滅尽龍のシリオン   作:匿名

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空が示す

男がデッドエンドブッチャーに襲い掛かる。右の翼で半身を覆い、それが地面につくほど体を下げる、巨人に近づく際に地面と擦れてガリガリと音を鳴らしながら突進する。相手はまだ先の攻撃で悶えていて、左の脇腹に翼がもろに突き刺さる。翼が広がり、無数に付いている返しが巨人を引っ張り強制的に男の方を向かされる。右の腕で腹を、その後に左の拳で顔を下から殴ってきつけを行う。不意打ちでは終わらせない。ホロウ内で雨が降る。

 

後ずさりながらも正面の新たな敵を認識するデッドエンドブッチャー、コアが揺らめくがその感情は読み取れない。大きな腕で地を叩き左右に広げて威嚇する。男もここで久しぶりに獲物の全体を確認し、腕が倍に増えている姿を見て頭の中で何かが弾ける。

 

 

 

6本の手足、頭部の角、体内に宿すは超常の力、狩るか狩られるかの生存競争。エーテリアスの中に自分を見る、正確には自分ではなく奴らを。自分は恐れられていた、自分は恐れることは無かった。常に死力を尽くし、生が続いていることこそが自分の証だった。そうだ、自分は強敵、自然、理外を、

 

「…古を喰らうもの」

 

呼ばれた名はネルギガンテ、他に自分を指す言葉を持ち合わせていないならそれを我の名としよう。

 

 

 

 

いきなりの乱入に困惑する4人、状況的に敵では無いように見えるがよく分からない。何か知っている風なネコのシリオンに尋ねる。

 

「猫又、あれは誰?」

「えーっと、あたしもよくは知らないんだけど。その、多分遭難者だと思う…?」

 

特徴的すぎる容姿は供述と一致している、ならばカリンちゃんの言っていた遭難者なんだろうけども。エーテリアスと手を組み合い笑顔を浮かべている男を見ながら自信なさげに伝える。

 

「遭難者って…あれで?」

「いや、あたしだって知らないぞ」

 

エーテリアスが空いている後ろの腕で両方から男の脚を狙う、押し比べを止め男が自分の方へ引く、つんのめった巨人の攻撃をジャンプで避けて両手が互いに繋がったまま相手の頭上を越える。後方に着地する前に尻尾で巨人の尻を打ち、勢いと尻尾の力で今度はエーテリアスが男の頭上に持ち上がる。プチプチと腕から変な音がするが無理やり引き倒す、掴まれている手を振りほどき頭部を殴り始める。

 

「今時の遭難者って逞しいんだなー」

 

そうなのか?いや、カリンちゃんも逞しいといえばそうだったが。

 

腕を水平に広げプロペラの様に連続でラリアットを放つエーテリアスの攻撃を翼、腕、脚など全身を使って1つづつ受け流す男、接触の度に衝撃で男も同じように回転し棘と血が辺りに散る。噛み合う歯車の様に回る2人、やがて飛び散る棘が’なくなってくると尻尾を使って急停止、次の腕を跳び箱の要領で避け大きな腕の上を駆ける。背中に取りつかれるのを嫌ったのか慌ててエーテリアスが反対の腕で払い落とそうとする。その手を両手で捕らえ、相手の背中側に飛び降りて急激な肩のストレッチを強要する。男が足で膝裏を蹴り、背筋が伸びきったエーテリアスは踏ん張りがきかず膝をつく、残りの3本の腕で背中を掻こうと暴れるが届かない。のんびりと拘束している間に新しく棘が生えてくる。

 

「白い棘…」

「おいアンビー、これってオレ達何かした方がいいのか?」

「なんか一人で倒しちゃう勢いだぞ」

 

男が足で背中を押し相手の肩から繊維の千切れる音が聞こえ、エーテリアスが叫ぶが止まらない。身長差によるものか引き千切ることは無かったが倒れたエーテリアスの腕の1本は脱力して動かない。震えている巨体の背に乗り、反対の腕を同じように掴んでカジュアルに折る。今度は丁寧に捻りを加えて捩じ切る、既に相手の至る所に打ち込まれた楔があるから成せる荒業だ。体から離れても何かを掴もうとしている手を放り捨て、コアを守る格子を掴んで順番に圧し折っていく。

 

 

 

「うわー、えげつないわねー」

 

少し遠くで行われている処刑に完全に野次馬気分の4人、弾代が節約できるので非常に有難い。

 

「ニコ!エーテル反応が規定値まで弱まってるのを確認したよ、準備はいい?」

「あ、プロキシ?いいわよやっちゃって」

 

特に何も考えずピンク髪がGOサインを出す。

 

「わかった!みんな列車に気を付けてね!」

 

「なあニコの親分、店長ってあの厳つい兄ちゃんがいること知らないよな」

「何言ってるのビリー、『パエトーン』ならそれくらい知ってて当…然…」

 

固まる一同、汗が流れだすピンク髪。機械人が大声で呼びかける。

 

「おーい、そこの兄ちゃん!今から列車が来るぞー!気をつけろー!」

 

 

 

「何?」

 

コアを片手で掴んでいる途中で男は顔を上げる、そういえば観客がいた。獲物の横取りでもしてしまったか?残念だろうが元々はこちらが先約だ、諦めて欲しい。そう思っていると警笛が鳴り響きホロウの奥から列車がこちらに迫る、線路は途切れているが確実に直撃コースだ。列車の上に腕を組みドヤ顔で立つボンプが見える。あ、焦りだした。

 

ギリギリで横に転がって列車を避け、次は伏せてタンク車をやり過ごす、掠ったのか尻尾が痛い。デッドエンドブッチャーは倒れていたため回避行動が取れない、両方の車両に押されて瓦礫の山に挟まれた。大量のエーテルの反応をタンク車から拾う、このホロウ内で正常に動ける貨物などヴィジョンの物しかないだろう。観客はヴィジョンと関係があると考察するがそれどころではない。

 

「爆薬か!」

 

それまで控えていた観客がタンク車に電気を纏う剣を投げつけ上を向いて刺さり、銃弾で空気穴を開ける。

 

あれなら綺麗に蒸発させることが出来るだろう、良い作戦だ、邪魔だという点を除けば。眉をひそめ躊躇なくデッドエンドブッチャーの方に跳ぶ。

 

「嘘でしょ!?」

 

ボンプが驚愕する。男の行動が理解できない、いかにも爆発しますと言っている特大の爆弾に向かう後ろ姿はいつの間にかまた黒くなっていた。

 

「Fairy、時間は!?」

「5秒後です」

 

届かない、声も助けも、惨劇から目を背けながら物陰からその時を待つ。

 

待つ、

 

「…Fairy?」

「5秒後です」

 

上空の雲が抱えきれない電荷の行方を見つけ光が落ちる。エネルギーがタンクの中を急速に満たしエーテルが膨張する。デッドエンドブッチャーがなんとか退かそうとするが2本の腕で為すことは叶わない。上昇する気温の中、男がタンクに足をかけ、ついでに刺さっている剣を抜く。持っている手が痺れるがそれをエーテリアスと瓦礫の間に刺してコアをほじくり出す。行儀など知ったことか、断末魔をあげる脱け殻を無視して3口で全て頬張り嚥下も済ませず離脱する。

 

青く眩しい発光の後に起きる大爆発、盛大に火葬されるデッドエンドブッチャー。安全圏までは逃げることが出来ずに男も巻き込まれてしまう、無理やり口内の物を喉に押し込み直後に意識が飛ぶ。

 

 

 

 

 

「ホロウの縮小を確認、周囲に敵性反応はありません」

 

爆発が収まり、静けさが戻る、AIの報告に答える者はいない。どれだけ注意深くスキャンしてみても付近に他の生体反応はうかがえない。とても作戦成功とは思えない気まずさのまましばし無言の時を過ごすがあまり時間は待ってくれない。

 

「さ、さあ!仕事はまだ終わってないわ!は、早く皆を連れ出さないと!」

 

ピンク髪が上擦った声で催促する、喋る台詞は至極真っ当だが他の仲間からは若干白い目で見られている。非難を逃れるように速足で進む彼女を重い足取りで皆が付いていく。

 

気落ちするアクシデントはあったがそこからは大事無く避難民を連れてトンネルを抜ける、目の前に見えるのはヴィジョンの爆破解体本部、治安官に扮した兵士がこちらを見つけ騒ぎが起きる。避難民が声を上げ口々にヴィジョンを非難し、ヴィジョンは人質達がなぜここにいるのか分からず困惑している。人混みの中から黒髪の女性、もう一人のヴィジョン代表であるサラが歩み出て言い放つ。

 

「ホロウを抜けてここまで来れたのはお見事ね、でも残念だけどここには私たちしかいないの」

 

合図を送って兵士達が銃を構える、直接的な最終手段に青ざめる避難民たちは治安局のサイレンを聞く。本物の治安官がなだれ込み、なりすましの偽物を拘束していく中に人を舐め腐った表情で高笑いするピンク髪。

 

「オホホホー!ヴィジョンがどうしようもない会社ってことは火を見るより明らか、だからお先に通報させてもらったのよ!」

 

他にもメディアやら他社の建築会社やらがどんどん集まってくる、証人とカンバス通りに置き去りにされている証拠の数々、ヴィジョンの失脚は免れないだろう。混乱極まる現場の中で代表のサラは人知れず姿をくらます。

 

 

 

 

 

 

腹の内が暴れる、苦しみで目を覚ました男はうつ伏せのまま起き上がれずに脂汗を流し地面を掻き毟る。濃度の濃いエーテルが体内から浸食を引き起こし、自分が別のものに作り替わる感覚に視界が青く染まりかける。飽和するエネルギーが通常よりも長い棘となって現れては過剰成長で抜けていく。長い苦悶の時を経て腹の中のエネルギーを全身で薄め抗う、やっと呼吸が安定し、残った伸び過ぎた棘を処理して起き上がる。

 

「狩猟完了だ…」

 

ゲッソリとした顔で腹を押さえて歩きだす、紆余曲折あったが当初の目標は達成し御馳走も胃に収まった。腹は下してしまっているが今回の闘争も文字通り自分の糧となり次なる闘争への推進剤となる。我が目指すのはここではない、たとえ自分と争うことになっても負けることがあってはならない、自分の為にも証明し続けなければ。

 

ボロボロの衣服、明らかに体調を崩している様子、今の男なら百人中百人が納得する遭難者としての容貌。若干覚束ない歩調でホロウの出口に到着する。流石にあの治安官がずっとここを張り込んでいるわけはないだろうと外に出ると陽はすっかり落ちていた。体から浸食が離れていきエーテルの含まれていない空気を強く吸う。満足感と共に一歩踏み出した所で誰かとぶつかる。

 

「痛っ…」

 

不運なことに棘のある部分に当たったらしい、横からぶつかられているので相手の不注意と断じ、離れたところにある爆破解体本部を横目に街中へと男は消えていく。

 

「何よあいつ、今日は最悪ね」

 

頬にかすり傷を負った黒髪のOLが今日の運勢を呪うが男に興味は無い、ぶっちゃけもう眠い。付近から治安局のサイレンやらヘリの音が雑多に鳴っている。ホロウ外なのだからあり得ないが口にエーテルの味が残っている気持ち悪さを嫌い、近くにあるティーミルク店で飲み物を買う。こちらを見た店員が激しく震えカップの半分ほどを零しながら手渡してくる、自分はあまり飲み物と縁がないらしい。氷ごと流し込んで噛み砕くと甘ったるい後味が喉にへばり付く、エーテルより遥かにマシだ。色々面倒になって歩道の隅で翼を広げそのまま我が家へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツンと何かが頭に当たる、跳ねて近くに落ちたそれを拾い上げる。

 

「いた、なんか落ちてきた」

 

手に乗せて観察すると声を聞いた皆が寄ってくる。

 

「なんだなんだー?いいものでも拾ったのかー?」

「プロキシ!ディニーだったら私が落としたものよ!」

「ニコ、あまり外でその名称を使わないでくれ。あと嘘はよくない」

 

顔を突き合わせて覗き込む、ちょっと狭い。

 

「あ、それ…例のシリオンの棘」

 

アンビーが答えを教えてくれる。爆破に巻き込まれていなくなった遭難者の物だと言う。上を向いても夜空が広がるだけで他に見えるものはない。生きているかもしれない、その可能性だけで露骨に安心する人物が一人。

 

「なぁーんだ、生きてるんじゃない。まあ、あたしは大丈夫だって知ってたわ!」

 

彼女を見る皆の表情を無視して胸を張り上機嫌になる。呆れつつニコらしいと納得し、前より軽くなった心で打ち上げ会場にへ、今回の依頼はこれにて完了だ。

 

 

 

 

 

 

 

ねぐらに返ってきた男は爆発とは違う懐かしい熱に体を伸ばし、横穴で丸くなる。じっくりと体内の物を消化し体に定着させ、体にかかる負荷がゆっくり消えていく。男の体はデッドエンドホロウに入る前よりほんの少しだけ艶が増しているようだ。

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