J2山形は民間主導の「稼げるスタジアム」をどう建てるのか? 社長が語る設計、資金調達の内幕

大島和人

モンテディオ山形の新スタジアムが2025年秋に着工する(写真はイメージ図) 【(C)MFP】

 2025年は日本にプロサッカーが誕生して33シーズン目。日本代表はワールドカップ(W杯)の7大会連続出場を決め、ヨーロッパの「五大リーグ」に所属する日本人選手は20名に届いている。しかし日本サッカーがそれだけの歴史を重ね、ピッチ内の発展に成功した今も、国内のスタジアム整備は現在進行系の課題だ。

 球技、フットボール専用のスタジアムをホームにするクラブは徐々に増えている。J1からJ3まで60クラブのおおよそ半分が陸上トラックのない『専スタ』を本拠にしている。とはいえスタンドとピッチの距離、アクセス、老朽化、演出装置などに課題を持つ会場は今なお多い。

 スタジアム建設は難易度が高く「やる気」だけでは実現できない。W杯、オリンピック、国民スポーツ大会(旧国体)のようなビッグイベントがあれば、官のプロジェクトとしてスタジアム建設は進みやすい。ただ公共施設はJクラブがその整備を主導するわけでなく、ビジネス的なニーズを満たさぬ場合も多い。

 民間主導でスタジアムを建てようとすれば、資金調達、採算性が高い壁になる。しかもロシアによるウクライナ侵攻長期化により、建設資材の高騰が続いている。日本国内の課題としても職人不足があり、工賃も上昇中だ。

 そんな悪条件を乗り越えて、山形県天童市の新スタジアム建設は「民間主導」で軌道に乗りつつある。今回はモンテディオ山形と「モンテディオフットボールパーク」の社長を兼務する相田健太郎氏に、新スタ建設の内幕を語ってもらった。

当初は「ドーム構想」も

 山形は通算4シーズンのJ1経験を持つが、2016年以後はJ2を戦いの舞台にしている。昨年の売上は26億円強で、J2全体の5位に相当する規模と経営的には堅調だ。

 相田社長は山形県出身だが、東北楽天ゴールデンイーグルス、ヴィッセル神戸でキャリアを積んだ51歳。山形の社長就任は2019年1月で、今季が7シーズン目となる。スタジアム建設の本格的な当事者になったのは2020年に入ってからだった。彼は「勉強会」からスタートした。

「興味のある自治体に手を挙げていただいて山形、天童、鶴岡、村山の4市でスタートしました。官が作るようなものでなく、稼げるものにしたかったです。『サッカーは20日しかやらないから、そうでない日に使えるものを作らないとダメだ』という話をしました。周辺の開発、交通をどうするかも大切です。『街を変えていく覚悟があるかどうか?』を含めて考えていただけるかがカギだと思っていました」

 相田が「色々と相談させていただいた」と振り返るのは、日本政策投資銀行の故・桂田隆行氏。スポーツビジネスや地域おこしに精通したバンカーで、惜しくも帰省中の2024年1月1日の能登半島地震で逝去している。彼が過去に在籍した楽天、神戸で得た知見に加えて、エスコンフィールド北海道建設の立役者になった前沢賢氏(北海道日本ハムファイターズ)、沖縄アリーナの建設に関わった木村達郎氏(琉球ゴールデンキングス元社長)らからもアドバイスを受けた。

 相田がそういった競技を超えた「賢人」の知恵も借りて情報を吸収し、それを各市に伝える流れもあった。最終的なコンペに残ったのは山形、天童の両市で、2022年3月に天童市で内定した。候補地は山形県総合運動公園に隣接する駐車場用地で、現在のホームスタジアムであるNDソフトスタジアム山形に近い。

 相田は立地選定の背景をこう振り返る。

「最初は生意気にもドームを作ろうとしていたんです。物価高騰など想像もしなかったですし、オランダのヘルレドーム(フィテッセの本拠地)やシャルケのフェルティンス・アレーナのような方式を考えていました。ヘルレは80億円くらいで作っていますし、日本でも150~200億円で建つ想定が当時はありました。屋根を動かすのか、ピッチを動かすのか考えて、僕らは『ピッチを出す』結論を出しました。2面分サッカーフィールドを置ける場所を求めて、それに合うのが天童市からご提案いただいた場所でした」

 土地の所有者である山形県の合意も取り付け、新スタジアムの立地は天童市と定まった。着工は2025年秋で、竣工は2028年夏の予定。約二千台分の駐車場を潰すことになったため、様々な調整やアイデアは必要になる。交通計画、上下水道などのインフラ整備や「官と民」の分担など、細かい調整はまだ残っている。ただ大筋はしっかりと定まった。

何が建設の障害になったのか?

「お手本」の一つになったヘルレドーム(オランダ) 【Dave Rogers /Allsport】

 新スタジアムの設計・施工は大手ゼネコンの清水建設が受け持つ。エリア全体の「ランドスケープデザイン」を担う会社、プロジェクトのマネジメントを担う会社と、複数の企業が関わるプロジェクトだ。着工前の現時点で3、40人が関わっているという。

 立地、設計や施工の座組は決まった。ただし天童の新スタジアムは民間主導で、「稼げる」ものを目指している。全額まで行かずとも「民」が自前で資金調達を進める必要があった。相田はこう振り返る。

「トータルのコストが約150億と言われていた中で、資金を3分の1ずつ調達したいと考えていました。自治体、企業版ふるさと納税や個人のふるさと納税の活用、そして借り入れというイメージです。最大50億は借り入れても返済できるだろうと考えて、その発想でスタートしました」

 もっとも「50億」と言っても、昨年度の売上は年間26億円。山形は4年連続で黒字は達成しているが、その額は千万の単位だ。相田も言うように外部からの調達が必須となる。

「最初にぶつかった壁は銀行融資です。明確な返済計画が無いと、当然貸していただけません」

 スタジアムは建てたら終わりではない。完成後の運営、メンテナンスにも当然ながらお金の出入りがある。どう必要な資金を圧縮するか、外部資金を得るかについて、彼らは様々な方向性を模索した。

「次に我々が動いたのは『負担付き寄付』で、スタジアムを自治体にお渡しする方法です。ランニングコストの負担も改修も我々がやるから、寄付を受けてほしいと伝えました。そうすると固定資産税が減り、自治体所有物であればtotoの助成金申請が可能でした」

 完成後の寄付はパナソニックスタジアム吹田でも活用されたスキームだ。しかし山形ではこの交渉が不調に終わった。

 さらに「都市公園」を巡る線引きもあった。都市公園法に基づく公園の一部としてスタジアム建設を行えば、国費による補助を得られる可能性が高かった。しかし今回のケースはそこに該当しない。

「(都市公園として整備されている)山形県総合運動公園の面積は約60ヘクタールで、さらに15ヘクタールは市街化調整区域となっている公園の特設駐車場です。今回の立地は都市公園外なので、都市公園向けの補助金の申請はできません。ただ、都市公園内に設定してしまうと、制約上やれない事業も出てきます」

SCOグループの支援が契機に

2024年は山形の平均観客数が1万人を超えた 【(C)J.LEAGUE】

 資金調達、寄付、補助金に関する模索はなかなか方向性が見えなかった。2023年、24年は銀行とやり取りが続いていた。

 事態が大きく動いたのが2024年の年の瀬。山形銀行から「3月までにいくらお金を作れるかで、最終的に判断する」という内容の回答があった。「3カ月でお金を作る」ことの難易度は、特に説明も不要だろう。

 相田が「すがれる」相手は株主、スポンサーということになる。資金提供に応じたのはクラブにとって3番目(約15%)の株主であるSCOグループ。歯科医院を中心に、医療のデジタル化を促進している企業だ。

 SCOグループからの支援が「呼び水」となり、山形銀行から大口の借り入れも決まった。

 スタジアム建設に限らず、このようなプロジェクトは「お金がお金を呼ぶ」側面がある。まずクラブが一定規模の集客、売上を実現していることは大切だ。そこに魅力、可能性を感じてまとまった資金を出してくれる人がいれば、金融機関や行政も乗ってくる。天童の新スタジアム構想について言えば「ファーストペンギン」がSCOグループだった。

 相田は言う。

「資本参加いただける企業に声をかけ、出会うことができれば何とか前に進めるようになる。そこは今回の経緯で思ったところです。クラブがちゃんと集客をして、売上を作れる団体にならないと、自治体は信用してくれません。私たちは2021年以降ずっと伸びている状況で、僕が来たときが約16億ほどだった売上が、去年は26億でした。観客動員もコロナで平均3,500人まで落ちましたけど、昨季は1万人を超えています。しっかり黒字で、お客様のニーズもあるチームに売上が紐づいていれば、スタジアムが必要だという行政の理解も得やすいと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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