METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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三章始動!

オリキャラも何人か登場していきます。


第三章:BLOOD LAND
ヨーロッパの火薬庫


 マザーベースよりヘリに乗ること十数時間。

 途中で傘下のPMCピューブル・アルメマンの補給基地で給油と補給を行い、再び長いヘリの旅に向かう。

 いくつもの山岳を越え、高高度の位置を移動する。

 

「ボス、連邦領内へ入ります」

 

 操縦者のその声に、横になっていたスネークは起き上がり緊張した面持ちで操縦席のレーダーを見守る。

 レーダーには連邦領の国境線を示す線が表示されており、機体を示す印が少しずつそこへ接近していく。

 機内の空気が張りつめる…それは機体を示す印が国境線を超えてから数十秒経った辺りでおさまった。

 

『スネーク、無事国境を越えたようだな』

 

「ああ、ヘリのステルス性は問題ないようだ。提供してくれたレイブン・ソードには礼を言っておいてくれ」

 

 国境を越える際に危惧していたのは、連邦軍の対空レーダーである。

 内戦中であり、なおかつ周囲に常に目を光らせている連邦軍は今や民間の飛行機に対しても領空侵犯は無警告で撃墜すると宣言しているくらいだ。

 もしステルス性能のない飛行隊が連邦軍のレーダーに映れば、すぐさま対空ミサイルが発射されて撃墜されるだろう。

 

 もしこれがスネークが元いた世界でやろうとするならば、国際社会からの強烈な非難を浴びて多国籍軍の集中攻撃をくらっていたかもしれない。

 だがこの世界のこの時代において、スネークの知る国連程の大きな影響力を持った組織もなければ、米国やソ連のように介入を仕掛けてくるほど余裕のある国家も存在しない。

 なにより内戦を抱えているとはいえ強大な軍事力を持つ連邦軍を前に、わざわざ利のないことでちょっかいを仕掛ける国家もない…少し前まではジャーナリストや保護軍が連邦領内に入っていたようだが、それらは全て強制退去させられ、今や連邦領内の実情を知ることはできない。

 

 それと同時に世界に宣言したのが、国境なき軍隊(MSF)及びPMC4社のテロリスト指定だ。

 かつての超大国が崩壊した今、決して大国とは言えなかった連邦政府は大戦を生き延びた軍事力と経済力をもって欧州での影響力を保持している。

 今のところ他の国がその宣言に追従しているわけではないが、進んでMSFと取引をしようという国家は少なくなった。

 これは戦争をビジネスとし、組織の運営をしているミラーにとって悩ましい事態だった。

 

 

「それで、オレたちに接触を求めてきたという勢力は何者なんだ?」

 

 連邦軍の対空網を掻い潜ったところで、スネークは葉巻に火をつけようとするが、いつの間にか張られている"禁煙"の張り紙と、咎めるような9A91の目を見て渋々葉巻をしまう。

 

『接触を求めてきたのは、反政府勢力の一つ"ユーゴスラビア人民解放軍"通称パルチザンだ」

 

「パルチザンか。カズ、バルカン半島では一体どれだけの勢力が戦火を交えているんだ?」

 

『一言で言うにはあの国は複雑すぎる。まずはいくつもの共和国をまとめている連邦政府、独立を掲げるボスニア、セルビアなどがある。中でもボスニアの事情は一層複雑だ、連邦政府寄りのクロアチア人勢力、ボスニアの独立を悲願とするボシュニャク人、セルビアと共に独立を果たそうとするスルプスカ共和国がある』

 

「多民族国家ユーゴスラビア、この時代においても戦争の火種は絶えないな」

 

『ああ。かつて隣人だった彼らが、今や血みどろの戦いを繰り広げている。スネーク、後教えておきたいのが現連邦政府にある過激派団体"ウスタシャ"だ」

 

「ウスタシャ…第二次世界大戦中にナチス政権と繋がりのあった組織。ナチスの特別任務部隊(アインザッツグルッペン)にさえ、その虐殺行為は衝撃的だったらしいな」

 

『そうだ、民族主義が高まるにつれ右派が勢いを増しウスタシャが再結成された。それに対抗してセルビア側にも同じ過激派組織の名を借りて生まれたのが"チュトニク"だ……そして民族の垣根を越えて革命を志しているのがパルチザンというわけだが、この紛争においては主要な組織とは言えない』

 

「社会主義革命を目指す少数派の支援か。アマンダたちを思いだすな」

 

『そう悠長な事も言っていられない。今言ったのは主な勢力だ、他にも自警団や民兵と言った準軍事組織もある。警察組織だって戦争に参加しているんだ。国民すべてが銃を突きつけ合っているようなものだ』

 

 

 内戦において、身を守るために一般市民が銃を手に取ることはよくあることだ。

 そうでもしなければ市民は暴力の前に蹂躙され、女子どもは凌辱される。

 時に年端もいかない少年少女すら銃を手にし、人を殺すこともある…少年兵の問題はスネーク自身もどうにか解決したいと思うことだった。

 

 

『スネーク、くれぐれも注意してくれよ。既にオセロットが現地に諜報員として潜入している、彼から入った情報はアンタに直ぐに伝える。奴も無事で任務を果たしてくれればいいんだが』

 

「奴はKGBとGRUに疑われず潜入した三重スパイ(トリプルクロス)だ、心配はいらない。それよりも、オセロットがいないからといって訓練をサボるような奴がいないか目を光らせてくれよ?」

 

『それはオレが見るから安心してくれ。そっちも、FOXHOUNDの部隊章に押し潰されてしまわないようちゃんと見ててやるんだぞ』

 

 ミラーの言葉に、同じヘリの機内で座る9A91の服に縫い付けられた部隊章に目を向ける。

 ナイフを咥えたフォックスが描かれた部隊章、スネークが今身に付けている戦闘服にも同じワッペンがつけられている。

 

「見なよ9A91、これが人間同士の戦争だ」

 

 同乗する同じFOXHOUND隊員に選ばれた"マシンガン"キッドが、高度を下げたヘリの窓から眼下にうつる荒れ果てた大地を見つめる。

 それは鉄血が荒廃させた街並みと似たようにも見えるが、よく見れば人間の業の深さを知ることができる。

 戦前は牧歌的な農村であったであろうそこは、戦車の履帯で踏み荒らされ、家畜の死骸も転がっている。

 

 ヘリの窓から一瞬見えた納屋の中では、人間の死体が山積みにされていた。

 

 9A91は気分を悪くし、窓から目を背けると席に座り込む。

 早くもこの地に渦巻く憎悪と怨念の空気にあてられてしまったようだが、まだ地獄の門に到達すらしていない。

 

 ヘリは高度を調節しながら山岳地帯の峡谷を抜けていく。

 敵対勢力にゲリラ戦を仕掛けているパルチザンは本部を絶えず移動させているため、その足取りを掴むことは難しい。

 MSFには合流地点を座標で教えてきたため、おそらくはその近辺にパルチザンの本部があるはずだ。

 

 

 ヘリは体勢を維持し、ゆっくりと高度を下げていく。

 川辺の広い場所に降下し、スネークは扉を開き外に出る…すぐさまキッドも降り立ち、周囲を警戒する。

 

「幸運を、FOXHOUNDの初任務の成功を祈ります」

 

 三人を下ろし終えたヘリはすぐさま機体を上昇させ、その場を飛び去っていく。

 ヘリが飛び去った後は、川の流れる音と、森のざわめきだけが響く静かな自然が三人を包み込む。

 

「司令官、周囲に敵影無しです」

 

「こっちもだ、ボス」

 

「よし、指定された座標まではここから北西に20キロだ。油断するな、ここはもう戦場だ」

 

 端末を起動させ、現在地と目標地点を確認し三人は移動を開始する。

 ここ最近は市街地での戦闘が多かったため、このような鬱蒼と生い茂る森や険しい山間部を進むのは久しぶりであったが、スネークには長年の経験が身体に染みついているため足をとられることなく進む。

 機関銃を手にし重装備のキッドもなんら問題なく進み、9A91は少々足をとられながらも二人の後をついて行っている。

 途中あった滝つぼでスネークは立ち止まり、小休止をとる。

 合流地点まではあと少しだが、約束の時間まではまだ余裕があるためそう急ぐ必要はない。

 

 ヘリで我慢していた葉巻を嗜む。

 我慢していたぶん葉巻の香りと味はここ最近で一番美味く感じられた…ふと、9A91がきょろきょろと森を見渡していることに気付く。

 頭上を飛ぶ鳥を目で追い、滝つぼにしゃがみこんで魚を覗き込んだり、森の小動物を眺めたり。

 

「こんな自然を見ることは初めてなのか?」

 

「はい。戦争で世界が荒れて以来、市街戦が多かったので。それに、このような自然が残されている場所は世界にも珍しいと思いますので」

 

「人がいないところでは戦争は起こらないからな」

 

「綺麗なところです、失って欲しくありません。鳥も魚も動物も、ここでしか生きられませんから」

 

 木々の枝にとまる小鳥たち、草むらを駆け抜けていく小動物の姿に9A91は微笑みを浮かべる。

 スネークとキッドにとっても、この世界に来てこのような穏やかな自然の中で気を休めるのは久しぶりの事だった。

 少しの時間を穏やかな自然の中で休み、三人は再び森の中を進んでいく。

 

 

 

 時折端末で位置を確認しながら、三人はようやくパルチザンの指定してきた座標にまで到達する。

 スネークはそこへ行く前にキッドと9A91を警戒にあたらせ、一人その場所に歩を進める……木々が揺れる音以外何もしない静かな空間で、スネークはしゃがみこむ。

 じっと草木の向こうを見つめる。

 

「MSFか?」

 

「ああ」

 

 唐突に投げかけられた言葉に短く答えると、スネークが見据えていた先から男が現れスネークを手招きした。

 

「一人か?」

 

「他に二人いる、今から呼ぶ」

 

 スネークが片手をあげて合図をすると、草木に隠れ気配を殺していたキッドと9A91が姿を現す。

 二人の気配に全く気付いていなかったのか、パルチザンの男は感心した様に頷く。

 

「来てくれ、オレたちのキャンプまで案内する」

 

 そう言って森の中をつき進んでいく男の後をスネークたちはついて行く。

 森の中をすいすい進んでいく男にスネークはもちろんついて行くが、重装備のキッドは流石にしんどそうだ。

 時折遅れ気味になる9A91を振り返って確かめながら進んでいくと、森の開けた場所に到達する。

 

 そこにいくつかのキャンプが設置され、数十人のパルチザン兵士たちが物資を運んだり銃の整備をしている。

 

「おい、少佐はどこいった?」

 

「ああ、食糧調達に出かけたよ。もうすぐ来ると思うぞ」

 

 仲間とやり取りを行った男はしばらくしてスネークたちのもとへ戻って来くる。

 

「自己紹介がまだだったな、オレはパルチザンで部隊を率いているドラガンだ、お会いできて光栄だビッグボス」

 

「スネークでいい。こっちはキッド、あっちの子は9A91だ」

 

「ほう、IOPの戦術人形を使っているのか、お目が高いね。うちのボスはどうやら狩りに出かけたようだ、少し休んで待っていてくれ」

 

 

 

 適当な場所に案内される間、スネークたちはパルチザン兵士たちの好奇の目に晒される。

 一応普段の服装とは変えているが、見た目がかわいい9A91には男たちの視線が集まっている…スネークとキッドは小柄な彼女を隠すように両脇を挟んで歩き、切り株に座り込み出されたコーヒーをいただいた。

 やけに苦いコーヒーに一同顔をしかめ、二度すすることなくマグカップをそこらに置いた。

 

「ボス、相手はどんな奴なんです?」

 

「分からん、接触をしてきたのは今のドラガンという名のパルチザン副官だったらしい。奴らのリーダーは分からん」

 

「どんな方なのでしょうか?」

 

「そりゃ決まってる、ボスゴリラみたいに大きな奴さ。見なよ、こんな服を着たゴリラみたいな兵士を束ねるには強い奴じゃなきゃな」

 

「服を着たゴリラ…」

 

「キッド、あまり変な言葉を教えるんじゃない」

 

 教育係として、戦術人形の前で悪い言葉を使うのは見過ごせない。

 無垢で純粋な9A91に乱暴な言葉を教えてエグゼやスコーピオンのようになってしまわれても困るからだ。

 

 そうしていると、キャンプが騒がしくなる。

 どうやらパルチザンのリーダーが狩りから帰ってきたらしい。

 

 

「あれが、パルチザンのリーダーか?」

 

 

 スネークが見つめる先には、矢で仕留めた小鹿を肩に担ぎ話す女性の姿があった。

 

 青みがかった黒髪を結い上げ、細身だが鍛えられた身体がシャツの上からでもよく分かる。

 切れ長の目はとっつきにくさを感じられるが、仲間と話す彼女は愛嬌のある笑顔を浮かべ、泥で汚れているが顔立ちの整った美しい女性だった。

 

「あれがボスゴリラ…ですか?」

 

「訂正、ありゃ戦場に舞い降りた戦乙女だ」

 

 予想していたような大男ではなく、マザーベースの戦術人形たちと並んでも遜色ない美しい女性の姿にキッドは先ほど言った言葉を即座に取り消した。

 

 

 

「こんな鹿よく取れたな」

 

「ああ、わたしの手にかかれば一ころさ。今夜は久しぶりの肉だ、血抜きはしたが解体は任せたぞ」

 

「了解だ少佐、ところであんたに会わせたい人たちがいるんだ」

 

「あ? 客人か?」

 

 女性はドラガンの言葉を聞いてキャンプを見回す。

 そこで立ち上がったスネークを見るや否や、先ほどまで笑っていた表情を一変させると目の前のドラガンの胸倉を掴み壁に叩き付ける。

 

 

「おいドラガン貴様、傭兵を雇ったのか!?」

 

「イリーナ、落ち着け。必要なことなんだ!」

 

「わたしに何の相談もなくか?」

 

「相談したら断っていただろう?」

 

「当たり前だ! 何故わたしたちが戦争屋の力を借りなければならないんだ! 傭兵はカネで簡単に裏切る、戦争で金もうけをする人間…わたしが最も嫌いな存在だ!」

 

 彼女はドラガンを突き放すと、そばにあった銃を手に大股でスネークたちへと近づき銃口を向ける。

 咄嗟に9A91とキッドも銃を突きつける、突然の出来事にパルチザンの兵士たちは動揺していたが、リーダーにならい銃口をスネークたちに向ける。

 

「待て、話しをしようじゃないか」

 

「お前らと話すことは何もない。戦争の犬め、この地にお前らみたいな戦争屋をこれ以上受け入れたくないのだよ」

 

「ドラガン、どう言うことだ話しが違うんじゃないのか?」

 

「待ってくれ。イリーナ落ち着け、オレたちには力が必要なんだ。何よりもオレたちには兵力が足りない」

 

「黙れドラガン。おい傭兵、わたしたちの悲劇がそんなに金になるか? わたしはお前らのような戦争を生業とする連中は嫌いなんだよ。カネで雇われ、女子どもを犯し殺す…お前らもきっとそうだろう? ここで戦争犯罪を咎める奴らはいない、どうせ政府に雇われ損なった小規模PMCといったところか?」

 

 とげとげしい言葉と共に彼女はありったけの嫌悪感を示す。

 一方的な物言いに9A91は苛立っているようだが、スネークは彼女とキッドの銃をそっと下げさせる。

 それをパルチザンのリーダー、イリーナはじっと見つめていたが銃を下ろす気配はない。

 

「やめろイリーナ、彼らはただの傭兵じゃない…MSFだ」

 

国境なき軍隊(MSF)? 持てぬものの抑止力……じゃあ、お前がビッグボスか?」

 

 ようやく銃を下ろしたイリーナに続き、パルチザンの兵士たちも銃を下ろす。

 衝突を避けられたがいまだ気を許しあっていない状況だ。

 

「そうか、アンタらが……連邦政府からテロリスト指定された話しは聞いていたが…」

 

「イリーナ、どうせオレたちも政府から見ればテロリストだ。気にすることは無い」

 

「わたしたちは"チトー元帥"の意思を継ぐパルチザンだ。連邦政府の白色テロを棚に上げて言えたことか」

 

「まあいいが、MSFの協力をうけてもいいんだよな?」

 

「ふぅ……おいドラガン、歯を食いしばれ」

 

 そう言うと、振り向きざまに強烈なパンチでドラガンを殴り倒す。

 歴戦のキッドも惚れ惚れとするような見事な拳だ。

 

「次わたしに内緒でやったら、歯が無くなるまでぶちのめすからな?」

 

 鼻血を垂れ流しながら頷くドラガンを睨みつけ、今後間違った行動をさせないようくぎを刺す。

 部下を懲らしめたところで彼女は振り返ると、先ほどとは打って変わりその顔に笑みを浮かべていた。

 

「さっきは悪かったな、あんたの噂は色々聞いてるよ。あちこちで兵士を攫って味方につけてるんだって? おまけに鉄血人形も囲ってるなんて噂も聞いたぞ」

 

「噂が独り歩きしているようだな。オレは兵士を攫っているんじゃなく説得して味方につけているだけだ」

 

「ハハハハハ、物は言いようだな。さて傭兵は嫌いだが、アンタという男には興味があった。話しをしようじゃないか」

 

 高らかに笑い、仲直りの握手と言わんばかりに彼女は手を差し出す。

 握手を交わせばとりあえずは仲直り完了だ、それ以上の商談はこれから話すことだ。

 

 

「ヨーロッパの火薬庫ユーゴスラビアへようこそ、ビッグボス」

 

 

 




七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字を持つ、一つの国家

始まりました第三章"ユーゴ紛争編"です。

2章の最後から少し時間が経ってます。
正式にFOXHOUNDが始動。
山猫さんはガチモードでバルカン半島に潜入してます。

では、次回からもよろしくお願いします。
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