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「2026年度から75年間、年45億円の土地貸付料収入」
これは東京科学大学(旧東京工業大学・東京医科歯科大学)が、保有している田町キャンパスの土地再活用を行うにあたり、開発事業者から今後受け取る土地貸付料収入だ。
2021年、旧東京工業大学が田町キャンパスの再開発にかかる事業協定書の締結を発表し、その金額の大きさもあり瞬く間に話題となった。
田町キャンパスは、旧東京工業大学の附属高等学校が所在しており、東京都港区の田町駅から徒歩2分と、立地に恵まれたキャンパスであった。
この田町キャンパスにある附属高等を別キャンパスに移転し、協定を結んだ事業者が開発を行い、貸付期間中に管理運営を行う。その借地権に対する土地貸付料収入が、旧東京工業大学に入ってくるのだ。
45億のインパクトは
この年45億円という金額、あまりピンとこないかもしれない。
そこで、令和5年度時点の旧東京工業大学の決算書類を見てみると、運営費交付金が213億円、研究関連収益等が151億円、授業料が62億円であり、それに続く安定的な収益の柱となることが分かる。
ただ、この土地貸付料収入は使途の自由度が比較的高いため、他の収入とは少し毛色が違う。研究関連収益であれば受託した研究にかかる支出、授業料であればそれに紐づく教育研究費が必ず発生する。
運営費交付金が伸び悩む一方、高等教育業界の変化が目まぐるしく戦略的な投資が必要な中、この収入は渡りに船だ。
東京工業大学「令和5事業年度財務諸表」より筆者作成
旧東京工業大学は、この土地貸付料の入金を待たずして、債券を発行することで先取りすることにした。
2022年度より、40年債のサステナビリティボンドを300億円発行すると発表した。償還の財源を今後入ってくる土地貸付料で賄うことに伴い、先行して資金を得たのだ。
事実、旧東京工業大学の令和4年度決算を見てみると、「国立大学法人等債の発行による収入」として約300億円の収入があったことがわかる。
では、この債券発行で得たお金は何に使うのだろうか?
大学の説明によると、「キャンパス・イノベーションエコシステム構想2031」に充当すると書いているが、あまりにも抽象的であり理解が困難であるため、債券のレポーティングブックで確認してみよう。
これによると、すずかけ台キャンパス(神奈川県横浜市)再開発事業に223億円、キャンパスDXやインフラ整備に32億円、設備の整備に45億円を使用するようだ。要するに、すずかけ台キャンパスを中心とした施設設備整備に使われるのだろう。
「東京工業大学つばめ債レポーティングブック」より(2023年12月時点)
旧東京工業大学は、保有する土地を十分に活用し、また民間委託で潤沢な資金を得ることで、高騰し続ける施設設備投資問題を解決した。
疲弊する地方国立大学では苦肉の策も
2023年10月、石川県にある金沢大学が行ったクラウドファンディングに注目が集まった。
そのプロジェクトは「金沢大学生の一人ひとりが安心して使えるトイレを少しでも増やしたい」だ。何と、キャンパスのトイレ改修の費用をクラウドファンディングで募集したのだ。
プロジェクト概要を見ると、老朽化が進む「和式」のトレイの改修を進めているが、予算の都合上、全てのトイレを一気に改修はできない。ただ、あまりにも老朽化が進み学生も安心して過ごせない。1日でも早くきちんとした環境にするため、クラウドファンディングを開始したそうだ。
恐らく金沢大学の担当部署の職員としても、なかなか思うように予算が確保できず歯がゆい思いがあり、この行動に出たのであろう。
金沢大学は2020年度よりクラウドファンディングを始めており、コロナ禍で苦しむ学生やキャンパス整備の資金獲得に苦心してきた。
ただ、今回のトイレ改修は、内容的にも「国立大学はそんなお金すらないのか」といったものであったため、多くの話題を呼んだ。
ちなみに、このプロジェクトは目標金額300万円に対して355万円程集まり、無事成立した(これだけで全ての改修が賄われるわけではないが)。
大学の金策はこれだけではない。大学のキャンパス内に、企業の広告を見たことがないだろうか。例えば和歌山大学では、大学会館内やバス停留所に、A1サイズの広告が掲出できる。広告料はいずれも月1万円と、格安だ。
言うまでもなく、月数万円程度の収入では大学の経営に影響はほとんど与えない。和歌山大学は、その規模から収入もそれほど大きくはないが、それでも経常収益で74億円程度はある。
これら広告が根本解決にはならないのだが、こういった細かいお金でも拾っていかないといけない、国立大学の事情がある。
増えない運営費交付金、増え続ける支出
国立大学法人化以降、その主な収入である運営費交付金は減り続けている。国立大学協会の「国立大学協会声明」によると、2004年に1兆2415億円あった運営費交付金は、2024年度には1兆784億円にまで減った。
よく財務省は、この運営費交付金減少の議論に対して「見かけ上は2000億円近く減っているが、特殊要因を勘案し、補助金等も含めると、全体として1000億円以上公的支出は増えている」という反論を用いる。
私自身、数字は総合的・多面的に見るべきと考えているため、この財務省の言うことにも一理あるとは思う。そう思うのだが、傍から見ていて国立大学の運営は「無理しているな」と感じることが多い。
例えば島根大学は2024年度、人事院勧告による教職員給与引き上げを、財政難により対応できず、年度途中からの改定に留めた。
島根大学(PHOTO:PIXTA)
また、近年のエネルギー価格高騰により、光熱費は上がる一方だ。節電対策であろうが、「夜になると照明が一斉に消灯するため、不便だ」といった教員の嘆きの声もよく聞く。
東京芸術大学を例に出すと、2018年から2024年度にかけて、水道光熱費の支出が約3割も増えている。
同大学は2023年、光熱費高騰などの影響による大学全体の経費節減策の一環として、5台のピアノを撤去した。経年劣化の激しいピアノで、教育研究活動には直接影響を及ぼさないと説明しているが、あらゆる所でひずみが生じているのかもしれない。
東京芸術大学「財務諸表(2018年度・2024年度」より筆者作成
このように、国立大学は厳しい経営環境の中、限られた資源で資金獲得に動いている。最近では、東北大学が大学11兆円ファンドの第一期に選定され、2025年度には154億円の助成を受ける予定だ。
第二期には先述の東京科学大学はじめ、7校の国立大学と1校の私立大学が応募している。今後は、こういった競争的資金にお金が集まり、また多くの大学が競って獲得を目指すのであろう。
今回紹介したもの以外に、寄附や収益事業、さらにはネーミングライツ等と、あらゆる手段でお金の工面を行っている。国立大学とはいえ、生き残りをかけて必死に戦っているである。
(初台さん@大学財務ウォッチャー)