気づけば2か月という間が空いてしまった…
執筆できなかった理由?
あの…2年ほど前に買ったエルデンリング…を今更やっていたら再熱してしまい…
現在2周目ラストです…
ゲームだけなら良かったんですが、
ファンタジーモノを書きたい欲が出てきてしまい…一度クールダウンするまでに時間を要しました……ひんっ
なんか完結っぽいサブタイですが、全然終わりませんw
なんならここでやっと序章終了っていうまである…
「・・・」
「・・・」
輸送ヘリの内部は、油の匂いと金属の軋み、そして絶え間なく回るローターの重低音で満ちていた。
窓の外には雲の切れ間から見える都市の残骸が流れ、時折、揺れに合わせて床に置かれた工具箱がカタリと音を立てる。
ゴッテス部隊加入まで残り一週間。
それまでのスケジュールを、着くまでに整理しておこう──そう思っていた。
けれど、それは甘い考えだった。
まさか、帰りのヘリに監督官が同乗しているなんて。
「・・・」
「どうした? お前らしくもない。基地に配属されてからお淑やかになったか?」
低い声が耳を打ち、反射的に肩がわずかに強張る。
いや、貴方のせいだよ!
喉まで出かかった言葉を飲み込み、私は無表情を装って答えた。
「なんでもない」
気まずい。
ものすごーく気まずい。
視線を合わせないように窓の外を見つめながら、内心はじりじりと落ち着かない。
何が気まずいって──基地での行動が、どこまで伝わっているのか、どう伝わっているかが分からないことだ。
いやね?
確かに実績は積んだよ?
私一人でラプチャー撃破したりしたよ?
高機動部隊を作って育てたよ?
……気まぐれだけど。
「そうか」
私の素っ気ない返事に、監督官は短く答えるとタブレットに視線を戻した。
怒っている様子はない。ため息もつかない。
なら、評価は……されている? ……のか?
「そういえば……」
胸の奥のざわつきを隠すように、言葉を探して口を開いた。
「私の代わりに監督官が高機動部隊の上官として立つんだったよね?」
現状の自分の評価を探るように聞くと、監督官はわずかに肩を揺らし、深い溜息を吐いた。
「あぁ……俺は研究員だってのに、どんなめぐり合わせなんだろうな……」
タブレットを横に置き直し、真っ直ぐにこちらを見てくる。
その視線は怒りではなく、観察者の目。
冷静に状況を測る人間の眼差しだった。
「基地でも自由気ままに楽しんでいるようだな……レイヴン」
「……あー」
ダメそう。
多分良いも悪いも全部伝わってる感じだね…うん。
「……安心しろ。別に呆れてもなければ怒ってもないさ」
私の感情を読み取ったのか、呆れた様な声で付け加える。
「だが……」
監督官は少しだけ声を落とし、私の目を真っ直ぐに見てきた。
「お前の自由さは、組織としては爪弾き者だ。
お前は結果を出しているから許されている。
だが──部下の子らは違う。
彼女たちはお前と同じように“自由”ではいられない。──そこは大丈夫か?」
ヘリの機内に、プロペラの重低音だけが響く。
一瞬、心臓が跳ねた。
心配してるんだ。あの子たちを。
やっぱり……変わらないな、この人は。
私は表情を崩さないまま、無言で窓の外に視線を流した。
「……大丈夫。あの子たちは強い」
私が一番危惧している問題は、もうほとんど解決したも同然。
残るはメンタル的なところだろうが・・・
まったく、とんでもない課題が出てきたものだ。
「お前がそう思うなら、問題はないだろうな」
監督官は肩をすくめて、少し冗談めかした声を出す。
「……で? その部隊の子たちも、お前と同じく規格外なのか?」
私は一瞬だけ黙り、唇の端を引き上げる。
「ふふ……まさか。
あの子たちは普通だよ。少なくとも、私よりはね」
「少なくとも、か」
監督官が目を細める。茶化すような声音なのに、探るような視線は鋭い。
「でも──普通だからこそ強いんだよ」
窓の外に流れる雲を見ながら、私は淡々と答える。
「“死なないための戦い方”を覚えれば、誰だって生き残れる。
……私よりずっと、まっとうに」
監督官はしばらく黙っていたが、やがて口元を緩める。
「……言うようになったな」
──そっけない回答だ。
まだ私を子供か何かと勘違いしているのだろうか?
自分でいうのも何だが、ある程度の修羅場はくぐり抜けて来た自信はある。
《日頃の行いではないでしょうか?》
うぐっ…
エアからのド直球な言葉に悶絶する。
そんなに??
「疑問だったんだが」
エアとの会話に夢中になっていると監督官から疑問を投げかけられた。
「お前と普通のニケじゃ規格そのものが違う。どうやったんだ?」
監督官が片眉を上げて、わざと探るように問いかける。
「え? ……気合い?」
私は肩をすくめて、気のない調子で答えた。
監督官は短く息を吐き、目を細める。
「……まじか」
「何?」
無表情を装いつつ、内心ちょっとムッとした。
「いや、部隊の子らに同情しただけだ」
タブレットを閉じながら、彼は淡々と告げる。
それに対して私も軽く笑いながら答える。
「同情する必要なんてないよ。あの子たちも楽しんでる」
「楽しんでる……?」
監督官が眉をひそめる。
私は口元をわずかに緩めた。
「だってあの子たち、自分で考えて新しい回避術とか覚え出すからね。私が教えてないことまで勝手に試して、ちゃんと形にしてくる」
割とびっくりした出来事で未だに覚えてる。
訓練の合間でさえ回避方法の効率のいいやり方から回避しながらの射撃で敵を如何に効率よく倒すかまで枚挙に遑がない。
監督官はしばし黙し、口元に淡い笑みを浮かべた。
「……毒されたなぁ」
「……バカにしてるでしょ」
「いや」
監督官は視線を横に流し、少しだけ声を和らげる。
「むしろ逆だ。お前のカリスマ性を見れば、ああなるのは当然だろう」
「???」
カリスマ性?
私に?
いやいや無いでしょ。
何かを先導する様な事はしていないし。
不思議そうに首を傾げる私に監督官は溜息をつく。
「自覚がないのも問題だな……」
そう言って、一息置くと監督官は淡々と話す。
「経緯がどうであれ、ニケになる子たちは“憧れ”を追い求める。
今回の場合なら、絶対的な“強さ”だな。
純粋な“強さ”……そして、毅然とした態度と権力と圧力を物ともしない精神的“強さ”」
「そういう意味では……お前という存在は、きっと思ってる以上に大きいんだ」
なるほど…。
戦闘に身を置くからこその憧れが一種のカリスマ性となった…
そんなところか。
話に納得していると、今度は難しそうな顔を監督官がする。
「だが、そうなると……問題は“引き継ぎ”だなぁ」
軽く息を吐き、視線を窓の外へ流す。
「何か問題?」
「問題も問題だ」
淡々とした声の奥に、わずかな苦味が混じる。
「……あの部隊は“お前ありき”で成立してる部隊だ。
考えてみろ。
お前に憧れて必死に食らいついてきた子たちの前に──どこの馬の骨かもわからん研究員が、突然“後任の上官です”と立ったら……納得すると思うか?」
「大丈夫でしょ」
あっさりと言い切る私に、監督官は額を押さえた。
「……立つ鳥のお前は大丈夫だろうが、俺が困るんだぞ? 気づいたら揉みくちゃにされて、どっかに捨てられてるかもしれん」
レイヴンは目を細めて肩をすくめる。
「今の発言で私の部隊をどう思ってるか、よくわかった」
「申し訳ないが、レイヴン様信仰の部隊に“おもちゃ”として投入される身にもなってくれ」
レイヴンは小さく鼻を鳴らし、無表情のまま口角を上げた。
「私が信頼してる人間なんだから……あの子たちも、わかってくれるよ」
「そんなものか?」
「そんなもの」
監督官は深い溜息を吐き、背もたれに身を預けた。
「はぁ……お前は楽観主義すぎる。いや、だからこそ、生き残れるんだろうな……」
私は少しだけ視線を落とし、静かに言葉を返す。
「そうだね。まともな奴から死んでいく。……それが、一種のジンクスだから」
戦場では、正義感や善意、思いやりなんてものは意味を為さない。
それどころか、重要な局面では邪魔になる。
だからこそ、戦場に身を置く人間は無機質であるべきだ。
その最たるものこそが、軍組織なのだから。
機内にしばしの沈黙が落ちる。
ローター音だけが、どこまでも無機質に響いていた。
やがて監督官が小さく笑い、肩をすくめた。
「……だが、そのジンクスを部隊の子たちに押し付けないでくれよ。俺が後処理する羽目になる」
「……やっぱりバカにしてるでしょ」
無表情で睨みつける。
だが
正直・・・
仲間が死ぬという経験は、させるべきだろうとは思う。
酷な話ではあるが、そんな程度で狼狽えていては生きていけない。
機械であろうと、殺しているのは私たち兵士だ。
なら、誰がその逆を咎めることができる?
殺っているんだ。殺られもする。
「お前が、そこまで他人の事を考えている所を見ると、私が出した課題は問題なさそうだな」
私が思考の海に浸っているのに気づいたのか、監督官が私を見ながらつぶやく。
「そうだね…見つけたよ」
「ならいい」
◇◇◇◇◇◇
一番危惧していた事が起こった。
いや、大尉の実績を見れば、遅かれ早かれ異動となる事は分かっていた。
問題は…。
大尉自身が自らの影響力を過小評価している事だろう。
プロパガンダ映像で大尉がゴッテス部隊に配属されるという事を知ったほかの子たちの反応は概ね予想通り。
「まあ大尉だしね!」と誇らしげに語る子から「私たちも頑張んないと!」と鼓舞する子など。
そのほとんどが、プラス的な反応を見せたからだ。
代わりの人物が人間で、且つ戦場に立ったこともない人であると知るまでは…。
「なぜですか! 隊長!」
バンッと机を叩く音が部屋に響いた。
叩いた衝撃で、置いてあったカップが揺れる。
少尉に昇進することになったフェリーの部屋には、何人ものニケ隊員が詰めかけていた。
誰もが不満を隠しきれない顔で、怒りと戸惑いをぶつけてくる。
内容を要約すると──
「せっかく上官たちが居なくなったと思ったら、軍人でもない人間が上に立つなんて!」
「即刻抗議して追い返すべき!」という極論である。
「ていうか、“研究員”って何ですか!?」
「私たちはニケの部隊ですよ!? 戦場に立つのに、白衣の人に指揮されるとか!」
「戦い方も知らない人に“動け”って言われても動けませんよ!」
「大尉の後任が戦場に立たないなんて、そんなの納得できません!」
部屋の空気が一気に熱を帯びる。
あちこちから抗議が飛び交い、フェリーの両耳が痛くなるほどの喧噪だった。
「だ、だから落ち着いてくださいってば……!」
フェリーは両手を振ってなだめようとするが、
興奮した隊員たちはまるで聞いてくれない。
抗議を受けたフェリーは、あわあわとした表情で、来訪者の子たちを諭す。
「そもそもですが、“大尉自らが推薦した”人物ですから、着任前に追い返す様な事はできませんよぉ…」
フェリーは両手を振ってなだめるが、興奮した隊員たちは収まらない。
「でも、相手は人間なんですよ!?」
「研究員って話ですし……現場経験ゼロじゃないですか!」
「命を張る部隊に、机仕事の人が上官なんて……!」
「どうせ、“観察対象”として見下ろす気なんだわ」
「大尉みたいに、同じ目線で見てくれるわけがない!」
まるで嵐のような抗議。
フェリーは両手をばたつかせて「待って待って!」と制止するが、誰も聞いちゃいない。
「み、みんな落ち着いてくださいってばぁ……!」
声を裏返しながらも、どうにか言葉を差し込む。
「……わかってます。それでも大尉はその人を“信頼できる”として了承したのですから無下には出来ませんよぉ」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ静まる。
それでも、納得の色は薄い。
“理解”はしている。だが──心はまだ拒んでいた。
「そもそも! なんでフェリーはそう冷静で居られるのよ!」
抗議をしに来た隊員の1人が声を荒げながら言い放つ。
「大尉の後任が人間の……それも研究員だなんて! あり得ないし、私たちが納得できるわけ無いでしょ!?」
部屋の温度が上がる。
フェリーは額に手を当てて、深呼吸を一つ。
「……気持ちは、わかります。うん。めちゃくちゃわかります」
「でも、皆さん誤解してます」
「誤解?」
「誤解してるって、何をですか?」
フェリーは少し居心地悪そうに頬をかきながら言葉を続ける。
「そもそも、着任される方は“専任技師”ですし……」
「専任……技師?」
一瞬、空気が固まる。
「え、ちょっと待って。上官じゃないの?」
「技師って、え? つまり……指揮しない?」
「……メンテとか、整備とか、そういう?」
「そういう、です」
フェリーが頷いた瞬間、
今までの怒号が嘘のように、部屋の空気がすぅっと静まった。
「……あれ? じゃあ、戦闘指揮とか……しない?」
「しません」
「命令とか、偉そうなことは……?」
「一切ありません」
「じゃあ、その人……何するの?」
「……えーと、主に私たちの定期整備とコンディション管理、あと研究協力……とか?」
「……なんだ、それなら最初からそう言ってくださいよ!」
さっきまで怒鳴っていた隊員が、脱力したように椅子にへたり込む。
「いや、言いましたけど!? 聞かずにみんなが暴走したんですけど!?」
フェリーが思わずツッコミを入れると、
隊員たちの間に気まずい笑いが起こった。
「……まぁ、でも人間って聞くと構えちゃうのは仕方ないですよ」
「ほんと、心臓に悪いわ」
「私、もう半分“追い返そう”って決意してたもん……」
フェリーは深いため息をつき、肩を落とした。
そして今度は、苦笑いを浮かべる。
「はい。なので“後任の上官”というより、“技術顧問”って思ってもらえれば。
それに──本当の意味での後任は、私ですからね」
そう言った瞬間、部屋の空気がピタリと止まる。
ざわつく視線がフェリーに集中する。
「えっ、フェリー隊長が?」
「……えっ? マジで?」
「マジです」
フェリーは即答したが、すぐに頬を引きつらせた。
正直、辞退したかった。
どう考えても80人を率いるリーダーとして私では力不足だ。
しかし、軍は結果を見て判断する。
今回の指揮官代行を急遽行った結果が、どうやら軍のお眼鏡にかなったようで・・・
「大尉からの承諾もあり……はははは…」
「……で、でもっ! あの、それに関しては、突っ込まないでください。
私も正直、不安で押しつぶされそうなんです!」
一拍の静寂のあと、誰かが吹き出した。
「ふっ……な、なんだそれ……フェリーが後任?」
「どうせ大尉から押し付けられたんでしょ?」
笑いが伝染するように広がっていく。
「何とかなるさ精神だからなぁ…大尉」
「自由そのものだよねぇ…」
話題が別の方向へ向かっていくのを察したのかフェリーが慌てて口を挟む。
「私が大尉の後任という話は、一応全体通達でも記載されていた事項だったはずだけど……」
その言葉を聞き、直談判に来た隊員たちの目が泳ぎ出す
この子たちは・・・まさか・・・・・
大体の事を察して深くため息をつく。
「その様子じゃ、しっかり目を通してないですね」
「あれは書き方が悪い」
「もっとわかりやすく書くべき」
「そもそも読むのがダルい」
それぞれ思い付く限りの言い訳を並べる。
最後のに至っては言い訳ですらないが・・・
「はぁ……とにかく、後任の方が来ても粗相のないようにね?」
フェリーの言葉に、一同が頷きかけたそのとき──
「でもまあ、どんな人物かは見定めるべきだよね?」
隊員のひとりが、椅子の背にもたれながら意地の悪い笑みを浮かべた。
「だって、現場経験ゼロの研究員でしょ? 正直、興味はあるし」
「うん、私も。どんな人なんだろうね、“レイヴン大尉が信頼した人間”って」
ざわ……と空気が動く。
さっきまでの笑いが、今度は好奇心に変わっていく。
フェリー自身もそこは気になるようで、腕を組み考える。
「今現時点で分かってることと言えば……」
「たしか、研究員である事と……大尉が信頼している人物であるぐらいじゃないですか?」
フェリーの言葉に、隊員たちは一様に首を傾げる。
「見た目とか、年齢とか、性格とか……情報ないの?」
「性格は……どうなんだろう。大尉が信頼してるなら、悪い人ではないと思うけど」
「“悪い人ではない”で済む話かなぁ……?」
「まぁ、“大尉の感覚”ってだいたい常人とズレてるし」
「ちょ、ちょっと!?」
フェリーが慌ててツッコむが、隊員たちは口々に笑い出した。
「いやいや、褒めてるんですよ? 大尉って、“やばい方向に信頼できる”人ですし!」
「“やばい方向”って言葉やめなさい!」
部屋に笑い声が広がる。
けれど、笑いの中にもどこか落ち着かない空気が残っていた。
ふと、ひとりの隊員が小さく呟く。
「……でもさ、やっぱり“人間”って怖いよね」
空気が一瞬、静かになった。
「怖いっていうか……距離の取り方がわかんない。
あの人たち、私たちのこと“道具”だと思ってるでしょ?」
「うん……。訓練の時だってそう。
“壊れたら直せばいい”みたいな目で見てくる」
フェリーはその言葉にうつむき、手を組んだ。
……それは、私もそう思ってた。
人間の中には、私たちを“同じもの”だと思ってくれない人が多い。
けど──
「……でも、あの人は違うと思う」
フェリーが顔を上げて言った。
全員の視線が彼女に集まる。
「大尉が“信頼してる”って言ったなら、きっと何か理由がある。
大尉って、そういう人でしょ?」
「……たしかに」
「うん、それは……そうだね」
「まぁ、あの大尉が“信用できる”って言うなら……」
だが、別の隊員が腕を組んで口を尖らせる。
「でも、見定めは必要だよね?」
「うん。信頼できるかどうか、実際に見ないと」
「まぁ……顔を合わせて、話してみないとね」
フェリーは苦笑しながら小さく肩をすくめた。
「……お願いだから、あんまり詮索とかしないでね?
“見る”のはいいけど、“絡む”のは控えめにね?」
「はぁい(棒)」
「“棒読み”やめなさい!」
フェリーが思わず声を上げると、隊員たちがくすくすと笑い出した。
笑いの中で、ふと誰かが呟く。
「……でもまぁ、どんな人なのか、ちょっと楽しみかもね」
フェリーもつられて微笑む。
……ほんと、どうなるんだろう。
……頼むから、大尉の“奇抜なセンス”が悪い方に出てませんように
そう思いながら、彼女は天井を見上げて小さくため息をついた。
◇◇◇◇◇◇
基地に到着すると、高機動部隊の隊員たちが出迎えのため、整列していた。
正直、そこまでする必要もないけど、士気が高いのはいい事なので、言わないことにする。
プロパガンダ映像を茶化されるかと思ったが、案外誰もいじらないのでホッとする。
出迎えついでにゴッテス部隊に配属された事と今後一週間のスケジュールを伝える。
2か月で教え込む内容を1週間に詰め込むため、残りの55人の猛特訓に私自身が敵として相手をすること。
それを聞いて絶望的な顔をする未編成組。
口々に「嘘でしょ」「無理だって」と呟くがスルー。
既に編成を完了している5部隊については、各自1v1または3on3での特訓をフェリー主導で行う事を伝えた。
未編成組と異なり安堵の顔をする部隊員たち。
私がその姿を眺めていると、目線に気づいたのか「やべっ」と小声で呟き、冷や汗をかきながら姿勢を正す。
全く、調子いいんだから・・・。
監督官についても紹介程度で伝えたが、変に異論を呈する子も居らず、スムーズに伝達事項を伝えることができた。
やはり監督官は心配性なだけで、問題なさそう。
気になる点で言うと、終始隊員たちの目線が監督官に向いていた事だけ。
やっぱり気になるよねぇ。
あとの事はフェリーに監督官の案内役を頼み、私はその場を後にした。
◇◇◇◇◇◇
俺が高機動部隊の隊員たちを見た第一印象は──軍人ではなく傭兵集団だった。
レイヴンの監督官から外されても彼女の情報は定期的に入ってきていた。
そのため、高機動部隊の情報も自然と入ってくる。
彼女たちは、軍人特有の規律正しさや礼儀正しさを欠いている。
しかし、軍人以上にポテンシャルが高く、緊急時での適応力は凄まじい。
そして何より、彼女たちはレイヴンを絶対的なリーダーとして慕っている。
そうでなくては、あの自由が服を着て歩いているような彼女に、食らいつけるはずがない。
そんな部隊の専任技師として、俺はやっていけるのだろうか?
悩みと不安が入り混じる俺を気にせず、レイヴンは案内役であるフェリーという部隊の後任指揮官を残してどこかへ行った。
相も変わらず自由奔放だな、あいつは。
「えーっと……」
俺がレイヴンの向かった先をぼんやりと眺めていると、フェリーが近づいてきた。
「改めまして、大尉の後任となりましたフェリーです。よろしくお願いします!」
規則正しく敬礼をしながら、彼女は元気よく挨拶をしてきた。
「俺は単なる専任技師であって前線に出る君たちとは違う。
下になる事は在れど、上になる事は無い。そういう訳で、そんなに固くなる必要はないさ」
軍人でも無いしな。っと軽く付け加える。
実際、これは本音だ。
本来であれば、現場の人間が一番敬われるべきだと思っている。
確かに指示を出す立場もその上に立つ立場も必要だ。
しかし、それは現場・・・この場では戦場に立つ者がいないと始まらない。
フラットであるべき中で、敢えて上下を作るならば、俺は現場の人間を敬う。
「・・・」
フェリーは一瞬考え込み、やがて安心したように笑顔を浮かべた。
「やはり、思った通りの方ですね……」
「思った通り、とは?」
疑問符を浮かべる俺に、フェリーはにこやかに答えた。
「大尉の言う“信頼できる人”っていうのは、こういう方の事なんだなって」
「ふっ、信頼できる人か」
俺は少し照れくさそうに笑った。
アイツにとっての俺はそこまでの存在なのか。
なら、いい役回りが出来たとしていいだろう。
あとは、俺という存在がアイツの足枷にならないようにすれば完璧だな。
「はい。ですから安心しました。えーっと……」
「カイルだ。よろしくな」
俺からも改めて自己紹介を行い、手を差し出す。
「はい! カイル技師、よろしくお願いします!」フェリーは元気よく握手を返してきた。
「カイル技師か……慣れないな」
気恥ずかしさを感じながらも、俺は微笑んだ。
「慣れない……とは? 大尉には何と呼ばれていたのでしょうか?」
純粋な疑問を浮かべるフェリーに、俺は少し考え込む。
「……監督官だな。レイヴンが“生まれた”研究所でレイヴンの見守り役をしていた」
「監督官……ですか?」
フェリーは少し考え込み、やがて納得したように頷いた。
「なるほど……大尉が時折”監督官”って呼んでいたのは、カイル技師の事だったんですね」
その後フェリーより「私たちも監督官とお呼びしたほうがいいですか?」と提案があったが、俺は首を横に振った。
「いや、俺は既にレイヴンの監督役から外されている。技師としての呼び方をしてくれればいいさ」
案内は、簡単な施設と寝泊まりする宿舎、そして訓練施設の紹介だった。
正直、レイヴンが暴れまわって基地内は滅茶苦茶になっているかと思ったが、思いのほか綺麗に保たれている。
フェリーに聞けば、訓練でも何かを破壊したりなんてことは一度もなかったとのことだ。
あの事件が教訓になってよかったよ。
そして、メンテナンスルームに到着した。
「ここが、メンテナンスルーム。私たちニケの修理修繕を行う場所です! カイル技師の仕事場もここになります!」
「ふむ、なるほど」
俺は部屋の中を見渡した。
メンテナンスルームは広く、様々な機材が所狭しと並んでいる。
正直、俺の知っているメンテナンスルームの中でもトップクラスの設備がそこにはあった。
「こいつは、すごいな」
俺は思わず声を上げた。
「元々は、こんなに設備が凄い訳ではなかったのですが、大尉の指示でこんな感じに整備されました!」
大尉の指示って、あいつの影響力すごいな。
これなら、どんなにニケが怪我をしても、すぐに直せるだろう。
いや、待てよ。
直さざるを得ない状況を敢えて作り出しているんじゃないか?
あいつなら……やりかねんな。
「整備を新調・増設しないと回らないから……とかじゃないよな?」
「あぁー……そんなことないですよ?」
「回らなかったんだな……」
苦笑いを浮かべるフェリーに、俺は眉間を押え溜息をつく。
まったく、アイツは・・・
極限状態を常に経験させることで、実際にその状況に陥った時にパニックにならず、冷静に対処できるようにする。
兵士がどんな状況でも弾薬の再装填ができるように、習慣的に日々リロードを繰り返し体に覚えさせるように。
彼女らしいと言えば、彼女らしいな。
そのとき、部屋の外から慌ただしい足音が近づいた。
ドアが開く音とともに、バタバタと三人のニケが飛び込んでくる。
「い、痛い痛い痛い!」「もう無理!」「あの人サディストでしょ!!」
三人は口々に叫びながら、俺たちの前に倒れ込んできた。
早速の仕事に少し固まる。
「……見てみよう。台に寝てくれ」
淡々と指示しながらも、目線は落ち着かない。
彼女たちは口々にレイヴンの名前を出しながら、ブツブツ文句をこぼす。
「大尉の馬鹿! アホ! 戦争犯罪者!」
「あんなのが訓練な訳無いでしょ!」
「あれを1週間続けろって? 無理に決まってるじゃん!」
上の階級に言う様なセリフではない罵詈雑言が飛び交う。
「仕方ないさ。アイツ、一応あと2か月は訓練が必要って軍上層部に言ってたらしいからな」
俺は苦笑いを浮かべながら、さりげなくレイヴンのフォローをした。
まあ、その2か月でも早すぎるぐらいなんだが。
「ってことは……すべては軍上層部が悪い?」
「まあ、そういう事になるな」
「ファッキン軍上層部……クソくらえってんだよ!」
台に横になる子のうちの一人が、怒りを露わに天井に向かって中指を立てる。
「まあ、それでもアイツはやりすぎだとは思うがな」
俺は苦笑いを浮かべながら答えた。
三人のニケのメンテナンスを始める。
まずは、外傷の有無を確認する。
外傷はない。
となると、と思い神経接続などの回路部分を調べる。
案の定、回路に微細な損傷が見られた。
その影響で痛覚センサーが異常を起こし、激しい痛みを感じているようだ。
「回路に微細な損傷があるな。これが痛みの原因だろう」
「え? 回路の損傷? どういう事?」
まあ、普通はそんな反応をするだろうな。
本来なら余り見ないケースだ。
外傷を与えずに電気信号や回路に損傷を与えること自体、異例だ。
「例えるなら、弾丸じゃなく神経ガスをかけられたような状態だ。
外傷はないのに、信号ラインに微細なノイズが残って痛覚だけが暴れている」
アイツの使うコーラルは、未知なところがほとんどだ。
どんな影響があり、どのような効果があるのか。
研究員であるからこそ、知りたいところだが──
まあ、コーラルの素性を知ろうとする様な素振りを見せると凄く嫌がるので、あまり深くは聞かないようにしている。
「そういえば気になっていたのですが……」
「ん?」
治療をしていると台の上に横になっているニケ一人が俺に問いかけてきた。
「ぶっちゃけ、大尉とはどんな関係ですか?」
「関係、か」
俺は少し考え込み、やがて口を開いた。
「世話焼きな保護者、かな」
「保護者!?」
少しまずい言葉を使ってしまったかもしれない。
だが実際、保護者の様な事しかしていない。
「まぁ、放っとくと自爆するタイプだしな」
それを聞いて納得したのか、フェリー含めその場にいるニケ達が頷く。
「……めっちゃわかります」
そうしている内に、三人のニケの治療が終わった。
「よし、これでいいだろう。この後はどうするんだ? 戻るのか?」
「はい。大尉の所に戻ります」
「戻んないと、何言われるか分かったもんじゃないからね」
「ふわふわっとしている癖に、鬼畜・サディストってどんな層に向けての癖なんだろうね」
どう考えても本人の前では言えない言葉をポロリと零す三人。
そうして三人は立ち上がり、俺に礼を言って部屋を後にした。
「では、私も訓練中の子達と合流します」
会った時と同様に綺麗な敬礼をしフェリーもメンテナンスルームを後にした。
「……大変だな」
俺は深いため息をつき、肩を落とした。
◇◇◇◇◇◇
一週間というのはあっという間に過ぎ去る。
なんとかこの一週間で55人を戦闘可能なレベルにまで引き上げる事ができた。
最初は、てんでバラバラだったが、自然とリーダー格の子が出てきて、まとまり始めたのは流石だと思う。
最終日の模擬戦だって、及第点ではあるけどクリアできた。
勿論、完璧ではない。
でも、これ以降は実戦あるのみ。
その後は、各自が経験を積んで成長していくでしょ。
それに加えて55人を相手にエアの補助なしでの訓練は、私にとっても新鮮なものだった。
いつも傍に居たはずの人物が一時的にとは言え居なくなると寂しい。
エアがいない理由は、勿論ハッキングに専念してもらうためだ。
曰く「何もなければ1週間あれば、十分」とのことだったけど…。
正直、エアが味方で良かったと思わない日は無い。
未だにエアと敵対した時の勝利は純粋な勝利ではないと思ってる。
衛星砲をハックした段階で、私とカーラは詰み。
そこにエアが私との一騎討ちに自らが提案したお陰で勝利出来た。
そう考えるとエアって・・・ちょろい?
《なぜ、そこからその様な思いに至るんですか?》
うわっ、エア!?
『え、いや、そのぉ……進捗はいかがでしょうか?』
《進捗は順調です。明日の朝には終わります》
『そうですか。では、明日の朝にまた連絡しますね』
《はい、失礼します。それで? ちょろいとはどういう意味ですか?》
実態が無いのに、じりじりと詰め寄られる感覚に、私は思わず後ずさる。
『あー……エアってば、優しい良い人だなぁ~って……』
《なるほど。私はレイヴンに甘々だから負けたと?》
『・・・』
まあ、実際あのまま衛星砲でザイレム撃ってたら負けてたし・・・
《はぁ。残念です……レイヴン》
すみません。生意気な口ききました。
エアの溜息は、本気で呆れているように聞こえるからダメージが凄いのだよ。
《実際、呆れていますが?》
『はい、すみません。以後気を付けます』
気づけば私は、誰もいないシミュレーションルームで一人、正座をしていた。
正直エアを怒らせたら多分一番怖い。
《確認ですが、ナノマシンの権限をレイヴン及び私に上書き後は、ひとまずオンのままで良いのですよね?》
『あ、はい。オンのままで大丈夫です』
《もう怒っていないですよ》
やれやれと言った感じのエアは、《疲れ様でした》と言って消えていった。
恐らく、ハッキングに戻っていったのだろう。
ふぅ、と私は深いため息をついた。
そして今一度、エアとの会話を思い返す。
ナノマシンの権限上書き後は、オンのまま──
これは私とエアが話し合って決めたことだった。
私自身、ナノマシンの詳細情報が分からない以上、早急にオフにする方がいいと思ってたけど・・・
エアから《権限をオフにするのは簡単ですが、リスクも伴います。しばらくはオンのままで様子を見ましょう》と言われた。
リスク・・・
エアの言うリスク。
それは、感情抑制がナノマシンによって緩やかに制御されていたものが、一気に解放された場合のこと。
感情の抑制が出来ず誤って人間を攻撃してしまう可能性。
それを考慮し“ひとまずはオンのままにし、どのような状況でナノマシンが動くのかを見定める”というものだった。
部隊中の一人でもナノマシンが働かないとバレれば、全員が危険にさらされることになる。
権限が既にこちら側にあるため、一方的に殺られるという事もないので、しばらくは様子を見守ることにした。
でもやっぱり。
この歪さはどこに行っても変わらないのかもね。
突出した個人であれば、潰すだけでいいが、それが万単位で居るとなると、人間はこういう行動に出るのか・・・。
結局、割を食うのは戦地に居る兵士(ニケ)たちだよね。
まあ、それを未然に防ぐための対策はすべてやり尽くしたから、あとは隊員の子たちが、ソレを知った時にどう動くかだね。
どれだけ整えようと
どれだけ統制しようと
バグというモノは、必ず出てくるものだから・・・
自由意志は引き継がれてなんぼ!!
レイヴンは何人いてもいいですからね!
人類に盾突く人物が推定80人になってしまいましたなぁ。
なんか…レイヴンが1人でもいれば100人は居ると思えというG様級の状況になって草でした。
この空白の約2か月の間にもお気に入り登録をしてくださりありがとうございます!!
正直なところ、小説に夢中でNIKKEの日課すら出来ない日々が続いていたので、リセットという意味でも少し休めましたw
クールダウンは必要ですなぁ…
これにてやっと序章が終わったって感じですね。
ここからは怒涛ですぞ…
ニケ側のストーリーも話が進み出す訳ですからね。
今後の投稿頻度について!!
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週1が良い!
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2週間でもいいぞぉ
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月1投稿でも問題なし!
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納期未定でも待つさ…