J2山形は民間主導の「稼げるスタジアム」をどう建てるのか? 社長が語る設計、資金調達の内幕

大島和人

ピッチを守りつつイベントを増やす仕掛け

相田社長の就任後、クラブの事業規模は順調に伸びている 【撮影:大島和人】

 新スタとその周辺には、サッカーを開催しない日を想定した仕掛けが盛り込まれる。

「皆さんヨーロッパを模倣する傾向が強いですけど、我々はどちらかというとアメリカ型のスタジアムを志向しています。サッカー以外で楽しむ場所を多く作ります。南側の屋根の無い場所は芝生の養生を考えて日当たりを良くする狙いもありますけど、ピッチ半面くらいの広場を作って、イベントをどんどんします。サンノゼでMLSのホームになっている『PayPalパーク』を模倣したモノです」

 大前提として、サッカー場は芝の状態を良好に保つ必要がある。イベント、コンサートなどで機材や人が入ると、どうしてもピッチは荒れる。「サブグラウンド」的なスペースを用意することで、スタジアムのインフラを活かしつつ、ピッチを荒らさずにイベントができる。

 1万5千人収容のスタンドをフルに使う大型イベントも当然あるだろう。そこでもサッカーへの配慮、対応がある。

「土地が周りにもあるので芝生の圃場(ほじょう=栽培用地)の確保もできます。イベントでピッチを使っても(養生に一定の時間はかかるが)芝生の入れ替えを比較的スムーズにできます」

 日本のサッカー場ではまだ一般的ではない、接待やエグゼクティブの社交に活用される「VIPルーム」も設置される。上層階でなくピッチの脇に置かれるところが特徴だ。

「皆さんVIPルームを高層に作りたがるのですが、1階に作りました。野球やサッカーで違和感があったのは、お偉方の皆様がエレベーターの前で待っている姿です。エレベーターに乗らなくても良い世界を作ったほうがいいと思いました。あと山形っていいお店、いい食べ物はいっぱいありますけど、接待に使える場所が実はそんなにない印象です。我々がここでしっかりした食事をご提供して、車の送迎もつければ、そういう用途で使っていただくポテンシャルはあると思います」

 VIPルームは、試合がない日にも活用可能だ。

「VIPルームは全てオフィスとして販売します。普段から仕事場として使っていただける形です。広さも一部屋当たり約80平米あります。場所によって多少プライシングを変えてもいいと考えていますが、しっかりとマネタイズできるようにしようと思っています」

天童の新スタは「お手本」となるか?

VIPルームはピッチサイドに設置される 【(C)MFP】

 大小含めたイベントの開催は年間80日ほどの予定だ。モンテディオ山形以外のサッカーやラグビーの開催も当然ながら想定している。例えば高校サッカー、高校ラグビーの県大会を新スタで開けたら高校生にとっても嬉しい話だろう。収入についてはいわゆる「貸しスタジアム」の使用料、VIPルームも含めた付随施設の賃料、広告収入といったものになる。これからの話だが、ネーミングライツの導入も当然あり得る。逆に今まで県に支払っていたスタジアム使用料は不要になる。

 売上の想定について、相田社長はこう述べる。

「初年度(2028年)は半年だけなので4、5億円だと思いますが、年間10億くらいの事業を作れるかな?というイメージです。返済や人件費はまかなえるなというシミュレーションです」

 建設費の想定は約150億円。建築費の高騰さえなければ、同じスペックのものを100億円以下で、借り入れなく作れた可能性もあるという。とはいえ、彼らは「膨らんだ」額の資金調達をやり切ろうとしている。毎年の返済額は今後の寄付、クラウドファンディングなどで圧縮される可能性があるものの、約2億円。そこはスタジアムの収入から返済していくことになる。

 山形県、天童市、クラブにとって今回のプロジェクトに大きな意味があるのは間違いない。もう一つ大切なことが民間主導、官民連携のスタジアム作りという「選択肢」がこの国の地方都市に根付くかどうかだ。

 今回のスタジアム建設についてはSCOグループの支援があったとはいえ、山形は大企業がオーナーについているクラブではない。山形県の人口は100万人を割っていて、天童市の人口も約6万人。「まとまった土地の確保」に限れば大都市圏より有利だが、決して恵まれた環境ではない。そのようなクラブが自前のスタジアムを持てるならば、それは大きなイノベーションだ。

 相田は言う。

「小さな街の小さなクラブが、自前でスタジアムを作って、それを回しながらクラブもその街も成長していく――。そのようなビジネスモデルを僕は作りたいです。20数億円(の年間売上)なら、どこのクラブも頑張れば作れると思います。そういうクラブが自治体と組んで、SCOグループのような企業と出会うことができれば、スポーツクラブを起点に街を盛り上げていくことは可能です。あと公設でなく民設にした負担はありますけど、得られたものも大きいですね。それは今回やって思ったところです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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