安倍晋三元首相が2022年、奈良市内で参院選の応援演説中に銃撃され、死亡した事件の公判が奈良地裁で始まった。殺人罪などに問われた山上徹也被告(45)は罪状認否で、法定刑の上限が最も重い殺人罪の起訴内容を認めた。
これにより裁判の焦点は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の存在が動機や背景にどれほど影響を与えたのかなどに絞られる。事件が可視化させたと言える「宗教虐待」や「宗教2世」の実態が明らかになることを期待する。
冒頭陳述などによると、被告が小学生のころ母が入信し、多額の献金で破産、家庭は崩壊した。被告は、進学の断念や兄の自殺などで教団への恨みを募らせた。
公判前整理手続きは、宗教虐待と事件との関係を立証したい弁護側と、犯行自体との関連は薄いとする検察側との調整が難航。事件から初公判まで3年以上を要する主因となった。地裁が被告の母や宗教学者、多額献金問題を追及してきた弁護士らの出廷を最終的に認めたのは、全貌解明への強い意志が働いたのだろう。
いかなる事情があろうとも人命を奪う行為は断じて許されない。ただ事件が、表面化する機会に乏しかった教団信者を親に持つ「宗教2世」の惨状を、広く社会に知らしめたのは事実だろう。
事件後、「2世」たちは重い口を開き、文部科学省は教団の解散命令を請求。東京地裁は3月、解散を命じた(東京高裁で審理は継続中)。被告が安倍氏を狙ったのは、教団の韓鶴子(ハンハクチャ)総裁にメッセージを送ったためとされるが、韓氏は政治資金法違反罪などで韓国当局に逮捕、起訴されている。
こども家庭庁は昨年、「宗教2世」に関する全国調査を初めて実施。対象とした22年から1年半の間に全国の児童相談所の16%で、布教活動の強制や子どもの自由な意思決定の阻害、養育放棄などの宗教虐待を受けた児童の相談事例があった。「2世」は幼少期から信者以外と接する機会に欠け、外部の相談にたどりつくことが難しい実態も浮き彫りになった。
被告は就職氷河期世代。自衛隊を退職後、アルバイトや派遣の仕事を転々とした。格差や貧困に直面し、教団への憤りや怒りを増幅させたとの見方もある。どのような心の軌跡を経て、銃を自作してまで銃撃に至ったのか。その闇を法廷で率直に語ってほしい。
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