旧ジャニーズ事務所が「SMAPの元メンバーを起用しないようにテレビ局に圧力をかけたことにより、独占禁止法に違反した」旨のマスコミ報道における、誤情報の構造/中国系マネーロンダリングネットワークに対する米国 Financial Crimes Enforcement Networkの分析報告書と勧告書について
3 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて
執筆者:木目田裕、宮本聡、西田朝輝、澤井雅登、藤尾春香 危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。 なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。 【2025年8月29日】 金融庁、「2025事務年度金融行政方針」を公表 https://www.fsa.go.jp/news/r7/20250829/20250829.html 金融庁は、2025年8月29日、2025事務年度(2025年7月〜2026年6月)の金融行政方針を公表しました。本方針は、金融システムの安定の確保やリスクへの対応を実現するための施策として、例えば、以下の事項を掲げています。 ・ 金融機関毎のリスクプロファイルに基づく課題の優先順位付け及び監督 ・ 検査の計画的実施。 ・ 各金融機関に共通するリスク等に関する新たな動向を注視した上での、金融システム全体の脆弱性への対応。 ・ マネロンやサイバーリスク等の新たなリスクや課題について、業態横断的な注意喚起の発信等の必要な施策の実施。 ・ 大手金融グループに対するグループ全体を俯瞰した監督・検査の実施等。銀行監督及び証券監督の更なる高度化を図るため、「銀行・証券監督局」の設置を目指す。 ・ 協同組織金融機関※38に対する実効性の高い検査等のモニタリングの実施。 ・ 各国との緊密な情報交換を経て、国際的な規制の実効性・整合性を確保し、グローバルな金融システムの安定に貢献。 ※38 信用金庫や信用組合、労働金庫等の非営利の金融機関を指します。 また、本方針は、金融機関や金融市場の公正性・安全性に対する信頼の確保を実現するための施策として、以下の事項を掲げています。 ・ 特殊詐欺や投資・ロマンス詐欺、不正アクセス等の金融サービスを不正に利用した金融犯罪について、インターネットバンキングに係る対策強化、預貯金口座の不正利用に係る検知能力の強化、預金取扱金融機関間における不正利用口座に係る情報共有に向けた枠組みの構築等の、金融犯罪の被害防止に向けた取組の推進。 ・ 証券取引等監視委員会において、的確・適切な市場監視を実施することで、不公正取引規制を強化。 ・ 保険会社に対する監督・検査の実施や、過去の不正事案の再発防止を図ることで、保険業界の信頼の回復と健全な発展に向けた対応を実施。 【2025年8月29日】 総務省、「消費者保護ルールの在り方に関する検討会報告書2025」を公表 https://www.soumu.go.jp/main_content/001027039.pdf 総務省は、2025年8月29日、「消費者保護ルールの在り方に関する検討会報告書2025」(以下「本報告書」といいます。)を公表しました。 本報告書では、電気通信事業における消費者保護ルールに関し、以下(1)〜(4)のトピックに基づき、現状や課題、今後の対応等が取りまとめられています。例えば、電気通信事業者に求められる今後の対応について、下記の内容が記載されています。 (1)提供条件説明に関する利用者理解の向上 ・ 利用用途を踏まえた応対の向上に関する宣言を着実に実施するとともに、契約書面を再提示しての再説明等にも早急に取り組むことが求められる。 ・ 上記運用開始後の状況については、苦情件数の推移や苦情内容の傾向を注視しつつ、これらの取組の効果の検証を引き続き行うことが求められる。 ・ 必要に応じて取組の改善措置(サマリーペーパーの作成等)を検討するなど、利用者理解の向上に資するような取組・工夫を継続的に実施していくことが期待される。 (2)「頭金」の状況 ・ 利用者が端末を購入する際に、その端末販売価格や実質支払額を認識した上で購入の判断ができるよう、以下の事項に取り組むことが求められる。 1.端末販売価格に関する表示について (i)携帯電話事業者における店頭価格表示の明確化 (ii)事業者横断での取り決めの検討※39 2.MNO※40各社のウェブページにおける端末販売価格の周知・啓発の強化 ※39 電気通信サービス向上推進協議会において、上記(i)及び(ii)の事項も含め、頭金表示の明確化・適正化のため、「電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドライン」( https://www.tspc.jp/vc-files/tspc/pdf/Criteria_for_advertise_ver13f2.pdf )に頭金表示に関する内容を新たに規定することを検討することが求められるとされています。 ※40 MNOとは、移動通信サービスを提供する電気通信事業を営む者であって、当該移動通信サービスに係る無線局を自ら開設又は運用している者を指します。 (3)据置型Wi-Fiサービスの状況 ・ 店頭での表示を適切に行うとともに、契約解除の条件を含む基本事項の説明を利用者のニーズ等を踏まえて適切に実施するよう、販売代理店への指導を徹底する必要がある。その際、基本事項の説明の際の工夫等、必要な措置を講じていくことが望ましい。 (4)「消費者保護ルールの在り方に関する検討会報告書2024」のフォローアップ 1.電話勧誘に関する適正性確保の在り方 ・各社取組を実施しているにもかかわらず苦情件数が減少しない現状に鑑み、引き続き、電気通信事業者による適正性確保の取組が求められる。 2.オンライン契約における消費者保護の在り方 (i)オンライン契約における利用者の適切な理解を促進する方策特定の苦情が多く発生する際等は、再度表示する項目を見直す等の取組を行うことが望ましい。 (ii)ダークパターンへの対応社内でのチェック体制の構築や第三者を交えた確認等の取組について、引き続き各電気通信事業者等において対応を継続することが望まれる。 (iii)契約手続のDX契約手続、解約手続を含む手続全体のDXの推進に向けた方策を総務省とともに検討していくことが求められる。また、一部の電気通信事業者では、販売代理店への指導等において留意点を示すなど利用者トラブル防止のための取組を追加的に実施している例が見られたところ、こうした取組についても電気通信事業者において横展開されていくことが望ましい。 (iv)ナッジを活用した適切なプラン選択の推進引き続き利用実績を通知するサービスを提供するとともに、利用者にとって効果的な通知が行われるよう取り組むことが望ましい。 【2025年9月12日】 法務省、侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会の第1回会議を実施 https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00215.html 法務省は、2025年9月12日、侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会の第1回会議を実施しました。本検討会の検討事項(案)は以下のとおりであり、今後、第1回会議の議事録が公表される予定です。また、本会議の配布資料において、「侮辱罪の事例集」が紹介されており、参考になります。 1.「侮辱罪の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているか」について 2.「表現の自由その他の自由に対する不当な制約となっていないかどうか」(「侮辱罪に係る公共の利害に関する場合の特例の創設」を含む。)について 3.「インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること」について 4.「損害賠償命令制度の対象事件を拡大すること」について 5.その他 【2025年9月17日】 総務省、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会中間取りまとめ」を公表 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000451.html 総務省内に設置された、デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会は、2025年9月17日、「中間取りまとめ」を公表しました。本中間取りまとめは、デジタル広告ワーキンググループの中間取りまとめと、デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループの中間取りまとめから構成されており、以下の指摘がされております。 ・ デジタル広告ワーキンググループの中間取りまとめ ■ 今後、総務省において、「デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング指針」※41に基づくプラットフォーム事業者のモニタリングを実施することにより、事業者によるデジタル広告を巡る諸課題についての取組状況の改善を図るとともに、本指針を更新することを含めデジタル広告の事前審査及び事後的な削除等について検討することが適当である。 ※41 なりすまし型偽広告や商標権等を侵害する広告など、他人の権利等を侵害する広告に対する広告出稿時の事前審査及び事後的な削除について、SNS等を提供する大規模なプラットフォーム事業者の対応状況をモニタリングする上での方向性や着眼点を示しています。 ■ 今後、総務省において、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」※42の普及・啓発活動を実施するとともに、本ガイダンスの認知・普及状況の実態を把握し、必要に応じて本ガイダンスの見直しが行われることが適当である。 ※42 広告主等が実施することが望ましい、デジタル広告の配信等における体制構築や具体的取組、配信状況の確認について取りまとめたものです(本ガイダンスについては、下記URLをご参照ください( https://www.soumu.go.jp/main_content/001013697.pdf ))。 ・ デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループの中間取りまとめ 1.違法情報(権利侵害情報※43、法令違反情報※44)及び有害情報※45への対応 ■ 権利侵害情報について、情報流通プラットフォーム対処法の適切な運用を行う。 ■ 法令違反情報について、表現の自由にも配慮しつつ、ニーズを把握した上で、実態を把握・分析し、対応を検討すること、特に優先的に対応すべき法令違反情報の絞り込みを行った上で、通報を行う行政機関の透明性の確保の在り方と併せて、対応を検討すること、異議申立手続を追加的に整備するなど、発信者への手続保障のための対応を検討する。 ■ 法益侵害を発生させ、または惹起が確実な情報としての社会的コンセンサスが得られるような一部の有害情報については、個別法において違法であることを明確化したり、新たに違法化されることで、事業者による削除等の適切な対応が図られるようにする。 ※43 名誉権、著作権等の他人の権利を侵害する情報を指すとされています。 ※44 権利侵害情報には該当しないものの刑法等の法令でその情報を流通させることが違法とされている情報を指すとされています。 ※45 違法情報ではない情報のうち、例えば、青少年有害情報(青少年の健全な成長を著しく阻害する情報(暴力、アダルト等))のほか、感染症流行時に健康被害を生じさせ得る医学的に誤った治療法を推奨する情報、存在しない災害・事故・事件が存在するかのように見せかけた偽画像・偽動画、災害発生時に外国人が犯罪行為を行っているとする偽・誤情報などが含まれるとされています。 2.SNS等のサービス設計(サービスの構造そのもの)の在り方について ■ 違法・有害情報の流通・拡散の課題のうち、レコメンダ(推奨)機能の透明化等について、制度的対応を中心に検討を深めていくことが適当である。また、収益化停止措置については、まずは事業者自らが取組を約束することで対応することが望ましいものの、災害時など速やかな対応が求められる状況では、制度的対応を行うこともあり得る。 ■ 違法・有害情報の流通・拡散に関するリスク評価・軽減措置、適切な情報表示(信頼できる情報の優先表示、AI生成物へのラベル付与)については、まずは事業者自らが取組を約束することで対応することが望ましいものの、事業者の取組が不十分な場合、速やかに制度的対応を検討することが適当である。 ■ アカウント開設時の本人確認については、匿名表現の自由の保障の観点から、合憲性の評価の際には慎重な比較衡量を行うことが必要である。 以上
木目田 裕,宮本 聡,桜林 賢,西田 朝輝,澤井 雅登,藤尾 春香