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10-2.

「いってらっしゃい」


「気をつけるんだにゃ!」


 出発の日の朝、心配そうなカインとアベルが見送りに屋敷の玄関に立つ。


 お店は、カイン一匹に負担をかけるわけにはいかないから、休業することにした。だから、『本日休業します』と書いた黒板を店の扉前に置いてある。


「前に出ちゃだめにゃ?」


「魔獣が出たら、ちゃんとユリウスを頼るニャン?」


 二匹は私のスカートの裾を引っ張って名残惜しそうに心配そうにする。


「もう、二匹とも、大丈夫よ。ユリウスさんがいるんだから」


「「ユリウス、頼んだニャン」」


「わかってるよ。君たちの大事なご主人さまは、私がちゃんと守るから」


 そう言って、立派な装飾が施された剣の柄を握ってみせる。今日は立派な黒い鎧を身にまとっている。


「「頼りにしてるニャン」」


 すると少しは安心したのか、カインとアベルが私のスカートの裾から手を離してくれた。


「じゃあ、行ってきます」


「ご主人さまをお預かりします。……クリスティーナ、失礼するよ」


 すると、私を腰でひょいと抱き上げて、さっきまでおとなしく私たちの横で待っていた美しい青鹿毛の馬の上に私を乗せる。それから、馬の背に腰掛けている私の前になれた様子でひらりと乗る。


「私の腰につかまっていて」


 そう私に指示する。言われたとおり私がユリウスさんの腰にしがみつくと、うん、と一つ頷いた。


「じゃあ、行こう」


 ユリウスさんが鐙を軽く蹴って知らせると、馬は屋敷に背を向けて、ぽくぽくと歩き出す。そして、王都の門まで来ると、衛兵たちが顔見知りの様子でユリウスさんに話しかける。


「女性連れとは、これは珍しい。どういったご用向きで?」


 からかう様子ではなく、普通に珍しいといった様子で尋ねてきた。ユリウスさんは顔見知りであっても、私は彼らには知られていない。しっかり門番の仕事をするための問いだろう。


「この女性が珍しい植物を採取したいといっていてな。その護衛なんだ」


「ええと、ご婦人、お名前とご職業を証明するものはありますか?」


「はい、こちらです」


 そうして、私は持ってきていた商業ギルド証を彼らに渡す。


「クリスティーナ・ベールマー。王都で商いをするエリュシオンの主か」


「はい。薬剤の材料として必要な植物を採取したいとユリウスさまに護衛の依頼をいたしました」


 商業ギルド証に問題のないことを確認すると、すぐに私の手にそれを返してくれた。


「承知した。では、門を開けましょう」


「旅の安全をお祈りしております」


 衛兵たちが門を開けてくれる。そして、その門をくぐって、私たちは王都の外に出たのだった。



 ◆


 門で衛兵が言った名を聞いて、ユリウスはふと疑念を抱く。


「……ベールマー?」


 それは貴族の名になかったか?


 いやだが、貴族の名字を習って、名字を名乗る平民もいる。アイベンシュッツ王国では、そういったことを禁止する法律もなく、罰することもない。


 ──ベールマー……侯爵家だったか。


 高位貴族なので、そのうち、爵位を思い出してくる。


 だが、そうすればこそ、まさか、その高位貴族の令嬢が店を商い、気安く店の常連程度の冒険者と思っている男に護衛を頼んだりすることはあるまい、とユリウスは否定に入るのだった。


「さて、そろそろ速度を出すぞ? しっかりつかまっていろ!」


「はいっ!」


 すると、甲冑を身につけているというのに、背中越しにクリスティーナの温かい体温を感じる。


 そちらに気を取られそうになるのを吹っ切るかのように、ユリウスは手綱をぎゅっと握る。そして、鐙を少し強く蹴った。すると、シュヴァルツがそれを合図に駆けだした。


「わっ、早い!」


 背中から弾んだ声が聞こえる。


「口を閉じていないと舌をかむぞ」


 そう注意して、旅を始めるのだった。




 ◆

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