滅尽龍のシリオン   作:匿名

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誰も知らない

瞬きを数回する間に一人カリンは取り残されてしまった。終始よくわからない人だったが、居なくなればなったで遭難中であっても崩れないあの自信に満ちた背中がまた欲しくなる。それよりもあの人は一人で大丈夫なんでしょうか。

 

とりあえず彼に言われた方角を確認する、列車の残骸で遠くまで見ることは叶わないがこの先に人がいるらしい。思い返せば出会った時も向こうが私を先に見つけていたし、何かしら生体反応を検知する道具でも持っていたのでしょう。自分を納得させて進む、彼の真似をして列車をズタズタにしながら。

 

しばらく歩くと右側から微かに声が聞こえてくる、周りには列車しかない、声は向こう側のようだ。息を飲みそろそろと近づく、万が一のためにノコギリを前に構え慣性で音もなくゆっくりと刃が回る。

 

「…キシー、ホントにこっちで合ってるのかー?私には電車しか見えないぞ」

「大丈夫、ルートはこっちで合ってるよ、ただ電車が邪魔なだけ。越えちゃえば問題ないよ」

 

本当に人に出会ってしまった、幸いなことに会話からガイドを連れていることが察せられる。構えをといて会話に入るタイミングを伺う、今日一番の緊張だ。

 

「越えるっていってもあんたを抱えながらだとちょっと自信ないぞ」

 

「あ…あのー」

 

恐る恐る声を掛けるとかわいい声の電車が喋っていると思われてしまった、かわいいだなんて、そんなこと…。

 

「電車さん!そこをちょっとだけ退いてくれない?私たち向こう側に行きたいんだ」

 

そんな誤解?を解き、男にやったものと同じような自己紹介の後にカリンの方から提案を持ちかける。

 

「み、皆様は電車のこちら側に来たいのですよね?」

「そうなんだよねー、カリンちゃんは何か良いアイデアあったりしない?」

「そ、それなら、なんとか出来ると思います」

「おおー、助かるぞカリンちゃん!」

 

頼られていることに眉は下がったまま笑みが浮かぶ。ウキウキの状態でスターターロープを引きノコギリの回転数は一気に最高潮、電車の解体ショーが始まる。突貫工事は数秒で終わり両者はまみえる、片方は突然の出来事に怯え、もう片方は挨拶がまだだったと急いで腰を折る。ポカンとしている相手方が我に返るまでカリンのツインテールが風を受けて揺れるのみであった。

 

 

 

 

 

 

二つの災害が互いに接近する、避難警告もなく、進行方向にいるエーテリアス達は慌てて逃げ出すが無事では済まない。

 

「ーーーー!」

 

咆哮が聞こえ何かが音を置き去りにする程の速度で飛来する。少しだけ横にズレてそれを避けたところで思い当たる、これはどこまで飛んでいくのだろうか?距離はあるが後方にいる者の保全のため一応無力化を試みる。右手を後ろに伸ばし通過しそうだったそれを掴む、どうやら鉄道信号のようで、質量はそれなりにある。空中での綱引きは投げ槍の方に軍配が上がり、男は時計回りに体の向きが半回転し後ろに引っ張られて飛んでいく。パラシュートのように翼が広がり錨のように尻尾が地面を削る。左手でも槍を握り両足が地面を荒々しく迎える、体の回転は止まらず正面に戻ってくると同時大きく二回羽ばたいて再び走り出す。槍は前方へ、体は地面と平行に、翼は畳まれ衝撃に備える。尻尾はまたしてもスリムになっていた。

 

両目で獲物を見る、衝突はもう秒読みだ。デッドエンドブッチャー、要警戒エーテリアス、自分の二倍程はある巨体に岩のようなエーテル結晶体が全身を包み、うなじにあるコアは肋骨のような部位に守られている。このホロウとどういう結び付きがあるかは知らないが自分が頂いてしまっても文句を言うヤツはいないだろう。むき出しだった歯の隙間から息が漏れる。

 

ヤツの右腕が動く、こちらの左側を開いた掌が迫る。

 

「自分で捨てたくせに返して欲しいのか?心配するな、返品対応は完璧だ!」

 

男の意図に気付いたデッドエンドブッチャーは拳を作り作戦を変える、合わせて男の翼の1つが自身の左側を視界ごと遮断し遂に行き止まりに到着する。

 

1つ目の衝撃、デッドエンドブッチャーの右膝が信号機に貫かれる。2つ目の衝撃、叫び声をあげながら巨人の拳が男の翼を打ち、そのまま振り抜かれる。ボールのように飛んでいく男にデッドエンドブッチャーは追撃を行えずその場で膝を崩す、加えて右手の指が思うように動かない。

 

左手で信号機を引き抜き、杖にして体を支え、体中を巡るエーテルが各所の損壊を修復しようと過剰に活性化する。右手の修復が上手く行かずここでようやく拳に何かが多数突き刺さっているのを確認する。苛立ち混じりに地面に擦り付け、半数をこそぎ落とすが半数はさらに深く右手の甲へと侵攻していく。

 

呻き声を上げるデッドエンドブッチャーに場外ホームランされたボールが帰ってくる、バッターはまだ構えを取れていない、ストライクゾーンなどガン無視でデッドボール一直線に突っ込む。黒一色で飛んでいった男は白い軌跡を描き頭から巨人の腹部に激突、苦しそうな声をあげるデッドエンドブッチャーはそれでも体勢を保ち左に持つ信号機で勢いを殺すため地面に突き刺す。巨体が止まるかと思われた時、真下にいる男が治りかけの右膝を掌底で砕き逃走を許さない。再度右腕が男に迫るが掌底を放った手に手首を掴まれ、指が翼を浅く引っ掻くことしか出来ない、ようやく修復が進み少しずつエーテルが右手の異物を押し出し始めた。男の尻尾が黒く染まる。

 

巨人が左手の信号機を逆手で持ち、男の背中に突き立てるが右の翼に受け流され目標を捕らえられず地面を叩く、翼から鮮血が舞う。ならば次は翼の間をと武器を持ち上げるも抵抗を感じ動かない、尻尾が信号機に挟まり力比べが始まる。男の右腕が黒く染まる。

 

体格差とは裏腹に膠着する状況、空いている男の右腕が揶揄うようにボディを殴る。一度力を抜き、勢いをつけ信号機を持ち上げる瞬間、尻尾が離れデッドエンドブッチャーの重心と左腕が高く浮く。男は相手の右腕を放し両手で腹部を固定、頭突きを一発。巨人の上向いた腕が今度こそ背のど真ん中を狙い、抵抗なく振り下ろした。

 

「ーーーー?」

 

獲物を潰した感触はなく、周りの景色が安定しない、足が何にも触れていない。男の角によってかち上げられた巨人は混乱しており空中で待ち構える影に備える余裕がない。低い場所で滞空し、落ちてくる巨体を見上げながら左手を前へ、右手を後ろに引く男の姿はさながらバレーボールのストライカー。彼の視界の隅で左腕が黒く染まる。

 

「まだまだ終わってくれるなよ!」

 

インパクト、コアを守る部位が狙われ衝撃で折れるがそこで終わらない、これはバレーのスパイクではなくネットを飛び越え相手のコートに自分ごとボールを叩きつける暴挙である。両者の体重と落下速度、加えて男の加速が合わさり轟音とともにホロウを揺らす。荒れる風で暴れる男の髪が黒く艶を増していく。

 

 

 

 

 

 

「うわ、何今の音ー?すっごい大きかったけど」

「マスター、遠方で要警戒エーテリアスの反応を検知、離れることをお勧めします」

 

一方その頃、カリン達は協力しホロウ内を順調に進んでいた。出会ったボンプとネコのシリオンである少女は自分に優しく、障害の排除を手伝うことでホロウの出口まで案内してくれている。それでもカリンの顔からはどういった理由か心配そうな表情が消えない。

 

「早くこんなところ抜けちゃおう、こっちだよ」

 

先導するボンプが跳ねる。同行する二人に不満などあるはずないが、出口に近づくにつれ周りをキョロキョロと見渡す回数が増える。

 

「どうしたんだ?何か気になることでもあるのか?」

 

不思議に思ったネコのシリオンが尋ねる、流石に挙動不審過ぎた。

 

「い、いえ、その、実は…私の他にもう一人、遭難者さんがいらっしゃったのですが…」

「え?はぐれちゃったの?」

「はい…お二人の場所まで案内してくれた人なんですが、直前でどこかに行ってしまって」

 

「うーん心配だね、一応スキャンしながら進んでみるけど今のところ反応は無いみたい」

「そうですか…」

 

しょんぼりするカリンを励ますボンプ、そうこうしている内にAI音声が目的地に到着したことを告げる。

 

「マスター、警告です。先ほどの大規模な衝撃で局所的にエーテルが不安定になっています。裂け目に影響が出る可能性があります」

「ほらカリンちゃん、出口が閉じちゃう前に脱出しちゃおう?」

「し、しかし、それだと…」

「大丈夫、安心して。きっとその人を見つけてみせるから」

 

確約は出来ない、でも今ある生還のチャンスは逃せない。何とか宥めて裂け目を通ってもらう。

 

「カリンちゃん、その人の名前は?どんな人なんだ?」

「名前…?」

 

そこでカリンは男のことを何も知らない自分に驚く。分かりませんでは不味いと思ったのか必死に形容する言葉を探していく。

 

「えっと、な、名前は聞くのを忘れて、しまったんですが、何かのシリオンさんでした。大きなお角があって、羽と尻尾も。あまり喋らない方で、目は金色で、あ、あとこの位大きかったです。それで…」

 

両手で武器を持って掲げ、説明を続けるカリン、微妙に伝わりづらい。得た情報を頭の中で整理していくネコのシリオンとボンプ。

 

何のシリオンか推察できず、言葉数少なくホロウでカリンちゃんを連れ回し、調査員ではないと明言しておりキャロットは所持していなさそう、全体的に黒っぽい大男、こちらに接触する直前に脈絡なく消えていった。

 

いくらなんでも怪しすぎる。

 

「カリンちゃん、何か変なことされなかった?あんまり知らない人に付いていったらダメだよ?」

「そうだぞ、そいつ怪しい匂いがプンプンするぞ」

「え、えぇ…?」

 

一応この二人と引き合わせてくれたと言える人物であり、何だかんだ一人より二人で遭難している方が幾分か気持ちが楽だったカリンにとって悪印象は無い。しかし二人の評価を覆すものを持っていないため困った表情で善意を受けとるのみである。

 

遭難者である自分は大人しくガイドの判断に従うべきだと納得させた。

 

「で、では、調査員様方にお任せ致します。このご恩はいずれまたお会いした時に必ず致しますので…!」

 

そう言ってぺこぺこしながら裂け目に入っていくカリンを手を振りながら見送る二人。

 

しばしの沈黙、

 

「それで、プロキシ、ホントに探してあげるのか?」

「勿論!頼まれちゃったしね。でも今は電車が優先、もうすぐ来ちゃうよ」

 

当初の目的であるホロウ内での電車の停止、それによる爆破解体の遅延の為二人は線路を目指す。

 

イレギュラーこそあったが万事予定通り進んでいると信じている、二人も、男も。

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