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厚労省からの行政指導が「強い圧力」に…“処方せん無し”で薬を買える「零売」訴訟で全国の薬局が証言

厚労省からの行政指導が「強い圧力」に…“処方せん無し”で薬を買える「零売」訴訟で全国の薬局が証言
会見を開いた西浦弁護士(手前)、証言者と原告ら(10月31日/弁護士JPニュース編集部撮影)

処方せんがない患者にも医薬品を薬局で販売する「零売(れいばい)」が法律の根拠なく「通知」だけで規制されていることは違憲・違法であるとして、薬局が国を相手取り、地位の確認や損害賠償を求めて提訴した訴訟の第3回口頭弁論期日が10月31日に開かれた(東京地裁)。

今回の期日にあたって、原告側は全国の零売薬局から、厚労省が行っていた行政指導の実態に関する情報を集めた。期日後に開かれた記者会見で、原告代理人の西浦善彦弁護士は「(厚労省から零売薬局に対する)きわめて強い圧力が予想以上にあった」と語る。

厚労省に呼び出され机を叩かれる、看板の撤去や念書の執筆を求められる…

本訴訟の原告は東京都豊島区の「長澤薬品」と港区の「Grand Health株式会社」、および福岡県福岡市の「まゆみ薬局株式会社」。いずれも、零売薬局の運営に携わっている。

そして今回の期日では、東京都内に「オオギ薬局」の名称で7店舗を展開している株式会社FAN OUT(千代田区)代表の扇柳創輔氏とオオギ薬局恵比寿店の代表である村上正樹氏の証言、さらに匿名の証言も含む準備書面が裁判所に提出された。

厚労省は2014年に「薬局医薬品の取扱いについて」との通知を出し、零売について一般人に広告することを禁止した。また2022年には「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」との通知を出し、広告について表現内容にふみ込んだ具体的な規制を行っている。

証言によると扇柳氏・村上氏は2021年に厚労省に呼び出され、3名の薬事企画官から、零売について広告やホームページで宣伝しないように求められた。また、2022年にも呼び出され「なぜ前回指導したことをやらないのか」「ちゃんとやれ」などと高圧的な態度で言われたという。

さらに、仮に指導に従わなかった場合にはどうなるかと扇柳氏が質問したところ「通知を守ることが前提だ」と言われ、机を強く叩かれたとのこと。

「零売を行っていた他の薬局のなかには、厚労省に呼び出されたことが原因で零売を辞めたところもある。国側は『アドバイスに過ぎない』と主張しているが、実質的には(強圧的な)行政指導だ」(扇柳氏)

「国側は『通知は行政内部の決まりに過ぎない』と主張しているが、自分は厚労省からプレッシャーを受けて萎縮させられた。国側の主張は道理が通じない」(村上氏)

匿名の証言では、保健所の職員などが何度も薬局を訪れて「処方せんなしで病院の薬が買える薬局」との記載がある看板を即時撤去するように強く求めたことや、「こういう販売はしないと念書を書きなさい」「こういう業態は倫理的におかしい」などの強圧的な指導を繰り返したことが指摘されていた。

証言を行った扇柳氏(右)と村上氏(左)(10月31日/弁護士JPニュース編集部撮影)

原告側は、厚労省の通知が「いずれも外部的効果を有するものでその執拗(しつよう)な行政指導の根拠となっており、地方公共団体に対する技術的指導を越えて、原告らその他の零売薬局の権利義務に対して直接的な制限をかけているものであることは明白である」と主張している。

「零売は患者や社会にとっても利益がある」

零売薬局を経営する薬剤師らが共通して語るのは、患者は薬を処方してもらうために病院で何十分も待つ必要がなくなり、また医師の診察に伴う医療費を削減できるなど、零売は薬剤師だけでなく患者や社会にとっても利益がある、という主張だ。

扇柳氏は、厚労省からの行政指導の後にも零売を続けたい理由について「時間が無いなど、さまざまな事情で困っている人にとって、いまの医療制度では零売が最後の助け舟になっている」と語る。

Grand Health株式会社では厚労省による指導・通知が原因で社員が相次いで退職し、代表の箱石智史氏は自身で出勤する必要が生じたことから、本日の期日に参加できなかった。

長澤薬品代表の長澤育弘氏は上記について「国の通知が零売薬局の経営に打撃を与えているという、なによりの証拠」と指摘。「零売の規制は不当であり、これを認めてしまうと薬剤師の正当な職位を守れなくなる。私たちは法律の裏付けのない不当な圧力に、決して引き下がらない」と語った。

なお、今年5月に成立した改正薬機法には、零売を原則的に禁止する内容が含まれている。同法は来年5月1日から施行される予定だが、国側は今回の期日で「零売を禁止する内容は来年5月よりも後に施行する予定なので訴訟を急ぐ必要はない」という旨の主張を行った。

これに対し原告側は「一審判決が出た後に、高裁や最高裁に進む可能性もある」と指摘して、訴訟の速やかな進行を求めた。

西浦弁護士は「そもそも、私たちは零売規制が憲法違反(「職業選択の自由」(憲法22条1項)に反し、広告の制限は「表現の自由」(憲法21条1項)に対する違反)であると主張している。訴訟の結果、違憲と認められたら、薬機法がさらに改正することもあり得るだろう」と語った。

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