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03-5.

 私は大皿にそれぞれのデニッシュを並べた。そして、取り皿とティーカップを並べる。


「紅茶でも淹れましょうか」


 私は湯を沸かし、茶葉を入れたティーポットに少しおいたお湯を注ぐ。三分ほどおき、三人分のティーカップに紅茶を注いだ。


「ペーストリーってバターたっぷりだから、おしぼりがあった方が良いかしら」


 そう思って、それも用意する。


 溶き卵を塗っておいたから、部屋の明かりを浴びてデニッシュの生地の表面はキラキラと輝いている。


「喜んでくれると良いのだけれど」


 二匹の顔を思い浮かべてそう思う。そして、大きな声で二匹を呼んだ。


「カイン、アベル! お昼ご飯よ~!」


 その声は、屋敷中と農園(ユートピア)にまで通る。


 たいして待たずに、私の声を聞きつけた二匹がやってきた。


「今日はまた違ったパンが食べられるにゃ!」


「今日はどんなパンかにゃ?」


 二匹はひげを前のめりにしてわくわくの面持ちだ。


 そんな二匹が、テーブルに盛られたデニッシュを前にして、わくわくの表情を深めた。


「なんだか、とっても香ばしい匂いニャン」


「バターの香りもたっぷりニャン」


 ゆらゆらと二匹の尻尾が揺れる。私はそんな彼らにいつもの声をかける。


「食事の前には手を洗ってね」


「「はぁい!」」


 お返事は良い。二匹は洗面所に駆けていった。そして、順番に手を清める。そして、パタパタと駆けてきて、各自の席に着いた。私も腰を下ろす。


「「「いただきます」」」


 そろって食事前の言葉を口にして、各自デニッシュに手を伸ばす。


 ケットシーたちがサクッと歯を立てた。


「んにゃっ! サクサクだニャン!」


「バターの香りがいっぱいだニャン!」


 それぞれに感想を述べる。


「これがパンなのかニャン!?」


「ほっぺたが落ちるニャン!」


 そのあとは、一個目のパンをパクパクと怒濤の勢いで平らげた。その光景を目を細めて見守りながら私も一個目のデニッシュを平らげる。


「これはとっても美味しいのニャン!」


「食の革命なのニャン!」


 そう言いながら、次々と各自三つ、を守りながらパンを平らげている。私も、喜ぶケットシーたちの様子に満足し、達成感を胸に、得織り紅茶に口をつけながらデニッシュを平らげた。


 ケットシーたちも、デニッシュを平らげると紅茶を一気に飲み干した。


「ふー。美味しかったのにゃー」


「最高の時間だったにゃー」


 二匹は大変満足そうだ。すると、思いついたようにカインが口を開く。


「にゃあ、クリスティーニャ」


「なあに? カイン」


「これは食の革命にゃ。これは、我が屋敷だけのものとしないで、売ったらどうにゃ?」


「売る?」


 ──売る。商売をするってことかしら?


 私は心の中でそれを復唱した。


 今は一年弱分のミドルヒールポーションとハイヒールポーションの分の対価が潤沢にある。だが、一生食べていくとしたらどうだろう。


「……そうねえ。生活の生業とするのも、ありなのかもしれない」


 そうしたら、ポーション類も一緒に販売したい。私はそもそも魔法薬師なのだから。


「なら、クリスティーニャの美味しい食事も皆に振る舞ったらどうにゃ?」


 アベルが新たな提案をする。


 ──食事の提供。食堂?


 それも、料理好きな私にとっては魅力的な提案に思えた。


 王都の外れの入り組んだ小道の奥にある屋敷だ。そう客足は多くはならないだろう。だったら、一日のメニューはごく限られたものにして、その代わり、日替わりメニューをもうける。そうすれば、客はメニューに飽きるということもないだろう。


 パンにポーションに食堂。欲張りかもしれない。


 でも、やってみたいと思えた。


「カイン、アベル! 私、やってみるわ!」


 私は決心したのだった。

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