あなたは読めますか?古語と漢字の誤用から生まれた名字「二十八」
難読名字:二十八(つちや)
漢数字だけでできた名字は「一二三」(ひふみ)などいくつかあります。「二十八」もその中の一つなのですが、漢字の読みとほぼ対応しておらず極めて難読で、知らない限りは読むことができません。 「二十八」という名字は「つちや」と読みます。超難読で山口県岩国市にごくわずかだけあります。 従って日常生活で目にすることはまずないのですが、2014年の甲子園に春夏連続して出場した岩国高校の4番打者が二十八選手で、その名字が話題になりました。高校野球ファンでは覚えている人がいるかもしれません。 では、なぜ「二十八」と書いて「つちや」と読むのでしょうか。実は結構複雑な経緯があります。 古語で「十」のことを「つづ」といいました。ここから「つづやはたち」(10や20)という言葉が生まれました。 ところが、この言葉は次第に「19か20」(二十歳ぐらいの若い人)という意味で使われるようになったのです。従って「つづ」という言葉も漢字表記が「十」から「十九」に変わり、「つづやはたち」は「十九や二十」となりました。さらに次第に「つづ」だけで「20」という意味に誤用されるようになり、「つづ=二十」という認識が広まったのです。 さて、「つちや」という名字は「土屋」か「土谷」と書くのが普通です。 江戸時代以前は、分家した際に同じ読み方で漢字を変えるということが全国で広く行われていました。そのため、「土屋」か「土谷」という名字から分家した際に、名字の漢字を変えようとして試行錯誤した結果、「二十八」という書き方にたどりついたものだと思われます。 つまり、「20」のことを「つづ」といいますから、「二十」で「つづ」と読み、「や」は「八」とすれば「二十八=つづや」となります。これをむりやり「つちや」と読ませたものだと思います。
森岡浩/Hiroshi Morioka
姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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