METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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灼熱の戦場

 奴らの攻撃は夜明けと共に、耳をつんざく様な砲撃音と共に始まった。

 山の向こうに設営された鉄血の砲撃陣地から放たれる砲弾の数は凄まじく、前哨基地及びその周辺に容赦なく砲弾の雨を降らせる。

 砲弾の炸裂で基地を取り囲むフェンスや見張り台は木端微塵に吹き飛ばされ、整備された滑走路を破壊し砂塵を巻き上げる。

 この凄まじい砲撃に対しMSFの砲撃部隊も応戦するが、鉄血が用意した火砲に比べ彼らが持つそれはあまりにもちっぽけなもの。

 果たして効果があるのかはその場では分からなかったが、諜報班が手に入れた情報に基づき砲兵隊は鉄血砲撃陣地に向けて反撃をする。

 

 まるで第一次世界大戦の頃に戻ったかのように、MSFの戦闘員たちは深く掘られた塹壕の中でこの砲撃をやり過ごすしかなかった。

 この世界に来て一生懸命築き上げた前哨基地、その基地が破壊されていく様を彼らは苦々しく見つめる……。

 いつ止むのか分からないほどの執拗な砲撃は、兵士たちを苦しめていく。

 

 ふと、砲撃音が鳴りやんだと思うと、各戦闘員の無線機に前哨基地司令部で指揮をとるカズの通信が入る。

 

 鉄血の歩兵部隊がついに動き始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 前哨基地より数キロ地点の森林、そこでMSFは鉄血の部隊を迎え撃つ。

 土嚢や丸太を積みあげて造られた簡易な機関銃陣地を数箇所設け、敵の装甲ユニットに対峙するために地雷を埋設し戦車も配置した。

 戦車隊を率いるは元ソ連軍機甲部隊のドラグンスキー、独ソ戦を経験したこともある歴戦の戦士だ。

 

 砲撃が止んで鉄血の歩兵部隊が動きだしたのだろう、森を進む奴らの足音が彼らのもとにまで聞こえてくる。

 

 遮蔽物に身を隠しながら、スコーピオンとスプリングフィールドは固唾を飲んで敵が姿を現すのを待ち構える。

 

 木々を押し倒しながら突き進む鉄血、奴らが森の奥から姿を見せたのは四脚の脚で大地を踏みしめ木々をなぎ倒しながら進む巨大な兵器。

 

「マンティコアだ!」

 

 スコーピオンが思わず叫ぶ。

 人間を押しつぶしてしまうほどの巨大な兵器が木々をへし折り大地を踏み鳴らす姿は兵士たちに少なからず恐怖心を与えたが、MSFはこれまでにもマンティコア以上の恐ろしい兵器に対峙したことがあり、動揺を誘うには物足りない。

 だが問題なのは、そのマンティコアが次から次へと森の奥から姿を現してきたことだ。

 さらに最悪なのはマンティコアの隙間を埋めるように装甲人形が盾を構え進んできていることだ。

 

「まるでバルバロッサを見ているようだ」

 

 戦車長のドラグンスキーは引き攣った笑みを浮かべつつそう呟いた。

 かつてのドイツがそうしたように、マンティコアを筆頭に装甲ユニットがこの防御陣地を食い破り後方に続く鉄血兵が浸透してくるのだろう。

 

「かかってきやがれ鉄血共め! 大戦を生き残ったロシア人の恐ろしさを見せてやる!」

 

 砲口を迫るマンティコアに向け、砲弾を装填する。

 通信を通して他の戦車にも指示を出し、照準を定めさせる。後は彼の指示を待つだけだ。

 

「撃てッ!」

 

 ドラグンスキーの声と共に、偽装網で迷彩されていたT-72戦車の125 mm滑腔砲が一斉に火を吹いた。

 砲弾は最前列を進むマンティコアの中心部に命中し、その巨体を真っ二つに引き裂いて吹き飛ばす。

 それと同時に機関銃陣地の迎撃部隊も呼応し、装填された徹甲弾の雨を装甲ユニットめがけばら撒く。

 対装甲ユニットのため用意された徹甲弾は、奴らの強固な装甲を撃ち抜いて粉砕し、撃ち抜けない装甲ユニットはより大口径のM2重機関銃の射撃により細切れにされていく。

 

「各自砲撃開始!」

 

 反撃を開始した鉄血を各個撃破するよう指示をだすドラグンスキー。

 マンティコアの分厚い装甲は徹甲弾でも撃ち抜けない場合もあるどころか、その巨躯に見合わない機動力を見せるマンティコアは度々戦車の砲撃を回避する。

 マンティコアの強力な射撃がドラグンスキーの戦車に命中したが、斜めより当たったその攻撃を彼のT-72は見事弾く。

 

「ソ連戦車を舐めるんじゃねえ、祖国を勝利に導いたT-34戦車の末裔だ! 貧弱な攻撃が通用するもんか!」

 

 仕返しに撃ち返した砲撃は、マンティコアの素早い回避行動で躱されたが、その後方を進んでいた鉄血兵の部隊を丸ごと吹き飛ばす。

 思わぬ戦果ににやけるドラグンスキーだが悠長にはしていられない。

 側面から新手のマンティコアが出現し、戦車の一台が側面に手痛い被弾を受けた。

 車体と砲塔の向きを変える戦車だがマンティコアの機動力はそれを遥かに上回る、マンティコアの巨大な砲塔が狙いを定め撃破されると思った時だった。

 マンティコアの側面を放たれた弾頭が直撃、爆発を起こしたマンティコアはその場に崩れ落ちて活動を停止する。

 

「ドラグンスキー、両側面から装甲ユニットが接近している! 注意するんだ!」

 

「ボス! 了解だ、各員両側面に注意しろ! 回り込まれるなよ!」

 

 対戦車兵器RPG-7を手に、スネークはまたもマンティコアを撃破して見せた。

 徹甲弾よりも在庫のあるRPG-7の弾頭を惜しみなく装填し、鉄血の装甲ユニットを迎え撃つ、スネークの鬼気迫る戦いぶりに敵は狼狽え味方は士気が上がる。

 

「ボスに続け、敵を倒すんだ!」

 

 スネークの勇姿に戦闘員たちは鼓舞され、圧倒的兵力差にも動じず引き金を引き続ける。

 戦車の砲撃は躱せても、個人携行用の対戦車兵器は機動性のあるマンティコアでも回避するのは容易ではなく、死角から弱点を狙うMSF戦闘員の手によって次々に破壊されていく。

 そのあまりの損害に動じたのか、装甲ユニットは徐々に後退していくかに見えた。

 

 次の瞬間、機関銃陣地の一つに鉄血側より放たれた砲弾が炸裂する。

 陣地に置かれていた弾薬に引火し大きな爆発を起こし、その機関銃陣地は跡形もなく吹き飛ぶと、立て続けに敵側からの砲撃が部隊の頭上にぶり注ぐ。

 たまらず戦車は後退しスネークたちも陣地を離れる。

 

 だが先ほど砲弾がさく裂した機関銃陣地に取り残された兵士を見つけたスプリングフィールドは、降り注ぐ砲弾と銃撃の中を颯爽と駆け抜けて助けに向かう。

 戦闘員の両足は倒れた木の下敷きになっており、スプリングフィールドはその木をなんとかどけることができたが、負傷により彼は歩くことができなかった。

 

「オレに構うな、退却しろ!」

 

「見捨てられません! 一緒に行きましょう!」

 

 服の裾を破り足の傷に巻いて止血し、彼に肩を貸す。

 

「スプリングフィールドを援護しろ!」

 

 無防備なスプリングフィールドのためにスネークたちは敵に向けて援護射撃を行うが、再び勢いを取り戻した装甲ユニットが銃撃をはじき、その後方から歩兵部隊が強襲を仕掛けてきた。

 鉄血の狙撃兵が密かに死角に回り込み、その照準をスプリングフィールドに向け、引き金を引いた…。

 

「あッ…!?」

 

 銃弾は彼女の足を撃ち抜き、スプリングフィールドが兵士共々その場に倒れ込む。

 

「オレのためにお前まで死ぬ必要はない、行くんだ…!」

 

「欠けていい命なんて、ありません…生きるのです!」

 

「バカ野郎…!」

 

 撃たれた足に喝を入れ、再び立ち上がるスプリングフィールド。

 再び狙いを定めていた狙撃兵を仕留め、スネークは遮蔽物を乗り越えて二人のもとへ駆け寄ると、彼女は負傷した兵士をスネークに預ける。

 託された負傷兵を直ぐに味方のもとへ渡し、彼女も助けようと振り返った時、先ほどまでそこに立っていた彼女の姿がない。

 

 スネークは咄嗟に彼女がいた場所に走る。

 

 そこでスプリングフィールドは腹部から血を流し倒れ込んでいた…。

 

「スプリングフィールド、しっかりしろ!」

 

「へ、平気です…私は人形ですから、この程度では…」

 

 気丈な言葉とは裏腹に、声に活力がなく痛みに表情を歪めるスプリングフィールド。

 負傷した彼女を抱きかかえスネークは走りだす…砲弾で抉られた穴の中に滑り込むと、すぐに味方がスモークグレネードを投擲し敵の視界を断つ。

 それでも闇雲に撃ってくる鉄血の銃撃は凄まじく、うかつに身を動かすことができない。

 

「スネーク!早くこっちへ!」

 

 遮蔽物から身を乗り出して手を伸ばすスコーピオン、彼女は今にも二人のもとへ駆け寄ろうとするがスネークの制止の指示によってなんとかその場に踏みとどまっている。

 意を決し、スネークはスプリングフィールドを抱きかかえ走る。

 

 二十メートル…仲間やスコーピオンが必死で呼びかけている。

 

 あと十メートル、もう少しだ、頑張れ…弱々しい呼吸のスプリングフィールドにスネークは呼びかけた…。

 

 もう少しだ、スコーピオンがスネークにその手を精いっぱい手を伸ばした時……二人の間に砲弾がさく裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵さんうようよ居やがる、好き放題撃ちまくりやがって」

 

 山中に設けられた鉄血の砲撃陣地にまで潜入したキッドとエイハヴの部隊は、攻撃の機会を伺っていた。

 強力な火砲が何十台も設置され、今なお仲間たちの頭上に砲弾の雨を降らせていると思うと、今すぐにでも攻撃を仕掛けてやりたいという気持ちに駆られるが、エイハヴとキッドは冷静に様子を伺っていた。

 

「敵はこちらの倍はいる、強引に撃破出来なくもないところだが…どうするエイハヴ?」

 

「オレが反対側に回り込んで陽動する、お前たちはその隙をついて敵を殲滅するんだ」

 

「了解だ、エイハヴ…死ぬなよ」

 

 親指をあげて応えたエイハヴは一人、砲撃陣地の反対方向へと回り込む。

 双眼鏡でエイハヴの動向を確認しつつ、物陰から敵の動きをエイハヴに伝えてサポートする…エイハヴは敵の目を避けつつ、砲弾の入った箱に爆薬をセットしていき、いくつかの火砲にも同じように爆薬を設置した。

 相変わらず見事な隠密行動だ、さすがボスが一目置く男だと改めてキッドは思う。

 

 位置についたエイハヴはキッドを見て頷くと、仕掛けた爆薬を起爆させた…。

 

 仕掛けられた爆薬は一斉に炸裂し、積まれた砲弾にも誘発して大爆発を起こす。

 爆発は連鎖していくつかの火砲を木端微塵に吹き飛ばし、多くの鉄血兵が爆発に巻き込まれた。

 

「行くぞ諸君、奴らをぶちのめす!」

 

「ボスのために、国境なき軍隊(MSF)のために、家族のために! 勝つぞ(ベンセレーモス)!!」

 

 爆発を合図に一斉に攻撃を仕掛けるキッドたち。

 爆発の中を逃げまどう鉄血兵を一網打尽にしつつ、爆発に巻き込まれなかった火砲に爆弾を放り投げ破壊していく。

 森の奥から敵の増援が姿を現すが、勢いに乗ったエイハヴたちは止められない。

 

 最後の火砲を破壊した時、部隊は煙幕をはりすぐにその場を退却する。

 作戦は成功、鉄血の砲撃部隊はMSFの精鋭たちの手によって壊滅した…砲撃陣地を潰し次第彼らは迎撃部隊と合流する計画だった。

 

 

「やったなエイハヴ、ボスへのいい援護になったろうさ!」

 

「ああ、そうだな…」

 

「どうした、なにか不安でもあるのか?」

 

「いや…何か嫌な予感がする、すぐに部隊に合流するぞ!」

 

 

 

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