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04-1.屋敷の改築とヒールポーション作り

 お店を出店することに決めて、屋敷の間取りを考えると、店舗用スペースは拡張してもらうのが一番良いのではないかと思ったのだ。費用はある。それはミドルヒールポーションとハイヒールポーションを売ったお金。それらはとても高価なものだったから、出費にはなるけれど、十分にその費用をまかなえたのだ。


 一室拡張して、店舗スペースにはカフェ部分と、対面で商品をやりとり出来るスペースを作ってもらう。小さなキッチンもある。


 お客さまを迎える出入り口は、生活スペースとは別に作ってもらって、カフェの奥に生活スペースとつながるドアでつなげてもらった。


 ポーション類やデニッシュなどを並べておく戸棚なども一緒に作ってもらうことにした。多くはないけれど、カフェ部分のテーブルや椅子も一緒に作ってもらう。


 そんな算段を大工の親方である、ハンチング帽がトレードマークのエルクさんに頼む。


 それから、食洗機(ゲシュルスプラー)保温保存庫(ワーム・ストレージ)などの、家にも店にもいるものは、おじいさまと懇意だった魔道具技師に制作をお願いすることにした。


 それが済むと、私はその工事の間中は暇になった。


「工事の間は私は手が空いているわ。その間に、売り物にするポーション類を作っておこうかしら」


 そうして、新しい生活のパターンが始まった。


 朝起きて、みんなで朝食を食べると、親方たち大工の皆さんがやってくるので、ご挨拶をしてから、私は創薬室に移動する。


「さて、今日のポーション作りを始めますか」


 私は腕をまくる。そして、万が一に液体が飛び跳ねても良いように、エプロンを身につけた。


「まずは、太陽の種をすりつぶしましょう」


 私は乳鉢に太陽の種をパラパラと入れる。そして、乳棒を使って、最初は潰すように、それから円を描いてすりつぶすようにして粉にした。これが材料の一つになる。


 次はビーカーを出す。それに、材料を順に入れていく。


「癒やしの葉にエタノール、さっき太陽花の種をすりつぶしたものを入れて……量はこれで大丈夫ね」


 一つずつ、天秤と計量カップで量りながら、材料を入れていく。


 今はまだ、エタノールという液体に、癒やしの葉と太陽の種のコネが漂っているだけだ。これを、創薬(フォーミュレイト)することで成分を混ぜ合わせ、変性させることで、ヒールポーションたちに作る変えるのだ。これが出来るのが、私たち魔法薬師という人々である。


創薬(フォーミュレイト)!」


 私は、素材の入ったビーカーに向かって、両手のひらから必要な魔力を注ぐ。すると、それは溶け合い混じり合い変成し、ポーションへと変わっていく。キラキラと輝いたかと思うと、抑え気味に魔力を注ぎ込んで出来あがったそれは、ヒールポーションだ。


「うん、これで、開業から当面必要そうなヒールポーションの数を作っちゃいましょう」


 商売対象として考えているのは、近所の病を抱えている人がいる人々。彼らは、ヒールポーションなどを病人に飲ませ、病を治してほしいと買い求めに来るだろう。


 次に、冒険者という、魔獣を狩ったりすることで生計を立てている人々だ。彼らは、冒険で負った傷を癒やすために、ヒールポーションなどを買い求めに来ると思う。


 一番売れるのはおそらくヒールポーション。ミドルヒールポーションはともかく、ハイヒールポーションなんて滅多に売れないだろう。ハイヒールポーションか必要だなんてよっぽどのことだ。売れないに限る。


 ちなみに、一般的な相場で言えばヒールポーションは銅貨十枚、ミドルヒールポーションは大銅貨十枚、ハイヒールポーションは金貨六十枚だ。万が一の時のために用意しておくとはいえ、金額からいっても、ハイヒールポーションが必要とされることはないだろう。


 ──そういえば、王城で必要な分のミドルヒールポーションとハイヒールポーションはどうなったかしら?


 アドルフには作ることなど出来ないのは間違いないけれど、オリビアには作れるのだろうか。




「まあ、知ったことではないわね。さて、私の新しい店にはまだまだ数が必要ね。頑張りましょう」


 そうして、私は自分のために創薬に励むのだった。


 それから、ある程度創薬を終えると、パンの試作をすることにした。もちろん試作をしたらそれは無駄にすることなく私たちの食事にするわけだが、ケットシーたちは飽きたと言うこともなく、目新しいパンたちに逐一目を輝かせてかぶりついてくれ、協力してくれた。


 それから、工事に来てくれている大工さんたちにも振る舞った。もちろん、「宣伝してね」との言葉と一緒に。


 さらに、惣菜パンは、前に作った焼きそばパンなどのほかにも、サンドイッチも作った。金物屋の親父さんにお願いして、四角い型を作ってもらい、食パンを作ることが出来るようになったからだ。


 ちょっと趣向を変えて、カレーパンなんかも作ってみた。


 甘いパンは、デニッシュのほかにも考えた。前世であった、あんパンやクリームパン、ジャムパンを作る。きっと持ち運びしやすく、冒険者たちも旅先で食べやすいだろうと思ったのだ。


 そうして日々は過ぎていく。そんな中、私はあることを失念していることに気が付いた。


「お店を開くなら、商業ギルドに登録しないとだめじゃない」


 商業ギルドとは、街の店をとりまとめる元締めのような組織だ。製品の品質・規格・価格などを定めたりもする。店を商うなら、この王都では、商業ギルドに入ることがしきたりとなっていた。


「そうと決まれば、試作品を持って、商業ギルドに行かないとね」


 まあ、カフェについては試作品は持っていけないのだが、パンはこの世界では未知のものばかりだから持っていった方が良いだろう。カフェにメニューは、紙に絵を描いて、説明出来るようにしておいた。


 ──ま、カフェのメニューも前世レシピを元にするんですけどね。


 私は、ちょうど作っていたいくつかのパンを見た。サンドイッチの卵サンド、ツナサンドに、クリームパンだ。


「パンと、三種類のポーションを持っていきましょう」


 それに、街に出るなら、開店に向けたチラシも作りたい。


 チラシ。チラシを作るなら店の名前も決めないと。


 ──どうしよう。


 うーん、と私は考える。


 ポーションやパンといった必要なものを得たり、ゆっくり食事をしていったりしてもらう店……。みんなにとって憩いの楽園のような店になってほしい。


 そう思ったら、ぱっとあるワードが頭に浮かんだ。


 ──エリュシオン!


 前世の神話の中で、楽園を意味する言葉。お店に来てくれる人にとって楽園のような場所になってほしい。


 そうよ! お店の名前はエリュシオンにしましょう!


「どうせチラシを配るんだったら、街の人や冒険者さんたちと通りすがったら、一緒にヒールポーションを配ろうかしら。試用品として」


 宣伝になるから、それが良いわ、と、その日はチラシとヒールポーションを慌てて多めに作ることにした。

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