04-4.
一方、旅に出る黒騎士──ユリウスという。その彼はというと、クリスティーナの自分に対する態度に心地よい感情を抱いていた。
──物怖じしない女だったな。
先ほどすれ違った女のことを思い出す。
私のこの漆黒の身なりと右目の眼帯を気にする様子もなく。それどころかこちらまで気持ちが良くなるような笑顔で接してくれた。
他者への敬意を常に持ち、そして好意的に接することが得意なのだろう。
仕立ての良さそうなワンピースという出で立ちで、格別貴族令嬢のような位が高いという意味ではなさそうだ。だが、彼女からは、素直に育ちの良さが感じられた。
そして、彼女曰く自分で商いをするという。そんな豪胆さも持ち合わせているとしたら、裕福な商家の出なのかもしれない。
そんなことを想像しながら、先ほどの出会いを反芻していると、王都の門に着いた。
衛兵たちは顔なじみのものだった。敬礼をしてくれ、すぐに門を開けてくれる。その門をくぐり、外に出る。広がるのは、広々とした平野、草原だった。
「ユリウスさま。お待ちしておりました。馬をご用意しておきました」
横から声をかけられる。衛兵のうちの一人だ。
愛馬であり、相棒といって良いほど旅をともにしてきて息の合った馬。美しい青鹿毛の雌馬だ。その馬が、兵に手綱を握られている。そして、衛兵は恭しくその手綱を手渡すようにユリウスの方に差し出してきた。
「こちらをどうぞ」
差し出された手綱をユリウスは受け取る。そして、彼は馬をシュヴァルツと呼んで、その首元を愛しげに撫でた。
「今回もよろしくな」
そう優しい声音で告げると、スリスリと顔の横側をユリウスに擦り付けて応えた。
「調子も機嫌も良さそうだな。調整、ありがとう」
ユリウスはシュヴァルツを連れてきた衛兵に礼を言う。
「いえ、滅相もない。ご武運をお祈りしております」
「ありがとう。では行くか、シュヴァルツ」
そう言うと、左足を鐙にかける。右足で地面を蹴って体を持ち上げ、ひらりと鞍に乗ってから右足も鐙に入れた。
「では、行こうか」
ユリウスが片足の鐙で腹を蹴る。すると、それを合図としてシュヴァルツが駆け出す。そして王都の門から続く街道を走っていったのである。