| 事件番号 | 昭和57(オ)426 |
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| 事件名 | 保険金還付 |
| 裁判年月日 | 昭和60年11月15日 |
| 法廷名 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 裁判種別 | 判決 |
| 結果 | 破棄自判 |
| 判例集等巻・号・頁 | 民集 第39巻7号1487頁 |
| 原審裁判所名 | 大阪高等裁判所 |
| 原審事件番号 | 昭和56(ネ)597 |
| 原審裁判年月日 | 昭和57年1月29日 |
| 判示事項 | 破産法人の簡易生命保険の還付金請求権と破産財団への帰属 |
| 裁判要旨 | 簡易生命保険の保険金受取人である法人が破産宣告を受けて解散した場合には、簡易生命保険法三九条一項の規定に基づく還付金請求権は、破産財団に属する。 |
| 参照法条 | 簡易生命保険法39条1項,簡易生命保険法50条,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)6条 |
| 裁判日:西暦 | 1985-11-15 |
| 情報公開日 | 2017-10-18 06:47:59 |
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原判決を破棄する。 被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理 由 上告代理人佐伯照道、同西垣立也、同辰野久夫の上告理由について 法人を保険金受取人とする簡易生命保険契約において、法人が破産宣告を受けて解散した場合には、簡易生命保険法三九条の規定に基づく還付金請求権は破産財団に属するものと解するのが相当である。けだし、同法五〇条が還付金を受け取るべき権利は差し押さえることができないものとした趣旨は、これを保険金受取人の債権者の一般担保としないことによつて、保険金受取人の最低生活を保障することにあると解されるところ、保険金受取人が破産宣告を受けた場合においては、それが自然人であるときには、その最低生活を保障するために破産法六条三項を適用して還付金請求権を自由財産として残すことが要請されるのに対し、保険金受取人が法人であり、破産宣告を受けて解散したときには、還付金請求権を破産財団から除外して破産法人の自由な管理処分に委ねるべき合理的根拠はもはや存在しないものといわざるをえないから、同規定は適用されないというべきである。 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実関係によれば、(一) 株式会社D商会(以下破産会社という。)は、昭和四四年六月、郵政省簡易保険局長との間で、(1) 保険の種類一〇年払込一五年満期養老保険、(2) 保険金額一五〇万円、(3) 被保険者E、(4) 保険金受取人破産会社、(5) 保険契約の効力発生の日昭和四四年六月二一日とする簡易生命保険契約を締結した、(二) 右契約は、破産会社が被上告人に対して昭和五三年六月分の保険料を支払わなかつたため、同年九月二〇日に失効した、(三) その結果、破産会社は、被上告人に対し、還付金一一二万五〇〇〇円及び剰余金二二万六八〇〇円の合計一三五万一八〇〇円から未払保険料三万二四〇〇円を控除した残額一三一万九四〇〇円(以下本件還付金等という。)を受け取るべき権利を取得した、(四) 破産会社は、昭和五三年八月一七日大阪地方裁判所において破産宣告を受け、同日上告人がその破産管財人に選任された、(五) そこで、上告人は、昭和五四年一〇月二六日、被上告人に対し、本件還付金等の支払を求めた、というのである。 しかるところ、原審は、上告人の本件還付金等の支払を求める本訴請求につき、簡易生命保険法五〇条の規定が自然人と法人とを区別していないこと及び法人が簡易生命保険に加入することは同法一条の趣旨に合致することを理由に、本件還付金等を受け取るべき権利は差し押さえることができず、したがつて、右権利は破産会社の破産財団には属しないものというべきであるとし、上告人の本訴請求を棄却している。 しかしながら、上告人の本訴請求のうち還付金の支払を求める部分については、前記の説示に照らし、右還付金請求権が破産会社の破産財団に属することは明らかであるから、これが破産会社の破産財団に属しないとした原審の判断には法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、また、上告人の本訴請求のうち剰余金の支払を求める部分については、簡易生命保険法五〇条の規定の適用のないことは、同法四九条の規定との対比上明らかであるから、原審が右請求を棄却したのは明らかに同法五〇条、破産法六条三項の規定の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであつて、以上の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した前記事実関係によれば、上告人の本訴請求は正当として認容すべきものであるから、これと同旨の第一審判決は正当であり、被上告人の控訴は理由がないものとして、これを棄却すべきである。 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官島谷六郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官島谷六郎の反対意見は、次のとおりである。 私は、保険金受取人である法人が破産宣告を受けて解散した場合は、還付金請求権をなお破産法人に留保してその自由な管理処分に委ねるべき合理的根拠を欠くから、破産法六条三項の規定は適用されない、とする多数意見にはにわかに賛同することができない。 もとより、簡易生命保険の保険契約者であり保険金受取人でもある法人が破産した場合に、還付金請求権を破産財団に属せしめず、自由財産として法人に留保しておくことが不合理であることについては、私も多数意見と見解を同じくするものである。しかし、それだからといつて、破産法六条三項、簡易生命保険法五〇条の規定が存するにもかかわらず、還付金請求権が破産財団に属するものと解することは許されないものと思料する。 そもそも簡易生命保険は、国民に、簡易に利用できる生命保険を、確実な経営によつて、なるべく安い保険料で提供し、もつて国民の経済生活の安定を図り、その福祉を増進することを目的としている(簡易生命保険法一条)のであるが、その沿革をたどれば、大正五年の旧簡易生命保険法によつて発足した制度である。当時、保険金額の比較的高額であつた民営保険に加入できない低所得者層を対象とした、保険金額の小さい保険(当時、小口保険は事業費が割高となるため民営に適しないものとされた。)を発足させた社会政策立法であり、国の独占事業として創設されたものであるが、戦後は、国の独占事業ではなくなり、民営保険でも広く小口保険が行われることになつた。しかも、簡易生命保険においても、保険契約者が法人組織の企業である場合が増加してきており、本来低所得者層のための制度として発足したものでありながら、今日においては民営保険と変るところのない事業となつているのである。ところが、民営の生命保険においては、保険金又は還付金を受け取るべき権利について、その差し押さえを禁止する法の規定がないのに、簡易生命保険においてのみこれが存するのであつて、全く同じ事業を行いながら、この点については両者間に大きな差異が生じている。法人が保険契約者である場合についてまで、保険金又は還付金を受け取るべき権利を差押禁止としなければならないかどうかは問題であり、ことに、保険金受取人である法人が破産宣告を受けて解散した場合にまで破産財団に属しない自由財産として残すことは、不合理といわなければならないのであつて、簡易生命保険法五〇条の規定は、再検討されて然るべきであると考えられる。 しかし、現行法は、破産法六条三項本文が差し押さえることのできない財産は破産財団に属しないとの原則を定め、また、簡易生命保険法五〇条が保険金受取人の還付金請求権を差し押さえることのできないものとしている。したがつて、右の還付金請求権は破産財団に属しないものと解すべきである。破産法六条三項但書は、差し押さえることのできない財産であつても、破産宣告があつた場合には破産財団に属することとなる例外的な財産を掲げているが、右の還付金請求権はこれに含まれておらず、簡易生命保険法も右の権利についてそのような特則を設けていない。例外を定めた破産法六条三項但書の規定は厳格に解釈すべきものであり、また、これに掲げられている財産と対比検討しても、右の権利に同項但書を類推適用することは相当でない。したがつて、破産宣告を受けた法人が保険金受取人として有する還付金請求権を破産財団に属しない自由財産とすることが不合理であるからといつて、多数意見のいうように解釈することは許されないところである。 よつて、私は、原判決中還付金の請求に関する部分については、原審の判断を維持すべきものと考える。 最高裁判所第二小法廷 裁判長裁判官 島 谷 六 郎 裁判官 木 下 忠 良 裁判官 大 橋 進 裁判官 牧 圭 次 裁判官 藤 島 昭 |