前哨基地―――。
うち捨てられていた陸軍基地を前哨基地にするため作業を行っていたMSFのスタッフたちは今、作業の手を止めて武器を手に、基地へと向かってくる二人の存在を注意深く見つめていた。
一人はダスターコートを羽織りサングラスをかけた銀髪の男。
もう一人は、その背後を少し距離を開けて歩くライフルを持った少女……その少女は基地の異様な様子にどこか緊張をしているようだった。
男は基地の前で立ち止まると、視線を上に向ける。
彼の視線の先にあるのは、乾燥した大地に吹く風を受けてなびくMSFのマークが描かれた旗だ。それから、男は視線を下ろし、自身を見つめる無数の兵士たちを眺める。
敵か味方か判別もつかないその男にMSFのスタッフたちは警戒を強める。
そんな中、このMSFの司令官でありカリスマ的存在の男、スネークが姿を見せる。
歩くスネークに対し集まっていたスタッフたちは誰が言うわけでもなく道を開き、スネークはこの基地にやって来た銀髪の男の前まで来て立ち止まった。
静かに見つめ合う二人、それをスタッフと基地の戦術人形たちは固唾をのんで見守る。
先に動いたのは銀髪の男の方だ。
ゆっくりとした動作でサングラスをとると、それをふわりとスネークに対し投げかけた……投げて渡されたそれをスネークが掴んだとき、銀髪の男が素早い動きで仕掛けてきた。
サングラスを掴んだスネークの腕と襟を掴み上げると、屈強な彼の身体を地面に叩き付ける。
その場にいた者たちは皆呆気にとられていた。
自分たちの絶対的存在であるビッグボスが不意打ちとはいえ軽々と投げ飛ばされたのだ、いや、それだけではなく銀髪の男の見事なCQCに衝撃を受けていた。
地面に叩き付けられたスネークは、咄嗟に取った受け身によりダメージはほとんどない。すぐさま起き上がったスネークは身構え、男が放った拳を躱しその腕を背後に回り込みひねり上げる。
男は即座に空いたもう片方の腕でひじ打ちを放つ。
しかし素早くスネークは反応し、その腕を掴むと自身の足を支点にして相手の体勢を崩し、地面に叩き付けた。
素早く起き上がる男、しかし、男はそれ以上手合わせをするつもりはないようで、乱れた髪をかき上げると片手をあげた。
「少しはあんたに近付けたと思ったんだが、まだまだだな」
「そうでもない、数年前よりも確実に上達している。よくそこまで磨き上げたものだな」
「伝説の傭兵にそう言ってもらえて光栄だ……久しぶりだな、ビッグボス」
「ああ、しばらくだなオセロット」
そう言って、二人は旧友との再会を喜び合うかのように握手を交わす。
「ニカラグアでの活躍は聞いた、さすがだな」
「おれ一人のおかげじゃない。今は仲間がいる、ところでお前がどうしてここに居るんだ?」
「それを聞きたいのはこっちだ、同じだが違う世界……もう何週間も彷徨い歩いてる。おかげでいくつかここの情報を知ることができたがな、知りたいか?」
「今はどんな情報でも必要だ、色々な問題が立て続けに起こって情報を集められるどころではなかったからな」
「あのー、ちょっといい?」
スネークとオセロットが二人で話し込んでいると、どこか申し訳なさそうな表情でスコーピオンが手をあげていた。MSFのスタッフたちも何か言いたそうだ…。
「その人誰?」
「あぁ……まあ、色々話したいこともある。とりあえず中に行こう」
「元気そうで何よりですねワルサーさん」
「あなたもねスプリングフィールド」
基地内に設けられた医務室にて、ワルサーWA2000とMSFに保護されている戦術人形たちは再会を喜び合う。
この場を選んだ理由はいまだ治療を受ける9A91に合わせたためだ。
9A91はもう落ち着いた様子だが、またスネークのもとに行きたいのかベッドの上でそわそわしている。
「ねえねえワルサー、聞きたいんだけどあのオセロットってひと……どうやって知り合ったの?」
「それ、わたしも気になってました」
「あー、えっとね…」
頬をすこし掻きながら、ワルサーはオセロットとであった経緯を口にする。
ある戦場から撤退する際に部隊とはぐれてしまい、鉄血の戦術人形から追跡を受けていたそうだが、追い詰められ飛び込んだ家屋にオセロットがいたという。オセロットに出くわすなり額に銃口を押し付けられ、背後からは鉄血が雪崩れ込んでくる音……絶体絶命、ワルサーはもう思考停止!
と、その後は雪崩れ込んできた鉄血の人形をオセロットがあっという間に片付けたというが。
「出会った経緯はそんな感じよ、あの人についてきたのはまあ成り行きかな。放っては置けないし」
「自分の額に拳銃押し付けてきた人とよく一緒に行動できるね」
「まあ、その時は誤解だったから、そんなに悪い人じゃないわ」
「へえ、どんなところ?」
スコーピオンの問いかけに答えようと口を開くが、言葉が出てこない。
その後もついてくるなと追い払われそうになったり、休憩してたら何も言わずに置いて行かれそうになったりまた銃口を向けられたり……あれ、あんまりいいところがないなとワルサーは頭を抱える。
それでも、と擁護するワルサーにスコーピオンはにやりと笑う。
「これは所謂つり橋効果ってやつだね、これは愛だよワルサー」
「あんまりいい加減なこと言ってるとぶっとばすわよ?」
「まあまあ、落ち着いてワルサーさん。私もオセロットさんは素敵な方だと思いますよ、少なくともあなたの命を救ってくれたんでしょう?」
「ええ、そうね……別に、好きとか嫌いとかそう言うのは置いといて感謝してるわ」
そっぽを向きながら、少し気恥ずかしそうに言った。それを見て、スプリングフィールドがクスクスと笑うとワルサーは不機嫌そうに睨む。
「そういえば9A91、あなたの指揮官はどこにいるの?」
思いだしたように言ったワルサーに9A91は首を傾げる。
「指揮官なら先ほどいたじゃないですか。指揮官はワルサーさんと一緒にいた方と知り合いだったんですね」
「え、あなたの指揮官の事よ?」
「あの……ワルサーさん、ちょっといいですか」
スプリングフィールドに呼ばれ、ワルサーはその場を少し離れる。
9A91に聞こえないところでスプリングフィールドはそっとささやくように、彼女が経験したことを教える。
部隊が全滅したこと、おそらく指揮官も殺されたこと、自身も激しい暴行を受け監禁されていたこと……それを聞いて、ワルサーは安易な質問だったと後悔する。
「MSFのメディックの話しでは、スネークさんを指揮官と認識しているのはあの子が自分の心を守るために無意識に思い込んでいるのが理由なんじゃないかって、だからワルサーさんもあの子の話しに合わせてあげてください」
「ええ、分かったわ」
やりきれない表情でワルサーは頷くと、再び9A91のもとに戻る。
「ごめんね、勘違いしてたわ。あの人が指揮官だったわよね、しばらく見ていなかったから顔を忘れちゃってたわ」
「指揮官の顔を忘れちゃいけませんよワルサーさん、毎日指揮官のお顔を見ていれば忘れませんから」
穏やかな笑顔を見せる9A91の姿に、ワルサーはやりきれない思いを抱く。それからワルサーはそっと9A91の頭に手を伸ばし、その髪を慰めるように優しく撫でる。
最初目を丸くしていた9A91はやがて微笑んだ。
「えへへ、なんだか懐かしい気がします。指揮官に、前にもこうしてもらった気がします」
「そうね、あなたはいい子だったから指揮官のお気に入りだったわね」
「指揮官は私たちを大切にしてくれました、とてもとても。だからわたしは指揮官をお守りします、指揮官のお傍を離れません」
「元気になったら……指揮官のところに行きましょうね」
にこりと笑う9A91にワルサーの胸がチクリと痛む。
暗くなった空気を明るくしようと、スコーピオンがどこで手に入れてきたのかスイーツを持ってきてくれた。マザーベースの糧食班から貰ってきたと言っているが、とにかくこういった場を明るくするのはスコーピオンは得意だ。
戦術人形たちはこの時ばかりは戦場を忘れ、一時の平穏を味わうのであった……。
「――――戦争、疫病、災害それらすべてによって荒廃した混沌の世界がここだ。オレが知る限り、この世界では国家は自国民を守れるほどの力もなく大国と呼ばれる存在も無きに等しい」
薄暗い部屋の中で、オセロットは開いた地図を指差しながら言う。
広げられているのは世界地図であるが、大部分を赤く塗りつぶされた変わった地図だ。
「国家は疲弊し一部の大都市や工業地帯しか防衛をしなくなり、代わって民間の軍事会社が多く生み出された。持てぬものの抑止力となるために、貧しい地域では防衛のためこれら軍事力をカネで買うんだ。その中で大手と言われているのが、そう、グリフィン&クルーガーだ」
「持てぬものの抑止力……俺たちと、MSFと同じだな」
「そうだ、だが決定的に違うのは……あんたのMSFは国家、組織、思想、イデオロギーに囚われずに行動していることだ。知っている限りでこの世界の軍事会社の多くはある種の協定を結んでいる……もしあんたがこの世界でMSFの軍事力をこれまで通り売ろうとすれば、顰蹙を買うだろうな」
「分かっている、そのための抑止力を俺たちは所持している」
「そう……お前たちは他の軍事会社に無いものを持っている。メタルギアZEKEとそこに搭載されている、核兵器だ」
「ずいぶん詳しいようだな」
「あんたの事は何でも知ってるさ」
軽く笑って見せるオセロットだが、この男の諜報能力というのは恐ろしく高い、確実に敵に回せば厄介な存在となるだろう。
ふと、スネークはかつてのスネークイーター作戦において、敵に捕らえられたときに食料等を没収されたことがあったが、当時敵であったオセロットに食料を全部食われたことを思い出す。
理由をミッションの協力者であったEVAに聞いたら朴念仁と言われたが、その意味は未だに分からない。
「ところでオセロット、お前この世界でどうするつもりだ? もしも行くあてがないなら、MSFに来ないか?」
「ビッグボスにそう誘われて断る理由もない……が、協力は一時的なものにとどめておこう。少なくとも、元いたおれ達の世界に帰るまではな」
「それで構わん、頼りにしているぞオセロット」
表面上クールにたたずむオセロットだったが、どこか嬉しそうだ。
『スネーク、聞こえるか?』
部屋に置いてあった通信機に無線が入る、その声は現在マザーベースで指揮をとるカズヒラ・ミラーの声であった。
「カズか、どうした?」
『喜べスネーク、この世界に来て初めておれ達のもとに仕事の依頼が入ったんだ。実はスタッフの提案でインターネットで宣伝をしててな、依頼人は南欧の連邦国家だ。』
「分かったすぐにマザーベースに戻る、それとカズ。新しい仲間を紹介する、オセロットだ」
『知っているよ、無線機越しに会話を聞いていた』
「カ、カズ…? まあいい、これから仲良くやってくれ」
『よろしくなオセロット。それと、ボスの副官はオレだけだからな……』
そう言って、カズからの無線は途切れる。
今度こそ無線機の電源を確実に切る。
「ボス、あんたも色々と大変だな」
「なにがだ?」
「朴念仁め」
MGS5でオセロットは本物のビッグボスに敬語でしたが、タメ口の方が良いと思うのでこの口調で行きます。
前回はスコーピオンさんがバディだったので、次回はスプリングフィールドさんで行きます。
ちなみにオセロットの人間関係はスネーク←オセロット←WA2000となってます。
ワルサーさん頑張れ!
あと、うちのヤンデレ枠はカズです(誰得)