滅尽龍のシリオン   作:匿名

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デッドエンド

揺れが落ち着き、辺りに舞っていた土煙が霧散していく。大きなクレーターの中心でデッドエンドブッチャーはうつ伏せに倒れもがき、その上から男は圧力を掛け続ける。目は爛々と輝いており頭の中には狩猟のことしか残っていない。デッドエンドブッチャーがなんとか男から逃げ出そうと四肢を動かすが背中に陣取る敵には届かない、衝撃の際に武器も落としてしまった。コアに直接攻撃されるのも時間の問題だ。

 

男は楽しんでいた、久しぶりの大物、耐久力も申し分ない、戦闘が成り立つエーテリアスとの対峙は数多くない。同時に悲しんでいた、相手に為す術は無く戦況は決したと薄らと感じていた。相手が言葉を理解するとは思えないが短く別れを告げコアに手を伸ばす。

 

 

 

 

 

「マスター、お気を付け下さい、強大なエーテリアス反応の傍を通過します」

「えぇー、そんな近くに来ちゃってるの?ここ一応ホロウの端の方じゃなかったっけ?」

 

したたかに打ったお尻をさすりながらボンプは愚痴を吐く、なんとか目的の電車の上に着陸した後、ぽてぽてと歩いて中に入るためのハッチを探す。

 

「どうやら近くに生体反応があるようです」

「あ、それってもしかして言ってた人かな?エーテリアスに追われてたりしてないよね?」

 

無事を祈りつつハッチを開け体をねじ込む。

 

「いえ、生体反応はマスターの下、電車の中からです」

 

ボンプの体が車内に落ちて跳ねる、それを見ている大勢の武装した集団。そのうち一人が通信機に向かって話している。

 

「長官、侵入者を発見、喋るボンプです。如何しますか?」

「な、なんでこんなに人が?爆弾を積んでるんじゃなかったの!?」

 

全員の銃がボンプに向けられる、逃げるには等身が圧倒的に足りない。間一髪の所でネコのシリオンが電車の窓から侵入、ボンプを抱え込む。瞬きの内に状況が目まぐるしく変わり、ボンプはもう何が起きているのか分からない。銃から弾が放たれる直前にその場にいる全員が声を聞く。

 

「ーーーーーー!」

 

聞くものを竦ませる雄叫び、このホロウで真っ先に思い付く可能性は…

 

 

 

 

 

 

エーテリアスが地面を叩く、その行動は男に何ら影響を及ぼさない。ただがむしゃらに、駄々をこねるかのように両腕で叩き続ける。

 

「何をしている?命乞いにしては大仰だな」

 

男には読めない、藁をも縋るエーテリアスの行いが。クレーターが深まる、相手の意味不明な姿に熱狂していた気分は静まり我に返る、男は逃さないように更に強く地面に押し付け大地に罅が入る。尻尾でコアを守る檻を鞭打ち、エーテリアスの叫びと暴れが一層激しくなる。

 

「ーーーー!」

 

両手で一つの巨大なハンマーを作り、勢いよく罅の広がる大地を殴る。一瞬の静寂、限定的な地震が起こる。さらさらと聞こえてきた音は次第に大きさを増し、地面は壊れ始める。ここまでくればデカブツの作戦が明瞭になる、とんでもない悪足掻きだ。

 

「土竜にでもなったつもりか!」

 

巨体が沈み込む、圧力が緩まった瞬間に仰向けに回転するエーテリアス、二つの手で男を挟み込む。崩壊する地盤、落ちていく災害、尻尾で片方を弾いたものの空中での回避は難しくもう片方は避けられない、せめてもの抵抗で体を丸める。相手の掌が数多の棘によって穴が空くが知ったこっちゃないと握り込まれる、そしてエーテリアスは地面方向に体を向け、全力で男を投擲、先に落ちていた瓦礫とその下に運悪く埋まってしまった電車の後部車両を破壊して地中に潜る。残りの地面が降って来て男を塞ぎ、フィナーレはデッドエンドブッチャー、その巨体でのボディプレスが下敷きになったものを凄まじい音を伴って圧縮する。

 

 

 

 

 

 

雄叫び、崩落、電車の一部が埋まった時の激しい揺れ、一連の流れの中でまともに動けたものはいない。ただ呆然と成り行きを見物し、何が起きたのかを頭が処理する時間が必要だった。崩落時に生まれた大量の土煙が電車に追い付き、降ってきた地盤によってバックリと開いてしまった車両の後ろには何も映らない。

 

「た、助かった、のか…?」

 

お約束を知らない兵士が呟く、少し経って電車が土煙から抜け出した。少数が安堵のため息をつき肩を叩き合うが不意に何かが地下鉄内を叩く音が響く、瓦礫が電車のすぐ横に着弾。

 

「ーーーー!」

 

破壊の前兆が聞こえる、叫びによって土煙が隅に押され、開けた視界にハッキリと見える巨体。 両手を低く広げこちらに走り出す。

 

一斉に全員の視線が先程の兵士に集まる、ボンプとネコのシリオンも何か言いたげだ。

 

「い、いやいや、俺の所為だっていうのか!?」

 

どことなく真っ直ぐ走れていないデッドエンドブッチャーだがそもそも地下鉄内にその巨体に十分なスペースは無く、壁が今は失くしてしまった杖となって支え、時間を掛け逃げる電車との距離を詰めてくる。恐怖が腹の底から登ってくる。

 

「銃を構えろ!他と比べて動きの鈍い右脚部を狙え、追い付かれたら一人残らずミンチにされるぞ!」

「畜生!簡単なお守りの依頼のはずだっただろうが!」

「こんなコスプレ装備でなんとかなんのかよ!?」

 

悪態をつくことでパニックになりそうな心を騙し、各々が生存のためにやれることをやり始め、銃弾の雨が形成されるがデッドエンドブッチャーに対する効果は薄い。電車に伝わる振動が段々と大きくなり、一人また一人と武器を捨て先頭車両に逃げ出す兵士たち。

 

「リン、そこは危険だ!早く脱出を!」

「で、でもお兄ちゃん、逃げるってどこに!?」

「マスター、今のペースだと7秒後にエーテリアスに追いつかれます」

「プロキシ!しっかり掴まってるんだぞ!」

 

兵士たちの怒号や悲鳴が飛び交う中、ネコのシリオンがボンプを抱えたまま電車の後方、エーテリアスの方へ走る。至近距離からみるデッドエンドブッチャーは迫力満点、大きな手が電車の左右から迫る。

 

パン、と一つ破裂音が地下鉄内にこだまする。ネコのシリオンは電車後方からエーテリアスの腕を飛び越え、同時に車両が縦にペシャンコになる。あれだけ騒いでいた兵士たちの声が途絶え、液体の滴る音が嫌に耳に残る。ネコのシリオンが地面を転がり、そのまま振り返らずに走り出す。

 

「プロキシ、一度撤退するぞ!あたしがキャロットを持ってる、先導してくれ!」

「オッケー、とりあえずこのまま崩落現場まで戻ろう」

 

デッドエンドブッチャーは二人に目もくれず叫び声をあげ、随分と短くなった電車を引き続き襲いに駆ける。ヴィジョンがどういった理由で兵士を運んでいたか不明だが、こうも滅茶苦茶にされてしまっては計画はお世辞にも順調と言えないだろう。気持ちの良い結末ではないが結果的にヴィジョンの爆破計画を妨害するという目的はエーテリアスによって達成されてしまう。

 

 

 

 

 

「何、地下鉄が崩落!?で、では一体私はどうやって帰ればいいんだ!」

 

ボンプと見間違える体型のヴィジョンコーポレーション代表、パールマンは部下からの報告に頭を抱える。自分も避難民と変わらずここカンバス通りにて新エリー都から切り離されてしまった。パールマンに報告する兵士はぐったりしており、負傷も酷い。現在ここは外部との通信が遮断されている、爆破が終わるまで避難民を隠し通す為だ。パールマンに出来ることは精々つつがなく爆破を成功させ、通信を復旧させてから救助隊を待つことぐらい。どうせやることは変わらないと自分を落ち着け、調整を続けさせる。失敗は論外だ。

 

 

 

 

 

「うひゃー、おっきな穴だなー」

 

ある程度落ち着いてはきているが、まだパラパラとあちこちから砂が降っている。幸い、瓦礫が積み重なり勾配はキツイが登れなくはない。エーテリアスが起こした惨状だが何が一体どうなってこんなことになったのだろうか。デッドエンドブッチャー以降特に危険には遭わずホロウから脱出、作戦本部であるビデオ屋に帰還してネコのシリオンからヴィジョンコーポレーションの計画の真相が告げられる。

 

ホロウによって新エリー都と分断されたカンバス通り、取り残された避難民たちの救助は開始すらされておらず、古い鉄道の刷新の為、一帯を避難民ごとまとめて爆破、人が逃げないよう偽物の治安官を集めて監視する徹底ぶり。これが表に出たらヴィジョンはお終いだ。ニュースで爆破予定が明日の夜に遅れていたが、あれだけの被害が出ても強行するらしい。もっとも、エーテル爆薬はとっくに輸送済みで、唯一の線路が崩落に巻き込まれてしまった手前、簡単には新エリー都に戻れない、それならさっさと終わらせて生還する方法を検討したいのだろう。

 

避難民を助けるということは大手の企業と事を構えること、それでも見捨てることは出来ず、一同はもう一度ホロウに入ることを決意する。避難民はエーテル適応体質ではないだろう、ホロウ内での活動は浸食が怖い、大勢の非エーテル適応体質の人間を新エリー都まで運ぶ方法は限られる、とびきり厄介なものに。現地にいる協力者との合流が急がれる。

 

それはそれとして何か忘れているような気がするが、何だっただろうか?

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