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 印刷 2023年07月13日デイリー版2面

エバーグリーン、1.6万TEU型発注決定。NSY8隻・サムスン重16隻

メタノール燃料船の初整備を正式に決めた
メタノール燃料船の初整備を正式に決めた

 台湾船社エバーグリーンは11日、メタノール燃料焚(だ)きの1万6000TEU型コンテナ船24隻の新造整備を決めたと発表した。日本シップヤード(NSY)に8隻、韓国のサムスン重工業に16隻それぞれ発注する。エバーグリーンが2元燃料(DF)船を整備するのは初めて。最大50億ドル超(約7000億円)の大型投資となる。新造船は自社で発注する模様。船価勝負の側面が強まる自社船の大型調達商談で、NSYが中韓に競り勝ち受注を果たしたことは、日本造船所の営業戦略に一定の影響を与えそうだ。

 24隻の新造整備計画は、シンガポール法人エバーグリーン・マリン・アジア(EMA)の取締役会が決議した。

 総投資額は43億2000万ドルから50億4000万ドル。船価は1隻当たり1億8000万ドルから2億1000万ドルになる。納期は非公表だが、2027年とみられる。

 エバーグリーンは4月、メタノール対応のDFエンジンを搭載した1万6000TEU型24隻の新造整備で国際入札を開始。先月には、今治造船とジャパンマリンユナイテッド(JMU)の営業・設計合弁会社NSY、サムスン重工の2社が受注を分け合ったことが表面化したが、両社の成約隻数や船価など詳細は明らかになっていなかった。

 エバーグリーンが今回、整備決定を正式に発表したことで、NSYのメタノール焚きメガコンテナ船の初受注が確定した。NSYの成約分は全船を今治造船で建造するとみられる。

 コンテナ運賃市況の高騰で手元資金が潤沢になったエバーグリーンはここ数年、新造用船ではなく自社船による新造船の調達を志向。今回の1万6000TEU型も自社発注するようだ。

 自社船での整備では新造用船と異なり、造船所にとっては船価勝負の側面が強まる。このため、今治造船グループの船舶保有会社、正栄汽船を活用した用船ベースの営業スキームに強みを持つNSYには逆風。今回の商談は当初、売り切り型で安値を提示する中国造船所が優位との見方があった中、エバーグリーンが中国ヤードの地政学リスクをどう評価するかが焦点になっていた。

 入札に参加した造船所は不明。しかし情報筋によると、エバーグリーンが応札を5月半ばに締め切った後、建造ヤードの候補は6月前半時点で「日本と複数の韓国ヤードに絞られ、中国造船所は最終選考に残らなかった」(市場関係者)ようだ。台湾船社のエバーグリーンが、台湾有事を含む中国での政治・経済や地政学上のリスクの高まりを忌避した可能性がある。

 一部の海外船主の間ではロシアによるウクライナ侵攻を境に、中国の地政学リスクの高まりを警戒し、船価を上乗せしてでも日本建造を志向する動きが出ている。

 エバーグリーンは21年、同社最大船型となる2万4000TEU型計4隻を中国船舶集団(CSSC)傘下の滬東中華造船と江南造船で新造整備することを決定。1800―3000TEU型のフィーダーコンテナ船24隻も同グループの中船黄埔文冲船舶に発注し、さらに昨年3月、2万4000TEU型3隻を滬東中華造船に追加発注した。

 今回の1万6000TEU型24隻の建造ヤード選定では、このようにエバーグリーンの近年の新造船建造を多数担ってきた中国造船所が漏れる一方、NSYが選ばれた。この結果は、大型コンテナ船の新造商談で中韓のメガヤードと競合してきた日本造船所の今後の受注戦略に、一定の影響を与える可能性がある。