都市に“里山の風景”をもう一度――カルビー本社で始めた「上川の里」再生プロジェクト
東京都といえども、少し郊外に足を伸ばせば豊かな緑が広がり、かつては人々の暮らしと共にあった里山が多く存在しました。
都市化の波の中で忘れ去られつつある自然に、再び人の手を入れ、里山を蘇らせようとする動きが始まっています。
カルビー本社の社会貢献委員会では、東京・八王子市の里山「上川の里」の環境保全プロジェクトを行っています。
これまで、カルビーでは工場や支店の近くで森林保全活動を行ってきました。しかし今回は首都圏での活動です。なぜ、八王子を選んだのでしょうか?
その理由と開始までの経緯を、プロジェクトの立ち上げに携わった方々を代表して中村泰詩さん、武内聡さん、今期より活動を受け継ぐ溜箭あかねさんに伺いました。
きっかけは営業社員からの声
首都圏での環境保全活動の拠点を探し始めた話は、2023年にさかのぼります。
首都圏第二支店(営業)の社員から、「地域に根ざした環境保全活動に取り組みたい」という声があがったことがきっかけでした。
カルビーの社会貢献活動は全国各地の事業所で、社員自らの手によって率先的に行われているのが特徴です。
自然の恵みであるじゃがいもを多く使用し、そのじゃがいもを栽培するのに大量の水が必要なことから、北海道、愛知県、滋賀県、栃木県、広島県で森林保全活動に取り組んできました。2023年には宮城県で被災地の森林づくりを推進する活動も開始しています。
本社(東京都千代田区丸の内)には約700名の社員が在籍しています。これまでも本社オフィス近隣の清掃や神奈川県の浜辺でのごみ拾いなどに都度参加してきましたが、拠点を定め継続的に取り組む活動にはつながっていませんでした。
ゼロから始めた活動地探し
「社会貢献委員とはいえ、正直まったく手がかりがありませんでした。とにかく動かなければ始まらない。まずは都や区市町村の環境への取組みを調べ、メールを送る日々が続きました」
こう語るのは社会貢献委員会の中村泰詩さん。
各自治体はそれぞれの地域に合った環境活動を行っており、ウェブサイトだけでは詳細がわからず、やや行き詰まりを感じていた頃──
八王子市から一通の返信が届きます。
八王子市は多摩地域南部に位置し東京都の市町村の中で最も人口が多い中核市です。
市の西側は山梨県、神奈川県から続く山々の丘陵地帯に囲まれ、東側は関東平野に続きます。古くから山と人が共存し丘陵地帯では谷戸(*)に里山が形成され発展してきました。
しかし時代とともに、都市化するなどの理由で里山に人が入らなくなり、市もまた「荒れた里山を市民が戻れる場所にしたい」と模索していたところでした。
(*)谷戸:関東地方に多く見られる丘陵地にある谷状の地形。湧水が豊富で水田をはじめとする農業活動やその生態系を含めて指すこともある。
「かつての里山を取り戻したい」―八王子市の想いと重なる
こうして候補地となった八王子市での具体的な活動を詰めていくため、中村さんは、当時の支店の社会貢献委員メンバーや支店長の武内さんへとバトンをつなぎます。
首都圏第二支店は多摩地域を含む首都圏の営業を担当しており、八王子市はなじみのある地域でした。
武内さんは、「面白そうだ。場所もいいし、近い」と、すぐに現地八王子市上川町の視察を決定。
そして2024年7月に、八王子市と「上川の里保全活動協定」を締結。プロジェクトは本格始動を迎えました。
草刈りから始まる未来—目指すはじゃがいも畑と収穫祭
現地に足を運んでみると、そこはごみの山。放置されたビニール、壊れた柵、伸び放題の竹林…。
不法投棄されたごみも見受けられ、第1回目の活動は、ひたすら清掃と整地の作業から始まりました。
「道のりはまだ遠いですが、地域の方々と一緒に“この土地をどう使うか”を考えていくこと。それこそが、本当の意味での社会貢献だと思うんです」と武内さんは語ります。
「将来的には整備された里山に、カルビーの主力作物であるじゃがいもを植えて、収穫の時期には地域の皆さんと“収穫祭”を開催したいですね」—。そんな未来のイメージも膨らんできます。
本社での環境保全活動へ―社員の想いが形になった瞬間
この取り組みは2025年度より、本社の社会貢献活動として受け継がれることとなりました。本社に所属する社員の地域に根ざした継続的な活動を目指しています。
八王子市役所 環境保全課、NPOフュージョン長池(八王子市内の公園管理・環境系施設の運営業務を担う) 小林健人さんにもご参加いただき、アドバイスや活動後の自然観察ガイドを実施いただいた
「全国でさまざまな活動が行われていますが、首都圏での環境保全活動は初めての試みです。でも、どこにいても環境と人、企業活動は切っても切り離せないものだと思います」と、社会貢献委員の溜箭さんは語ります。
| 米本光治(こめもと こうじ)さん| 八王子市 環境部 環境保全課| 自然環境に関する仕事に携わりたいと異動希望をだし念願の環境保全課に。本活動を推進・支援する。「順応的管理といって、きれいでスマートな公園ではなく、この地域固有の生態系にあわせた整備と保全を目指していただきたいです」(写真左)
社員の変化、そして社会へのまなざし
取材の最後に、中村さんがこんな話を聞かせてくれました。
「今では街を歩いていても、雑草の伸び方や川の流れに自然と目がいくようになったんです。それは、地域も企業も“関わることで見えるものがある”ということではないでしょうか」
拠点での活動だけでなく、普段から身近な自然やまちの景色を意識する・・・。そんな小さな気づきから、私たちの社会貢献活動は始まっていくのかもしれません。
皆さんの身の回りにも、“取り戻したい風景”はありませんか?
文・写真:伊藤 奈美子

