METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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迫りくる脅威

 MSF諜報班の分隊は山岳地から見下ろす先の光景に言葉を失っていた。

 山から見下ろすことのできる鉄血支配下の基地には、数えきれないほどの鉄血兵たちが集結している。

 いまだ増え続ける鉄血兵はもはや大隊規模をゆうに超え、数千もの巨大な軍団を形成しつつある…機械型から人形型、さらに多くの火砲までも集め大規模な戦闘計画を立てていることが伺える。

 部隊が集まった傍から鉄血はMSFの前哨基地の方角めがけ進軍する。

 鉄血の殺戮部隊が、一匹の長い黒蛇のように進んでいく。

 

 

 

 

 

「諜報班からの報告だ、敵はこの基地の数十キロ先の山岳地帯から進軍してきている。規模はおおよその目測で二千、MSFの全戦闘員を合わせた数の数倍の規模だ。砲撃部隊、装甲部隊もおまけでついてきている…ボス、えらい奴に目をつけられたな」

 

 呆れたように言うオセロットだが、事態はとても緊迫している。

 先日処刑人の拠点からスコーピオンを救出できたのも束の間、鉄血の動向を探っていた諜報班からは前哨基地を目指し進撃する鉄血の部隊を発見したとの報告だった。

 真正面からぶつかれば数に押しつぶされるほどの圧倒的な差だった。

 

 率いるはスネークに辛酸を舐めさせられた処刑人。

 

 諜報班のこの報告はグリフィン側にも提供したが、グリフィンの上級代行官ヘリアントスは処刑人が集めた大規模な部隊に驚きを隠せないでいた。

 処刑人は鉄血内のハイエンドモデルの中では、決して序列の高い位置にいるわけではない。

 本来ならば任される部隊の規模はもっと小規模のはずで、これだけの部隊を集めて運用できる権限がないはずなのだ。

 より上位のハイエンドモデルより権限を譲渡されたのではと想像したヘリアントスだが、それもあり得ないと否定する。

 鉄血が優先的に狙うのはグリフィンだ、MSFの存在も鉄血にとっては脅威かもしれないがこれだけの規模で攻撃を仕掛けるのは戦略的にほとんど無意味と言ってもいい。

 

 処刑人の狙いを読めずにいるヘリアントスだが、MSFのメンバーは誰もが口に出さずとも、スネークとの対決を望んでいることを知っていた。

 

 

「奴らの砲撃部隊は先遣部隊の後方で砲撃陣地を設営しつつある、前哨基地を射程に収める位置にだ。それからこれを見てくれ、諜報班が撮った写真だ」

 

 オセロットは諜報班が撮った写真を何枚かスネークに渡す。

 

 それまでスネークが戦ってきた鉄血の人形の他、装甲人形と言われる鉄血の兵器が写されている。

 べつな写真にはマンティコアという名の大型兵器がおさめられている、他の写真にも目を通すスネークは一枚の写真に注目する。

 

「連中、工場で生産された戦術人形を片っ端から出撃させてるらしい。生体パーツをつけずに生産を短縮させて数をそろえている」

 

 写真に写る戦術人形は剥き出しの骨格にコードが取り付けられた骸骨のような姿であった。

 処刑人が短時間であれだけの規模の部隊を集めたのには、こういった理由もあるのだろう…生体パーツも無駄な部品ではないが、多少のスペックダウンを織り込み済みでかき集めたのかもしれない。

 

「ボス、処刑人はどうあってもお前を倒したいようだ。アンタには二つの選択肢がある、受けて立つか退却するかだ」

 

「処刑人との戦闘を受ければオレたちは大きな損害を出すだろう、だがここで退却しようにもオレたちはこの前哨基地に多くの兵器・人材・資源を運んできた。すべてをマザーベースに持ち帰る猶予はない」

 

「その通りだボス。処刑人から逃げることは、MSFがこの世界で築き上げたものすべてを失うことと同じだ。これだけ荒廃した世界でMSFは順調に拡大していったが、一度勢いが止まれば後は沈むだけだ」

 

 スネークがこの世界に来てから今まで、色々なことがあったがMSFと共に順調に活動してきたが、今回の処刑人との戦いはどう転んでもターニングポイントとなる。

 戦わず退却を選べばMSFは衰退し、勝っても損害によっては再起不能なほどの事態となる。

 

「どうするんだボス、アンタがどの選択肢を選ぼうとも、MSFのメンバーはアンタに従うだろう、どんな結末になろうともな」

 

 オセロットの言うように、どっちの選択肢を選んでも過酷な結末が待っているのかもしれない。

 彼の問いかけにスネークは窓の外を眺めながら頭を悩ませる、そんなスネークの姿をオセロットは静かに見つめていた。

 

 窓の外ではMSFのスタッフたちがあわただしく動き回っている。

 マザーベースから駆けつけたカズの指揮のもとあらゆる準備をしているようだが、迎え撃つか退却するかでその行動も大きく変わってくる。

 スネークが彼らのためにするべきことは一刻も早く決断をすることだった。

 

「オセロット、オレは戦場の中で生きる人間だ。あいつらはそんなオレを慕って、今日ここまでついて来てくれた。オレたちが目指すところは天国の外側(アウターヘヴン)だ、どこへ逃げようとも安息の場所などない。オレたちは戦士だ、戦わずに滅びるつもりはない。どんな敵が相手になろうとも受けて立つ」

 

「…その言葉が聞きたかった、BIGBOSS」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるオセロットは、まるでスネークが最初からその道を選ぶことを知っているようであった。

 

「処刑人はアンタに夢中らしいが、奴はアンタを理解していない。奴がアンタを知っているのはその表面だけだ、何も理解しちゃいない。あの思春期の小娘に教えてやれ、BIGBOSSのなんたるかを、その伝説の重みをな。ボス、オレはここであんたと心中するつもりはない、やるからには勝つぞ……VIC BOSS(勝利のボス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!? 迎えのヘリは無し!? 嘘だろ!?」

 

「嘘じゃありません。ヘリアンさんから、鉄血の対空砲火が激しく迎えのヘリが出せないとの連絡が入りました。ここでMSFと共闘するしかありません」

 

「マジかよ…」

 

 基地からの事実上の撤退不可の報告に、グリフィン救援部隊の一人AK-47は頭を抱えてその場にしゃがみこむ。

 

「そう? 鉄血の大部隊が来るんですよね、いいじゃない…大勢殺せるんだから」

 

 怪しい笑みを浮かべるイングラムはとても好戦的だ。

 AK-47もいつも弱気なわけではないが、報告で聞いた鉄血の大部隊の事を聞いてからは気持ちが沈んでしまっている。

 そんな二人を困ったように見つめながらも、M4は周囲で忙しく動くMSFのスタッフたちが決して諦めていないことに気付いていた。

 

 

「みんな逞しいよね、こんな状況なのに絶望してないんだから」

 

「スコーピオン、怪我はもう大丈夫なの?」

 

 頭と両手に包帯を巻いた姿のスコーピオンは両手をひらひらさせて元気な姿をアピールする。

 

「うん平気平気、すぐにでも戦えるよ。M4たちには迷惑かけちゃったね、ごめんね。大事な任務があったんだよね?」

 

「大丈夫よ、ただ小隊のみんなと今ははぐれちゃってるから心細いけど…スコーピオンがちょっと羨ましい、みんなあなたを心配して助けに来てくれたんだもの」

 

「うん、みんなには頭があがらないな…」

 

 スコーピオンは、こんな事態になってしまったことに責任を感じているのか少し不安な表情で彼らを見つめた。

 

「コラ! そんな顔してると可愛い顔が台無しだぞ!」

 

「わわ! キッド!?」

 

 思い悩むスコーピオンを背後から忍び寄り、キッドは小柄なスコーピオンを持ち上げて肩車する。

 慌てふためくスコーピオンだがキッドにがっしりと抑え込まれてしまい降りられない。

 

「約束しただろ落ち込むな、気持ち切り替えて行こうぜ。さもないといつまでもこうしてるぞ?」

 

「キッド、そこらにしておけ」

 

「エイハヴ、せっかくスコーピオンの太ももを堪能してたのにそりゃないぜ!」

 

「この変態ッ!」

 

「いてッ!」

 

 キッドの脳天に肘鉄をかまし強引にスコーピオンは脱出した。

 荒療治だがとりあえずスコーピオンの気持ちは持ち直したようだ。

 

「エイハヴ、キッドもその格好は…?」

 

 二人は戦闘服に身を包み完全武装した姿であった。

 

「オレとエイハヴは別動隊を率いて奴らの砲兵陣地を潰しに行くんだ。ちょっとのお別れだな」

 

「そっか…気を付けてね」

 

「もちろんさ、代わりにボスとみんなを頼んだぜ。あまり変なこと言うと死んじまいそうだからここらで止しとくよ。行こうぜエイハヴ、敵さんは待ってちゃくれない」

 

「ああ、ボスを頼んだぞスコーピオン」

 

 エイハヴ、そしてキッドの部隊はそれから間もなく鉄血の砲兵陣地破壊のために出撃する。

 敵陣を突破し後方の砲兵陣地を潰すとても困難な任務だ、この困難な任務を遂行させるのにエイハヴとキッドほど相応しい人物はいない。

 精鋭部隊の出撃を他のスタッフと一緒に見送ったスコーピオンと戦術人形たちも、それぞれ準備を始める。

 

 

 決戦の時は近い―――。

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