08-4.
「……おっと、クリスティーナさんがやってくる」
ユリウスは、いつものように、昼時から時間をずらしてきた。そして、店に至る細い道を歩いてきたのだが……。
今日はクリスティーナには用事があるのだろうか。こちらに走ってきた。
「あっ、ユリウスさん! もしかしてお昼を食べにいらっしゃいました?」
「こんにちは、クリスティーナさん。まあ、そんなところだが、君はどこかに出かけるんだろう?」
そう尋ねると、彼女は明るくぱあっと顔を輝かせた。
「そうなんです! 恩人に頼まれていた薬が出来たので、早く届けてあげたいって思って! ……あ、でも、ユリウスさんはお食事が目的で……」
そんなにはしゃいでいる様子を見ると、ユリウスも彼女を素直に行かせてやりたくなった。そして思いつく。
「そうだ。まだ君の店のパンをあまり食べていなかった。いつもの黒いケットシーのカイン君はいるのかい?」
「はい、あの子は店番しています」
「じゃあ、パンを買って帰って食べることにするよ」
「そうですか? ごめんなさい。それじゃあ、また来てくださいね! 待ってますから」
「はいはい、行ってらっしゃい」
笑って手を振ってやると、くるりとクリスティーナは走っていく。
彼女は、まっすぐでつやのある茶色のポニーテールをなびかせて、意気揚々と走っていってしまった。
街路に差し込む日差しがクリスティーナの髪に当たって、髪がつややかに光る。
その明るさが、ユリウスの心に、余計にまぶしく感じさせた。
──ま、まあ、彼女に会いに来た、というわけでもないのだから……。
だが、あれだけ満面の笑顔の彼女に会えただけでも行幸か。やはり、彼女は自分の心のどこかをくすぐり、心地よくしてくれる。
そしてそれがどこかくすぐったく、予定を狂わされたとしても不快ではなかった。
「さて、パンは何があるのだろう」
最初に試供品でもらったサンドイッチは美味しかった。パンの方も期待は出来るな。
そう思いながら、ユリウスは細い道を奥へと進んでいくのだった。