先週、週刊現代の「三越伊勢丹『恐怖の追い出し部屋』でいま起きていること」という記事がネット(「現代ビジネス」)で公開された。

 三越伊勢丹といえば、大西洋前社長が「解任」されたばかり。個人的には大西さんが社長に就任してからの三越伊勢丹は、いい意味で「ちょっと変わったなぁ」と感じていたのでショックだった。

 2014年4月に公開された「伊勢丹タンタン」は見てるだけで楽しかったし、営業時間の短縮、2月・8月の定休日、新年3日初売りなど、「社員が元気じゃなきゃ、いいサービスはできない」という考え方には至極共感していたのだ。

 その大西体制が崩壊した直後の「社内一掃セール」(記事から引用してます)。

 私自身、記事の冒頭を読み始めたときは「マジ?? 恐っ!」と思わず呟いてしまったし、ネットの反応も「ひどい」「不買運動だ!」「買い物が楽しくなくなるよ」などなど否定的なものがほとんどだった。

 でも、記事を読み進めて行くうちに、以前、インタビューしたある会社(三越伊勢丹ではありません)の、役員の方が言っていたことを思い出した。

 「追い出し部屋に行かされるのは、出来の悪い社員とは限らない。そのときの上司との関係や仕事への考え方の違いがきっかけになることもある。なんていうのかなぁ。要は、“運”みたいことがあってね。そうね、運なんですよね」と。

 というわけで、今回は「追い出し部屋に行かされるのは、“運”しだいかもね?」というテーマで、アレコレ考えてみようと思う。

あなたはどう見る、「追い出し部屋」

 まずは記事に書かれていた、「追い出し部屋」に関する内容のみ簡単に紹介する(以下、私の視点で要約させていただきます。元記事はこちら→「三越伊勢丹『恐怖の追い出し部屋』でいま起きていること」)。

 4月1日に、人事部付の「サポートチーム」という新部署ができ、部長クラスから30代まで、総勢50人以上に異動の辞令が下りた。異動と共に降格された人が多く、部長は管理職をはずされ100万円近く年収が減る人もいるのだという。

 新部署はビルのワンフロアで、

・20~30脚の椅子、PC4台、キャビネットが設置、
・部屋は私物置き場と、連絡の場としてのみ利用可。

 また、

・仕事は旗艦店3店舗での販売応援で(お客様の整列、棚の整理など)
・辞令のメールには「今後の会社人生について考えるよう促す」個人面談にも言及していた。

 同僚がサポートチームに追いやられた社員によると……、

 「サポートチームに追いやられた同僚は、さっそく三越日本橋本店の売り場の『お手伝い』をさせられた。お得意様の営業をやっていた奴が、新入社員がやるような棚の整理なんかをやらされる。『なんで俺なんだよ。もっとほかに来るべき奴がいるだろ』と嘆いていた」

 とのこと。
 さらに、

 「大西さんの退陣と同時に大西派の幹部も一斉に粛清したので、社内の“大西派”の社員は、追い出し部屋に戦戦恐恐としている。同期に一割しかなれない部長職まで上りつめても追い出し部屋に行かされたのは、『どんな役職の人間も容赦はしない』というメッセージだ。せっかく出世しても、ついていた上司を間違えただけで左遷かと思うと、やるせない」

 とコメント。

 ちなみに同社は週刊現代の取材に対し、

 「各部署への適正な要員配置と生産性向上のため導入。従業員の雇用確保を大原則としている」と、追い出し部屋を否定している。

 さて、この“在庫一掃セール”、どうなんでしょ?

 「えげつないなぁ」
 「部長に新人でもできる仕事をやらせるって、パワハラだろ」
 「これじゃ、社員の士気は下がるっしょ」

 と批判する?

 「うちだって追い出し部屋あるから仕方ないだろ」
 「上が変わったんだから仕方ないだろ」
 「サラリーマンの宿命。仕方ない」

 とあきらめる?
 あなたはどっち?

 私の見解を述べると、私はいかなる状況であっても、“追い出し部屋制度”(あえてこう呼びます)には反対である。

 これは、会社がどれだけ否定しようとも、心理的なプレッシャーを掛けて「自ら辞めてもらいたい」がための制度で、それ以上でもそれ以下でもない。

 リストラしたいのであれば、正々堂々行うべき。きちんとした手順で、時間をかけ、ターゲットになった社員が納得して自主退社している企業は、世の中には山ほど存在している。

 なぜ、建前と本音を使い分けるのか? なぜ、自分たちにリスクのない「自主退職」を強要するのか? 私にはその“やり方”がどうしても解せないのである。

 心理的なプレッシャーほど傷跡が深く残るものはなく、自尊心を低下させ、残る社員に不安を煽るものはない。

「ついていく上司」=その人の運?

 さらに、ターゲットを免れた“レイオフ・サバイバー”は、自分に対してのみならず、組織にも否定的な反応を示す。怒り、抑うつ、不安、経営層への不満・不信感、リストラされた同僚への罪悪感、会社へのコミットメント低下、人員削減による作業量の増加が生じ、結果的に個人の生産性は下がり、最悪の場合レイオフ・サバイバーがメンタル不全に陥り、予期せぬ人員不足が加速する。

 加えて、会社へのイメージも確実に下がる。

 「あの会社、追い出し部屋作ったそうよ」
 「え? そうなの?」
 「コストカットってことよね」
 「高いお金払って買ってるのに、心配だわ。製品の品質は大丈夫なのかしら?」
 「そうよ。高いだけに心配だわ~」

 なんて具合に、顧客不安が広がるかもしれないのだ。

 つまり、“追い出し部屋”ほど不毛な施策は存在しないのである。

 しかしながら、やり方には反対だが、記事には「??」というコメントが含まれていたのもまた事実。「ついてきた上司を間違えただけで左遷」というコメントには、申し訳ないけどちっとも共感できなかった。

 気持ちはわかる。

 でも、トップが変われば組織は変わる。上司が変われば、求められる部下も変わる。それは企業に雇われている人であれ、フリーランスで契約している人であれ状況は同じで、いわば「マッチングの問題」。

 実際、前社長の大西氏も昨年、雑誌のインタビューで、

 「当社は言われたことをしっかりやるゼネラリストの集団で、外れたことをする社員は肩身の狭い思いをしている。社内で認められなかった社員は辞めてしまった。私が社長に就任したときは、辞めて外で活躍している人たちを戻したいと思っていました」

 と語っている。

 つまり、部長に出世したのも、ひょっとしたらたまたま「運」が良かっただけ。たまたま大西さんが社長だったから、部長になれただけかもしれないのだ。

 そもそも「出世=業績に貢献してきた優秀な社員」とは限らない。部長になれなかった同期より「能力が高い」とは必ずしも言えない。

 「昇進するのは、どういう人なのか?」――。
 これは古くから国内外で、組織やキャリア発達を研究する学者たちの関心の的だった。

 その結果、「昇進と実績は無関係」という結論に多くの論文が至っている。

 っと、コレは言い過ぎた。

 昇進と業務実績との関連を“統計的な手法”で分析して行くと、「業務実績の良さと昇進」との間には統計的に有意な関連は認められない。つまり、「業務実績が高い→昇進」ではない。

 では、何が関連しているのか? 

案外、スチャラカ社員が出世する?

 先行研究をレビューすると、「学歴」、「採用時に自分が○をつけたか否か」、「入社時の評価」、「性別」などに、統計的に有意な関係が認められている。

 また「実績との関連性が認められた」とする論文でも、詳細に分析すると優先されるのは在職期間、学歴、残業時間の多さ、欠勤の少なさで、これらを調整すると「業績との関連」は消える。つまり、ここでも「業績が良いだけで昇進するわけじゃない」という、「まぁ、そりゃあそうだよね」という、当たり前といえば当たり前の結論が示されているのだ。

 “昇進の謎の研究”には、ちょっとばかり面白いものもある。

 今回の件とは関係ないけど、「無責任な人ほど出世する」という結果が、いくつかの論文で示されているのだ。

 海外ではニューヨーク大学特任教授のB.ダットナーらが、具体的なCEOの名前と企業の不祥事などから論述(「失敗と責任の心理学」)。

 国内ではかなり古い文献になるが、1984年に寄稿された「わが国大企業の中間管理職とその昇進」で分析されている。

 この論文は、日本電気、日立製作所、東芝、三井物産、三菱商事、日商岩井(現・双日)などの40歳代の社員、計1470人を対象にしたもので、「責任感や几帳面さは、マイナスに作用する」と指摘。

 と同時に、やはりここでも「部課長までの昇進には、学歴と早い時期での評価が圧倒的に重要である」とした。

 でも、それって今から30年以上前じゃん、って?

 確かに。だが、人事評価を行うのは「人」。人間の本質は時代で変わるものではない。どんなに評価項目を明確にしようとも評価する人のバイアスを取り除くのはムリ。

 「なんで俺なんだよ。もっとほかに来るべき奴がいるだろ」という追い出し部屋に飛ばされた人の嘆きも一緒。

 評価は、常に自分自身でも行っていて、その中で自分を「平均以下」と評する人はごくまれである。大抵は自己評価を高めに見積もっている。心理学でいうところの「平均以上効果」だ。
 このちょっとだけ高い「自己評価」と「他者評価」のギャップが、不満、怒り、自己嫌悪をもたらす原因となる。

 評価が明確だとされるアメリカでさえ、労働者の48%が職場で評価されていないと感じているので(アメリカ心理学会報告)、日本なら48%の2割増し、6~7割の人が不満をもっていたとしても不思議ではない。

 だいたい責任感が強くて部下の失敗を背負ってしまえば、その時点で昇進にはマイナスだ。逆に、部下の手柄を自分の手柄のごとく振舞い、出世していく人は山ほどいる。

 「失敗したらどうする?責任とれるのか」が口癖で、失敗はないけど成功もない。そんな人畜無害(企業無害か?)な人が昇進するケースも珍しくない。

 「追い出し部屋に行かされるのは、出来の悪い社員とは限らない。そのときの上司との関係や仕事への考え方の違いがきっかけになることもある。要は、“運”みたいことがある」―― 。

 と、ある役員の方がいうように、出世も左遷も、「運」次第かもしれないのだ。

 運が味方して出世することもあれば、運に見放され「追い出し部屋」への辞令が出ることもある。

 いつの時代も人事とは理不尽なもの。
 人生は常に、ありえないことの連続なのだ。

「運の悪さ」と納得できない「心理的契約」の重さ

 とはいえ、頭ではわかっても心がついていかない。
 他人には「運が悪かっただけ」と言えても、自分では腑に落ちない。

 自分が突然、会社の“コスト”としか扱われてないことを突きつけられ、むなしくなる。

 自分の存在意義がわからなくなり、自分のすべてが否定されたようで途方に暮れる。
 会社に裏切られた――。
 どこにもぶつけようのない理不尽な気持ちに、押しつぶされそうになってしまうのである。

 心理的契約――。
 これは「組織によって具体化される、個人と組織の間の交換条件に関する従業員側の知覚」で、日本企業の雇用関係は心理的契約によって支えられてきた部分が大きい。

 「心理的」としている通り、法的な契約や職務契約とは異なる。そして心理的契約は「終身雇用」「長期雇用」といった文章化された契約書がない場合だけに生じるものではない。
 米国のように明確化された契約書がある場合にも生じる。そもそも、「心理的契約=Psychological contract」は欧米で生まれ、雇用関係の議論で中核概念に位置づけられている。

 つまり、どんなに詳細に明文化しようとも、不測の事態は常に生じるからだ。

 心理的契約は多くの場合、会社という目に見えない組織だけでなく、実際に日々関わる上司(=経営者)との関係性において構築され、働く人たちの意欲に影響する極めて重要な要因のひとつだ。

 日本の経営者は「心理的契約」を重要視していないと、かねてから研究者の間では指摘されてきた。1958年に経営学者のジェイムズ・アベグレンが著書『日本の経営』の中で、日本企業の特徴は「終身雇用に代表される心理的契約にある」としているにも関わらず、だ。

 ある意味この「心理的契約」、つまり「私は企業から大切にされている」と従業員が思える企業との関係性が日本企業の強みでもあった。

 ところが、バブル崩壊以降「組織再構築」を意味するリストラクチャリングが、専ら「不採算事業・部署や従業員を削減すること」を表す言葉として定着した日本では、ある日突然、いとも簡単に「人」を「コスト」とし、契約の不履行を平然と行っている。本来であれば、契約の不履行により生じるリスクを最小限に抑える努力をする必要があるのに、それをしない。

 当たり前のようにあったものほどその存在に気付かないものだが、“心理的契約”も日本企業にとってはそのひとつ。それが双方にとって意味がない「追い出し部屋制度」が後を絶たない理由なのだ。

相思相愛は永遠じゃないと覚悟する

 ちょっとばかり違うかもしてないけど、ゲス不倫。つまり、社員は裏切られないと信じているのに、会社はしれっと違うことをやっている。ふむ。やはり、ゲス不倫だな。

 さて、この“ゲス”状況を乗りきるには、従業員側は昭和ノスタルジーから脱し、“離婚”しても自活できるだけの力をつけておかなくてはならない。すでに「自分だけは大丈夫」という時代ではないわけで。

 どんなに結婚したときに相思相愛で、「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しい ときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす」と誓った夫婦でも、離婚することがある。

 そのときに「別れても食っていける」という力を妻がもっていれば、離婚によるストレス度合いは格段に低下する。

 そして、食っていける力を持っておけば、必ずや“運”が味方してくれる日が訪れる。
 少なくとも私はそう信じています。

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