マザーベースに欠かせない存在である司令官が帰還を果たして数日、MSFのスタッフたちはあの嵐による被害状況の確認と資材等の管理の他、周辺地域の偵察のためほぼ全員が忙しく動き回っていた。
嵐による損傷によってプラットフォームを繋ぐ橋の一部が壊れている箇所があり、そう言ったところは急ピッチで修復作業が進められている。
「―――現状、オレたちの悩みと言えば物資の問題だな。スタッフは総勢300人ほど、そのスタッフ全員の食糧を安定して確保する方法を見つけることがまずは最優先だ」
マザーベース司令室にて、スネークとカズは隊員たちから集められた情報を整理し、マザーベースの行動計画を立てていた。
嵐によって失われた資材・備品・兵器の数は決して少なくはない。
当面の間マザーベースの維持できるだけの物資はあるが、それもいつかは無くなるだろう。
「食糧の問題は長期的な課題になるだろうが、糧食班と研究開発班が共同でこの問題にあたっている。それから、燃料の問題だが……これは独自に解決できるかもしれない」
「どういうことだ?」
「諜報班より良い知らせが入った。マザーベースの近海に、誰もいない石油掘削プラットフォームがあったらしい」
「少し都合が良すぎるんじゃないのか? 石油がもうでなくなったのかもしれん」
「その可能性もあるが、一度確かめてみるのもいいだろう。確認はヘリによる観測のみだ、内部に誰かいるかもしれないから一度調査が必要だ」
人を養うのには食糧が、マザーベースを維持するのには燃料と修復資材が欠かせない。
MSF単独で集められる資源には限度がある、カズの考えとしては早くマザーベースを立て直し、この世界でMSFの存在をアピールしビジネスにつなげたいと思っていた。
とはいっても、集められた情報からこの世界において
「それからスネーク、先日ZEKEを海中から引き揚げておいたぞ」
ある程度の行動計画を立てたところでカズはそう言った。
核査察の問題に伴い、隠ぺいのために海に沈められていたメタルギアZEKE、
「嵐による影響は幸いにもなかったが、今はヒューイのところで調整を行っている。AIの方はストレンジラブのところで調整中だ、どうも海に沈めた影響か動作が悪いらしい。実戦にはすぐには使えん」
「そいつは良かった。カズ……パスとチコの事だが」
スネークのその言葉に、カズは表情を曇らせる。
そうだ、嵐に見舞われてよく分からない世界に迷い込んで手が付けられていなかったが、本来スネークとカズは二人の救出のため任務を行うはずだったのだ。
幼いが立派な兵士を目指すチコ、サイファーのスパイということが露呈したがMSFのアイドル的な存在だったパス。この状況に置いても二人の安否を心配するスタッフもいた。
「スネーク、こんな事は言いたくないがおれ達が今どこに居てここがどこなのか分からない以上、二人を助けに行くことはできない。現実的な問題に対処するだけで精いっぱいだ」
そうカズは言ったが、その言葉は彼としても本意ではないだろう。
MSFはただの傭兵集団ではない、家族なのだから。
仲間を大切にし尊重する、裏切ったり見捨てたりなどはしない。
「分かってる、今は目の前の問題を片付けよう。だが何か二人の情報を手に入れたら、すぐにでも動くつもりだ」
「ああ、そうだなボス」
「うむ……ところで、スコーピオンとスプリングフィールドの二人は今どこに?」
一瞬カズの目がサングラスの奥で光ったのをスネークは見逃さない。
咎めるように睨むスネークにカズは咳をして誤魔化す。
「二人はストレンジラブのところに行っているはずだ。二人の……戦術人形のAIを確かめたいと言ってたな」
「なぁカズ、あの二人は本当に戦術人形という存在に見えるか? オレにはどうもそうは見えない」
「肉体、声、思考それらすべて人間と遜色がないからな。オレも言われるまでただの武装した女の子にしか見えなかったよ。もし本当ならこの世界は凄まじい技術力を持っているようだな、うちの開発班もやりたがるんじゃないのか?」
「オレは賛成しかねるがな」
「スネーク……」
「戦術人形、確かに便利な存在かもしれない。だがそれは、オレたちのような兵士の存在を否定するものだ。通常何年もかけて育成する兵士を、たった数時間で造り上げる。この世界では俺たちのような存在は時代遅れなのかもしれない」
昔、スネークはオレたちのような存在はいつかいらなくなる時代がやってくるだろうと言ったが、この世界ではある意味的中している。だがそれは生身の人間の兵士が戦場に立つ必要が無くなり、造られた機械の兵士が生身の人間に変わって戦場に立つ時代だ。
造られた兵士同士が戦場で戦い、生身の人間は戦場から離れた事務室でそれを指揮する……そう、まるでゲームのように。
「考え過ぎだスネーク。オレたちのような存在はいつどこでも必要とされる。スネーク、まさかあの子たちの存在そのものを否定するというわけではないよな?」
「そんなことは考えちゃいない。だが、オレ自身が戦術人形を造るという考えがないというだけだ。マザーべースのスタッフも、同じように考えるはずだ」
「いや、意外にも戦術人形に興味ありげみたいだぞ、主に研究開発班が…。あと独身スタッフたちが……」
「後はお前もか、カズ?」
「さあ、何のことやら」
無表情でしらばっくれる副司令官の姿に、スネークはため息をこぼす。
ひとまずカズとはそこで別れる、なんでもサウナ掃除があるからだとか……律儀に約束を守って大したものだと感心しつつ、スネークは司令室を出てマザーベースの喫煙所に赴く。
最近はマザーベース内で禁煙運動なる組織を立ち上げて騒いでいるスタッフがいるせいで、喫煙者のスネークも肩身を狭くしている。昔、無線で葉巻と煙草の違いを当時のメディカルサポーターに語ったが全く理解されなかった思い出がある。
おまけに恩師には理不尽ないわれをされたものだ……思いだし、スネークが小さく笑うと、喫煙所の扉が開き疲れた表情のスコーピオンがやって来た。
「はぁー、疲れたよスネークーーっ……あたしにもそれ頂戴」
「ダメだ、子どもにはやらせられない」
「ケチ、それにあたし子どもじゃないよ」
少しして、スプリングフィールドも顔を覗かせてきたので、仕方なくスネークは葉巻をもみ消し外に出る。
「ストレンジラブにあれこれいじられたのか?」
「仕方ないけどさー……あれこれ調べられて服脱がされて触られたり、本当に疲れた」
「裸になって触られたのか、大変だったな」
「一瞬想像したでしょ、変態」
「誤解だ、ストレンジラブにはきつく言っておく」
「そう言えばさっきここにはサウナがあるって聞いたんだけど本当?」
期待したような表情でスコーピオンは聞いてきた。
肯定するや否や彼女はスプリングフィールドの手を引いて目的地も分からずさっさと駆け出していってしまった。賑やかなものだと思いつつ再び葉巻を取り出そうとしたところ、今度はストレンジラブがやって来たではないか。
気付かないふりをして喫煙所に入ろうとしたが、その前にストレンジラブが喫煙所の扉に寄りかかって中に入るのを阻止してきた。
「少し退いてもらいたいんだが?」
「戦術人形、この目で見たからこそ分かるが凄まじい技術だ。私たちがいた時代から数十年経っても到底たどり着けないような地点だ。この世界が、2060年代の世界と言うのも、あながちウソではないのかもしれない」
スネークの言葉を無視し、ストレンジラブはどこか興奮した様子で言う。
もう扉から退く気はないようなので、スネークは諦めて葉巻をしまう。
「AIの専門家であるキミの目からはあの二人はどう見えるんだ?」
「ふん、以前わたしはAIと人間の違いは何かと問いかけたことがあったな。戦術人形、その身体をどう構成しているのかは分からないが人間に限りなく近い容姿に自己で判断し感情すら表現をするAIを持っている」
「AIに感情を表現させることができるのか?」
「スコーピオン、彼女は特に喜怒哀楽の表現が顕著に見える。無論、造られた音声によってパターン化された感情表現だってありえるだろう。だがスネーク、お前にはあの少女たちの感情が造られたプログラムだと思えるか?」
「いや、彼女たちの感情表現が造られたものだとは到底思えない。それにまだ彼女たちが造られた人形だということすらも信じ切れていない」
「そうだろうな。だがもし戦術人形が造られているところを見れば、お前も認めざるを得ないだろうな。開発班も張り切っているようだ」
彼女は先ほどカズが言ったのと同じようなことを彼女は言うが、戦術人形の製造に否定的なのはスネークだけなのかもしれない。
カズに言った言葉をそのままストレンジラブにも伝えると、彼女は鼻で笑う。
「下らんプライドは捨てろ。メタルギアZEKEにのせられているのは紛れもないAIだ、比べるのもおこがましいほどに差はあるがどちらも同じ存在だと言えなくもない。ZEKEは造りだせて、戦術人形が造れないはずはないだろう……まあ、もし造れたとしても美しい彼女たちを戦場に出すのは躊躇してしまうかもしれないな」
「そういえば、お前もそう言うところがあったな……」
マザーベースでは彼女がレズビアンの気があることは公然の秘密だ。カズにちょっかいをかけられなくても、彼女に手を出されたという女性スタッフの声もある。
ひとまずMSFが戦術人形を造りだすという話しは保留とし、ひとまず彼女も頷く。
「ところでスネーク、わたしが前に言った事を覚えているか?」
「何の話だ?」
「この世界の戦術人形を造り上げる技術はとても高度なものだ。人間と同等の知能を持ったAI、人間に限りなく近い容姿……これはもはや人間を造りだせるといってもいい。それだけじゃない、AIに記憶を宿せば死者を再びよみがえらせることも可能ではないか? もはや仮定の話ではない、実現できる境地に我々は居るのだ。考えなかったとは言えないはずだ……ザ・ボスが、再び我々のもとに現われることを」
おそらくは、いや確かにこの世界の技術をもってすれば彼女はそれを成し遂げるだろう。
だがそれを、スネークは即座に拒絶した。
彼女の言う通り考えたことはあった、だがそれだけは絶対にやってはいけないことだった。最愛の恩師を自らの手で殺したスネークにとって、それは到底受け入れられないものだった。
「この話はもうお終いだ、再び話すこともするな。戦術人形の製造の事もだ」
「そう、あいかわらず潔癖なことで……まあいいさ、覚えておいてくれ。お前の指示があればいつでも実行に移せるとな」
微笑みながら、ストレンジラブはその場を立ち去っていった。
ザ・ボスは死んだ。
最愛の恩師との最後の戦いを忘れたことなどない、心の中には今も彼女がいる。
だが……ザ・ボスはたった一人しかいないのだ。
「ボス、オレは……オレの意思で戦う」
誰もいなくなったその場所で、誰に言うわけでもなくスネークは呟く。もう葉巻を吸う気にもなら無くなってしまい、せめて海風でも浴びようとスネークは外に出ていった。
「おい、スネーク」
プラットフォームをあてもなく歩いていたところだった。
神妙な面持ちのカズがその場を通りがかったスネークに声をかけてきた、ただ事ではない様子だった……甲板上に半裸で胡坐をかいているのだ、ただ事ではないに決まっている。
「オレはサウナ掃除に行った。サウナ室の前に清掃看板を置いてだ……清掃を終えたんで、折角だから一番に入ってサウナを楽しんでいたんだ」
「あぁ」
「そしたらスコーピオンとスプリングフィールドが入って来たんだ……気付いたらここでのびてて、身体中が痛いんだ。なあボス、これはオレが悪いのか?」
「カズ……いいセンスだ」
マザーベースは、今日も一日平穏であった。
ツンデレっぽい子さがしてるんですけど、誰かいないですかね(チラ