METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

3 / 318
Battle of Airport

「ここだよスネーク、ここが目的地」

 

 廃墟と化した街に潜むスナイパーと歩哨をなんとかかいくぐり、スネークたちは荒れ果てた飛行場へとたどり着いた。

 飛行場といっても特別大きいものではなく、地面を平らにならしただけの滑走路にいくつかの格納庫と小さな管制塔があるだけだ。

 その滑走路も、爆撃や砲撃で穴だらけで飛行機の離着陸は不可能な状態だ。

 

「スコーピオン、ここに案内したのは何故だ?」

 

「このエリアは完全に鉄血の支配下だ、味方の基地まで撤退するには危険が大きすぎる。この飛行場には救難信号を出せる設備がある、それを使って味方と連絡をとるんだ」

 

「なるほどな、だが何故最初からここに来なかったんだ? 何週間も廃墟で隠れている必要も無かったはずだ」

 

「救難信号を聞きつけるのは何も味方だけじゃない、敵に探知されて位置を特定される恐れがあったからね」

 

「だったら今も危険じゃないか。敵地のど真ん中だ、探知されればオレたちは包囲される」

 

「一人じゃ出来なかったかもね……でも今は、あんたがいる。スネークが一緒に居てくれれば成功するって信じてる」

 

 まだ会って一日も経っていないというのに、スコーピオンはこう言ってのける。

 彼女のスネークを見つめる眼差しには迷いはなく、笑みすら浮かべている。

 

「頼られてしまったものだな。いいだろう、だが闇雲に行動をしても助からない、準備が必要だ。それには君の力も必要となってくる」

 

「任せてよスネーク、ある程度の敵はあたしが突撃してぶっ飛ばしてくるから!」

 

「突撃は禁止だ、それは最後にとっておけ。まずは飛行場を探索しよう、使える物はなんでも使うんだ」

 

「了解スネーク」

 

 

 元はスコーピオンらの部隊が健在だったころに使われていたという飛行場だ、探せば何かしら使える物は存在するだろう。

 脱出手段のヘリなどは無いが、武器・弾薬は多くはないが格納庫などに残されていた。

 管制塔もくまなく探す。

 ひとまず救難信号を出すための設備は無事だった、電気は非常用の発電機で事足りるだろう……管制塔にいたスネークは、ふと遠くから誰かが一人飛行場を目指しやってくるのを発見した。

 その人物は物陰に隠れ周囲を伺いながら警戒している様子でやってくる。

 

「スコーピオン、誰かが来る」

 

 スコーピオンは管制塔の窓から少しだけ顔をだし、目を細めてやってくる人物を観察する。

 少しの間判断できず唸っていた彼女であったが、ハッとした様子で立ち上がると一気に管制塔を降りると走りだしていった。

 スネークもその後を追い彼女を追いかける。

 

 

「おい、スコーピオン!」

 

 

 飛行場に出て彼女の名を呼んだと同時に、スコーピオンはやって来た謎の人物の胸めがけ飛び込んでいるところだった。

 

 

「スプリングフィールド! 生きてたんだね、良かった!」

 

「あなたもねスコーピオン! 銃声を聞いて、もしかして私以外にも生存者がいると思いまして……あの、あちらの方は?」

 

 スネークの姿に気付いたらしい、その女性はスネークをどこか不安げなまなざしで見つめていた。

 すると反対に目をキラキラと輝かせながら、スコーピオンはその女性の手を引いてものすごい勢いでスネークのもとへと駆け寄ってくる……サソリというより活発なイヌのようなその姿に、スネークは小さな笑みを浮かべた。

 

「紹介するよスプリングフィールド、あたしの命の恩人スネークだよ! 廃墟からここまでこれたのはスネークのおかげだね」

 

「初めまして、スプリングフィールドと申します。大切な仲間のスコーピオンを助けていただきありがとうございます」

 

「いや、こちらもお互い様だ。右も左も分からないオレに色々と彼女が教えてくれた」

 

「えへへ、スネークって最近の出来事も分からないくらいだったから大変だったよ。ねえスプリングフィールド、一応聞くけどさ……他の仲間は見ていない?」

 

「残念ですが……」

 

「そう、そっか……」

 

 スコーピオンは一瞬とても哀しげな表情を浮かべたが、すぐに今置かれている状況を思い出す。

 そしてこの飛行場の救難信号を使って仲間と連絡をとる作戦をスプリングフィールドに伝えたが、彼女は暗い表情で首を横に振る。

 

「スコーピオン、よく聞いてください。私たちがいた基地は鉄血の攻撃を受けて後方に撤退してしまいました、救出に来れる部隊は近くにありません」

 

「そんな、折角ここまで来たって言うのに……スネーク、もうだめだよ。やっぱり危険地帯を抜けるしかないよ」

 

「そう簡単にあきらめるな、手はある」

 

「何か、勝算があるようですね」

 

 スプリングフィールドの言葉と共に、スコーピオンも期待感に表情を明るくする。

 

「実を言うとさっきからこの無線機に連絡が入っててな―――」

 

「なんでそういう大事なことすぐに言わないのかな……」

 

 表情が明るくなったと思ったスコーピオンが今度はジト目でスネークを見つめ呆れた表情を浮かべた……コロコロ表情の変わる彼女に思わず笑いそうになるスネークであったが、咳払いで誤魔化す。

 

「話は最後まで聞け。無線が入っているのは分かるんだが、壊れていて使えない。だが近くに仲間がいるのは確かだ」

 

「ではスネークさん、あなたの仲間に助けを求めることは可能なんですね?」

 

「ああそうだ。今頃あいつらも血眼でオレを捜し回ってるかもしれない、どれくらい近くに居るか分からないがな……だが救難信号を出して敵に嗅ぎつけられるのは同じだ、戦闘になるぞ」

 

「大丈夫だよスネーク、元からそのつもりだったんだからね」

 

 獰猛な笑みをスコーピオンは浮かべる。

 困ったものだと呆れているのはスプリングフィールドだが、彼女も戦闘が避けて通れないのは承知であった。

 スコーピオン、スプリングフィールド、そしてスネークは鉄血戦術人形との戦いの準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スネークさん、来ましたよ。鉄血の人形たちです」

 

 奴らは廃墟の街からゆっくりと姿を現してきた。

 

 管制塔にて狙撃の役割を買って出たスプリングフィールドが鉄血の人形を素早く発見した。

 スネークがMSFの仲間たちに救難信号を送っておよそ一時間後の事だった。

 

 飛行場を目指し近づいてくる鉄血の人形はまだ三人の姿に気付いていない……ただここに敵がいるだろうという予測のもと、警戒しながら徐々に接近してきていた。

 管制塔のスプリングフィールドは息を殺しつつ、眼下のスネークに目を向ける。

 先制攻撃の指示はまだだった。

 少し離れたところに居るスコーピオンはというと、早く撃ち合いを始めたいのか何度もスネークを見ている。

 

 鉄血の人形が飛行場の入り口に迫った時、スネークの手があがったのを見たスプリングフィールドは敵にその照準を定める。

 

「いまだ、派手にやれスコーピオン」

 

 待ってましたとばかりに、スコーピオンは飛行場入り口に仕掛けてあった爆薬を起爆させた。

 凄まじい爆音が周囲に鳴り響き、入り口近辺にいた鉄血人形たちは爆風で吹き飛ばされる。

 すかさずスプリングフィールドが爆発から生き延びた鉄血人形を素早く排除した。

 

「まだまだいくよ!」

 

 仕掛けられた爆弾は一か所だけではない、スネークがあらかじめ目星をつけてい置いた進入路にも爆弾が仕掛けられているほか、カバーできない位置には地雷も設置していた。

 別な方角からやって来た鉄血の小隊は爆発の一撃で壊滅し、ある小隊は爆発によって倒壊した建物の下敷きになる。

 

 

「どうよ鉄血人形! いままでさんざんやってくれた仕返しだ!」

 

 壊滅した鉄血の先遣隊に向けてガッツポーズを決めるスコーピオンであったが、黒煙の向こうから次々やってくる鉄血人形にふざけた表情をひっこめ、その手に持ったVz61を乱射し始める。

 

「気をつけろスコーピオン、数が多い!」

 

「分かってるって!」

 

 そうはいったものの、スコーピオンは鉄血の予想外の多さに動揺していた。

 自分が息を殺して隠れていた間はスナイパーから逃れていただけだと思っていたが、これだけの数が潜んでいたとは考えもしていなかった。

 いまのところなんとか対処できているが、敵は確実に増えてきている。

 

 管制塔からスプリングフィールドが迂回する敵を知らせ、それをスネークとスコーピオンが撃破するもだんだんと追いつかなくなる。

 

 

「敵がどんどん増えていきます!」

 

 管制塔のスプリングフィ-ルドからは、鉄血の部隊が飛行場を目指す絶望的な光景がはっきり見えている。

 それでも彼女は逃げることなく敵に狙いをつけ引き金を引き続ける。

 

「くっ…!」

 

 管制塔のスプリングフィールドも鉄血の攻撃を受け始め、銃弾が彼女の頬をかすめる。

 装填のため身をかがめた時、凄まじい爆発音が響き衝撃が彼女を襲った。

 その爆発音が間髪いれず再び鳴り響き、それが敵側の砲撃だと理解するのに時間はかからなかった。

 スプリングフィールドが管制塔を離れようとしたその時、砲弾がついに管制塔の柱へと命中しその衝撃で彼女は体勢を崩し転倒した。

 外に放り出されることはなかったが、砲撃を受けた管制塔は嫌な音を立てながらぐらつき始める。

 

「スプリングフィールド! そこから飛び降りるんだッ!」

 

 管制塔の下でスネークが叫ぶ。

 彼女は管制塔の高さに躊躇していたが、意を決して管制塔を飛び降りた。

 彼女に飛び降りることを叫んだスネークは落下する彼女を見事受け止める。

 

「おい、もう大丈夫だ。目を開けていい」

 

 彼女はスネークの腕の中で目を閉じて身体をこわばらせていたが、やがてゆっくりと目を開き先ほどまで自分がいた管制塔を見て、それから自分を抱きかかえるスネークの顔を見て頬を赤らめた。

 次の瞬間、管制塔が二発目の砲撃を受け、驚いたスプリングフィールドはスネークに咄嗟に抱き付いた。

 

「スコーピオン! 後退するぞ、一旦後退だ!」

 

 瓦礫に身を隠し敵をけん制するスコーピオンにそう叫び、スネークは前もって用意していた二つ目の防衛線へと後退する。

 スコーピオンもその後を追従し、廃墟の中へと入り込む。

 

「ここで持ちこたえるぞ」

 

「ええ、分かりました」

 

「最終防衛ラインってわけだね……というか……スプリングフィールド、いつまで抱きかかえられてんの!?」

 

 スコーピオンに言われ、スプリングフィールドはハッとして慌ててスネークの手から離れる。

 

「私としたことが……恥ずかしい」

 

「ったく、緊張感ないんだから……羨ましい」

 

「なにか言ったか?」

 

「なにも言ってない!」

 

 猛犬のように唸り声をあげるのを、剥き出しの闘志ゆえゆえと考えそれ以上スネークは追及せず、前方で再編成する鉄血の人形を忌々しく見つめる。

 

「弾がもう残り少ないよ」

 

「私もです」

 

「大人しく投降してみる?」

 

「冗談ですね、弾が尽きても銃剣突撃する気概は残っています」

 

「へへ、そうこなくっちゃね!」

 

 この期に及んで、二人の戦術人形は戦意を失っていなかった。

 敵を見やり獰猛な笑みを浮かべるスコーピオンと、銃剣を取り付け淑女らしからぬ鋭い目で敵を観察するスプリングフィールド……この二人に呼応しない伝説の兵士ビッグボスではない。

 自身も軽機関銃と剥き出しの弾帯を手に迫りくる鉄血人形を睨みつけるように見据える。

 

 

「我が軍の右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能。状況は最高、これより反撃する! って誰の言葉だっけ?」

 

「第一次世界大戦時のフランス陸軍将軍フェルディナン・フォッシュの言葉ですね。一人30人倒せば私たちの勝利です」

 

 

 窮鼠は猫を噛むというが、追い詰められた蛇・蠍・淑女はこの瞬間他のどんなものよりも恐ろしい存在と化していただろう。

 

 やがて鉄血人形が廃墟の中へと足を踏み入れた時、三人の一斉攻撃が敵の部隊を出迎えた。

 

 身軽なスコーピオンは両手に銃を持ち、素早く動くことで敵を翻弄し次々に鉄血人形をなぎ倒す。本来後方での狙撃を得意とするスプリングフィールドは銃剣で鉄血人形を突き刺し、飛びかかってきた人形などを銃床で殴りつけるという荒々しい戦い方をしている。

 

 軽機関銃を手に、凄まじい弾幕で応戦するスネークの姿はまるでランボーを思わせる。

 鬼気迫る表情のスネークの姿に、鉄血人形は気圧されていた……圧倒的に有利なはずなのは自分たちであるはずなのに、数の面でも装備の面でも勝っている鉄血人形が圧倒されているのだ。

 

 鉄血人形が、後退していく。

 

 鉄血人形は予想外の反撃に作戦を変更、砲撃で廃墟を跡形もなく吹き飛ばそうとする作戦に出る。

 しかし部隊が廃墟から撤退しきらないうちに、爆撃が後退する鉄血人形たちを吹き飛ばしたではないか。突然の爆撃に慌てふためく人形たちの頭上に、数機のヘリコプターが飛来する。

Mi-24戦闘ヘリコプター、その機体の側面には国境なき軍隊(MSF)の象徴であるパンゲア大陸と髑髏を模したマークがある。

 

 

『スネークッ!!』

 

 

 ヘリより拡声された音声が飛行場へと響く。

 その声はスネークも聞きなれたMSF副指令の声であった。

 

「カズ!」

 

『ようやく見つけたぞボス! 援護を開始する!』

 

 Mi-24(ハインド)よりMSFの戦闘員が飛行場へと降下し、浮足立つ鉄血人形へ攻撃を仕掛ける。

 鉄血人形たちは予想外の攻撃を受けて敗走していき、MSFの戦闘員と上空のハインドがまるで獲物を駆り立てるかのように追い詰める。

 

 やがて一機のハインドが飛行場へと降り立ち、MSF副指令のミラーが降り立つ。

 

 

「カズ! よく来てくれたな!」

 

 スコーピオンとスプリングフィールドを伴いスネークは彼のもとへと駆け寄る。

 ミラーの目線は一瞬二人の戦術人形へと向けられたが、こんな場面で悪い癖を出す男ではない……ミラーは差し出されたスネークの握手に応じるのを少し待つと、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「待たせたな……ボス」

 

 十八番をとられた形となったスネークは笑みを浮かべ、それからミラーはスネークの手を固く握った。




これからもスプリングフィールドさんには銃剣突撃してもらいます(錯乱)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。