ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
「……よし」
「『……よし』じゃないですよ!? やり過ぎじゃないですかメグル先輩〜!」
「だって噛み付いてくる勢いだったし。ホシノにやらせた方がもっと酷かったぞ多分。なあ?」
「それはどういう意味なのかはまた詳しく聞かせてもらうよメグル〜」
独りだった。寒かった。
自分の名前以外何も分からず、どうして生きているのか、生きる目的も何も無い。
「大丈夫? 名前は?」
「……シロコ。砂狼、シロコ」
「一回名前言ってからフルネーム言うのかっこいいと思ってるタイプだぞあれ」
「メグル先輩、しっ、ですよ!」
「犬???」
そんな薄着は寒いだろう、と私の首にマフラーを巻いてくれた女性。
その後ろで何かを言い合っている女の子と男の子。
仲が良いんだな……と、そんなことを思った。
「マフラーだけじゃ寒いだろ」
そう言って、男の人は来ていた上着を脱いで私に着せてくれた。
その人の温もりが残っていたからだろうか。マフラーとこの上着が、やけに暖かく感じた。
「あ、いいな〜。おじさんも人肌恋しいから、メグルの服欲しいよぉ」
「何言ってんだこいつキショ」
「殴るね〜」
笑っているのに怒気が溢れていて拳を構えた人を、もう一人の女の子が慌てて止めに入る。ダメですよー、どーどー、と宥めながら羽交い締めにしていた。
「砂狼」
名前を呼ばれて顔を上げる。彼の顔が見えるのよりも先にポンと頭に載せられた大きな手。
不快だとは一切感じなかった。こんな寒い日の素手なのに、本当にどうしてか彼等は暖かい。
「俺らの学校に来いよ」
何かを思い出すような素振りを見せながら私に手を差し伸ばしてくれた彼……メグル先輩。
これは、私の起源。
私の
いずれ崩れる、輝かしい記憶。
◈◈◈◈
別に、俺は刀の扱いが達人並に上手い訳ではない。
キヴォトスに来てから今日に至るまで持ち続けた約二年間。本職にとっては刹那に満たない期間でしかない。
才能はあったのかもしれない。それでも、俺は自分では技術がずば抜けているとは思えなかった。
俺がしているのはただ、線をなぞるだけだから。
ゆっくりと。
いっそ、止まって見える弾丸の中心に刃を置き断ち切り、側面に添わせて軌道をずらし、ゆっくりと迫ってくるそれを回避する。
これの何が難しいというのだろうか。
「チィ……ッ!!」
「リーダー、どうするの」
四方から飛来する弾丸の全てを断ち切る。それらは俺の体に掠りもせずに飛んでいき、軌道を調整した一部は同士討ちとなってあいつらを襲う。
被弾しても痛いで済ませるキヴォトスクオリティ。だからこそこいつらに加減はいらない。
「ご……ふ……ッ」
「ヒヨリ!?」
一歩跳躍。
縮地と呼ぶべき歩法。それだけで俺はヒヨリの背後へと移動して、俺の姿を追えていない彼女の背中を蹴りつける。
踏み込んだ俺の足元が僅かに陥没。ミシリという音は俺の脚の骨が軋む音。
正直、今は痛みを感じることは無いために躊躇いなく蹴り抜く。
長い廊下をボウリングのように転がっていくヒヨリに視線を向けたミサキの前に移動。
慌てて構える銃口は面白いぐらいに遅い。俺はしゃがみこみ、ミサキの左足の健を断ち切る。
声を漏らして崩れ落ちるミサキの顎を柄で叩き上げ、浮かび上がった横顔に身体を回転させてかかと落とし。窓を破壊しながらミサキの体が吹き飛び、隣の部屋の支柱に背中から衝突して倒れ込む。
「カイッ!!」
震脚という技法がある。
地面を強く蹴りつけ、その衝撃やら力やらを利用して次の一手の威力を増幅する的なやつ。詳しくは知らない。うろ覚えだから。
だから俺が今行ったのは、震脚もどきでしかないのだろう。
足を浮かすことなく床に接したまま足を踏み込む。
瞬間、耳を貫く轟音と大きく揺れる建物。
二人の仲間が倒れ、銃を乱射してきたサオリの銃弾の全てが俺の足元を円状に展開された衝撃波で吹き飛ばされる。
何度目かも分からない驚愕をあいつは浮かべているのだろうか。目を見開くサオリを見つめ、首を横へと軽く傾ける。
「もう終わるぞ?」
「────ッ!?」
ヒフミが泣いていた。
ふえぇぇぇ、なんて馬鹿みたいな声出して涙ぐんでいた彼女の、嗚咽を隠すような痛々しい姿。
いつもは顔を上げていたのに、あの時は地面に這いつくばって誰にも顔を見られないように下を見続けていたから。
そんな姿を見てしまったから。
俺の移動速度を加味して距離を取るのは逆に悪手なのだと悟ったのか。サオリは強く踏み込み一息で俺へと銃を放ちながら接近してくる。そっちの方が悪手だけどな。
線をなぞるだけだ。
俺が思い描く道筋を。ゆっくりと、丁寧に。
キヴォトスの人間の強度は異常だ。死ぬことなんてそうそうない。というか、死ぬなんて思っていないだろう、こいつらは。
ただ、痛みは感じる。それだけで十分。
斬る。
心を無にして刀を振るう。
無音の斬撃。舞い散る鮮血。
薄皮一枚程しか切れない程度には加減をしているが、だからこそ全身の至る所から痛みが走るのだろう。
「あ、ぎっ……!!」
止まらぬ剣戟、途切れ途切れに響く苦渋の声。
横から弾丸が飛んでくる様子は無いから容赦なく俺はサオリを斬り続ける。
体感にして数分、時間にして数秒に満たないだろう。
「……、……か……」
銃を離さないのは流石と言うべきなのか。
それでも全身を刻まれて満身創痍、力なく前方に倒れてきたサオリの横腹を回し蹴りで蹴り飛ばす。
ちょうどヒヨリとは逆方向へ飛んでいく身体。こいつらの身体が四方向へとバラバラに。三人とも気絶もしくは動けないほどにダメージを受けているようだ。
「撃たないのか?」
最後。
いつも着けているガスマスクみたいなやつを外して床へと捨てている少女、アツコは端正な顔を見せながらフードを被り、銃口を下げて自然体で俺を見つめる。
「カイには勝てないから」
「あっそ」
刀を鞘へと戻し、手ぶらで彼女に向き直る。
「あなたとは、敵対したくなかった」
「ベアトリーチェさんの指示だろ、どうせ」
ベアトリーチェさんの指示の元、彼女達は動いているはず。別に、俺と敵対しろなんていう指令は下ってはいないはずだ。
ただ、ベアトリーチェさんの求める成果を上げる過程で俺がイラついただけ。
俺の考え通りだろうけど、アツコは小さく顔を横に振る。
「カイと、戦いたくないの」
言い方を変えただけにしか聞こえないけど、何か意味を込めているのか。
心底どうでもいいが。
「お前らは悪くないよ。最初に言っただろ、八つ当たりだって」
「うん……羨ましいな」
「なにが」
「カイの中で大切な枠組みに入れてる子が」
「ただの友達だよ、あいつは」
「うん────羨ましいよ」
どう言い表せばいいのだろうか。
今、目の前でまっすぐ俺を見つめるアツコの表情は、本当に自然と笑みが浮かんでいて。
好きな物を買ってもらった友達を見た時の子供のように。
ただ純粋に、羨ましいのだと言う彼女。
「そうか」
そうして俺は、掌底をアツコの鳩尾へとねじ込む。
「アツコッ……!!!」
前に、俺の足元に投げられた球体。
瞬間的に発光するそれは高音であり爆音を鳴らすスタングレネード。左腕で目を隠す。
続け様に投げられたただのグレネード。俺はその場から飛び退き爆発射程外へと瞬間的に回避する。
避けようと思ったけれど、建物内は普通に狭くて爆風を避けるのは無理だったために爆発ごと建物を縦に両断。パッカーン、といけば良かったけどそもそもガタが来ていたのか、ヒビがはいり崩れ始める予兆を感じたために真上を円状に切り抜き飛び上がって外へと逃げる。
壊れた窓やら穴という穴から炎と煙が噴出される。威力バグってるだろ殺す気か?
こんなもん、近くにいたアツコもタダでは済まないだろうとは思うけど恐らく無傷で生還しているのだろう。
アツコを呼ぶ叫び声はサオリのもの。そしてアツコと話していて警戒を弱めていたけど、思い返せばヒヨリはともかく、ミサキは動いていた気がする。片足の健を切り飛ばしているから自由には動けないだろうが。
視界はすぐに回復したが聴覚はあと数秒かかりそうだ。そうこう言っているうちに治ったが。
崩れる建物だったものの瓦礫に着地してもう少し高い建物の屋上へと飛び上がる。周辺に人の気配は感じられない。上手く逃げられたようだ。
「────見つけた」
後でベアトリーチェさんもボコるか。
静かで暗い世界を俯瞰して、俺は懐に仕舞っていた仮面をもう一度被り遠くを眺める。
点在する建物の数々が複眼ババアを連想させた。全部斬ろうかな?
そうして、俺は暗闇に身を投げる。
(ホシノ居るくね? まあいいか)
全てが交錯するその地へと。
そして俺は目撃する。
「────私たちの、青春の物語を!!」
(お前なん???)
俺の友達が、超重要人物だったという事実を。
ベアおばは廻くんのことをちゃんと下に見てます