METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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踏みつけられた蠍

 キッドと初めて任務に出て以来、オセロットは何度か戦術人形たちをMSFの部隊に同行させて実戦を経験させていた。戦術人形としてこれまでに鉄血との紛争を幾度となく経験している彼女たちであるが、ここでは実戦での活躍を報告書としてまとめてもらい、個々の得意分野と弱点を見極めることにある。

 生身の人間と比べて彼女たち戦術人形は身体能力は高く、報告書にまとめられる戦闘報告はほとんど文句のつけようもない。

 実際、キッドなどが指示を出さなくとも的確な行動と連携を持って敵を撃破していくのだ。

 これは彼女たちが持つ独自の通信システムによる恩恵も大きい。

 最近ではマザーベースの開発班が、MSFの隊員が彼女たちの通信回線を拾うことのできる通信機を開発してくれたおかげで、戦術人形とMSF戦闘班との連携も上達しつつある。

 

 一つ問題があるとすれば、不測の事態に遭遇した際の彼女たちの精神の乱れだ。

 

 それはオセロットやスネークも以前から気掛かりであったことでもある。

 特にスコーピオンは感情的になると周囲が見えなくなる時があり、執拗に敵に対し銃撃する一種のトリガーハッピーに陥ったりする。

 9A91もいまだ不安定だ、戦場のストレスは彼女の苦々しい記憶を呼び起こすのか、帰還後に挙動不審な行動を起こしたり塞ぎこんだりしている。

 スネークと医療班のケアにより以前よりは頻度は減ってはいるものの、あまり無茶はさせることができない状態だった。

 

 

 

「ねえ、ワルサー。オセロットから話し聞いた?」

 

 更衣室で着替えをしながら、スコーピオンは思いだしたように尋ねるが、WA2000は何の話しか分からないようだ。

 

「なんかキッドと一緒に任務に行くはずだったんだけど、今日はエイハヴと一緒に組めってさ」

 

「エイハヴ? 珍しいわね…何かあったのかしら?」

 

「わかんない、とりあえず行ってみようよ」

 

 その日もまた、前哨基地でキッドの任務を手伝う予定であったのだが、オセロットから急な予定変更の知らせが入ったのだ。

 今回彼女たちが組むのは前哨基地の管理を任されているエイハヴだ。

 スネークやオセロット、キッドからも信頼される優秀な隊員であり、前哨基地の設営には彼の力も大きいと彼女たちは聞いている。

 

 二人はスプリングフィールドと9A91と合流し、ひとまずエイハヴのもとへと向かう。

 移動中、そういえば誰もエイハヴとまともに話したことがないということに気付く。

 皆噂は聞いていても人柄などは分かっていない、楽観的なスコーピオンはまだしも9A91は怖い人ではありませんようにと祈っているようだ。

 エイハヴは基地の格納庫にて、戦車長のドラグンスキーと一緒にいた。

 彼は戦術人形たちがやって来たのに気付くと、ドラグンスキーと別れ彼女たちのもとへやってくる。

 

「今日は君らに頼みたいことがある、まあ簡単な仕事だ」

 

「あの、キッドさんはどうなさったのです?」

 

 スプリングフィールドがそう聞くと、エイハヴは困ったように唸る。

 何かマズい事を聞いてしまったのかとスプリングフィールドは焦るが、そうではないようだ。

 

「キッドはちょっと病気にかかってしまってな。まあ、感染性の胃腸炎だ…君らにうつるか分からないがあまり近寄らない方が良い」

 

「それは、大変ですね…何か行けないものでも食べてしまったのでしょうか?」

 

「ああ、ボスと一緒に生ガキを食べたらしくてな。どうやらそれにあたったらしい」

 

「え? スネークはぴんぴんしてたよ?」

 

「それはまあ…ボスは特別だからな」

 

 改めてスネークの秘められたポテンシャルに感心するとともに、今頃ベッドで苦しんでいるであろうキッドに哀悼の意を彼女たちは込める。

 

 エイハヴが彼女たちに依頼する任務は二種類あった。

 

 一つは輸送部隊の護衛任務、もう一つは地形データの収集任務だ。

 輸送部隊の護衛については他のMSFのスタッフとエイハヴも同行し、鉄血あるいは武装勢力の攻撃から輸送部隊を守るというものだ。

 地形データの収集については、前哨基地防御のために周辺地形を調べ上げて今後の作戦に反映させることも兼ねている。

 地形データの収集についてはスプリングフィールドとWA2000が適任であったが、狙撃手二人ではバランスが悪いためスコーピオンとWA2000が取り組むことになる。

 

「よし、二人とも地形データの収集は頼んだぞ。慌てなくていいからしっかりな」

 

「了解、ほら行くわよスコーピオン」

 

 地味な作業にスコーピオンはいまいち乗り気でないようだが、仕事である以上仕方がない、嫌がるスコーピオンをずるずる引きずりながらWA2000は基地の車を借りて出発していった。

 

 

 

 

 

 エイハヴ、スプリングフィールド、9A91たちは一台の装甲兵員輸送車に乗車し、輸送トラックの列の先頭を走り周囲を警戒する。

 道中は警戒する襲撃者の攻撃はなく、平穏そのものだ。

 車内でスプリングフィールドと9A91は自己紹介のほか、雑談などをして過ごす。

 エイハヴは人柄もよく知的であるため、すぐに二人とも打ち解けることができた…さすが前哨基地を任されているだけあって、面倒見もよく二人の相談などにものっていた。

 

「―――それでこの前もスコーピオンとワルサーが食堂でケンカして、大変だったんですよ」

 

「案外仲がいいと思ったんだがな、組み合わせを間違えたか?」

 

「いえ、たまには二人で行動させるのも良いかもしれません。でも、上手くやってくれていたら良かったんですけどね」

 

 たまにケンカをしてはオセロットに説教をされるという二人にはスプリングフィールドも頭を悩ませている。

 スコーピオンはWA2000にちょっかいをかけたがり、彼女もながせばいいのにむきになって張り合うものだからいつもケンカになるのだ。

 この前は一部始終をオセロットに見られてしまったため、スコーピオンはその頭にキツイげんこつを貰うことになったのだが…。

 

「まあ、ケンカするほど仲がいいというし…」

 

「それは否定しませんが、さすがに節度というものをですね」

 

「変に堅苦しいよりずっといい。うちを見て見ろ、非番の時は自由気ままだ」

 

 確かに副指令のミラーよりスタッフまで、仕事をしていないときは自由奔放に生活しているのは見られるが…どこかグリフィンの戦術人形たちと似たような空気のおかげで、彼女たちはすっかりMSFに溶け込んでいるわけだが。

 

「おっと、目的地に到着したようだ」

 

 車両が停止し、エイハヴは会話を切りあげて外へと出る。

 

 スプリングフィールドも続いて車両から外を覗くと、そこにはMSFの輸送トラック以外にも別な軍隊のトラックも並んでいる。

 どうやらその軍隊はよその民間軍事会社(PMC)のようで、車体にはカマキリを模したエンブレムが描かれている。社名はマンティス社とそのままだ。

 

「物資を積みかえるのを手伝ってくれ」

 

「はい、エイハヴさん。ところで前哨基地まで運送をお願いはしなかったんですか?」

 

「なんでも協定があるとか何だとかで、ここまでしか出張ってこれないらしい。マンティス社は兵站をメインに行っているらしい、他にも"ウルフ社"、"レイヴン社"、"オクトパス社"とMSFはビジネスを行っている。どれも大手とは言えないが丁寧に仕事をしてくれる、ミラー司令の手腕には驚かされる」

 

 カズもいつも女性にちょっかいをかけて怒られたり面白い行動をしているばかりではない。

 MSFを運営するため、比較的取引のしやすい民間軍事会社とコンタクトをとり協力関係を築くまでに至る。

 協力関係と言ってもあくまでもビジネスの上での関係だ、MSFのいかなる組織・国家・勢力にも属しないという理念を阻害しない付き合いにとどめている。

 ミラー司令の仕事ぶりはエイハヴのような現場指揮を執り行う人間が良く知っていることだ。

 

「それにしても、9A91はよく働くな」

 

 MSFのスタッフに混じり、せっせと物資を運ぶ彼女の姿にエイハヴは感心する。

 見た目は女の子でも男の大人顔負けの力を持っているため、スタッフたちも助かっている。

 

「きっと、悩みを抱えないよう忙しくしているのかもしれません」

 

「まだ心は完治しないか、仕方がないよな…まだボスを指揮官と?」

 

「ええ、毎日一回はスネークさんに会いに行ってます。でもスネークさんも忙しいですから、いないときは…」

 

 スネークが不在の際は目立つような精神の乱れはないが、それでも寂しさを隠しきれないのかスプリングフィールドの部屋にやってくることが多い。

 スネークほどではないが、彼女の優しさも9A91の心のケアには必要な存在だ。

 

「君は面倒見がいいんだな」

 

「頼られるのは悪い気がしません」

 

「なるほど、だが君は何か悩みとかはないのか? 君も一人の人間だ、誰かの悩みを一身に受けるだけじゃなくたっていいんだぞ」

 

「エイハヴさん、私たちは戦術人形です。グリフィンでも私たちは大事に運用されていましたが、それでも戦争の道具の域を出ません…それをおかしいと思ったことはありません、それが私たちの宿命なのですから」

 

「その考えは捨てた方が良い。俺たちは誰かの道具なんかじゃない、戦場で生きる存在だが戦う理由は俺たち自身の意思で決めてきた。スプリングフィールド、君らはもうオレたちの家族なんだ…その言葉はみんなを悲しませることになる」

 

「…すみません、エイハヴさん」

 

「いいんだ、まあ生き方を急に変えるのは難しい事だ。なんでも話せと言うわけじゃないが、悩みはため込むと心に悪影響を及ぼす。誰でもいい、スコーピオンや9A91だっていいと思う。オレもキッドもそうしてきた、もちろんボスもだ」

 

「そうですね…ありがとうございます、エイハヴさん」

 

「元気な笑顔を見れて良かったよ」

 

「うふふ…エイハヴさんがみんなに頼られる理由が分かった気がします。もしスネークさんが不在の時は、エイハヴさんが代役を務められますね」

 

「よしてくれ、オレにボスの代わりがつとまるはずがない。ボスは一人でいい、そう、あの人だけでな…」

 

 そう言ってエイハヴも積荷の積み替え作業に混ざっていく。

 スタッフたちに的確に指示を出し、マンティス社の社員とも交渉し作業を効率よく進める。

 MSFのカリスマ的存在はスネーク、運営はカズヒラ・ミラーが欠かせない存在だろう。

 だが現場指揮に欠かせない人材は?

 

(エイハヴさん、あなたの代わりもいないと思いますよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーッ!! もう飽きたっ!」

 

 山の中で地形データの収集を行っていたスコーピオンは、その慣れない作業についに嫌気がさし喚きだす。

 作業を開始してから数時間、データ化されていない地形に向かっては周辺を調べて端末に記録する果てしない作業…確かに楽な作業だ、だがそれには忍耐力を伴う。

 こういった任務も文句も言わずにこなせるようになれば、スコーピオンはオセロットの訓練もトップの成績で終えるのだろうが、好き嫌いのはっきりしすぎているところが彼女の悪いところといえよう。

 

「文句言ったってしょうがないでしょ、それより仕事しなさい。そうすれば早く帰れるんだから」

 

「はいはい、優等生は言うことが違いますね~」

 

 その言い草にイラッと来たWA2000だが、今回は我慢する。

 確かに戦術人形としての花形は戦場で敵と戦うことにあるのかもしれないが、この仕事だって立派な任務だ。

 

「ほら、あとちょっとで終わりなんだから」

 

「はーい」

 

 スコーピオンの気の抜けた返事にWA2000まで脱力感を感じる。

 残っているのは山の麓の小さな町だけだ。

 そこは先日キッドと共に居座っていた鉄血の小隊を撃破した場所であった。

 

「えっと、一応掃討した場所だから大丈夫だとは思うけど警戒は怠らないで」

 

「はいよ」

 

 そこが最後の場所ということでやる気を取り戻したらしい、スコーピオンは先ほどのなまけた姿が嘘のように作業を進めていく。

 最初からそうしていればもっと早く終わっていたのにと、嘆くWA2000であるがここで余計なことを言ってスコーピオンの気が変わっても面倒なので何も言わない。

 

 町はたいした広さではないため地形データの収集はすぐに終わる。

 町の保安官事務所や銃砲店跡を写真におさめれば仕事は終了だ、二人は一旦その場で休憩を取ることとし広場の古ぼけたベンチに座り込む。

 

「いやーやっと終わったー…」

 

「なによ、ほとんどわたしにやらせたくせに。この事はオセロットにきちんと報告するからね」

 

「あ、それは勘弁願いたいかな、またげんこつくらいたくないし」

 

「もう一回やってもらえばいいのよ」

 

 ため息をこぼしながら、彼女は持ってきた水筒からコーヒーを二人分用意する。

 

 "仕事を終えた後のコーヒーは格別だ"と大層なことを言いながらコーヒーを飲むスコーピオンは無視し、スナックの袋を開く。

 なんだかんだ言いながらWA2000が持ってきたのはお菓子だったりジュースだったりと、まるでピクニックにでも行くかのような荷物だ。

 スナック菓子から炭酸飲料まで、全てマザーベースで作られていることには驚きだが…。

 

「このジュース美味しいね、しかもカロリーゼロだなんて女の子には嬉しいよね」

 

「MSFの開発班ってどうなってるのかしら? そのうち人形も作っちゃうんじゃない、これ食べる?」

 

「いただきまーす!」

 

 

 

「へぇ、いいもん持ってるじゃないか。オレの分はないのか?」

 

 

 

 咄嗟に二人は銃を手にし振り返る。

 そこには長い黒髪を膝辺りまで伸ばした鉄血の人形が笑みを浮かべたたずんでいた。

 

「処刑人!?」

 

「ようマヌケサソリ、久しぶりだな。今日はあの男と一緒じゃないのか?」

 

「なんであんたがここに!?」

 

 動揺する彼女の前で、処刑人はくつくつと笑う。

 

「おいおい、ここらはオレの管轄だぜ? いつまでもこそこそしてられると思うなよ…本当は違う奴を探してたんだが、ちょうどいいや」

 

 ゆっくりと歩み寄る処刑人。

 銃口を向けられているというのに彼女は全く動じず、むしろ精神的に追い詰められているのはスコーピオン達の方であった。

 

「死ねッ、鉄血め!」

 

 先に引き金を引いたのはWA2000だ。

 しかし、処刑人は身をひるがえして銃撃を躱し、地面を蹴るようにして一気に接近する。

 

「させるか!」

 

 処刑人が剣を振るう前にスコーピオンは弾丸のようにタックルし処刑人を抑える、が腕力の差は圧倒的に処刑人の方に分があるらしい、スコーピオンを強引に引き剥がし蹴り飛ばす。

 それでもなおスコーピオンは処刑人に組みつき、足をかけて彼女を自分ごと地面に倒れさせる。

 

「ワルサー、今のうちに逃げて!」

 

「何言ってんのよ!? あなたを見捨てて行けるわけがッ!」

 

「周りを見ろ!」

 

 ハッとして周囲を見れば、鉄血の人形たちが取り囲むように動いているのに気付く。

 

「あたしがここは何とかするから、ワルサーはみんなに…スネークに知らせて!」

 

「で、でも…!」

 

「頼むよ、早く…行け!」

 

 スコーピオンの悲痛な叫びに、WA2000は唇を噛み締め走りだす。

 

「絶対に助けに戻るから! 勝手に死ぬんじゃないわよ!」

 

 追いかける鉄血の人形に向けて数発発砲し、WA2000は森の中に姿を消した。

 その後を追いかけようとした人形へ向けてスコーピオンは射撃し足を止める。

 

「他人の心配してる場合かよテメェ!」

 

 組み伏せていた処刑人が立ち上がり、スコーピオンを振りほどく。

 スコーピオンはすぐさま身構えると、深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着ける…鉄血の人形たちが自身を取り囲んでいるのを気配で察していたが、目の前の処刑人から一瞬も目を離すことができない。

 ふてぶてしい笑みを浮かべたまま処刑人が凄まじい速さで剣を振り下ろす。

 剣はスコーピオンの額をかすめ、斬られた彼女の髪が宙を舞った。

 

「でやっ!」

 

 大振りの一撃を避け、スライディングと共に処刑人の足を絡めて転倒させる。

 すぐさま彼女の腹の上に跨り、腰に差したナイフを逆手に持って処刑人の顔面めがけ振り下ろす、だが…。

 

「なッ!?」

 

 信じられないことに処刑人はナイフの刃先に噛みついて受け止めて見せたのだ。

 動揺するスコーピオンの両腕を掴み、処刑人は立ち上がると、スコーピオンのがら空きの腹部を蹴りつけた。

 小柄なスコーピオンの身体は数メートル吹き飛び、家屋の壁に叩き付けられる。

 

「強くなったなサソリ、だが自分だけが強くなったと思うなよ」

 

「うぅッ…ち、畜生…!」

 

 腹部を蹴られ苦悶の表情を浮かべるスコーピオンに近付き、その首を掴み無理矢理引き立たせる。

 ギリギリと首を絞めあげられ、彼女は浮いた足をばたつかせる…勝ち誇ったような顔の処刑人を睨みつけ、もう一本の隠しナイフを手に取る。

 処刑人の首筋を掻き切ろうとしたが、ナイフの刃先は虚しく空を切る…。

 意識を失いかけるほどに首を絞めつけられナイフを握る手にも力が入らなくなると、処刑人は彼女の手に握られたナイフをつまみあげるようにとり上げる。

 そして首から手を離し、ナイフでスコーピオンの手のひらを貫き、壁に張りつけさせる…激痛に悲鳴をあげるスコーピオン、だが処刑人は先ほど奪ったもう一本のナイフで、もう一方の無事な手をも容赦なく突き刺した。

 

「ハハハ、いい姿だぜサソリ」

 

「う、うぅ……」

 

 両手をナイフで壁に縫い付けられ、身動きのできなくなったスコーピオンを処刑人はあざ笑う。

 他の鉄血の人形たちもスコーピオンを取り囲むと、ボスである処刑人と同調するように彼女を嘲笑した。

 

「怖いかサソリ、そうだ、怖いだろう? なあなんで泣いてるんだ? 死が怖いのか、痛みが怖いのか? どっちにしろ涙を流した時点でここがテメェの限界なのさ」

 

「ちくしょう……お前らなんか、殺してやる…地獄に落としてやる…!」

 

「分かってねえな、この世界が地獄だよ」

 

 ひとしきり笑ったあと、処刑人はスコーピオンの結んだ髪を引っ張り無理矢理顔をあげさせる。

 負けじと睨み返すスコーピオンだがその瞳には恐怖が映り、涙がとめどなくあふれ出てしまっている…。

 

「お前オレの仲間を散々スクラップにしてくれたな。同じようにバラバラにしてやったっていいんだぜ、ただじゃ殺さねえ…処刑の仕方にもいろいろあってな、死の間際まで苦痛を味わわせてやることもできる。想像出来るかサソリ? 延々と繰り返される苦痛の中でソイツは何を懇願するか分かるか?」

 

 残忍な笑みを浮かべながら、少しの猶予を与えるがスコーピオンは何も答えない。

 そんな彼女をさらに強く引っ張り上げ、処刑人は笑いながら言った。

 

「殺してくれってお願いしてくるのさ、精神が屈服した証だ。9A91は元気か? あいつの目の前であいつが慕っていた指揮官を嬲り殺してやった、死を懇願する指揮官の姿を目の前で見せつけられた9A91の表情がどんなだったか分かるか? はは、あいつの表情をアルケミストにも見せてやりたかったぞ」

 

「悪趣味な奴…! くたばれ…」

 

「でもまあ、弱い者いじめはオレの趣味じゃないんだ…お前は殺さないでおこう」

 

「何を…」

 

「なあ、あの男はお前を捜しにきっと来るだろう? スネークって名だったな、あいつはお前を助けに来るよな?」

 

 スコーピオンの髪を離し、処刑人はその辺の適当な木箱に座り彼女の目線に合わせた。

 

「あの日あいつにあった時から、頭から奴の事が離れない。あいつはなんなんだ? あいつは他の人間とは何かが違う…奇妙な感覚だ、オレはあいつに会いたがっている。代理人の任務も忘れちまいそうなほどあいつに夢中だ、オレはこの感情を確かめたい。あいつと殺し合いをすれば答えが見つかるはずだ、そうだろう?」

 

「あんたの気持ち悪い感情なんて知るか…スネークをあんたのエゴに巻き込むな!」

 

「うるせえ、お前に理解してもらおうなんて思っちゃいない。いいかお前は餌だ、(スネーク)を呼び寄せるためのな」

 

 周囲の人形たちに目配せをすると、鉄血の人形たちはスコーピオンの口を布で塞ぎ頭から黒い袋を被せる。

 それからナイフを引き抜き、両腕を拘束した。

 

「丁重に扱えよ、途中で死なれても使い物にならないからな」

 

「了解…ほら歩け」

 

 拘束された腕にロープをくくりつけられ、何も見えないまま彼女は引きずられていく。

 

(スネーク……みんな、ごめん…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――ええ、ではそのように。そちら側の保護下にある戦術人形については、こちら側から接触ができるまで貴官らの指揮で動くことを認める』

 

「話しが早くて助かる。それで、グリフィン側としてはいつ頃話し合いができそうなんだ、ヘリアントス」

 

 前哨基地司令部。

 そこに取り付けられたモニターには一人の厳格そうなモノクルをつけた麗人が映っていた。

 彼女こそがグリフィン上級代行官ヘリアントスだ。

 対談しているのはMSF総司令官のスネーク、同じ部屋にはカズとオセロットの姿もある。

 

『我々とそちら側の境界に割って入るように鉄血の占領地がある。そこを突破することが大前提となる』

 

「鉄血の戦術人形については我々よりあんた方の方が多く知っているだろう。今のところ大規模な衝突はないが、小競り合いは頻発している、いずれグリフィンの協力を仰ぐこともあるかもしれない」

 

『ええ、まずはあなた方と会って話がしたい。クルーガーさんもそれを望むはず』

 

「ああ、その時はよろしく頼む」

 

 

「オセロットッッ!」

 

 

 突然司令部の扉が勢いよく開かれる。

 そこにいたのは息を切らしたWA2000の姿があった。

 任務完了の報告…とは程遠い彼女の様子に何かを感じ取ったらしくすぐにオセロットが駆け寄ると、彼女は泣きそうな表情で彼にしがみつく。

 

「オセロット…! スコーピオンが…!」

 

「スコーピオンがどうしたんだ!?」

 

「ごめんなさい、私…あの子を置いて…あぁ、どうしたら…!」

 

「落ち着くんだワルサー、深呼吸をしろ。気持ちを落ちつけろ」

 

 

 小さく何度も頷き、ゆっくりと深呼吸をする…それでも彼女の動揺は収まっていないようだが、彼女はすぐに話し始める。

 

「処刑人が現れて襲い掛かって来たの、私あいつを撃ったのにあいつは避けて…そしたらスコーピオンが…。スコーピオンは私に逃げろって、逃げて助けを呼べって……だから私…!」

 

「分かった、もう十分だ。よく頑張った…」

 

 泣き崩れる彼女の背をさすりながらオセロットはスネークに視線を向ける。

 

『処刑人といったか、そいつが我々とそちらの領域を分けている占領地のボスだ。製品番号SP524「Executioner」、鉄血のハイエンドモデルだ。手強いぞ』

 

「ああ、奴とは一度やり合ったことがある。強さは分かっているさ」

 

『ハイエンドモデルとやり合った? 生身の人間の貴官が? まあいい、我々も奴を倒さなければならない必要がある…グリフィンの部隊も貴官らと共闘することになるかもしれん』

 

「了解だ…カズ」

 

「あぁ」

 

 スネークの指示を受けるよりも前に、カズはスコーピオン救出のための計画を練り始めていた。

 MSFは家族を見捨てない、あの日チコとパスを救えなかった時から、次同じことがあれば必ず助け出すと心に誓っていた。

 

 

 

「スコーピオン、待っていろ。必ず助け出す」

 

 








次話は死刑台のメロディーを流しながらお待ちください
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