ポテトチップス業界に革命!史上"最薄”への挑戦 「ポテトチップス 超薄切り」ができるまで
「パリッ」「ザクッザクッ」「さっくり」―。カルビーは、じゃがいものスライス方法を変えることで多様な食感のポテトチップスを生み出してきました。そんな中、2017 年に「くしゃポテ」として誕生したカルビー史上“最薄”のポテトチップスが、現在の「ポテトチップス 超薄切り(以下、超薄切り)」です。これまでになかった「くしゃ」とした食感はポテトチップス業界に新たな風を吹かせました。今回はこの「超薄切り」を開発した吉田さんにお話を伺いました。
吉田 正也(よしだ まさや)
カルビー株式会社
研究開発本部 商品開発1部 部長
2006年入社。以降3年間、広島西工場(現:広島はつかいち工場)ポテトチップス製造課に所属。その後、ポテトチップスや新規商品の開発に従事し、「ポテトチップス しあわせバタ~」などを担当。2025年4月より現職。
きっかけは“やってみた”
「開発当時、ポテトチップス業界で流行していたのは、贅沢さを感じられる厚切りの商品。ポテトチップスを薄切りにするという発想自体、流行に逆張りだったと思います」
吉田さんは振り返ります。
薄切りポテトチップスの開発が動き出したのは2014年。開発チームの一人が試しに薄くスライスしたじゃがいもでポテトチップスをつくってみたところ、今までにない軽くておもしろい食感のポテトチップスができあがったといいます。“これは可能性がある”と考え、本格的に薄切りポテトチップスの開発に踏み出すことを決めました。
「カルビーには、自由に商品づくりにチャレンジできる文化が根付いています。担当商品の開発を行いながら、自分の興味のあることに取り組むことが推奨されているんです。先輩たちが築いたこの文化が続いているからこそ、『超薄切り』も生まれたのだと思います」
“極限”の薄さ
薄さをどのように決めたのか聞くと、吉田さんはこう答えました。
「限界まで」
現在ポテトチップスを製造するメーカーが使用している一般的な機械では、これ以上薄くスライスすることはできないだろうといいます。極限の薄さを目指して、厚みの調整は0.1mm以下の単位で行いました。
下の写真は、フライする前のじゃがいものスライスの比較。左が「超薄切り」、右が通常のポテトチップスです。厚みがわかりやすいようにパッケージの一部を下に置いてみると、「超薄切り」は文字が透けて見えるほど薄いのがわかります 。
「特徴的なくしゃっとした一口サイズの形状も、この薄さゆえに生まれたもの。薄くなったことで、チップがフライ中に小さくたたんだような形になるのです」
“油っぽさ”の克服
商品化に向けて、課題は多かったといいます。
最も大きな壁となったのは“油っぽさの克服”でした。通常に比べて薄くスライスする薄切りポテトチップスは、相対的に使用する油が多くなりやすく、じゃがいもの風味が損なわれてしまいました。これを解決しないことには商品の未来がないと考えた吉田さんは、2つのことに取り組みます。
まず 、油の選定です。吉田さんには“ポテトチップスの主役はあくまでじゃがいも”という信念がありました。そこで、じゃがいもの風味を最大限に引き出せるフライ油を探すことにしたのです。
「一般的なポテトチップスで使用しているパーム油や米油でフライすると、どうしても油の風味が強くなってしまいます。そこで目を付けたのが“ひまわり油”でした。他にも菜種油、オリーブオイル、グレープシードオイルなど、あらゆる品種や組み合わせを試してみましたが、一番じゃがいものおいしさを引き立ててくれたのがこの油でした」
カルビーのポテトチップスでひまわり油を使用するのは初めて。当時は購入ルートもなく、多量のひまわり油を供給できるサプライヤーの検討にも時間がかかったそうです。
ひまわり油を使うことで大きく前進した吉田さんたち。しかしまだ油の風味が強く感じられました。そこで次に取り組んだのが、製造工程の革新です。
「企業秘密なので詳しくはお伝えできませんが、特別な製造工程を導入することで、相対的に使用する油の量を通常のポテトチップスと同等レベルまで減らすことができました。この工程の確立が、商品の品質向上に大きく貢献したことは間違いありません。他社には真似できない独自の技術だと考えています」
こうした試行錯誤の末、「超薄切り」の原型ができあがりました。
前例のない挑戦
この商品の工場生産を実現するためには、専用の製造ラインをゼロからつくる必要がありました。世界的にも前例のない商品だったといいます。
「一般的な商品開発であれば手順や相談先も整備されていますが 、今回はそうはいきませんでした。そこでまずは、R&Dセンターの実験室に小規模なテストラインをつくり、試作を重ねることにしたんです。最初の頃は人手で行う作業が多く、まるでラーメン屋の寸動鍋を使って調理しているような状態でした。試行錯誤の連続に、とても苦労しましたが、新しい製法を確立するためには必要な過程だったと思います」
こうして完成した薄切りポテトチップスはその形状から「くしゃポテ」と名付けられ、2017年から首都圏の一部店舗でテスト発売を開始しました。
リブランディングで再出発
満を持して発売をスタートした「くしゃポテ」ですが、当初は苦戦したといいます。
「店頭で目立つように、商品一つ一つにポップを貼り付けて販売店に並べてもらうなど工夫してみましたが、思うように売り上げが伸びませんでした。そんな中、商品名を変えたほうがよいのではないかという意見がでてきたんです。“くしゃ”という響きは、“くしゃっとした笑顔”のようなプラスのイメージが感じられる一方で、“くしゃくしゃに丸めて捨てる”のようなマイナスイメージを持つ方もいるのではないかとのいう指摘です。当初から開発に携わってきたメンバーは“くしゃ”の愛称で呼んでいたので、商品名の変更することには迷いもありましたが、なんとかこの商品を世の中に送り出したいという想いで商品名の変更を決めました」
こうして2020年からは新たなポテトチップスという意味を込めた「新(シン)」と英語で“薄い”の意味をもつ「THIN(シン)」を掛け合わせた「シンポテト」の名前に変えて全国発売を開始。それでもまだ目標の売り上げには到達しませんでした。
ターニングポイントとなったのは、2024年の「カルビー ポテトチップス」シリーズのリブランディングでした。カルビーは、これまで個別ブランドとして発売していた「シンポテト」と「ポテトチップス ギザギザⓇ(厚切りポテトチップス)」を「カルビー ポテトチップス」シリーズのサブブランドとしました。認知度の高い「カルビー ポテトチップス」シリーズのひとつとすることで、お客様に気軽に試していただけるのではないかと考えたのです。食感の違いを食べ比べてもらうことも期待しました。
さらに、商品の特長が伝わりやすいように「シンポテト」は「ポテトチップス 超薄切り」に、「ギザギザⓇ」は「ポテトチップスザ厚切り」に商品名を変更しました。
「『超薄切り』という商品名が生まれたのは、あるマーケティング担当者の提案がきっかけです。食パンの枚数表記(6枚切り、8枚切りなど)を参考に、ポテトチップスも“切り方”を商品名で表現したらもっと価値が伝わるのではないかという考えでした。また、定番のポテトチップスを“薄切り”と呼ぶお客様がいることもヒントになりました。
リブランディングは食感の違いをアピールする良い機会になりましたし、工夫を重ねた商品価値を多くの人に伝えられるのは嬉しいことでした」
このリニューアルで「超薄切り」の売り上げは上向きに転換。リニューアルを経て、売り上げは前年度の約1.4倍となりました。
吉田さんは「超薄切り」の開発をこう振り返ります。
「長く開発に携わったこの商品とは、一緒に成長してきたように感じています。試作品を食べた上司が想像以上の出来栄えだと驚いていたときは、自分のアイデアが形になったんだと大きな達成感がありました。また実際に食べたお客様から評価をいただいたときは格別に嬉しく、私たちの商品づくりは間違いではなかったと実感できます」
写真:櫛引 亮
文:瀧澤 彩


