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02-6.

 カインが淹れてくれたハーブティーを飲み終え、カップを食洗機(ゲシュルスプラー)の中に入れる。カップ一個で食洗機(ゲシュルスプラー)を稼働させるのも不経済だから、あとで夕飯を終えたときの食器と一緒に洗えば良いでしょう。そう思って、それ一つを入れっぱなしにしておく。


 それから、洗いっぱなしにしていたコルセットとドレスを思い出す。確か、のんびりハーブティを楽しんでいる間にもずっと、洗濯機(ワッシュマシーン)は終了を知らせるランプが点滅していたはずだ。


「コルセットもドレスも、今度出かけるときに古着屋に持っていかないといけないわね」


 ブルーム公爵家のものは、できる限り残しておきたくないから。


 そのためには、どちらもひとまずはクローゼットにしまっておく必要があるだろう。そう思って洗濯機(ワッシュマシーン)の方へと向かう。そして、蓋を開け、ほかほかふんわりと洗い上がっている衣類を取り出した。そして、二階の自室に行く。


「熱が取れてからクローゼットにしまいましょうか」


 二枚ともハンガーに掛け、衣類掛けにひっかけた。


「さて、夕飯の準備ね」


 窓から指す日差しは斜めになり、少しオレンジ色を帯びている。夕食を作り始めるにはちょうど良い時間帯だろう。


「前菜にエビと白カビチーズとかぶのマリネ。メインはチキンのサルサ風フレッシュソース。デザートには甘いサイダーを使ったフルーツポンチだったわね!」


 私は階下に降りていって、籠を手に取り、その足で農園(ユートピア)へ行く。


「帰ってきてたのかにゃ、クリスティーニャ!」


 畑仕事をしていたアベルがうれしそうに駆け寄ってくる。


「うん、そうなの。ただいま、アベル」


 そう言って、そばに寄ってきたアベルの頭をなでる。


農園(ユートピア)に来たってことは、何か素材が必要なのかにゃ?」


 彼はかわいらしく小首を傾げて尋ねてくる。


「そう。今日のお夕飯に使うお野菜や香草を取りに来たのよ。そうだ。おじいさまやおばあさまがいたときのように、アベルも一緒に食べるでしょう?」


 そう尋ねると、万歳! と両前足を挙げてアベルが叫ぶ。


「もちろんだよ! クリスティーニャの手料理、楽しみだにゃ! そうそう、野菜摘みはボクが案内がてらお手伝いするね!」


「ありがとう、アベル」


 私は、猫同様ケットシーたちが大好きな顎をくすぐるように撫でた。すると、ぐるぐると喉が鳴る音が聞こえた。瞳は細く弧を描き、心地よさそうにしている。


「おっと、あまりにクリスティーニャの手業が素敵過ぎて、野菜摘みのことを忘れそうになったにゃ!」


 はっと我に返るアベル。


 そうして、そんなアベルとともに、トマトやディル、パセリにイチゴやオレンジなど、夕食に使う野菜や香草に果物を必要な分だけ摘み取った。


 ああそうそう。この世界、前世となんだか食材は割と似たようなものが揃っている。おかげで、違う食材でどうアレンジしようと悩む必要もない。


 話を戻そう。


「ありがとう。これで十分よ」


 籠に入れた野菜を手に、アベルに告げる。


「じゃあ、お夕飯の時間になったら来てちょうだいね」


「楽しみにしてるにゃ!」


 そうして私は野菜でこんもりした籠を手に台所へと戻る。一度籠を調理台の上に置いてから、エプロン掛けからエプロンを取って身につけた。


 袖をまくり、手を洗い、次に野菜や果物などを洗い、水気を切る。それから手を拭って、買ってきた鶏肉と白カビチーズ、エビを保存していた冷蔵保存庫(クール・ストレージ)から取り出し、それも台所に置く。


「フルーツポンチの味がなじむように先に作ろうかしらね」


 前世で料理が好きだった私は、ついつい鼻歌を口ずさみながらの作業になる。


 イチゴのへたを取り頭をそぐ。オレンジは皮と薄皮を剥いて。パイナップルは厚く皮を剥いて、一口大に切る。キウイは、皮を剥いていちょう切りにした。


 この世界にフルーツ缶、そもそも缶詰はない。だから、そのシロップを使うことは出来ない。だから、市場で買ってきた無糖の炭酸水をボウルに入れて、蜂蜜をたっぷり混ぜて、甘ーく仕上げることにした。そして、その中に、下処理をしたフルーツたちを入れた。


 あ。炭酸水があることに疑問を感じた? これは前の世界と同じように、自然の湧き水で炭酸が含まれるものがあるのよ。それを瓶で売っているものなの。


「これは、甘さがなじむまで冷蔵保存庫(クール・ストレージ)に入れておきましょう」


 そうつぶやいて、冷蔵保存庫(クール・ストレージ)にボウルごとしまった。


 次に、前菜に取りかかる。


 白カビチーズをちぎって一口大にする。


 収穫してきたかぶを皮を剥いて薄切りにして、塩を振って洗ってからぎゅっと水切りする。絞ったあとは、適度に開いておく。


 エビは、殻をむき、背に切り込みを入れ背わたを取る。白ワインを揉み込み、水で洗って良く水気を拭っておく。


 沸騰させておいたお湯を弱火に変えて前世でいう一分ほどゆで、ざるにあげて水気を切る。


 大きめのボウルを出してきて、材料すべてを入れ、塩、こしょうを振り、オリーブオイルを回しかけてあえる。そして、レモンを搾って振りかけた。最後にちぎったディルを散らす。


「これも、冷蔵保存庫(クール・ストレージ)で冷やしておきましょう」


 そうして、その大きなボウルも、冷蔵保存庫(クール・ストレージ)に格納する。


「さて、メインね」


 トマトを一センチ角に切る。タマネギはみじん切りにして少し水にさらしてから水気を切っておく。


 ああ、前にも言ったとおりケットシーたちは、普通の猫と違ってタマネギも大丈夫だから安心してね。


 トマトとタマネギを、オリーブオイルベースのニンニクの効いた調味液を入れて良くあえる。これでトマトソースの出来あがり。


 鶏肉は一口大に切って塩こしょうを振る。


 フライパンにオリーブオイルを入れ、鶏肉の皮目を下にして焼き始める。十分に火が通ったら、ひっくり返して反対側からも焼く。


 器の半分に鶏肉を、残りの半分にトマトソースを盛る。そして、みじん切りにしたパセリを散らす。


 そうして、冷蔵保存庫(クール・ストレージ)にしまっておいた、前菜のエビと白カビチーズとかぶのマリネと、フルーツポンチをそれぞれ器に盛った。


「出来たわ!」


 私はにっこりと口角を上げる。ブルーム公爵家では、夫人が調理などはしない。だから、料理するのは久々だった。だが、それぞれの料理が美味しそうな湯気を立て、見た目も鮮やか、味見をしてみれば良い出来ばえで、久々の料理の成功に満足する。


「カインー! アベルー! 夕飯が出来たわよー!」


 家事をしているカインと、農園(ユートピア)で作業をしている二匹にそれぞれ声をかける。


「はーい!」


「はーい!」


 それぞれから元気な返事が返ってきた。


 パタパタと、各自の持ち場から走ってやってくる。


「良い香りなのにゃー!」


 わぁいとばかりにうれしそうに二匹が駆け寄ってくる。


 そんな二匹に私は声をかける。


「手を洗ってね」


「「うん!」」


 二匹は素直に足台を使って洗面所で彼らの手である前足を洗った。そして、清潔なタオルで前足を拭う。


「「もう良い~?」」


 二匹は、両前足を上に上げて肉球側を私に見せるようにして掲げる。


「うん、良いわよ。こっちのテーブルにいらっしゃい」


 テーブルの上には、彼らが前足を洗っている間に、前菜のマリネとメイン、デザートが大皿で載せておいた。そして、三カ所に、取り皿を三つずつ、そして、ナイフとフォークとスプーンを置いてある。



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