私が目覚め、森を抜け出す為に足を動かし始めてからどれ程経っただろうか?
少なくとも本来は一つしか存在しないはずの月が二つ浮かんでいた満点の夜空に
柄にもなく心を奪われていたのは覚えている。そして
一日を無駄にしてしまった。…つまり二日程過ぎたようだ。
「エストは残り9、灰エストは3…まだ余裕があるが…」
篝火で休息できていない今の自身が死ねばどうなるか分からないからだ。
「その生涯を終える…訳ないか」
灰は未だに右目に刻まれたままの不死の印──“ダークリング”を兜の上から触れながらぼやく。
(“ダークリング”が残っているということは…たとえ死のうとまた目覚めるのだろうな。)
──初めて目覚めたあの場所に
「二日も移動に費やしたのだ、死ぬわけには…チッ、来たか…」
「バウッ!」 「グルルルル…。」
灰は“竜狩りの大盾”と“デーモンの爪痕”を装備し、目の前に現れた己を袋叩きにしてくれた
そう──
「さっさと来い…犬共ォッ!」
…ウルサス裂獣である。
「バウッ!ガウッ!」
裂獣の群れが防御を固める灰に向かって駆け出す。
傍から見れば、じゃれつかんと向かってくる犬とその飼い主に見えるだろうがこれは生きるために獲物と定めた者の血肉を喰らわんとする獣たちと己が命と歩んできた時間が無に帰るのに抗う者同士の殺し合いだ。
小柄な裂獣が灰に食らいつかんと飛びかかるが、灰が大盾を滑り込ませ攻撃を弾き、空中で無防備となった裂獣の腹に“デーモンの爪痕”を突き刺す。そのまま爪痕を振るい、まとまった裂獣のいるところに投げるが、裂獣たちはそれを避け、死んだ同族に目もくれず散開する。
灰は兜の下で思わず顔を顰めた。
彼は一対多の状況にひどく弱い。さらに、此方がくるぶし程まで積もった雪で足を取られ思うように動けないのに対し、裂獣はその身軽さ故に雪上を素早く駆け、灰に防戦を強いさせる。
(これだから犬は嫌いなんだ…)
内心で毒づきながら“デーモンの爪痕”を背後から飛びかかってきた裂獣に向け、呪術「大発火」を見舞い、炭の塊へと変える。
(まぁ良い、このまま一匹ずつ仕留めていけば…ぬ?)
短く息を吐き、大盾を構え直し、次の攻撃に備えるが、灰はそこで犬の攻撃が止んでいることに気づく。
「成程、貴様らもさっさと終わらせたいのか」
大盾越しに周囲を見回すと、裂獣達が灰を中心に円を作り、灰へとにじり寄っていたのだ。
一斉に飛びかかり、確実に仕留める腹積もりなのだろう。
(…私の知る犬と違って回る頭を持っているようだな。だが──好都合だ)
徐に灰は構えていた“竜狩りの大盾”と“デーモンの爪痕”をソウルに戻し、懐からひどく傷んだ粗布を取り出し、両の手で握りしめる。
裂獣たちの目にはその様は抵抗を諦め、神に祈っているように見えたことだろう。
「ガウァァーッ!」
一匹の裂獣の放った号令の下に裂獣たちが一斉に襲い掛かる。
──「神の怒り」
奇跡「フォース」の源流たるその長く、そして深い怒りの物語は行使者を中心に強力な衝撃波を放つ。
灰に襲い掛かった裂獣の悉くを吹き飛ばして見せたように。
吹き飛ばされた裂獣たちは積雪に深くめり込んだようで姿は見えないが、奴らの唸り、吠える鳴き声が一切しなくなったことから、おそらく死んだのだろう。
「…死んだか。これで先に進めるな。…しかし、ひたすらにこの方角に進んでいるが…大丈夫なのか?」
だが、不安はなく、むしろ確信があった。
──この先に自分の求めている“何か”がある、と。
先に進んで間も無くして、薄暗い木々と雪ばかりだった視界に変化が現れた。
切り倒された木の切り株や、踏み慣らされた地面、そして焚き火の跡とその近くに置かれた道具の入れられた木箱。
人が居た痕跡だ。
「……ここまで来て死にたくはないな…走るか」
一刻も早くこの森から出ようと走り出す。
木々がまばらになっていき、ついに森を抜けて大きな丘に出た。
「んんっと…あれは村、か。しかも活気があるな」
ジェスチャー“太陽賛美”で太陽の光を一身に浴びながら、村を見下ろす。
あの森から切り出した木を使ったであろう民家が集まったそれなりの大きさの村だ。
「思えば不死になってからあんな”普通”な村を見るのは初めてだな…む?」
何やら村が慌ただしい。遠眼鏡を取り出し、見てみれば黒い装束に身を包んだ者達が村中に散らばって、民家の戸を叩く姿があった。中には戸を蹴り破って中へ押し入る連中もいる。
「野盗…にしては装備が統一されているな。うーむ…」
面倒事は嫌いだ。極力避けたいが、あの村は篝火を
「犬どもに勝ち続ける自信も無い……行くか」
オペレーターたちが夥しい数の敵を軽く捌いていくのを見るたびにテラという魔境で不死人や火の無い灰が生きていけるのか??ってなるようになってきました。
でもエルデンみたくテラを冒険できるのは楽しそうですよね。