ウ、ウィレーム先生…こ、これは一体……ッ!?
……結局、私は老人──イヴァン氏の邸宅に今日を含めて三日ほど泊めてもらう運びとなった。
「待ってな、すぐ部屋を空けるから…」
「もういい!結構!居間で寝させてもらう……!」
彼らは得体の知れぬ私を迎え入れるほどによく言えば情け深い、悪く言えばお人よしすぎだった。……流石に自分たちの寝室を片付け始めたのは全力で止めたが。後、タルラとアリーナは養女だったことを告げられた。…流石に親の面影がないことから察するべきだったか?
「もう、アッシュさん!食べるときくらいその兜外しなさい!!」
「……すごいな。フリエーブを……兜の…ス、スリットから…プッハハハ!」
「タルラも食事中に大声で笑わない!」
恥を忍んで久方ぶりに人間らしい夕食を食べたり…
「いろんな武器を持っているな……この槍は?」
「それは“ロスリックの戦旗”だな。こうして床に突き立てると幻の旗が……あ」
「……一緒に怒られようか」
……色々としでかしたりもしたが、居心地の良い環境だと……思う。
──
半日、私はアッシュと互いに呼び捨てで呼びあうくらいには交流を深めたが、私はまだ彼のことを信用しきれていない。
彼がいなければ爺さんは……死んでいただろう。
そのことについては感謝してもしきれない。しかし、彼はあまりにも得体が知れなさすぎるのだ。爺さんから聞いたが彼はこの国を──ウルサスを知らないという。……本人に聞けばそれが事実だと分かった。
彼が言っていた通りに彼が田舎から出てきた旅人ならば有り得ない話ではない…が、
──ロードラン、そしてロスリック
そんな名を持つ地域をアリーナを巻き込んで地図中から探したが、
ウルサスの隣の国──カジミエーシュにも、それどころかテラのどこにも存在していなかった。
ますます彼への疑念が深まるばかりだ。彼の目の前で思わず文字通り頭を抱えてしまったが無理もないだろう。
ただ、少なくとも私の危惧していたコシチェイの関係者、あるいはその刺客である可能性は潰れた。
面と向かって話してみて確信できた。アッシュからはあの男のような露骨な悪意が感じ取れない。
「……一度二人きりで話す必要がありそうだ」
皆が寝静まってから彼に会うとしよう。──私がここを去るまでにアッシュが何者かをハッキリさせておかなければならない。
(ただ、今日は色々あって疲れたな……)
「……明日にしかけよう」
睡魔に身を委ね、目を閉じたタルラは気づくことができなかった
──隣で眠っているように見えていたアリーナの耳が聞き耳を立てていたことを。
「むぅ……食いづらいな」
「だからその兜外して食べてくださいって言ってるじゃないですか!」
「いや外すのに抵抗が……習慣のせいでな」
「もうスープは一気に流し込んでしまえば楽なんじゃないか?」
「おじいさま!?」
「おお!この手があったか」
早朝、起床した私はアリーナとイヴァン老婦人が作った朝食を食べていた。
不要だからとろくに食事をしてこなかったのに、食が進む。
──そうだ、貴公、共に食事はどうだ?
──不死者とて、たまには真似事もよいものだぞ
(…今になって、貴公の言っていたことの意味が分かった気がするよ、ジークバルト──我が友よ)
いつの間にか完食していた食器を片付けようと手をかけたとき、外が騒がしくなってきていることに気づく。
「アッシュ?」
「イヴァン殿、外が騒がしいが、この村の催しでもあるのか?」
耳をすませば、確かに人がどよめく声と足音が聞こえてくる。
「そんなものはこの村には……」
「まさかまた奴らが…!」
「タルラ!?どこいくの!?」
ガタっと椅子から立ち上がり、弾かれるようにしてタルラは外へと飛び出していった。
「ああタルラ、あなたって娘は……」
「アッシュさん!タルラを頼む…!」
「無論だとも」
即答し、家を出る。
(騒ぎは…あの広場か。確かに見過ごせないな)
「アッシュさん待って下さい!」
「アリーナ?どうした、イヴァン爺から言伝か?」
「はい……私のことも頼む、と」
「…監視官どもがまたやってきたかもしれないんだ。もし何かあれば二人も面倒見切れない。…戻りたまえ」
「いいえ、私が一人で突っ走るタルラを止めないといけないんです。行かせてください…それと、監視官が来てはいないはずですよ」
アッシュが語気を強めて戻るよう言ったがアリーナは引かなかった。
「…その根拠は?」
「この村の近くに彼らの滞在する詰所はありません。彼らは物資を十分に奪える場所に拠点を構えるんです。…何より、本当に村に監視官が来たなら誰も家から出ようとしませんから……」
「正しい知識からの根拠か。…ハァ……分かった。ただし、騒ぎの原因が明らかになるまで、場合によってはその後も私から離れないと誓ってくれ…いいか?」
「分かりました」
(……やれやれ、面と向かって自分の意見を言える芯の強い娘だ…)
例の広場に着くとやはり村民たちが何かを取り囲んでいた。
彼らから感じ取れるのは──恐怖…忌避だろうか?
タルラもそこにおり、人込みをかき分けるのに難儀しているように見える。
彼女と私の目的は同じ、事態の根源を究明する為にまずは邪魔者を散らすべきだ。
「アリーナ、耳を塞いでいたまえ」
「え…?は、はい!」
アリーナがその長耳を手で畳んだのを確認し、アッシュは奇跡“雷の杭”を足元に叩きつけた。
鳴り響いた雷鳴に村民たちの視線がアッシュへと集中する。
威圧感を与えるためにソウルから具現化した“ツヴァイヘンダー”を担ぎ、鎧が鳴らす音が大きくなるように歩く。
目論見通り、蜘蛛の子を散らすように彼らはその場から足早に立ち去って行った。
そのおかげでなぜ彼らが集まっていたのかが分かった。
「アリーナ…!?何故彼女を連れて来たんだッ!?」
「君が心配で是が非でも来る勢いだった故な……良い友人を持ったな?」
「そうよ、いい加減一人で全部抱え込もうとするのをやめてほしいのだけど?止める私の身にもなってほしいわ……」
(…口が裂けても言えんが、もしやアリーナは儚げな見た目とは裏腹に強かな子なのではないだろうか…?)
「…以後気を付けるよ。それよりも…本題に入ろう」
苦笑していたタルラだったが、真剣な眼差しをした顔へと切り替え、足元を見下ろす。
アッシュが殺した監視官の亡骸がそのままとなっていたのだ。
「こいつらを放置していれば新たに派遣された奴らに見つかるというのに…皆見ているだけだったとはな…」
「そうか、私の不始末か……」
私が戦ってきたロードラン、そしてロスリックでは殺した敵の晒した骸のことなど考えもしなかった。私だけが例外ではない。あの世界を生きる者たちにとって死体は道端に転がる石ころと対して変わらないものだった。よくて有用なものを手に入れるポイント程度の認識だ。
しかし、テラでは“死”は忌まれ、恐れられる概念だ。だから村の者は手を出せなかったのだろう。
死体をみた拍子に、死を迎えたならば
テラは私の生きた世界とは違う。
…いや、本来は私達の世界でも皆が墓に葬られ、死の安寧を享受するべきだったのだ。
(……いかんな、不死としての常識と価値観は早々に捨てなければ)
こいつらの骸がここに残されたままでは村の者たちに悪影響を及ぼすだろう。
それに、タルラが言った通り、再び監視官がやってきたときに奴らの仲間の死体が見つかれば疑われるのは彼らだ。
──自分のしたことのケジメは自分でつけなければ
アッシュは徐に持っていた“ツヴァイヘンダー”に3人の監視官の骸を、新たにソウルから出した“フランベルジェ”に2人の骸を串刺す。
「……アッシュ、何を…?」
「掃除だ。人目のつかない所に捨ててくる」
「な……!?」
下種を弔う義理などない。遺棄するならどこが良いだろうか?
「捨てるってどこに…」
村の近くは駄目だ。見つかる可能性が高過ぎる。ならば、私がいたあの森はどうだろう。村からそれなりの距離のあるあそこなら監視官の定例調査に巻き込まれないはずだ。
「あっおい!?」
「あ、アッシュさん!?」
そうと決まればさっさと始めよう。なんせ今運ぼうとしているのを含めて20は優にありそうだからな。
死体を運び始めて約2時間、アッシュは計16体の死体を森の奥地へ運び込み終わった。
彼は半日はかかると踏んでいたが、この調子なら昼過ぎには終わりそうだ。
しかし、乱暴に死体から剣を引っこ抜くアッシュは鎧を纏い顔が窺えないにも関わらず、
「どうしたんだアッシュ、具合でも悪いのか?」
「………なぁ、いい加減家に帰ってもいいんだぞ?」
ここまで速やかに死体を森に運び込めたのは、タルラとアリーナの助力あってこそだった。
「これは誰かがやらないと災いの元になる…それに、あなただけに背負わせるわけにはいきません……」
「アリーナの言う通りだ。それに…こういう汚れ仕事は一人でやると心にくるものだからな……」
二人の意志は固く、私がどう言ったところで、辞める気配はなさそうだ。
(血に汚れることも厭わんとはな…。ハァ…二人揃って本当に……。)
「…まぁ良い。正直……助かる」
「っフフ、そうだろう?…アリーナ?疲れたか?やはり休んだ方が…」
「大丈夫…あと少しで終わりそうだし……まだやれるわ」
アリーナはそう言うが、顔は青ざめており、息も荒くなっている。明らかに虚勢だ。
「死体を下ろせ。小休憩にしよう」
慣れぬ濃い血の匂いが気分を害したのだろう。普通の人間とは無縁のものだったのだから無理もない。
「アリーナ、無理はするな。後は私とアッシュに任せて休んでくれ」
「ちょっと気分が悪いだけ…休めば大丈夫よ……」
それでもこの娘は辞める気はないらしい。
「……少し失礼」
アッシュはソウルから“ボロ布のマスク”を取り出し、アリーナに身につけさせた。
「ソレは本来は瘴気を吸わぬ為のものだが…嗅いでしまう血の匂いも和らげてくれる筈だ。
もし吐きそうになったら外しても構わない。……私は先に行く」
「あ…。ありがとう…ございます。ですが、私たちだけ長く休むわけにはいきません。…そうでしょ?タルラ」
「あぁ。……優しいな君は…ありがとう」
……本当に、らしくないことをした。この私がなんの対価も得られないのに会って日の経っていない者を助けるとはな
──だが、心なしか……悪い気はしない
3人はその後何事もなく村に残っていた死体を運び終えた。
…強いて上げるとするなら“モーンの大鎚”で潰された監視官の姿にアリーナがダウンしかけたくらいだ。
「んん~っ終わったぁ……」
「アッシュさん、このマスク…ありがとうございました」
「…血の匂いに慣れてしまったようだな。……それと、無理強いはしないが“さん”付けで呼ばれるのはむずがゆくてな…気安く呼んでくれると…助かる」
「フフ、分かりました。アッシュさ…すみません、やっぱり年上の人を呼び捨てっていうのはちょっと抵抗が……」
「お前、昨日の夕食の時はかなり素が出てただろ?呼び捨て位頑張れよ」
「あれは100%非常識なアッシュが悪いわよ!」
「……すまん」
積み上げた死体の山の前で、互いを労い、私は二人と真に打ち解けられたように思う。
(まだ会って一日しか経っていないはずなのに…随分と絆されてしまったな……さて)
アッシュは左手に“呪術の火”を起こし死体の山へと向ける
「後はこの山を処理して埋めれば大丈夫だろう。私に任せ──」
「──あぁ、それは私がやろう」
呪術“苗床の残滓”を放たんとしていたアッシュの前にタルラが立ち、
炎が──龍炎が、感染者監視官達の骸を吞み込んだ。
狼以外のフロム主人公って全裸で戦ったり、人形ちゃんの前で自殺したり、、棺に入って移動したり、“人類種の天敵”になったりと狂人なイメージができてますよね。
でも私はネタ抜きだと彼らは人間として大事な何かを喪って、心に寄り添ってくれる者のいない孤独に苦しんで、必死に生きてようと自分たちの世界で足掻いて、その果てに何かの為に最終決戦に挑んでエンディングに至る……そんな人たちだと思います。
拙作の主人公であるアッシュもそんな一人です。不死になって荒み、捻くれたネガティブ思考な一人の不死がテラでの経験を経てどうなるか…乞うご期待!