10-5.
そうして、一泊二日の素材採取は終わった。
行くときと同じように、戻るときも門番に身分証代わりの商業ギルド証を確認してもらう。
「問題ありませんね。ユリウスさん、クリスティーナさん、お帰りなさい」
そう言ってから二人の門番が王都の扉を開けてくれる。それをくぐって私たちは王都に入った。
「まあ、マッドボアには出くわしたが、その程度で済んで良かった」
私たちは馬で街路を進む。
「このまま、君の屋敷まで送ろう。ケットシーたちもさぞ心配しているだろう」
「ありがとうございます」
そうして街を進んでいると、急にしった声で名を呼ばれた。
「クリスティーナじゃないか!」
その声の主はアドルフだった。放蕩者のアドルフのことだ。王都に遊びにでも来ていたのだろうか。そのアドルフは私と、ユリウスさんとを見比べる。
「ははーん。離婚して早々、もう男をたらし込んだのか。ずいぶんと尻軽なことだ!」
その言葉に、私はかっとなる。
「そのお言葉、そのまんまあなたにお返しします! そもそも結婚前からオリビアと関係を持っていたのはあなたじゃないですか!」
私は大きな声ではっきりと言い返す。もう、何も言えない私じゃない、そう伝えたかった。
「なっ」
オリビアとの関係を指摘されると何も言い返せないようだった。
そんな騒ぎを聞きつけて、人が集まってきた。
そこに、ユリウスさんが間に入る。
「……私と彼女の間には何もない。彼女は店の主人で、私はその客だ。彼女は貞淑なご婦人だ。それとも何だ。それ以上愚弄するなら」
そう言って、腰の剣に手をかけてみせる。
アドルフは剣に手をかけるユリウスさんを見て恐れをなし、尻餅をつく。
「うわぁぁ! なんでもない、なんでもない!」
そう叫んで、大衆の輪を割って、四つん這いで慌てて逃げていくのだった。
「あれが前の夫か」
「……はい」
私は、あそこまで情けない姿をさらされると、さすがに恥ずかしかった。でも、ユリウスさんが私の定説をはっきりと証明してくれたことがうれしかった。私を守ってくれたことも。
「……ありがとうございました」
そう言って、私は、前に並んでいる彼の背に、頬を押しつけたのだった。