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06-1.開店!

 大工の親方のエルクさんのおかげで、拡張部分が無事完成した。


 そして、魔道具技師にお願いしてあった時間停止の保管庫(ストップ・ストレージ)品質保管庫クオリティ・ストレージ


保温保存庫(ワーム・ストレージ)なども配置した。


 これらに、作ったばかりの商品を作りたての状態でいつでもお客さんに食べて、使ってもらえる。そんな算段だ。


 パンや日替わりの定食は、保温保存庫(ワーム・ストレージ)に格納しておく。温かく出来たての味を楽しんでもらえるはずだ。


 そして、ポーション類は時間停止の保管庫(ストップ・ストレージ)に格納しておくことにした。これで、作りたての品質を維持出来る。


 そう考えて、エルクさんの力も借りて必要な場所に移動を手伝ってもらった。


「エルクさん、ほかの皆さんも、今までありがとうございます。今日は是非うちの食事を食べていってください!」


 そう言って私は家の改築に力を貸してくれた皆さんに食事を振る舞うことにした。


 提供したのは、前菜にスモークサーモン、アボカド、フレッシュチーズのマリネ。それから、メインには力仕事をする彼らに報いるように、アスパラとジャガイモを添えたオーブン料理のクリームチキンだ。


 私の店は酒場にするつもりはないから、酒類は申し訳ないけれど提供出来ない。その代わりに、みんなには果実水を提供した。


「いやぁ、うまいねえ! 見たこともない料理だったから、最初は面食らったが、これだったら、金があるなら毎日通いたいよ!」


 エルクさんを筆頭に大工の皆さんが絶賛してくれる。


「宣伝もお願いしますね」


 私は抜かりなくそう言って、にっこりと笑う。


「ああ、もちろんさ!」


 そう言って、エルクさんたちは胸をたたいてくれたのだった。




 そうして、店は開店の日を迎えた。店は、私とお手伝いのカインが運営する。


「……食事を扱うなら、カインは毛が落ちたりしたら失礼よね。頭に三角巾と、体には割烹着を着て手伝ってもらいましょうか」


 そう思い立って、縫製機(ミシン)を使って古布を再利用して真っ白な三角巾とすっぽりと体を覆う割烹着風のエプロンを作った。手作りのそれを着せてみると、なんだか猫がお洋服を着ているようでかわいらしい。


「……こんなの似合うのかにゃ?」


「うんうん、かわいいわ」


「アベルは手伝わなくて良いのかにゃ?」


「うーん。アベルの管理する農園(ユートピア)はとっても広いでしょう? お手伝いする余裕なんてないんじゃないかしら?」


「それもそうにゃ」


「カインのおうちの管理の方は、お店が終わったら私も一緒に手伝うから、お店の方、一緒にお願いね」


「任せろにゃ!」


 そうして、私とカインとのお店運営が始まる。


 入り組んだ細い道の奥にあるから、近所の方には、その道の入り口に黒板になっている立て看板を置かせてもらうことを了承してもらった。


「エリュシオン。ヒールポーションと温かいパン、食事あります」


 そう書いて。


 最初は、ヒールポーションとパンを配った成果か、ヒールポーションやパンを買い求めに来る人がほとんどだった。


「もらったヒールポーション、効果抜群でさ! ちょっと歩くけどわざわざ立ち寄る価値あるかなって!」


 そう言って、冒険者のお客さんがヒールポーションを注文してくれる。


「まいどありにゃ!」


 カインの接客もだんだん板についてくる。


「前にいただいたサンドイッチ、とても美味しかったわ。あら。この間いただいたのは卵のサンドイッチだったけれど、今日のパンはツナのサンドイッチにチェリーのデニッシュ? ……デニッシュって何かしら?」


 パンを買い求めに来たらしいマダムが首を傾げた。


「バターをたっぷりと織り込んだ、サクサクのパンです。とっても美味しいですよ!」


 そう言って勧めると、マダムの目が輝く。


「まあ、そんな贅沢なパンがあるのね。珍しいわ。デニッシュを四個ちょうだい。家族で食べて、美味しかったら近所の奥さんたちの話題にするわ!」


「是非よろしくお願いします!」


 そうして、私はパンを包んでマダムに渡す。


 そのあとはぽつりぽつりとお客さんが来て、のんびりとした開業日になった。


「ずいぶんとのんびりだにゃ。これで良いのかにゃ?」


 カインが心配そうに私を見上げる。


「うん。これで良いの。のんびり、急がず。食べていけるだけの糧を得られれば良いんだから」


 そう言って、ポンポンとカインの頭を撫でた。


 それからは、パンのおいしさから食堂に興味を持った人がイートインに食べに来たり、ヒールポーションも、それだけじゃなく、ミドルヒールポーションとハイヒールポーションまで買い求めてくれる人がいたり。パンは、口コミで広がったのか、作る量を増やさないといけない位にお客さんが来てくれる日もあったりで、なかなかの繁盛ぶりを見せるようになった。


「……ほどほどの繁盛ぶり。良い感じだわ」


 これくらいで、きちんとお客さんと向かい合える感じ。穏やかな隠れ家的カフェ。それが良いわね、と私はそう思うのだった。

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