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10-1.素材採取

「……私に素材採取の護衛を頼みたい?」


 食事をしに来て、ともに食事を採りながらクリスティーナにそう頼まれたユリウスが面食らった顔をする。


 ──彼女、私のことを王に仕える黒騎士と呼ばれていることを知らないのか。


 クリスティーナが、王都のことに疎かったことを初めて確信し、そしてどこか納得がいった。


 私のことは、冒険者ギルドに所属する冒険者の一人とでも思っていたんだな。ユリウスはそう思った。


 そう思えば、ああやって気安く接してくれたのも納得がいった。


 ちなみに冒険者ギルドというものの主な業務は、モンスター討伐、薬草採取、護衛任務などの依頼を受け付け、それを冒険者に仲介することだ。


 だから、ユリウスのことを冒険者だと思っているのであれば、彼女の彼への依頼はごく当たり前な依頼だった。


「はい。本来なら、足手まといになる私の護衛ではなく、素材の採取依頼をした方が、ユリウスさんにとっては楽なのでしょうが、植物はとても繊細なのです。ですから、採取は手ずからやりたくて……」


「それで、私に頼んだ、と……」


「ええ。冒険者ギルドを経由することも考えたんですけれど、顔見知りの方がいるならその方の……ユリウスさんの方が安心かなって思いまして」


 ──自分を頼ってくれたのは正直なところうれしい。


 ユリウスは心の中でそう思う。こんな醜い、そしていざとなれば真っ黒な甲冑を身にまとった私だ。女性が警戒心を抱いてもおかしくはないだろう。だが、彼女はそんな自分を頼ってくれた。


「……私と君二人でかい? ご両親とか……家の方は心配なさらないのか?」


 一応念を押してみる。


 年頃の女性だ。男と二人で素材採取に──王都の外への旅に出させるのは、本人は良くとも、親御さんは警戒しないだろうか。


 すると、クリスティーナは複雑そうな顔をする。


 ──あのお父さま、お母さまが心配するかしら。


 連絡も取っていない、連絡が取れなくとも何事も騒ぎになっていないこの状況を考えると、相変わらずの放任主義で、自分のことなどどうでも良いと思っていそうだ。


「……ちょっと我が家は変わっておりまして……放任主義と言いますか。娘のすることにと言いますか、あまりそういったことに口を挟む親ではないのです」


 クリスティーナの複雑そうな顔色から察して、彼女の家の複雑さを読み取るユリウス。そして、それ以上口を挟むのはやめた方が良さそうだと察した。


「じゃあ、親御さんたちは大丈夫ということととって良さそうかな?」


「はい。そちらの方は大丈夫です」


 ──あとは気にするとしたら彼女の家柄だが……。


 貴族令嬢を男一人、彼女一人で旅に出るなどとんでもないことだが……。


 ──身なりといい、普段の様子からいって、先ほどの放任主義だということといい、きっと裕福な平民のお嬢さんといったところだろう。


 ならば、親御さんの反対もないならば問題はあるまい。そう思い、引き受けても問題なさそうだと、ユリウスは納得する。


「まあ、そういうことだったら引き受けよう」


「ありがとうございます!」


 ユリウスが考えている間、じりじりと待たされている様子のクリスティーナの顔がぱぁっと花のように笑顔になった。


 その表情も素直で可愛らしいとユリウスは心の中で想う。


「水晶花は氷水晶の洞窟の中に、虹百合は虹の森の湖の湖畔に咲いているそうです。この二カ所につれていってください」


 クリスティーナがテーブルの上の空いた場所に地図を開いて、二カ所を順に指さしてみせる。


 そこを見て、ユリウスは王都からの経路を考える。そもそも二カ所ともそう王都から遠い場所ではない。危険地帯と指定されている場所から近いところを通るわけでもない。ならば、彼女連れで彼女を守ることは容易そうに思えた。


「ああ、その二カ所なら大丈夫だろう。一晩は野営が必要そうだから、その準備はしておく」


「なら、一泊二日といったところでしょうか?」


「そうだな。君を連れての旅なら、馬もそう速くは走らせられないから、それくらいかかるだろう」


「じゃあ、その分の食事は私が準備しておきますね」


 それを聞いて、不思議に思ってユリウスは首を傾げる。


 ──彼女にまともな野営の食事作りなど経験はなさそうだが?


「……野営時の食事を作ったことがあるのか?」


 ユリウスは想ったことをそのまま口にした。


「いいえ。でも、私、パンを作れますし、マジックバッグがありますから!」


「マジックバッグ! あの高価な貴重品をもっているのか?」


「はい。おじいさまの遺品で、一つ持っているんです。これに日数分のパンを入れておけば、品質も味も変わることはありませんから!」


「それなら確かに野営の食事作りなんていらないな」


「はい! 美味しいお食事、作っておきますね!」


 クリスティーナの頭の中には既にパンだけではなく、ピクニックに行くときのような二人分のお弁当作りが頭の中にあった。


 ──王都の外で食べたらどんなに開放的かしら!


 クリスティーナを安全に素材採取させることを真剣に考えるユリウスをよそに、クリスティーナはというと、素材がそろいそうなことで上機嫌であり、その上ピクニック気分でお弁当に何を作ろうかと心は華やいでいた。

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