良いだろう……それを、
我らの余燼が貴方の──この世の者たちの安寧となるならば
我らが
辺り一面銀世界となった森林の中で、私は“ファリスの黒弓”に三本の闇の矢を番え、
(勘付かれると厄介だ。…必中でいく)
戦技「ファリスの三射」によって放たれた闇の矢は拡散しあらぬ方向へ飛ぶが、その途中で意思を持ったかのように標的目掛けて軌道を変えた。
闇の矢が命中した。しかしソイツは血を流しながら森林の奥へと逃げていってしまう。
(む……急所を狙ったんだが…まぁあれでは──)
残されていた血を辿ると、その先にソイツは横たわっていた。
しかし、まだ息があり、こちらを静かに見つめてくる。
止めを刺さんとアッシュは“バルデルの刺突直剣”を手に近づき──
「やれやれだ、自給自足でやっていくと聞いた時は正気を疑ったぞ…」
「そう言うなよ。実際に食べていけているんだから」
「…肉だけね」
アッシュは自身が仕留めた大角跳獣の焼かれた肉を兜の内へ押し込みながら彼女が仕留めた猪突獣を齧っているタルラにぼやく。
村を立って数日、こんな生活だがなんとか食い繋げている。
「まぁそれは認めよう。だがな……」
「ア、アッシュ……跳獣のおかわりを頼めるかしら…?」
「……」
アッシュは無言で
「……中に火が通り切っていなかったら言ってくれ」
「ありがとう、頂きます…」
「便利な物だな、その”ソウル“というのは」
「…話を戻すがな…………私は便利な倉庫じゃないぞ?????」
「仕方ないだろう、君の跳獣はともかく、私の猪突獣は大きすぎて運べなかったんだから。あ、私もおかわりだ」
どうやら私はこの小娘を見誤ったのかもしれない。
過去の私に会う機会に恵まれたら“焼きごて”を全身に押し付けるか“トゲの直剣”でバックスタブでもしてやりたい。
「……ここが目当ての場所か?……本当に?」
「あぁ、ここに感染者たちが隠れ住む集落がある」
村を出たばかりの頃にタルラは行く当てがあると言い、我々はタルラの先導に従って西へと移動してきた。
そして、今日イヴァン爺たちの村から最も近くにある感染者たちの隠れ家があると告げられた場所は日の光の及ばぬほどに木々がひしめき合った森であった。
「すごいところに住んでいるのね…」
「監視官に見つかれば終わりなんだ。見つからない為ならどんな場所であろうと住むしかないということさ。…さぁ、善は急げだ!」
「君の夢は善悪の問題では……野暮か」
森の中へと三人が足を踏み入れようとした時、最後尾にいたアリーナが立ち止まった。
「ん、どうかしたか?アリーナ」
「…向こうから聞こえるの、たくさんの人の足音が」
「足音?」
アリーナの指差す方に目をやるとそこには小さな黒いヒトガタがいくつも見えた。
もしやと思い遠眼鏡を使ってみればそのヒトガタの正体は予想通りだった。
「監視隊だ」
「何だと!?」
数は…40ほどだろうか。統率の取れた動きでこちらに向かっているのが見える。
「この村に気づかれたのか…!?すぐに村の者達に伝えないとっ!」
「あっタルラ!」
「……まったく、猪だな」
(……会敵は避けられそうにないだろう)
「アリーナ、君にこれを渡しておく」
「私に?…ゆ、指輪!?」
「それをつけていれば遠くから視認されなくなる。非戦闘員の君が奴らの敵意にさらされるのは避けたい故な。…では我々も行くとしよう!」
「あ、ちょ、ちょっと…ッ!」
タルラの足跡を頼りに森を進むと木々を切り倒して作ったらしい広い空間に村があった。
「こんな、人もろくに住めないような辺鄙な場所に村を作って細々と暮らしているのに、まだ来やがるのか!いい加減にしろ!」
「……どうか隠れていてくれないか。私が奴らと“話”をする」
タルラは既に第一村人と話しているようだが……警戒どころか武器まで向けられて敵対されてしまっている…。
「……遅かったな、二人共。奴らに追いつかれたのかと心配したぞ」
「遅れてすまない。アリーナが“幻肢の指輪”を中々身に着けてくれなくてな」
「は?ゆ、指輪…!?アリーナお前アッシュともうそんな関係に……」
「…本気で言ってるならあなたを雪に埋めるわ」
「なんだ?こいつらもお前の仲間か?言っただろ、お前らみたいな役人や貴族はどんな格好をしようと──」
そういえばタルラのあの装束はウルサスの憲兵のものだったか。……そんな感染者が嫌う連中の装束で感染者を説得するのは無理があるだろうに。
干渉する気はなかったが、こんなくだらん所で躓かれるのはこちらとしても困る。
(仕方ない、フォローに──いや……遅かったか)
「全員そこを動くな!」
ただでさえややこしくなっていたその場に感染者監視官たちが乱入し、より面倒な状況になった……。
「あっ……監視隊の……」
「まずは女二人に、貧相でみすぼらしい男が二人……軍の鉱山に送っても金にならんな。──さぁ、どうやって死にたい?一息か?それともじっくりとか?」
(鉱山……感染者の奴隷としての使い方か)
「……どうか!この情けない姿に免じてご容赦ください!放っておいてもどのみち短い命です!」
感染者の男はその場で跪いて監視官に助命を乞うた。
命乞い……惰弱な…いや違う、彼らは
「武器を手に取っていながら、今更何を言う?荷運びの駄獣よりも役立たずな奴らめ。お前ら感染者は生きているだけで陛下の資源を浪費しているんだぞ!」
監視官のその言葉を聞き、アッシュは初めて義憤というものを抱いた。
……“陛下の”資源だと? 貴様ら……
(なぜそう言える?)「なぜそう言える?」
アッシュとタルラが同時に剣を抜き放つ。
「なっ!?き、貴様ら誰に剣を向けて……」
タルラは村に住む感染者達に聞こえるように声高らかに語る。
「感染者の同志よ、顔を上げろ!確かに感染者の命は大した金にならないかもしれない。だがお前たちの命は、一枚の金貨に値する程度のものか?」
「貴様!っ!?か、体が…!?」
「黙って聞いていろ」
アッシュが奇跡「緩やかな平和の歩み」を発動し、タルラを黙らせようとする監視官達の機動力を奪う。
「同志よ、思い出してみろ。奴らが仕出かした蛮行の中で、態度や行儀の良さを理由に許してもらったためしがあるか?ないだろう!単にまだ搾り取れるものがあったからお前たちを生かしておいたまでだ。……我ら感染者がどう生きどう死ぬか、それを決めるのは我ら自身であるべきだろう!」
「……!」
タルラの言の葉はこの村の感染者の心を大きく揺らしたことだろう。
そうだ。──好きに生き、好きに死ぬ……それが“人”であるべきだ。鉱石病の有無など関係無い。
「おいクソアマ!名を名乗れ!歪んだ理論で民を惑わすなど言語道断!皇帝の名の下に処刑してやる!」
「名前……か。名乗るほどの名前は無い。同志たちであればどう呼ぼうと構わないが──敵にそんなものは一切必要ない」
タルラの剣が炎を纏う。
「私の炎で燃やし尽くすのみ!!」
「感染者が図に──」
タルラが啖呵を切った瞬間、アッシュがソウルから顕れた“スモウハンマー”を左肩に担いで地を蹴り、右手に握られたクレイモアが振るわれ監視官の首が宙へと舞った。
(ようやく貴様のその素っ首を斬れた……ハハ、もうすっかり心は感染者…か)
「タルラ!お前の炎を寄越せッ!」
「っ!分かった!…受け取れ!」
タルラの左手から放たれた炎のアーツを“スモウハンマー”に着弾させたアッシュは鮮血の噴水と化した首なしの監視官を踏み台にその後ろに待機していた監視隊に迫る。
「!?う、うわぁぁぁぁっ!!」
焔を纏いし処刑者の大鎚が叩きつけられた瞬間に爆炎が巻き起こり、監視官たちが木端のごとく吹き飛んだ。
「っ強襲兵!降下して来い!!」
焼死を免れた監視官の無線に応え、現着した五人のウルサス強襲兵がアッシュを取り囲む。
(空から降ってきた……!?面白いな……さて、どう切り抜けたものか)
途端に窮地に陥ったアッシュ。しかし、“スモウハンマー”を消し、打開策を捻りだそうと頭を回転させていた彼の元にタルラが強襲兵の包囲を跳び越えて着地した。
「随分と魅せてくれるじゃないか。……感染者の為に怒ってくれたのか?」
「……さて、な。…君には人をその気にさせる才があるとだけ言っておこう」
「そうか…背中は任せてくれ。君は前だけに集中しろ」
「それは頼もしい……なぁッ!」
タルラが地を蹴る音を背に、前の強襲兵2人に突っ込み、
「「……!?」」
重力に従い落下していく“クレイモア”に強襲兵の視線がほんの一瞬だが動いた。
だが戦闘において一瞬でも敵を見失うことは命取りだ。
「ぬん!ハァッ!」
「がはッ…!?」
強襲兵の目前まで接近したアッシュが右腕による肘鉄、さらに左手の掌底を放ち、止めにソウルから新たに引き出した“ロスリック騎士の直剣”でその身を貫く。
「そぉらァ!」
彼は続いて骸の鎚身を手に入れた剣を振るい、真横にいたもう一人を叩き潰した。
「見事な駆け引きだった。私もまだまだだと思い知ったよ」
背後からかけられた声に振り向けばタルラが相手取っていた三人は悉く断面が炭化するほどの炎の斬撃で切り捨てられていた。
「…よく言う。その強力な炎のアーツだけ極めていれば君は十分やっていけるだろうよ……」
「手札は多いほうが良いだろう?これから待っている戦いに備えないと、だ。……さて」
「あぁ──貴様で最後だ」
学生同士が雑談しているような雰囲気を漂わせていた二人だったが、一転して冷たい殺意を秘めた眼で腰が抜けながらも一人逃げ出そうと地面を這っていた監視官を睨む。
「ヒッ…!? ま、待ってくれ!俺は命令を受けて来ただけなんだ、頼む!……ごめんなさい!ごめんなさいッ!!どうか!ご慈悲を──」
監視官の部隊を殲滅した我々は村の者たちに迎え入れられることになった。
「泊めていただいて感謝する」
「とんでもない!君達がいなかったら、皆死んでいたところだ。まぁ今でも死人同然の生活だがな」
タルラの演説と戦いぶりに感化されたのか、我々に敵意をむき出しにしていた感染者の村人は今では随分と好意的だ。
「最初はきつく当たって悪かったな。しかも武器まで向けた。こんな腑抜けを許してくれ」
「…その己が不甲斐なさを自覚したとき、君はそんな自分と決別する。……おめでとう、その気付きを大事にしたまえよ」
「……だといいんだがな。まぁもてなすほどの物は残ってないが、麦粥が少しある。食べてくれ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「いや、どうせ余り物だ。持ってあと数日、大して変わらないよ」
「食料は人が常に必要とするものだ。余るも何もないだろう。私の分は結構、タルラとアリーナに食わせてやってくれ。……その代わりと言ってなんだが頼みがある」
「頼み?」
「──篝火を起こしたいんだ」
「ほらよ、薪も用意したぜ。ちょっと待ってろ、今火を……」
「その気遣いは不要だ、友よ。火は──私が用意する」
アッシュの手に螺旋の刀身を持つ一振の異形の剣が顕れる。
──“火継ぎの大剣”
王たちの化身が振るい、己のロードランの巡礼の旅、ロスリックの裏切りの使命の傍らに在り続けた篝火に突き立っていた剣。
その剣はいつの間にか私のソウルの一部となっていた。……手に入れた記憶はないのだが、おそらく“最初の火の炉”にて取り込んだ“王たちのソウル”の産物だろう。
「それは……剣…か?」
「アッシュ、何を…?」
逆手に持った“火継ぎの大剣”を突き刺す。
「そこで見ていたまえ──“残り火”よ」
アッシュの呼び声に呼応したかのように螺旋の刀身に火が灯る。
弱々しく燃えるその火は周囲の者たちの目を惹きつけてやまなかった。
アッシュは剣を握る手に力を込め──
「さぁ、このテラにて私も真に旅を始めよう。これが最初の──!」
“ウルサス強襲兵のクロスボウ”
敵陣中央への突撃を得意とするウルサス強襲兵のクロスボウ。
奇襲、強襲に特化した調整がされており、非常に軽量で威力が高い。
……はい、今は祝福のほうが見慣れてる気がしないでもないですが、親の顔より見た篝火です!これはダークソウルのクロスオーバー作品としては必須な存在でしょう
螺旋の剣=“火継ぎの大剣”は一点物ですので、一々引き抜く手間がありますが持ち歩いてどこでもセーブポイントにできる感じです。あらま便利!
まぁ、心境が変わったアッシュは今後死んで蘇ることを前提に生きることは無くなりますので、篝火はエスト供給と記憶する魔法の変更くらいにしか使われません。
刺さっている“火継ぎの大剣”自体には重要な役回りがありますがね。