父さんは、ずっと憧れのミュージシャンだった。
小さい時から、ワタシにはなんとなくだったけど憧れがあった。
父さんみたいなステージに立って、
たくさんの人を熱くさせることができたら素敵だな、なんて思っていた。
でも、それはただの心の片隅でふわふわと漂っているだけの形のない思いだった。
だけど、その夢はあの時から輪郭を持ち始めた。
胸の奥ではっきりとした炎のように燃え上がったんだ。
あの伝説の夜に、私は確かに出会ったんんだ
——あの姿に、音楽に、ステージに。
目の前で繰り広げられる光景は、ただの憧れじゃなくて…
ワタシ自身が手に入れたい、叶えたい現実だと教えてくれた。
あの伝説の夜に出会ってから——
ステージの照明が、まだ幕が上がっていない空間を金色に染めていた。
天井を走るライトリグから、いくつもの光が床を斜めに切り裂く。
木目のフロアはワックスで磨かれていて、
そこに光が反射してまるで水面のように揺れて見える。
客席のほうでは、ざわざわとした声が徐々に熱を帯びていた。
開演前特有の期待と緊張が 空気の粒に混じって震えている。
近くで誰かがそうつぶやいた。
ステージ前に広がる人波は、すでにぎっしり詰まっている。
立ち位置を確保しようと観客たちは少しでも前へ押し寄せていた。
照明スタッフの影が動き、スポットライトが一瞬強く瞬いた。
その光に照らされて、天井のトラスが鈍く光る。
父さんのイベント、いつも人気だけど……
今日は特にお客さんが多い気がする……
胸の奥でそう小さく呟いた。
張り詰めた空気が、喉の奥を乾かす。
観客たちの歓声と足音が混じり合って、波のように押し寄せてくる。
その一言で、ワタシはステージの方に視線を動かした。
次の瞬間、ステージの明かりが一斉に落ち
暗闇の中に残るのはただの人影だけ。
鼓動が跳ねた。
照明が再び灯り、ステージ中央をまぶしい光が貫く。
そして、歓声が爆発するように会場を包み込んだ。
ステージから放たれる眩い光が、
まるで太陽みたいに観客たちを照らしていた。
熱気と歓声が渦を巻き 肌を刺すような歌声の振動が床から伝わってくる。
その振動は足元から心臓の奥まで響いて、体の内側をじんわりと震わせた。
観客たちは腕を上げ 名前を叫び 音に身を委ねていた。
その真ん中で、彼女は最前列のフェンスに手をかけ目を輝かせていた。
頬は熱気を表したように赤く染まり、
瞳はまるで星屑を散りばめたみたいにキラキラと輝いている。
す、すごい……!すごいすごいっ!!
声にならない歓声が、喉の奥で震える。
歌声とリズムに合わせて観客が跳ねるたび、
空気が波のように押し寄せてくる。
それでも彼女は前を見つめ続けた。
いつもより……いいえ、
今まで見たどんなパフォーマンスよりもカッコいい……!!
音が空気を切り裂き、歌声がそれを追い越していく。
照明の閃光が交錯するたび、
彼らの姿が一瞬ごとに新しい世界を描き出すみたいだった。
観客の誰もがその瞬間を焼きつけようと、息を忘れて見入っている。
こんなにたくさんの人が、父さん達のパフォーマンスに圧倒されて……
人がいっぱいで苦しいくらいなのに、みんな盛り上がって……
ワタシも、もっと熱くなりたいって思えてきて……!
頬をなでる風は観客の動きで生まれる熱気の渦。
それでも 息苦しさなんて感じなかった。
むしろその熱が、胸の奥のなにかを燃やしていく。
…………やってみたい。
その想いは唐突に湧き出した。
それは彼女の夢を確信させた。
ワタシもいつか、こんなイベントをやってみたい。
いいえ、やってみせる!
拳をぎゅっと握りしめる。
ステージの上で輝く光の粒が、未来の自分を照らしているように見えた。
この『RAD WEEKEND』を超える、
最高のイベントを——いつか絶対に、やってみせる!!
その瞳に映る光景は憧れではなく、目標に変わっていた。
歓声と音楽がひとつになって、彼女達の心を突き動かしていった。
ー数年後ー
ーWEEKEND GARAGEー
木の床が温かい色に染まり、窓の外から日が差し込んでいた。
カウンターの上には淹れたてのコーヒーの香りがふわりと漂い、
店内の照明がやさしく光を落とす。
アキはカップを手に取り、
いつものように笑顔を浮かべながらカウンター越しに声をかけた。
その声は明るくて、芯が通っていた。
かつて観客席で胸を熱くしていた少女は、今はもう高校生になっていた。
常連の客がそう尋ねると、アキは一瞬だけ苦笑を浮かべた。
軽い口調で言ったものの、胸の奥には少しの寂しさが残っていた。
相棒——彼女が描く未来を共に作る存在。
ステージの上でも イベントの運営でも 自分と同じ熱を持って立てる誰か。
簡単に見つかるわけがないとわかっていても、探すことをやめられなかった。
客の問いにアキは少し照れくさそうに笑って、
コーヒーカップを拭きながら答える。
言葉の端に、あの日の熱がよぎった。
あのステージで感じた鼓動、群衆の熱気、父さん達の歌音。
あれを越える瞬間を作りたい、その想いだけは 今も変わらなかった。
アキはそう話しながら、手元のカップを棚に戻した。
その瞳の奥には 確かな光が宿っている。
普通じゃ届かないからこそ、そこへ行きたい。
誰も描けない夢を、自分の手で形にしたい。
手際よくカウンターを拭き上げ、アキはエプロンを外す。
奥から顔を出した父さんが、タオルで手を拭きながら笑う。
少し頬を膨らませて言い返しながらも、
その表情には期待の熱があった。
ステージに立ちたい。
音で心を震わせたい。
そしていつか、“あの日”を越える瞬間を自分の手で掴みたい。
ドアベルの軽やかな音が鳴る。
彼女の背中を見送りながら、父は小さく笑った。
あの日、ステージで夢を見つけた娘が今もその続きを走り続けている。
そのことが、なによりも誇らしかった。
—スクランブル交差点—
ビルのガラスが、沈みかけた太陽の光を反射して黄金色に染まっていた。
街の喧騒が少しずつ夜のざわめきに変わっていく。
スクランブル交差点の近くでアキはマイクを用意し、
足元のスピーカーケーブルを確認しながら 深く息を吸い込んだ。
今日はロングの髪を軽く結び直し、視線を上げる。
信号待ちの人たちが何人もこちらを見ている。
誰かが足を止め、誰かが目を輝かせてこちらを見ている。
その光景に、アキの胸の鼓動が少しだけ早くなる。
顔なじみの観客たちが手を振ってくれる。
彼らの声が、アキの背中を押した。
そう話して、マイクを強く握った。
街のざわめきが、ひとときの静寂に変わる。
そしてアキの歌声が、夕暮れの空気を震わせた。
音が流れ、人々の視線が吸い寄せられていく。
通りすがりの子どもが立ち止まり、大人たちの間から拍手が広がる。
ビルの上の大型ビジョンが、彼女の後ろでまるで照明のように輝いていた。
喉の調子もいい感じ。
お客さんも増えてきたし、もっと盛り上げていくわよ!
そう心の中でつぶやきながら、アキは次のフレーズを歌う。
リズムに合わせて髪が揺れ、マイクのコードがきらりと光る。
その時、少し離れた場所で ひとりの少年が立ち止まっていた。
白いイヤホンを外し、食い入るようにアキを見つめている。
雑踏の中にまぎれて誰にも気づかれないまま、
彼の心にも微かに小さな火が灯っていた。
やがて最後の音が消え、拍手と歓声が交差点に広がった。
アキは軽く汗をぬぐい、深呼吸をする。
そして片付けを終えて、アキは帰路についた。
拍手や歓声をくれる人たちに笑顔で礼を言いながら、
アキは少し空を見上げた。
自分に言い聞かせるように、声に出す。
その声が、都会の夜に溶けていく。
その瞬間、手にしていたスマホが 突然ピカッ!と白い光を放った。
画面には見覚えのないタイトルが浮かんでいる。
眉をひそめて画面を見つめた瞬間、スマホがまた光った次の瞬間。
——シャラララララララララン!
と音が響き、さっきよりも光が溢れ出す。
交差点のネオンも、車のライトも、その光に飲み込まれていく。
アキの視界が真っ白に染まり——
まるでどこかに誘われるように、世界がゆっくりと溶けていった。
—???—
眩しい光が消えたあと、最初に感じたのはコーヒーの香りだった。
鼻をくすぐる苦みのある香りと、ほんの少しの甘さ。
視界がゆっくりと焦点を取り戻すと、
そこには温かな光に包まれたカフェが広がっていた。
カウンターの奥には銀色のエスプレッソマシン。
棚には瓶や箱が整然と並べられ、
磨かれたグラスが陽を反射してきらめいている。
テーブルには数脚の椅子、天井からは丸い照明が吊るされ、
やわらかく木の床を照らしていた。
けれど、ここには客の姿がひとりもない。
まるで時間が止まったみたいに静かで、少しだけ不安になるほどだった。
思わず声が漏れた。
自分の声が、広い店内に響く。
人で溢れていた交差点の喧騒、眩しい電子版、
足元に反射していた電子版の光——それらが全て遠い夢みたいに思えた。
と、その時。
静けさの中、扉の前で誰かがこちらを見ていた。
ワタシよりも少し大きい少年。
髪は淡い水色で、窓から差し込む光を反射して柔らかく揺れていた。
問いかけても返事はない。
代わりに少年は、両手を使って何かを必死に伝えようとする。
首を傾げて、また手を動かして……でも、音は一切出ない。
……もしかして、この子……喋るのが苦手?
そんな気がした。
けれど少年は困ったように首を横に振り、両手を胸の前で交差させた。
自分も分からない、と言いたげに。
そう尋ねた瞬間、店内の照明がふっと揺れた。
誰もいなかったはずの空間に、透き通るような声が響いた。
アキとダイヤと呼ばれた少年が振り向くと、
そこにいたのは信じられない存在だった。
薄緑色系の髪をお団子ツインテールにしていて、優しく笑う表情。
それに似た姿を、アキは何度も画面の中で見たことがある。
ダイヤも驚いていて、アキも思わず口を開けたまま固まっていた。
信じられなかった。
まさか、ミクに話しかけられている?そんなこと、ありえない。
さらに後ろから、鏡音レンとMEIKOの姿が現れる。
まるでステージの光が、現実に降りてきたようだった。
アキが動揺して言うと、ミクはゆっくりと首を振った。
『想いでできた場所』。
その響きが、アキの胸の奥で何かをくすぐる。
MEIKOとレンの言葉に、アキは眉を寄せた。
レンの笑顔はあたたかくて、それでいて不思議な安心感を与えた。
ふと見ると、ダイヤがじっと床を見つめていた。
考え込むように、手を胸にあてて。
ミクの問いかけに、彼は小さく首をかしげた。
そして、両手を使って何かを伝える。
『わからない』
『まだ見つけられない』
その仕草を見て、ミクは静かにうなずいた。
アキはまっすぐ顔を上げて言った。
目の奥に宿る光は、迷いのない決意そのものだった。
ダイヤが少し首を傾げる。
ダイヤが『すごい』と伝えるように、
目を見開いて頷き、小さく拍手をするような仕草をした。
それにアキは、ちょっと照れたように笑う。
ダイヤは真剣にアキの話を聞いていた。
『やってみなくちゃ始まらない』
その言葉が、彼の心の奥に静かに落ちていった。
ミクが微笑むと、二人がふっと光に包まれた。
照明よりもずっと明るく、柔らかい光。
その言葉を最後に、世界が白く塗りつぶされていった。
光がすべてを包み込み、音も、空気も、遠ざかっていく。
アキとダイヤの姿は、そのまま静かに消えていった。
—WEEKEND GARAGE—
静かな音が店内に滲んでいた。
天井の照明はまだ半分ほどしか灯っておらず、夕暮れの光が窓ガラス越しに差し込んでいる。
温かい琥珀色の空気の中で、アキはカウンターの上に突っ伏して眠っていた。
聞き慣れた声が頭の奥に届く。
ぼんやりとした意識の中で、アキはまぶたをゆっくり開けた。
視界に入ったのは、見慣れたウッドのカウンターと、
音楽が微かに流れるスピーカー。
そして、アキの父が苦笑しながら目の前に立っていた。
上体を起こすと、背中がじんわりと重たい。
気づけば、外はもう夕焼けを過ぎて夜の気配を帯び始めていた。
店内の時計を見て、アキの目がぱっと見開かれる。
慌てて体を起こし、
席から立ち上がろうとするアキに、アキの父は肩をすくめる。
アキは少し首を傾げながら言葉を続けた。
と、アキの父が片眉を上げる。
アキは微かに笑って、頭を軽く振る。
夢の中で見た 白い光 や 誰かの声 は、もう霞のようにぼやけていく。
けれど胸の奥だけは、ほんのり熱を帯びていた。
そう言って立ち上がると、
アキはカウンターの端に置かれた小さな木製の看板を手に取った。
—ダイヤの部屋—
薄い月の光が、レースのカーテン越しに差し込んでいた。
机の上には散らかったスケッチブックと色鉛筆。
描きかけの線がいくつも重なっていて、そのどれもが途中で止まっている。
ベッドの上で目を覚ましたダイヤはぼんやりと天井を見上げた。
いつもなら頭の中は形や色のイメージでいっぱいなのに…
今は、どうしてか静かだった。
『 ……あれ? 』
声にならない言葉が、心の中だけで零れる。
指先がゆっくりと宙に動き、彼は空中に何かを描くように手を動かした。
『 僕、いつの間に寝ちゃってたんだろう 』
枕元のスケッチブックを見つめながら、ダイヤは夢の断片を探そうとする。
光に包まれた空間、誰かの声、笑っていたような、優しい瞳。
——けれど、その輪郭はどうしても思い出せなかった。
彼は小さく首を傾け、指先で空を撫でるような動きをした。
『 なんだか夢で素敵な子に会って、話した気がするけど…… 』
部屋の空気がいつもより少し暖かく感じられた。
思い出せないのに、なぜか胸の奥がくすぐったい。
誰かの声がまだここに残っているみたいに。
ダイヤは体を起き上がらせて机の上のペンを手に取ると、
紙の上に一本の線を描いた。
それは、これまでのどんな絵とも違う。
いつもよりも柔らかく、優しい線。
何かが始まりそうな、そんな予感を帯びていた。
手を止め、彼は静かに笑う。
声はない。けれど、笑みがすべてを語っている。
『 なんでだろう? 』
『何か、新しいことが始まる気がする 』
カーテンのレース越しに差し込む月の光が、ダイヤを照らしていた。
まるで、 そうだよ と頷くように。
Q.更新遅くないですか??
A.そんなわけななな ( 爆散 )
もう…1ヶ月以上も更新してなかったんですね…え、1ヶ月???????
しかも前より文才がなくなってます!!本当にすみません……
視点ごとに文章の書き方を変えるって面倒だってことに気づきました((
アキちゃんのお父さんってどんな人なんだろう…((
そして信じられないことに今回は7000文字以上も書いてました、え??
お気に入り、いいね、コメントが本当にモチベになってます…!!
私ってコメント大好き人間なので、それだけでモチベが10倍になるんです((
そんな事はともかく、次回も更新できるように頑張ります!!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。