01-5.
浮気がばれたとして、どうせアレにゆく当てもあるまいと、のんびりと羽織り服を着たアドルフ。彼はそのあと家中クリスティーナを探した。
また再び甘い言葉を弄して引きとどめれば良い。
浮気はやめるとでも言っておけば、簡単に言うことを聞くだろう。
──でもまあ、アレにいなくなられると困るんだよな。
どうせここにいるだろうと、クリスティーナの部屋の扉を開ける。するとと、もぬけの殻とはいわないが、タンスやら引き出しからものを取り出した形跡があった。
「……っ、まさか……」
チッと舌打ちを打つアドルフ。そんなアドルフが部屋を見て回る。
すると、文机に文鎮に押さえられた紙が二枚あるのに気が付いた。
「さようなら。私と離婚してください」
そう書かれた紙と、片方記入済みの離婚届だ。
「やられた……ッ」
眉間に皺を寄せるアドルフ。そんな彼の肩に重みがかかる。オリビアがしなだれかかったのだ。そして、文鎮をどかし、「離婚してください」と書かれた紙をつまんでうれしそうにキスをする。
それから、アドルフにキスをした。
「大丈夫。私だって魔法薬師よ。ヒールポーションくらい作れる。あの子の代わりくらい十分に出来るわ。ね、離婚して私と結婚しましょ。だって私たち、昔から両想いだったじゃない」
「……両想い……」
「そうよ。ずっとあなたのおじいさまたちに邪魔されてきた結婚の夢が叶うのよ」
「そうか……、そうだな! 家業のことは、おまえが代わりにやってくれるか!」
「ええ、愛するあなたのためだもの!」
「じゃあ、早速離婚することにしよう。ああ、ちょうど良い、あいつが使ったペンがある」
そして、さらさらと離婚届に自分の分のサインをする。
「ほら、早く離婚届を出してきてちょうだい」
「ああ、任せろ!」
そう言って、オリビアの口紅を互いに押しつけあうかのように強く二人でキスをする。
稼業に興味を持たなかったアドルフは、クリスティーナのたぐいまれなる能力も、彼女がミドルヒールポーションとハイヒールポーションまで王城に納品していたことなど知りはしない。それがあとで大問題に発展することなど、今は知るよしもなかった。
そして、そのことはオリビアですら知らなかったのだ。
クリスティーナが望んだとおり、愚かにもアドルフは部屋を飛び出し、階段を駆け下り、馬車を駆り、離婚届を出すべく役所へと駆け込んだのだった。