の残滓”で迎撃を試みたが、それ以上の弾幕が返ってくる。

 

──夢の中で、怖い目見たら♪

 

詠唱と共に形成された氷の弾幕がアッシュへと襲い掛かる。

詠唱を中断させようと“太陽の光の槍”を放つが、氷の防壁によって彼女の眼の前で霧散する結果に終わる。

 

──大きくなれるかな 見守っているわ♪

 

あぁ、これは……ダメだ

フロストノヴァとの相性は五分五分だった。タルラと同様に相手の得意とするアーツを使わせず、此方の得意とする近接戦闘に引きずり込めさえすれば勝機はあったのだ。

 

だが逆に言えば相手にペースを奪われたら……お手上げである。なんせアーツの規模が大きすぎるのだから避けようがない。

 

駆け回り、ローリングし、“ハベルの大盾”を氷のオブジェに変えられ、何とか猛攻を捌き切ったアッシュだったが、彼女は無情にも先と変わらぬ物量の氷の槍の軍勢を再装填していた。

 

 

(もう力量で巻き返しようがないな…仕方ない)

 

アッシュは“粗布のタリスマン”を懐に直し、両手を前に突き出し、その先に現れ始めたソレをを掴み取る。

 

 

 

──初見殺しでいかせてもらおうか

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

凍獄を作り上げていたフロストノヴァの歌が──止んだ

 

()()()はアッシュを庇うように現れた。

 

「……え?」

「な、なぁ……アレって……」

 

いや、それは盾なのだろうか?その場にいたスノーデビル達とフロストノヴァにとってそれは…別のものにしか見えなかった。

堅い木材で加工された、左右一対の、真ん中に開く為の金具のつけられたソレは──

 

「……ド…ドア……?」

 

──大扉だった。

 

「どうした?来ないなら此方から行かせてもらうぞ!」

ズズズ…とその盾──“大扉の盾”を固く閉ざしたまま、アッシュはフロストノヴァへと前進し始める。

変哲の無い扉が独りでに動いているようにしか見えないその光景は──シュールであった……。

 

「っ!……私達の決闘を…冒涜するなッ!!」

 

ブンブンと頭を振り、茫然としていた状態から立ち直ったフロストノヴァが、アーツユニットを突き付け、展開の済んでいた氷槍達がアッシュへと襲い掛かる。

 

実行された苛烈なアーツの集中砲火によって巻き上がった雪煙の中にアッシュの姿は消え、雪煙が晴れた後には巨大な黒氷の結晶の山が出来上がっていた。その奥に“大扉の盾”もくっきりと見える。

 

「アッシュゥゥ──!!?」

「おいおい、今度こそ死んだんじゃ……」

 

(私の勝ちだ……最後の姿さえを除けばタルラの評通りの戦士だったぞ、アッシュよ)

 

「……とはいえ、やり過ぎたな。ビックベア、他のアイスピッカーたちも仕事だ。アッシュを助けてやって「姐さん、待ちな」……ビックベア?」

 

短剣とアーツユニットを下ろし、アイスピッカーに指示を下そうとしたフロストノヴァだったが、ビックベアが足元にあった石ころを氷の山──否、()()()()にぶつけ、彼は確信を得た笑みでフロストノヴァに告げる。

 

ミシリ……

 

「まだ終わってねぇみたいだぜ?」

 

…メキッ!

氷に亀裂が走った。

 

「なっ……!?」

 

「……Open(開け)……」

亀裂がさらに広がっていき、その奥から男の低い声が漏れ出る。

 

かつて何も守れなかった騎士の手に在ったその盾は新たな主であるアッシュを氷の魔の手から守り抜き、“内なる大力”、“固い誓い”による火力の底上げの猶予を作ってみせた。そして──

 

バキィィンッ!!

 

Sesame(ゴマァッ)!!

 

凍り付いた大扉を双王子の片割れたる兄王子──“ローリアンの大剣”で切り開き、アッシュが飛び出した。

 

 

「食らえ!!」

「ぬぅ!?」

 

飛び出すや否やアッシュの左手から()()()()()()()何かをフロストノヴァへと投擲した。

その派手な再起の姿にフロストノヴァは虚を突かれ、目を大きく見開き、──獰猛な笑みを浮かべる。

 

(…………ハハ…そうこなくては…な!!)

 

氷の防壁を張り、アッシュの放ったその飛び道具を防ぎ、彼女はアーツで反撃する。

一度でも当たればアウト、それを百も承知の筈のアッシュだったが、それでもなおその進撃を辞めずに氷弾の群れへと突っ込む。

無謀、蛮勇、そう思われたがそれも彼の打った一手によって覆ることになる。

 

──甦れ、イザリスの盟友達の焔よ。我らの余燼と共に燃えるがよい

 

 

先代の剣の担い手ローリアンに討たれしデーモンの王子が遺した混沌の残り火が刀身を紅く燃え滾らせる。

 

アッシュはその紅き熔鉄の刃を地に突き刺す。

 

「──お返しだ、受け取れッ!」

 

突き立てた地面から混沌の火が溢れだし、剣が抜き放たれた瞬間に炎の波濤となって向かってくる氷を喰らい尽くしていった。

そのまま勢いを衰えることなく迫る炎をフロストノヴァは横へと滑るようなステップで避けきった。

 

(この炎…温かい……それに何故か強く惹かれるような……む?)

 

消えゆく炎の残滓の向こうからアッシュが“ローリアンの大剣”を大きく振りかぶり向かってくる。

 

──その姿が……彼女の知る男のものとは別の姿に見えた気がした。

 

(…ついに幻覚まで見えるようになったか…?そろそろ終いとしよう……)

 

フロストノヴァが氷の刃を得た短剣を氷で作り出した即席の鞘に納め、アッシュを待ち構える。

 

互いが互いの焔の剣と氷の剣の間合いへ入る。

 

フロストノヴァは精神を研ぎ澄まし、迫る灼熱の大剣と打ち合うために氷の鞘から短剣を抜き放ち──

 

 

背中からの謎の衝撃が襲い、体勢を崩した。

 

(背後から…?何をされたッ!?)

 

反射で振り向くがそこには何もなく、下手人の姿もない。

 

──それが彼女の敗因……いや、この時点で勝敗は決した。

 

「しまっ……」

「チェックメイトだ」

 

振り向いた先で“ローリアンの大剣”が眼の前で停止していた。

 

 

 

 

 

「先の一撃、食らったな?……私の勝ちだ」

「……あぁ、そうだったな。…どうやって私の背後から攻撃した?お前の動きは決して見逃さなかったはずだが」

「あぁ…この“白教の輪”を使ったのだ」

そう言ってアッシュは奇跡“白教の輪”を虚空に投げるとその白き光輪はその先で留まり少ししてからアッシュの元へと帰ってきた。

(……こんな下らん小手先の技に引っかかったのか、私は……)

 

「……この勝負、勝者は…アッシュだ!!」

 

「「「「「「「おおお──!!」」」」」」」

 

観衆のスノーデビル達が沸き立ち、二人の元へ駆け寄る。

 

「すっげぇ戦いでしたね姐さん!」

「うむ、見事だった」

「……負けたがな」

 

(……食えぬ男だ、全く)

勝つ為に使える搦め手を使うことで足りぬ力量を補い、勝利を勝ち取る。……それがどんな勝利だとしても勝てさえすればいい…

 

──父さんとは違った意味で恐ろしい奴だ

 

「ア、アッシュさん怪我はありませんか!?どこか壊死してたりとかは……」

「キリルよ、壊死なんて子供の口から出て良いワードではないぞ……」

「…ったくよ、ヒヤヒヤしてたんだぜ俺ら。心臓壊れるかと思ったわ…」

「…アジン、人の心臓はその程度で壊れんぞ?」

「物の例えだっての!!」

 

(……タルラと似て不思議と憎めんヤツでもあるがな)

「おぉ、そうだった!」

 

そんなことを考えているとアッシュが何か思い出したようで、私の方に向き直って歩み寄ってくる。

 

「…フロストノヴァ」

「ん?」

「君のマント、私に預けてはくれないか?元通りにして返すと誓おう」

 

そういえば戦う前にもそんなことを言っていたな。…律儀な奴だ

……この状態から直す当てもないし、好意に甘えさせてもらうとしよう

 

フロストノヴァは纏っていたマントを取り外し、アッシュの手の上に乗せた。

「お前のことを見定められたので十分だったが…いいだろう。今回のことはチャラに──」

 

ドクンッ!

 

「──ガフッ…!?」

 

彼女の口から溢れ、飛び散った血が彼女の真っ白なマントをアカく彩った。

 

「「「「「「姐さんッ!?」」」」」」

 

その場に蹲ったフロストノヴァにスノーデビル達が一斉に駆け寄る。

最初の吐血を機にフロストノヴァが血を吐きながら咳き込み始めた。

 

「ゲホッ!ゲホッ……ぐ…うぅ…!」

「姐さんしっかりしろ!気を確かに持つんだ!!」

「すぐにベースキャンプに運ぶぞ…ッ!」

 

(私のせいだ……私がもっと上手く戦えていれば……)

彼女の苦し気な姿を前にアッシュは思わず後退り──

 

 

──見過ごすのか?

 

足を踏みとどまらせる。

 

…テラで生きることに慣れてから、不死として有していたある種の()()が消えていた。

 

それは──出会った者たちの死に対する耐性だ。

いつからできたのか定かではない。

少なくとも灰になった時には酒を飲み明かしたカタリナの騎士や共に魔術のスクロールを読み解いた青年……そしてかつての呪術の師であったイザリスの魔女の死を知っても心が大きく揺れ動くことはなかった。

 

しかし、テラで目覚め、タルラと共に過ごす内にその“慣れ”が無くなり始めていた。

 

恐い。いつかタルラが、アリーナが──友が死ぬのが……恐い

 

──だからこそ

 

アッシュはソウルから液体の入った小瓶をソウルから取り出し、フロストノヴァの口へと近づける。

 

「ちょっと何飲ませる気!?」

「“女神の祝福”だ。私のいた地で傷とあらゆる状態異常を治すことができていた秘薬のようなものだった」

「まさか……鉱石病もか!?」

「それは……すまない。確約できない……」

「姐さんを実験台にする気か!?」

「苦しみを和らげられるかもしれないのだ…貴公等も何もできない自分が嫌ではないのか!?

「っ……」

「やめろ…いつものことなんだから……ゲホ…ッ!」

「姉さん、もう話さないでください…!」

 

言い合いをしている今もフロストノヴァの症状が酷くなっていく。

「……副作用は?」

「アジン?あんたまさか……」

「無い。これは断言できる」

「そっか……飲ませよう、べトロワ」

力強く首肯したアッシュの目をじっと見据えたアジンは深く息を吐き、アッシュの持つ“女神の祝福”を手に取った。

「…正気?」

「副作用無ぇんなら試す価値あるだろ。…皆はどう思う?」

アジンはそう言い、他のスノーデビル達を見回すが、誰も否を唱えることはなかった。

 

「……皆賛成みたいだが?」

「…あぁもう!分かったよ!」

「よぉしこれで全会一致だな!……帰ろうか、姐さん」

「…待ってくれ。その前に……」

体を支えられ運ばれゆくフロストノヴァは──

 

「……心配させてしまったな。薬も…感謝する。──私のマント、頼んだぞ」

 

いたずら好きの子供のするような笑みを浮かべながらそう言い残し、スノーデビル達に連れられていった。

その場に残されたアッシュは渡された血の滲んだマントを見下ろし、マントを強く握りしめ、暫くの間立ち尽くしたままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、“女神の祝福”はフロストノヴァの──エレーナの鉱石病を完治させることは叶わなかった。

しかし、飲ませた後に発作自体は収まったそうだ。さらに鉱石病のせいで碌に食事をとれなかった筈の彼女の顔が血色の良くなり、体調が良くなったらしい。

 

私は貧乏性の仕業で一切使って来なかったありったけの“女神の祝福”をくれてやった。少しでも彼女が長く、兄弟姉妹たちと共に生きる時間を過ごせるようにと。

…ありったけとはいってもそう数は無い代物だが。

 

 

 

 

 

 

──しかし、この時は肝心な所で効果を発揮しない名前負けした粗悪品、そう思っていたこの秘薬のお陰で彼女が源石病の治療に漕ぎつけることができたのだから……頭が上がらないものだ。

 

──あの時に動くことができた自分にも










あとがき
戦闘回+αでしたが中々筆が乗った回でした。おかげで幕間どころか本編含めても最長ですよ最長!

偶然にもフロストノヴァの善き未来への布石を打ったアッシュ。こうでもしないとロドスに会うまでに寿命殆ど残ってくれないでしょ(死んだ魚の目
※フロストノヴァのマントはアッシュに頼まれたアリーナが縫い直しました。彼女に感謝を!

フロムシリーズでそんなフロストノヴァと戦ったら……ボス名は「雪原の悪魔、フロストノヴァ」…ですかね?


実は戦闘描写をいい感じにするためにソウルシリーズやブラボ、SEKIRO,その他アクションゲームのボスや強モブの攻撃の動きを観察してた時期があるんですよ。
財団風に言えば彼らの戦闘データ(モーション)を統合したアッシュ…という訳です。彼だけの話ではないですけどね
ちなみに今回ならアッシュにダークソウル3の羽の騎士の斧の投擲攻撃とか、銀騎士の槍とローリアンの大剣でSEKIROの流派技“大忍刺し”や修羅ルート一心の無明逆流れみたいな技をやってもらいました
今までの回にも散りばめてるから探してみよう!





次回、人の中の可能性


アッシュの不死生観?がちょっと垣間見える回です

ここすきなるものもあるそうで、良ければここすき、そして感想評価、お気に入り登録をしてもらえると嬉しいです!
よろしくお願いいたします(貪欲な銀の蛇の指輪+1
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