なんか久しぶりに会ったけどみんな様子おかしくない? 作:オレ
(ああ、クソ。やっちまった)
全身に走る痛みを感じながら、ただただ、そう思った。
周りを見る。崩壊した建物と、肉の焦げる匂い。何かを叫ぶような声が聞こえる気もするが、生憎、頭がぼーっとしていて何も分からない。
それでも、
「ユウ、リ」
こちらを泣きそうな目で見てくる先生は見えて、少しだけ、良くないとは分かっていても、少しだけ安心した。
「せ……せ」
(こりゃ、喉もイカれちまったか)
まあ、仕方ないか。元々身体の強度はそこまでなんだ。あんなもんぶち込まれたら、そらこうなる。というか、まだ生きていることが奇跡だと思う。
だが、恐らく助かりはしないだろう。今現在、瓦礫に腕が挟まれて動けないし、足の感覚もない。血がどんどん外へ流れていくのも感じる。こりゃダメだな。
で、あればだ。先程からこちらを泣きそうな目で……。いや、再度視線を戻した時には既に泣いていた先生を、どうにかしてこの場から逃がさなければならない。
「ユウリっ! ユウリぃっ!!」
「ぁっ───くっ」
しかしながら、喉がやられてしまっている。声を出すのは厳しい……こともないか。別に、もうすぐ死ぬのだから、多少の無理は問題ではないだろう。仕方ない。
「せんっ、せぇ」
「っ! だ、ダメ! 喋らないで! すぐにそこから出してあげるから!」
その言葉に、首を横に振る。俺の腕を地面と一緒にサンドイッチしてるこの瓦礫、そこそこデカイのだ。生徒ならまだしも、生身の人間である先生ではビクともさせられないだろう。
「おれのことは、いい、です。だ、から、はやく」
「置いていけって、そんなこと出来るわけない! だ、だって、早く治療しないと」
死ぬ。言葉を続けることはなかったが、そう言おうとしていることはすぐに分かった。実際俺もそう思うし、事実だろう。だからこそ、死ぬしかない俺と、生きなければいけない先生とでは、優先順位が違うのだ。
「たぶん、たすからない。だから、にげてください」
「っ……! いや! いやだよ! ユウリぃ!!」
そう涙を流しながら言う彼女は、なんともまあ、酷い顔をしていた。整っている顔をしているのに、今では涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。とても女性のする顔ではない。
俺のせいでその顔をさせていると考えると、とても申し訳なくなってくるのだが。しかし、許して欲しい。体が勝手に動いてしまったんだ、仕方ないだろう。
ああそうだ。他の子は大丈夫だろうか。怪我をしてない……は、無理だろうが、できれば痕が残るような傷がないことを祈ろう。皆、花の女子高生なのだ。
さて、こうやって変なことを考え始める時は相場が決まっている。限界なのだ。であれば、そろそろ何か言い残して眠りにでもつこう。そうだな、何がいいか。
死ぬな? 生きろ? 逃げろ? う〜ん、なんというか、面白みがない。こう、とてつもない衝撃の告白! みたいなものは〜……。特にないな。死に際で、自分がここまで面白みのない人間だと気づきたくなかった。
う〜ん、そうだなぁ。……ああそうだ。なら、今まで言っていなかったことでも言っておこう。まあ言うつもりもなかったことなのだが、最後だし、言っておこう。
「せんせい」
「っ!」
「おれ、あんたのこと、けっこうすきだったぜ」
「……ぇっ」
ははっ、呆けてる。おもろ。だが、事実だ。本当に思っていた。生徒のことを第一に考え、それを行動に示す。簡単なことじゃない。それをずっとやってのけるあんたのこと、結構尊敬してるんだ。
だからまあ
「……死ぬなよ、先生」
「ユウリ……? っ! 待って! ダメ! ユウリぃっ!!!!」
それだけ言い残した後、俺の視界は闇に染まった。結局最後の一言はつまんないものになってしまったが、仕方ない。あの人が死んだら皆が悲しむ。それは望むところではないし、何より、俺も悲しい。泣いてしまうかもしれない。だからこそ、あの人には死んで欲しくない。
自分で言うのもなんだが、俺にしては頑張った方だろう。うん、ここまでを思い返してみても、結構頑張ってる。俺基準だけど。
最期も、人を───憧れの人を守って逝けるなんて、上等すぎる終わり方だ。だから、悔いは無い。
……ああいや、一つだけ。一つだけあるかもしれない。
あの日、一緒にパフェを食べようと約束した彼女。翌日には姿が見えなくて、必死に探したけど見つからず、約束を果たせなかったあの子。それだけが、なんとなく心に残ってた。
名前は、聞かなかった。なんというか、言いたく無さそうだったから。でも、代わりに一つだけ、覚えていることがある。
よく笑う子だった。何かがあっても、笑顔を絶やさない。時折、無理をしてるんじゃないかと感じることもあったけど、心の底から笑っている顔を見ると、こちらも幸せになった。
「───起きて」
「……ん」
────ああ、そうだ。丁度、目の前に居るこの子みたいな
「おはよう、ユウリ君」
とても綺麗な、笑顔だった。
「……え、ああ。おはようございます?」
「うん、おはようございます」
……いや、ここどこだよ。え? 俺さっきまで調印式の会場に居たはずなんだけど? それがなんで急に電車に? というかこの人、居なくなったって噂の連邦生徒会長じゃね? ん? どういうこと??
「えっと、連邦生徒会長、ですよね?」
「お、よく分かったね」
「そりゃ分かりますよ。キヴォトスに居て、あなたを知らない人なんて居ませんよ」
因みにこれはマジだ。この学園都市で、彼女の顔を知らない者の方が少ない。それくらい有名だった。居なくなったけど。
「……ん、まあ確かにね。言われてみれば、そうかも。……さて、時間もないし、そろそろ本題に入ろうか」
「えっはい」
唐突な話題転換。
「ぶっちゃけて言っちゃうと。このままじゃ、君は死ぬ」
「はぁ」
「……」
「……」
「それで?」
「……えぇ!? 驚かないの!?」
「まあ。分かってましたし」
一体何を言われるかと思えば。あの傷で助かるわけがない。そんなもの、俺自身が一番よく分かっている。
「はぁ、な〜んだ、分かってたんだ」
「な〜んだってなんスか。一応死ぬこと自体は嫌なんですけど」
「知ってるよ、そんなこと。だから助けてあげようとしてるんだよ?」
「……え? 助かるんですか? 俺って」
マジで言ってる? あんな重症もいいとこみたいな怪我でも治せんの? 何者だよこの人。
「ん〜、流石に完全復活! とまではいかないけどね。多分、何かしら後遺症はのこると思うけど、それでも、命を繋ぎ止めることはできる」
「いやいや、充分すぎるというか。全然このまま死ぬんだろうなって思ってましたし。……というか、なんで俺のこと助けてくれるんですか?」
「なんで、か。う〜ん、そうだなぁ。君が死ぬと色々面倒なことになっちゃう。っていうのが半分かな。残された子たちの心の問題?」
「うん?」
面倒なこと? 心の問題? 俺が居なくなって何かあるのか? ……う〜ん、特に思いつかないな。なんというか、替えのきく人間ではあると思うし。
「その顔だと気づいてないかぁ。あの子たちも大変だねぇ」
「???」
いや、分からん。あーでも、確かに知り合いが死んだらそこそこ響くか。変に知り合い多かったし、そこら辺可哀想に思ったのかな?
「はぁ。ま、そこら辺は自分たちで頑張ってもらうとして。よいしょっと」
そう言うと、目の前に居た彼女は立ち上がる。俺の隣に座り、そのまま手を握ってきた。……???
「えなになになに? どうしたすか?」
「ん〜? ふふっ。良いじゃん、少しくらい」
「……まあ、別にいいですケド」
唐突なことで驚きはしたが、まあ、悪い気はしなかった。なんだか懐かしい感じもする。
「……」
「……」
無言。特に言葉を交わす訳でもなく、ただ時間が流れていく。いつもなら言葉が出てくるのだが、今回は、何も喋れなかった。
そのまま、何分経ったかは分からないけれど。不意に、握られていた手が自由になった。
「……終わりすか?」
「うん。もう充分」
「……そっすか」
なんというか、調子が狂う。噂されていた彼女の像と違うというか、うん。変な感じだ。彼女がっていうより、俺が。
「よし、さっきので君の命はあの世界に繋ぎ止められた。これで、君はあっちに戻れるよ」
「え、さっきのってそういう意味だったんですか?」
「そうだよ?」
「あ、そっ、すか」
「何? もしかして、ただ手を繋いでるだけだと思った?」
「えーっと」
「ふふっ。ま、その気持ちも少しあったけどね」
からかうようにこちらを見つめてくる彼女を見ると、なんとなく、勝てないんだろうなと、そう思わされた。
そんな会話をしていれば、少しの揺れと共に、電車が動きを止める。
「さて、ここでお別れだね。ここで降りれば、君はあっちに戻れる」
「……あなたは?」
そう尋ねれば、彼女は困ったように言う
「私は、まだ降りられないんだ」
「───」
その顔に、見覚えがあった。なんとなく、そうじゃないかと思っていたけれど。
「──そうですか、分かりました。ありがとうございます。色々、本当に色々。助かりました」
「気にしないでいいよ。じゃ、バイバイ。ユウリ君」
「はい、また会いましょう」
手を振ってくれる彼女に、こちらも手を振り返す。そのまま外へ向けて歩こうとして、途中で足を止めた。
「ああ、そうだ」
「うん?」
「次は、パフェでも食べましょう。美味しいところ、知ってるんです」
「───」
そう言えば、彼女は驚いた顔をして、そのあとすぐに
「うんっ!」
きっと、今まで見た中で、一番の笑顔をしていたと思う。
その笑顔を目に焼き付けて、外へと足を踏み出した。
「そっかぁ、覚えてくれてたんだ。ふふっ」
「───また会いましょう。ユウリ君」
「────ん」
次に目を覚ましたのは、ベッドの上だった。薬品や、消毒の匂いがする事から、恐らくは病室なのだろう。
辺りを見るが、他に同じ病室の人は居ない。というか、個室の様だ。
(なんというVIP待遇……)
個室の入院なんて初めて……。いや、そもそも入院自体初めてだ。俺は健康優良児なのである。
さて、どのくらい寝ていたのかは分からないが、起きたことを伝えた方が良いだろう。
(一先ず、看護師の人でも探しに行くか)
そう思い、立ち上がろうとベッドに手をつこうとして───そのまま盛大にコケた。
「いってぇ!?」
なんともまあ、綺麗に転んだものだと自分でも思う。そして、その時になってようやく気がついたのだが
(え!? 右腕無いんだけど!?)
そう、意識を落とす前までは確かにあったはずの両の腕が、一つ数を減らしていた。それはもう、肩からバッサリと。
(あ〜、後遺症ってそういう。つーか足もちょっと動かしづらいし……。んまあ、命と比べりゃ、安いものだな)
元々死ぬつもりだったのだ。それが片腕と少しの違和感で済んだのなら、大儲けだろう。
そんな事を思っていれば、病室の外から、ドタバタと音を立てて誰かが近づいてくる気配がした。
「月島先輩!? 大丈夫ですか!? 入りますよ!」
そんな大声と共に、勢いよく扉が開かれる。そこに立っていたのは、見知った顔だった。
「あ、鷲見じゃん。やっほ」
鷲見セリナ。俺の一つ下の後輩だ。めちゃくちゃ良い子で、俺とも結構話してくれてた。その彼女が、俺の顔を見るなり固まってしまっている。
「えっと、大丈夫?」
思わずそう声をかけると、数度瞬きをした後、震える声で話しかけてきた。
「──うそ、ほんとに? ほんとに、先輩なんですか?」
「え、そうだけど。どったの?」
「ほんと、に……?」
「だーからそうだって。何? なんかあったの?」
俺がそう答えると
「───ううっ」
その場で泣き出してしまった……!?!?!?
「えっちょっ! 鷲見!? なんで!? 俺なんか変なこと言った!?」
「ちがう、ちがうんです! だって、もう目を覚まさないかもって……!」
「大丈夫! 大丈夫生きてるって! あ〜! 泣かないでくれ〜!!」
そのまま宥め続けること数分。なんとか泣き止んでくれた鷲見は、さっきまでのことが嘘かの様に
「私! 皆さん呼んできますね!」
と言い残し、走り去っていった。うん、切り替え早くて良いと思うよ、先輩は。
そして、鷲見が呼んできた子たちと面会するってことになったんだが。なんというか、俺が軽く声をかけるだけでみんな泣き崩れてしまうため、こう、酷いものだった。たまに普通に喋れる子たちも居たが、その子たちも、途中で何かが崩れる様に泣き出してしまうため、うん。酷いものだった。
特に酷かったのは先生だ。
「お、先生。やっ「ユウリぃ!!」ぐほっ!? ちょ、先生! 苦しい! 苦しいって!!」
「良かった……! ほんとに、良かったよぉ……!」
「あ〜、その。すみません、心配かけたみたいで」
「っ! うぅ〜!!」
「ちょ! だから苦しっていや力つよ!?」
ってな感じで、そこそこの間抱きつかれて離れられなかった。あの人生身だよな? それにしては力めちゃくちゃ強かったんだけど。
「はぁ〜。なんか疲れたな」
そう言葉を零した時、子気味のいい音で、ノックが響く。
「ん、どうぞー」
「失礼します。お疲れ様でした、先輩」
「おっ、鷲見か。いや〜、ほんと疲れた。みんな大袈裟だっつーのよ」
入ってきたのは鷲見だった。結構時間が経ったためか、どうやら落ち着いたようだ。
「先程は、その。失礼しました」
「ん? ああ、いいよいいよ。鷲見より酷いやつなんて沢山居たし。はは」
「そ、そうですか。いえ、でも仕方ないと思いますよ?」
「うん?」
「だって先輩、1ヶ月も寝たきりだったんですから」
「……マジ?」
「マジです」
「そ、そうか。そうかぁ」
1ヶ月、1ヶ月かぁ。うんうん、そっかぁ
「いや寝すぎだろ! ちくしょー!! 花の高校三年生である希少な時間が!!!!」
「先輩、お静かに」
「あっ、すみません」
ガチの思いつきのため、更新するかは気分次第。
以下、簡単なキャラ設定
・月島 ユウリ (つきしま ゆうり)
本作オリ主。トリニティ総合学園三年生
旅が趣味であり、様々な学園の自治区に赴いては友達を増やしてくるコミュ強。さらには、人の問題に首を突っ込みたがる物好き。小さないざこざから学園同士の争いまで、様々な問題に首を突っ込んではどうにかするため、色んなとこからの評価が高い。
グッドコミュニケーションを連発し、人の好感度をぶち上げては次のところへと旅をするため、様々な人間から重めの矢印を向けられているが、本人は何処吹く風。次の旅はどこにしようかとしか考えていない。
故に、こいつはクソボケである
エデン条約の調印式にて、迫り来る巡航ミサイルをなんとなくで感じ取り、先生を庇ったことで腕とさよならした。本人は本気で気にしていないが、それはそれとして周りが気にしないとは限らない。しかし、こいつはそれに気づいていない。
故に、こいつは大クソボケである