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02-7.

「わぁ! 見たこともないごちそうにゃぁ!」


 目を輝かせてそう叫ぶのはカイン。


「ボクの農園(ユートピア)のお野菜たちがこんな風に美味しそうになるのはうれしいにゃぁ」


 そう言って、ニコニコと笑みを浮かべるのはアベル。


 二匹とも、私の帰郷初めての食事に期待してくれているようだ。


 私はその様子に満足する。そして、二匹と私の分をスプーンとフォークで取り分けた。


 二匹と私はそれぞれ席に着く。


「それにしても、おばあちゃまが作ってくれた料理とはずいぶんと見た目が違うんだにゃ」


「カラフル~! 見たことはないけど、良い匂いで美味しそうニャンッ!」


 してやったり、と私は思う。今日の夕食に作ろうと思い描いた食事は、前の世界でのメニューだ。この世界にはないのだ。フルーツポンチなんて、この世界で作ったのは私が初めてかもしれないわ!


 でも、この世界にない料理を作った説明をそれなりに理由づけておかないといけないかもしれない。彼らが不思議に思っちゃうものね。


「これは、私が思いついて、食べたいなぁって思った創作料理なのよ。食欲が出るように、見た目にも気を配ってみたわ。さあ、どうぞ、食べてみて」


 そう促すと、二匹がフォークを持って前菜を食べ出す。


「んっ。エビがプリプリニャン~!」


「ボク、チーズ大好きニャン~! 薄く切った畑のかぶと良くあうニャン~!!」


 二匹が美味しそうに食べてくれるのにほっとして、私も前菜を口にする。淡泊なかぶとエビに、白カビチーズのクセが良くなじむ。ディルもあとから爽やかな香りを放ってくれて、前菜はまずは大成功のようだ。


 次にみんなでメインに手をつけ始める。


「鶏肉はトマトソースと絡めて食べてね」


 手をつける前に、二匹に注意を促す。


「「はぁい」」


 返事をしてから、二匹がナイフを手に取り、器用にナイフとフォークで一口大のお肉を半分に切って、トマトソースと絡めてパクリと口に含む。


「むっ。畑のタマネギでピリ辛ニャン!」


「ボクはこういう大人っぽいの、嫌いじゃないニャン!」


 そして、パクパクと平らげていく。


 その様子に、私は目を細めた。自分が作った料理を喜んで食べてくれるのはうれしいものだ。私も彼らに続いてチキンを頬張るのだった。


「このシュワシュワカラフルなのはなんだニャン?」


「畑や果樹園の果物がいっぱいニャン」


 カインが尋ねてくる。


「フルーツポンチって名付けた私のアイディアデザートよ! フルーツたっぷりであまーくて美味しいはずよ。さあ、召し上がれ!」


 そう促すと、二匹がスプーンですくって食べ始める。


「んっ。甘いニャン。色とりどりで宝石箱のようニャン!」


「ボクはイチゴが大好きニャン~!」


 アベルが丹精込めて世話をしてくれた果物たちを、二匹が美味しそうに平らげていく。私もそれを見て食欲がそそられ、スプーンで口に含む。


「どの果物もとっても美味しいわ。アベル、いつも農園(ユートピア)のお世話をしてくれてありがとう」


 にっこりと微笑んで感謝を伝えれば、照れ照れとしながらアベルがうれし恥ずかしそうに尻尾をくねらせる。


「お礼を言われるほどのことじゃないニャン。おじいちゃまからの言いつけを守っているだけなのニャン」


「言いつけをずっと長い間守れるなんて偉いわ、アベル」


 そう言ってアベルを再び褒めると、カインがむくれたように口を挟んできた。


「ええ~っ。ボクもちゃんと言いつけを守って家の中を管理しているニャン。そんなボクは褒めてもらえないのかニャン?」


 ぷーっと頬を膨らます。


 アベルのように褒めてもらいたくてわざとやっているのかもしれない。けれど、そんな甘えた仕草も愛らしくて、私は微笑みがこぼれ落ちる。


「カインも偉いわ。おうちのお掃除に、魔道具たちの調整に。いっぱいいっぱい頑張ってくれてる。ありがとうね、カイン」


 そうして、手を伸ばして二つの猫耳の間をくしゃくしゃとなでてあげると、あっという間にふにゃりとふやけた表情になる。


「そうかニャン。わかっているなら良いのニャン」


 猫は、頭や額あたりをなでられる子が多い印象がある。そのせいなのか、カインも額もなでろと、ぐりぐりと私の手に押しつけてきた。


 私はいままでと、それから今日の感謝も込めてたくさんたくさんなでてあげた。


 するとようやく満足したようで、カインはなでられやすいように背伸びしていた足を元に戻して、彼と私の手が離れる。


「おっと、夢中になりすぎて、ボクの整った毛並みが乱れたニャン」


 そう言って、両前足ですりすりと毛並みを整えた。こんな仕草は猫そのものだ。


「さ。食事がまだよ。全部食べちゃってくれるとうれしいわ」


 そう言うと、二匹は目を輝かせる。


「もちろんニャン!」


「こんな美味しいもの、残すなんてバチあたりニャン!」


 そうして、残っていた前菜、メイン、デザートを一人とニ匹で全部きれいに平らげたのだった。


「ふわー。さすがにおなかがいっぱいだわ」


「満足ニャン~」


「こんな料理を思いつくなんて、クリスティーニャは天才なのニャン~」


 それぞれが、満腹になったおなかをさすりながら一息つく。


「食後にお茶でも飲むにゃ。」


 カインが、茶葉が格納されている台所へと向かう。


「じゃあ、私は食器を食洗機(ゲシュルスプラー)に運ぶわ」 


「ボクはテーブルを拭こうかな」


 そうしてそれぞれにお茶を飲めるように準備する。


 カインが選んでくれたのは、農園(ユートピア)産のカモミールで作ったカモミールティーだった。もう夜で、あとはゆっくり休むだけだからとの気配りなのかもしれない。


 こうして一日の隠れ屋での生活が終わろうとしている。


 離婚も無事成立していたし、出だしは順風満帆だ。そして何より、気楽で気を遣わない子たちとの、のんびりとした一日は最高だった。

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