どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
今回短め。
「このっ、タンカスどもっ……!」
仮面の下で、司教が歯ぎしりをする。飛びかかる二つの脅威を対処しきれずのことだった。
全力で跳び上がっては空中で肉弾戦を仕掛ける儀玄と殴り合おうとすれば、側面や背後からは翡翠色の光波が飛んでくる。
が、一瞬でも光波に気を向ければその顎目掛けた綺麗な回し蹴りが待っているのだ。そもそも、彼女一人だけで手一杯なのだ。
光波の出処を潰すべく狩人へ突っ込めば、待ち受けるのは凄惨な剣戟。己の身体の無事を一切考慮していない、しかし華麗なそれに、薄汚い瘴気の鎧は斬り裂かれていった。
瘴気を浴び、血飛沫に塗れても尚、赤黒く染め上がった刀身から覗く光は衰えを知る様子が無かった。
それどころか、人々を照らす偉大なる陽光を前に、一層輝きを増しているようにすら狩人には見えた。
もう良い。司教が天高く飛び上がる。空中で圧倒的な瘴気を塊と成すと、それを思い切り儀玄達に投げつけた。吸い込めば即死と踏んだ儀玄が神秘の結界を張る。
「まつろわぬ者どもよ……終わりにしましょう!」
結界を瘴気が覆う。ドーム状になったそれを、儀玄が必死に食い止めていた。
月光の光波を飛ばしてみる。斬り裂くことは出来たが、またすぐに塞がれてしまった。
「FUCK! I can't take it anymor──AH SERIOUSLY MATE!?」
狩人が嘆く。「お前は幻覚だ」等と独りごちていた儀玄がふと静かになったので見やったところ、余りの莫大な力を前に気を失っていたのだ。それでも、強靭な意志により結界を保ち、その足で立ってはいるが。
皆が絶望しかけたその時。儀玄と司教を除く全員が、凄まじい神秘の起こりを彼女の体内から感じた。
閉じた両の目、その内の左から流れる一筋の涙が、彼女の頬を濡らした。
「ああずっと、ずっと側にいてくれたのですね」
姉様と続いたその声は、打ち震えていた。
「なんだっ!」
ドーム状の瘴気が爆散する様を前に怯んだ司教の目を、眩い閃光が貫いた。
「姉様……」
それは鳳凰であった。悍ましい空の中、陽光を纏い、尚も力強く黄金の翼で羽ばたくそれは、鳳凰の姿をしていたのだ。
天高く舞い上がり全てを照らす、全ての善に救いをもたらす希望の象徴。
「まさかこんな形で貴方を識り、貴方に成るとは……」
太陽が、鳥の形をして飛んでいた。それはやがて、地上にて二本の足で立つ儀玄を包み込み、全ての邪なるものを拒絶する気となって彼女の身体を覆った。
「我こそは雲嶽山第十三代宗主……」
儀玄の言葉が、覇気を増す。狩人の持つ月光は、目を刺すほどに輝きを増していた。
「儀玄!」
世の諸悪を、灰燼に帰す。そう宣言してみせた彼女の背中には、漆黒の翼が気高くも君臨していた。その神秘は、司教の飛行能力を奪うのに十分な程であった。
「なにをっ!」
司教が言い終わるより先に、その両腕が宙を舞った。儀玄の身体より生まれた黒い分身によって、である。
すぐに再生しようと瘴気を操りはじめた司教が、突如背中に走る衝撃に態勢を崩す。その後ろに居たのは、狩人。
直後、その腹部から血と月光を帯びた剣先が飛び出した。足りない両腕でもがく司教を背中で持ち上げ、天へと掲げる狩人。
「今だっ、儀玄。やれっ」
掲げられた司教を儀玄の方へ向けると、幾つもの分身がその肉体を殴り飛ばした。その度に、司教はより深々と聖剣に突き刺さっていった。
「破ぁっ!」
追いついた儀玄が直接その心臓に掌底打ちを決めると同時に、狩人が神秘を解放、爆発させる。
ヤーナム神秘ファイヤーに筋肉はおろか内臓まで直接「浄化」され、遂に糞袋司教は木っ端微塵に弾け飛んだ。
「すごい……すごいです! お師匠さまっ! やりましたねっ!」
彼女が黒い翼をしまうと、すっかり元気を取り戻した福福が駆け寄ってきた。翼の出し方を教わりたいと頼まれ、また今度なと笑いながらはぐらかす儀玄。
福福は一瞬むすっと頬を膨らませたが、すぐに全員の無事を喜んだ。狩人も大喜びし、その場でローリングを繰り返した。血の遺志が入ってこないのはきっと気の所為であろう。
「すまないな、福福」
ふと冷静になった狩人が言うと、そんなに謝る必要は無いと福福は笑った。
どうも彼女には正気を失っていた際の記憶が無いようで、ただ自分が活躍したということだけをアキラから聞いたそうだ。
それは良かったと狩人も声を出して笑ったが、それはそれとして火鍋くらいは奢らせてくれと頼んだ。是非とも、と儀玄が返すのを聞き、途端に福福の瞳が輝く。
「まあ、そこまで言うんなら、大人しくご馳走になるとするかあ!」
藩の巨体を見て少し後悔を覚える狩人だったが、狩人に二言はないと覚悟を決めた。仕えている女王を十回は裏切った分際で、である。
「それにしても、福福。貴公の強さには驚かされたぞ」
「本当ですか!?」
目に見えて喜ぶ福福は、ホロウの中、今だ帰路というところで、儀玄の疲れを癒やすため彼女に抱きかかえられていた。
福福の後頭部に鼻を押し付けるなり思い切り息を吸い込んだ彼女に狩人が恐怖を覚えたのは内緒である。本人曰く「福福吸いはまだガンには効かないがそのうち効くようになる」とのことだ。
「ああ。けも……シリオンの友人の中でも、貴公程の強者は少ない」
「えへへ、そうですか、そうですかぁ」
喉まで出た言葉を全力で飲み込みなんとか狩人が言い切ると、福福は抱きかかえられたまま、ふふんと鼻を鳴らして胸を張った。アキラは軽く笑った。
「そうだとも。特に、猫のシリオンでここまでの膂力を持つ者は初めて見たかも知れん」
「……え?」
今、なんと? 問う福福に、狩人が困惑する。もう一度繰り返したところで、表情を失った福福が言葉を発した。
「……猫……?」
「どうした。猫にも種類があるだろうと言うのなら謝るが」
狩人が言い終えると、彼女の瞳に涙が浮かびはじめた。アキラは苦笑いを浮かべ、狩人から視線を外した。
「あぁ──! さてはあたしのこと、茶トラ猫のシリオンだと思ってましたねぇ──っ!?」
時は夜。暗いホロウの中に、彼女の叫びが響き渡ったのであった。
数時間後、一同は火鍋を囲んでいた。リンや葉釈淵も一緒である。アキラとリンは隣同士に座り、ようやくまともな再会を迎えられたことを喜んでいた。
「葉」
「はい、どうかしましたか?」
「……すまんな、あの時の事は」
ふっと口角を上げ、構いませんよと返す葉。そういえば最後まで裏切らなかったな、と考えたところで、狩人が自身の過去の発言を思い出したのである。
「んぐぅ……」
虎のシリオンこと福福は寝ていた。序盤にたらふく食ったのが災いしたのだ。儀玄の膝の上で、すやすやと笑顔を浮かべている。時折飛び出す寝言から察する限り、素晴らしいことに夢の中でも食いしん坊なようである。
……やはり猫では? 威厳の欠片もない幸せそうな寝顔を前に、狩人が顎をさすった。
藩の大喰らいぶりには目を見張るものがあったが、狩人が涙を浮かべ始めると途端に食事量が減った。それでも結局、彼の有り金はそのほぼ全てが消し飛んだのだが。
「うわぁっ! お弟子さんが、シリオンに──うわぁ……」
翌日、獣となった狩人が藁人形に向かって知性の欠片も感じさせないステップを踏むのを前に福福が放った言葉である。鉤爪仲間にはなれなかったようだ。
「お前さん達、朝からやかましいぞ。それに、なんか臭──誰だっ!」
穢れた獣が視界に入るなり咄嗟に構えた儀玄だったが、すぐに警戒を解いた。「めっちゃ汚いぞ、早く元に戻れ」という強めの要求と共にだが。
そんなに汚いのだろうか。狩人が自身の腕を見つめる。
皮膚を覆うギトギトの体毛の隙間から覗くのは、黄色みを帯びた分厚い皮脂。よく見れば、毛にも脂の塊のようなものが大量に付着していた。
汚すぎる。一瞬で夢へと戻り人返りを成す狩人。そもそも獣は嫌いなのだ。これ以上化ける理由もないだろう。
人に戻ってからは、神秘の智慧交換会が始まった。様々な術法を狩人が教わり、そのお礼に狩人が自身の知る神秘を紹介するというものだ。
術法の内の大半を、しかし狩人は習得しきれずに終わった。なにかしらの触媒を使うと大抵は出来る様になったが、効果の続く時間や殺傷力が大幅に下がるのだ。
尤も、それでも狩人の心を沸き立たせるには十分過ぎる程のものばかりであったが。殆どはきっと二度と使わないであろうが、大切に保管箱か懐で眠らせておく予定である。
但し、この墨汁のみは話が別であった。右手武器に塗りたくると、暫くの間それは雲嶽山式の神秘を帯びるのだ。
具体的な効果をホロウやヤーナムで試すことが今から待ちきれず脳を震わせる狩人だったが、すぐに落ち着きを取り戻し紹介する番に回った。
反応は余り芳しいものでは無かった。最初に先触れを出したのが良くなかったのだろう。福福には何の異常もなく、ただ気持ち悪い触手に驚いただけであったが、儀玄は露骨に顔色を悪くしたのだ。
使者たちの贈り物は使えるには使えるが、ヤーナム式神秘の満ちていないこの場所では、寧ろ神秘が形を成し逆に目立ってしまう結果となった。
結果的には、聖歌の鐘と彼方への呼びかけ、そして小さなトニトルスの三つのみが好評を得た。
「どう使うんだ、これは?」
「血を混ぜた水銀を持っていれば、あとは鳴らしたり掲げたりするだけだ。水銀は勝手に消費される」
見事な「うわぁ……」の顔をされ、仕方が無いと言って持っているだけの水銀弾二十発を袋に詰めて渡すと、何ともいえない表情を浮かべながら儀玄が受け取った。
「では、私は散歩にでも行くとしようかね。楽しい交流会だった。感謝する」
振り向いた狩人の背中に、儀玄の声がかかる。金が足りないのだろうと続けられ、施しまでされてしまっては申し訳ないと返した狩人に、間髪入れずにまた声が飛ぶ。
「そうじゃあない。良い稼ぎ口を知ってるんだ」
笑みを浮かべる儀玄。興味が湧いた狩人が続きを要求すると、断る理由もない彼女が一言続けた。
「探索が大好きなんだろう? なら、きっと気に入るはずさ」
数分後には、狩人は
「ここで依頼が受けられると聞いた」
「ああ、雲嶽山の人だったんですね。掲示板はあちらですので、ごゆっくりどうぞ〜!」
道着を着た状態でチャイナドレスの女に話しかけると、掲示板へと案内された。そのうちホロウ内の探索や戦闘が主なものを全て受注すると、早速ラマニアンホロウへと足を運んだ。
楽しすぎる。一言で言えば、それが感想であった。ホロウを探索し、依頼の品を回収し、帰る。現地で見つけたお宝は全て独り占めして構わないのだという。
ミアズマを纏った強敵達も居たが、狩人にとってそれは寧ろプラスの要素にしかならなかった。内臓までミアズマで覆ったものがいなかったのもあるだろう。
人型で大したサイズが無ければ銃で、大型ならば両手足を破壊して態勢を崩し、落ち着いて臓物を抜けば良いのだ。聖剣擬きとエヴェリンはこれに大きく貢献した。
二日後、戦闘を伴う依頼が消化し尽くされたことを知った儀玄が度肝を抜かした。またすぐに補充されたのだが。
ディニーで支払われることがないことに狩人が気付いたのはその時であった。発狂死しそうになったが、拾った宝を質屋に入れればかなりのディニーが手に入ると知ると満足した。
貰った特殊通貨でその時唯一買えるものだった「ポリクローム」と呼ばれる何かを買い漁ったが、使い方が分からなければ価値も分からなかったのでアキラに渡すと何故かぼろぼろと大粒の涙を流して感謝された。
他に、何か稼ぐ方法は無いだろうか。出来れば死闘か探索を楽しめるものが良い。労働の歓びに目覚め始めた狩人が気分転換に新エリー都へ赴き交差点を渡っていると、ふと一枚の紙が目に入った。
DEAD OR ALIVEという文字列を見るに、賞金首のようだ。二ヶ月は遊んで暮らせる程の額である。連続強盗強姦放火殺人というとんでもない重罪人であった。
どうにも、少なくとも首さえ用意すればあとは治安局に持っていくだけで済むらしい。根城としているホロウも分かっているが、裂け目でのワープを利用して上手いこと逃げ回っているのだそうだ。
ワープで逃げる相手を追い詰めることには慣れていた。そもそも、獲物を追うのが狩人なのだ。
狩人の脳裏に、人形ちゃんの顔が浮かんだ。自身で稼いだ金で買ったものを着こなし、被り、食べてはにっこりと微笑んでくれる、彼の太陽が。
二週間ほどのち、急激な賞金首の減少に首を傾げる朱鳶だったが、その原因を聞くとぎょっと目を丸くした。
「狩人……!?」
全身黒尽くめの男が一日に十回程のペースで生首を持ってくるのだという。治安局のど真ん中で突然無から生首を取り出し受け付けの新人女を泣かせたのだと。
「ジェーンの姉御もそんな顔してましたよ。目ン玉ひん剥いて……」
部下の声を、右耳から左耳に流していく朱鳶であった。
この章はホントに敵が同情の余地の欠片もないヤーナム売女糞袋野郎ばっかりだったおかげで書いてて滅茶苦茶楽しかったです。面白く書けたかは知らない。
この先、おまけ回があるぞ つまりこの先、兄弟があるぞ
ゼンゼロ本編でストーリー履修し終えたらこっちでオボルス小隊出す前におまけ集にオルペちゃん出すかも。あの娘かわいすぎる……
悠真さん助けて。俺この娘好きになっちまう。