METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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第二章:PHANTOM PAINE
再出発


「クルーガーさん、ただいまM4が帰還しました」

 

 グリフィン司令部のとある一室にやって来たヘリアントスは、グリフィン創始者であり最高責任者クルーガーに対しそう報告する。

 報告を受けた彼はコーヒーを一口すする…相変わらずマズいコーヒーに彼の元々厳しい表情はさらに強まる、新兵がみたら震えあがるような強面の男だ。

 

「そうか、無事に戻ったようで何よりだ」

 

「ええ、問題なく…これも、彼らのおかげです」

 

国境なき軍隊(MSF)か…その件についての報告を聞こう」

 

「はい。これはM4が持ち帰った映像データです、私が言葉で伝えるよりも多くを物語ることでしょう」

 

 ヘリアントスは機器を操作し、モニターに映像を映す。

 最初の映像は小規模な戦闘から始まっていた、MSFの前哨基地内には多数の人間の兵士が鉄血兵と対峙しており、基地内に設置されている火砲が敵陣めがけ砲撃をしている。

 ここまではどこの戦場おいても見れるありふれた戦争風景だ、だが映像が乱れ次に映された場面ではクルーガーでさえ見たこともない鉄血の大軍勢と戦闘する場面であった。

 鉄血の装甲ユニット"マンティコア"が多数投入され、その他の装甲人形が前衛として敵の攻撃を防ぎ、後方の鉄血兵が防御線を食い破る。

 

 地域紛争と呼ぶにはあまりにも大きすぎる戦力、まるで第三次大戦を観直しているかのような錯覚をクルーガーは覚える。

 

 戦力差に押され倒れていくMSFの兵士たち…。

 そこへグリフィンが送った救援部隊も参戦するが、圧倒的戦力差に追い詰められていく。

 

 ここまで見れば誰が見ても鉄血側の勝利を疑わないだろう。

 だが次に映ったのは、二本の脚で立つ巨大な兵器の姿だった。

 それは鉄血兵を豪快に踏みつぶし、大口径の機銃で敵を薙ぎ払い、肩に装着された巨大な兵装とミサイルで敵を木端微塵に吹き飛ばす圧倒的な戦力だった。

 優勢だった鉄血はあっという間に駆逐され、逃げまどう鉄血を息を吹き返した兵士たちが追い詰めていく…。

 

 

 映像を見終えたクルーガーは椅子に深々と腰かけ、デスクから一冊のファイルを取り出す。

 

「我々グリフィン、及び他のPMC各社が戦力を保持するにあたり守るべき協定の全てがここに載っている。いまや正規軍の手に余る問題に対処するPMCの存在は欠かせない。だが際限なく強大化することは世界のパワーバランスを著しく崩すことになる、滅亡の危機に瀕している人類にとどめを刺す事態にならないように我々はこの協定を尊重している」

 

「はい。ですが、MSFはその協定に属していません」

 

「うむ、既に彼らと鉄血との戦闘は世界に知れ渡っている。世界が彼らをこのまま放っては置かないだろう…既にバルカン半島の連邦政府が不穏な動きを見せている」

 

「連邦政府が? しかし連邦政府はかねてよりMSFの戦力を買っていたはずでしたが?」

 

「今まではな…国境なき軍隊(MSF)はいかなる国家、政府、思想、イデオロギーにも属さないと言っていたな。そんな彼らが反政府勢力に協力したら? 一介のPMCと連邦政府はこれまで侮っていたのだろう、だが、鉄血の大部隊を返り討ちにする程の戦力だとしたら話しは別だ。いまだ内戦の終結が見えない連邦には、彼らの存在が疎ましくなってきたのだろう」

 

「なるほど…連邦政府は協定締結を迫るか、あるいは…」

 

「戦争だろうな。世界がどう動くか分からん、我々としても独自に動かねばならん事態が来るだろう。引き続き、彼らの情報を集めるんだ」

 

「了解です、クルーガーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が集結して三日後、前哨基地より少し離れた海の見える丘に、9A91は墓石に花を手向けていた。

 その真っ白な墓石には何も書かれていない…墓石の前で彼女はしゃがみこみ、じっと何も書かれていない純白の墓石を見つめている。

 

「指揮官、わたしは…あの時何もできずあなたを救えませんでした。あなたを失って、わたしは何もかもに怯えて怖がっていました、泣き虫で、弱虫で、ずっと周りに迷惑をかけてました…でも、あの人に出会ったんです。わたしはあの人に立ち直る勇気を貰いました、おかげで前に踏み出すことができました…わたし、あの人と一緒に生きていくって決めました

わたし、もうくじけません、前を向いて歩き続けます…だから、こんなわたしをどうか、笑顔で見送ってください、指揮官…」

 

 

 立ち上がり、彼女は墓石に向けて敬礼をする。

 目を閉じれば大好きだった指揮官との日々が思い浮かぶ、どれも大切な記憶だった…楽しいときも辛いときも指揮官や仲間と乗り越えたことを忘れず、胸に刻み込み、これから新しい道を行くんだ。

 墓石の前で精いっぱい笑顔をつくるも、押し寄せる哀しみと涙で9A91の顔はくちゃくちゃだ…やがて彼女は裾で涙を拭く。

 

「行ってきます、指揮官…」

 

 去り際に笑顔で墓石に向けてそう言い、丘を下っていく。

 

 

 前哨基地では急ピッチで修復作業が行われている。

 以前より働く兵士たちの姿は少なくなり、作業のほどはお世辞にも早いとは言えなかった。

 あの戦闘で数十名以上が戦死し、百人近い負傷者を出す…鉄血の戦力を考えればかなり損害を抑えられたと言ってもいいだろうが、半分近い人員が動けなくなったMSFは早急な立ち直りが必至だ。

 そんな中で、スコーピオンら戦術人形たちはその穴を埋めるようにせっせと働いた。

 

 普段は肉体労働をめんどくさがるスコーピオンも率先して行い、復帰したばかりのスプリングフィールドも懸命に働く。

 

「おら働けッ!」

 

「ひぃぃ!」

 

 そんな中で、スコーピオンは木刀を手になぜかいる鉄血兵数人をシバきながら作業を進めている。

 なんでも戦闘が終わって、比較的損害の少ない鉄血兵を掘りだして武装を解除させ、あとはひたすら言うことを聞くまでぶちのめし言うことを聞かせているらしい。

 通信機能も破壊され、少しでも逆らおうとすれば木刀で袋叩きにされる…すっかり怯えた様子の彼女たちはスコーピオンに一切逆らえず、荒れ果てた前哨基地の復旧作業の従事する。

 

「もうスコーピオン、鉄血とはいえやり過ぎはいけませんよ? たまには休ませないと」

 

 見かねたスプリングフィールドがそう声をかけるも、スコーピオンとしては鉄血兵を働き潰すつもりらしい。

 

「いいんだよこいつら、なんか好きでやってるみたいだから…そうだよねー?」

 

「ハ、ハイ…ソノトオリデス…」

 

「でも休ませないと壊れちゃいますよ? 10分でも20分でも…じゃないと24時間持ちませんよね?」

 

「あ、そうか。じゃあ10分休憩ね、次の休憩は24時間後だ!」

 

「ブ、ブラックや…!」

 

 絶望したような表情の鉄血兵を檻にぶち込んで休憩させ、スコーピオンらも休憩する。

 

 スプリングフィールドが少ない食材で作ったおつまみは兵士たちには好評だ、少し減ってしまった笑い声に寂しさを感じつつもスコーピオンは明るく振る舞う。

 彼女の明るく笑う姿は兵士たちを元気づける、それを知って知らずかスコーピオンはいつものように元気にふるまうの。

 

「あ、みんなここにいたの?」

 

「おや、誰かと思ったら芋スナワルサーではないか」

 

「殺すわよ、毒サソリ」

 

 あいさつ代わりの罵り合いを終え、WA2000は二人を連れていく。

 どこに行くのかと尋ねればマザーベースに向かうという話しだが、渋る二人にスネークのところだとさらに伝えると態度を変えて付いてくる。

 スコーピオンはともかく、最近はスプリングフィールドもスネークを追っかけている有り様だ。

 

 全くまともなのは私だけかと、WA2000はため息をこぼす…。

 

 途中9A91とも合流し、ヘリに乗ってマザーベースへと向かう。

 戦場となった前哨基地は未だ重苦しい空気があるが、損害のないマザーベースは穏やかな雰囲気で彼女たちを迎えてくれる。

 実家に帰ってきたような安心感に表情も緩んでしまう、ここに来ると前哨基地に行くのが億劫になってしまうのが帰りたくなかった理由だが、スネークに会えるという話しで主に三人はやって来た。

 

 

「やあ、久しぶりだな少女たち」

 

「げっ、ストレンジラブ…!」

 

 真っ先に出迎えにきたストレンジラブに戦術人形たちは後ずさる。

 定期的に研究協力のために彼女のラボに行くことがあるのだが、レズビアンとまことしやかに噂されている彼女の研究という名のセクハラ行為に苦しめられている。

 しかし戦術人形としてのメンテナンスができるのは彼女一人なようで、渋々従うしかないのが辛いところだ、職権乱用である。

 

「これから研究室でコーヒーでも…と言いたいところだが、あの男が呼んでいるらしいな。もし暇なら後でわたしの研究室に来るといい、美味しいケーキを用意している」

 

「え、ケーキあるの!?」

 

「餌に釣られるんじゃない」

 

 ケーキという単語に目を輝かせるスコーピオンをど突き、引っ張っていく。

 ひとまず呼ばれている医療班のプラットフォームへ向かうこととなり、そこで待っていたスネークに会うなりスコーピオンは飛びかかろうとしたが、寸でのところでWA2000に捕まり抑えつけられる。

 

「落ち着きなさいよ毒サソリ!」

 

「離せ! もう二日もスネークに会ってないんだ!」

 

「贅沢言うんじゃないわよ! わたしなんて三日もオセロットに会ってないのよ!?」

 

「いい加減にしてください二人とも」

 

 しょうもない争いをする二人を、9A91がぴしゃりと叱る。

 流石にスプリングフィールドは自制が効いているようだが、会って嬉しいのは彼女も同じらしく目をキラキラとさせている。

 

「みんなよく集まってくれたな、怪我の具合はどうだ?」

 

「うん、すっかり治ったよ!」

 

「そうか、なによりだ。9A91、君も知らない間に強くなったんだな」

 

「はい、司令官。いろいろとご迷惑をおかけしました、これからもよろしくお願いしますね」

 

 何はともあれ、元気そうな彼女たちの姿を見てスネークも安心したようだ。

 

 しかし戦術人形たちの体調を聞きにわざわざマザーベースに呼んだわけではないだろう、戦闘からある程度経ってここに呼ばれた理由はなんとなくだが彼女たちは予想をしていた。

 

「目覚めたんだね…? スネーク、やっぱりあたしは反対だよ…」

 

「あたしもよスネーク。絶対にうまく行くはずがない、正気を疑うわ」

 

「あの戦闘でオレたちの戦力は下がってしまった、世界がオレたちに目をつけ始めた以上、戦力の立て直しを急がなければならない。そのためには、奴の力が必要になってくる。まずは話しをしてからだ、無理ならその後に話しをしよう」

 

 いまだ納得のいっていなそうな二人であるが、仕方がない。

 

 医療プラットフォームの隔離棟、厳重に警備されている先にある部屋。

 戦術人形たちを連れてその部屋へと入って行くと、部屋の奥のベッドの上に寝転がり、つまらなそうに窓の外を眺めている黒髪の戦術人形がいる。

 

 部屋に入ると彼女は鬱陶しそうな表情で視線を動かしたが、スネークの姿を見るやむくりと起き上がる。

 

 

「元気そうだな、処刑人…」

 

「おかげさまで……」

 

 

 その顔に笑みを浮かべているが、処刑人は視線をしきりに動かし来室者を警戒している。

 

 すべての戦闘が終わった後、決着を果たし後は死を迎えるのを待つだけであった処刑人を、あの日スネークは助けた。

 ミラーやスコーピオンなどは、敵だった処刑人を助けるべきではないと反対をしていたが、それを押し切りスネークは彼女の身を医療班に預けたのだ。

 仲間を殺した鉄血の親玉だ、治療には抵抗感もあったのだろうが、スネークの決定と最後の戦いを見ていた彼らはその役目を引き受け、瀕死だった処刑人の命をなんとか繋ぎ止めることには成功した。

 

 処刑人を一人の戦士として認めたスネークは、彼女を丁重に扱うよう指示し、拘束具をつけることも許可しなかった。隔離棟に入れるのだけは兵士たちの嘆願で認めることになったが…。

 

「なんで助けた? オレはお前らの仲間を大勢殺したんだぞ? とどめを刺したいと思わなかったのか?」

 

「お前との戦いで多くの仲間を失った、全く憎んでいないと言えば嘘になる。だがお前の最後の一人になってもなお、勝負を挑んできた。あんな状態で自分の意地をはれる奴はそうそういない、オレは多くの仲間の命を奪ったお前を許しはしない。だが、戦士として最後まで戦いを挑んできたお前を否定するつもりはない…お前はまだ死ぬべきじゃない、そう感じたまでだ」

 

「ふん、大したこと言いやがって…だがよ、オレを助けてどうしようってんだ? 仲間にでもしようってか?」

 

「オレたちは国を棄て、国境なき軍隊(MSF)を立ち上げた。国も、思想も、イデオロギーもない。必要とされる土地へ赴き、オレたち自身のために戦う。国のためでも、政府のためでもない…必要とされているからこそオレたちは戦う。あの時お前は確かに自分の意思で挑んできたな…運命を打ち破り、己の意思で戦うことを決めた戦士、そんな存在をオレたちは欲しているんだ」

 

「そこまで言ってもらえると悪い気はしないな…どうせオレも鉄血の仲間たちから追われる身になっただろうさ。捕まればAIは初期化され、あんたとの記憶は全て消される。そんなことはオレも望まないね…いいだろうスネーク、オレの力は自由に使いなよ、だが条件が三つほどある」

 

 ベッドの上で胡坐をかき、彼女は指を三本立てる。

 

「一つ、オレが元鉄血だからと言って鉄血の機密を聞きだそうとするような真似はすんな。離反しても、あいつらを裏切ったつもりじゃないんだ」

 

「いいだろう」

 

「ちょ、スネークそれでいいの!?」

 

「うるせえ、外野は黙ってろ。オレとスネークとの取り決めだ」

 

 咎めるスコーピオンだが、処刑人の一睨みで押し黙る。

 戦いに勝ったとはいえ、三度返り討ちにあった恐怖心は未だスコーピオンの心の中にあるようだ。

 

「二つ、オレが認めたのはアンタだけだ。他の連中の命令は聞かない、これは絶対受け入れてもらうぞ」

 

「仕方がないな、カズは文句を言うかもしれないが…」

 

「それから三つめ…!」

 

 最後の指を折った時、処刑人は目にも留まらぬ速さでスネークの懐へ潜り込むと、足を払い仰向けに転倒したスネークの身体に跨いで抑えつける。

 

「情けねえ姿見せたらいつでも首を獲りに行くからよ、そのつもりでいろよ?」

 

「勘弁してもらいたいものだが…まあいい、オレも仲間の前で弱いところを見せるわけにはいかんからな。それより早く退いてくれ」

 

 だが、退かない。

 

 スネークの腹部の上に跨いで座る処刑人はスネークを見おろし、舌なめずりしている。

 

「四つ、オレがお前に会いたいって思ったらどんな時でも拒絶しないこと」

 

「おい条件は三つのはずじゃ…!」

 

「五つ…」

 

 スネークの抗議を笑顔で無視し、スネークの手を握った処刑人はその手を自分の胸に押し付ける。

 

 唐突な出来事に、スネークを含めその場の戦術人形たちも唖然とする。

 

 そんな周囲の反応など知ったことではないと言わんばかりに、処刑人は青白い頬を赤く染め艶かしい息遣いでスネークに顔を近づける。

 

「なあスネーク、この熱さ感じるか…? なんか身体も熱くて変なんだ、一人の時にお前の事を考えていると胸が切ないんだよ…これは何故なんだ? 五つ目はこの変な感じをオレに教えること…前までこんな感情無かったんだ、これって生きてるってことだよな? 教えてくれよスネーク、なあ、何か言えよ…噛みついちまうぞ?」

 

 

 

 

 結局、処刑人がギリギリのところまで迫った時に我に返ったスコーピオンが、処刑人にドロップキックを放って阻止に成功する。

 

 その後は修羅場と呼ぶにふさわしい凄まじい乱闘が起こる。

 スコーピオンは怒った猫のように暴れ、スプリングフィールドは我を忘れて取っ組み合いをし、9A91はナイフを持って完全に殺しにかかる…そんな三人相手に大暴れする処刑人。

 

 その現場を見たMSFのスタッフは、改めて女性のいざこざには関与してはならないと心に刻むのであった…。




スコーピオン「は?キレそう(憤怒)」
スプリングフィールド「ウフフ…(殺意)」
9A91「ヤンデレは止めるといったな、アレは嘘だ」
カズ「ぐぬぬぬ…おのれ処刑人め(嫉妬)」
オセロット「殺す(直球)」

大佐「全く度し難いな…!」
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