たとえばアニメ映画版『All You Need Is Kill』のキャラクターデザインが、原作小説を無視するようにコミカライズや実写映画と比較して反発されていた。アニメライターの前田久氏*1が批判的に言及していた。
逆にSTUDIO 4℃が、いわゆる現代の日本のアニメで主流なキラッキラした美形キャラが活躍するようなアニメを作ったら、そっちの方が事件なんでは(なんか見た)。最近のSNSは、前にもましてよくわからんことをいう自称「オタク」が増えた感じだなー。なんなんだろうか。
「解釈違い」とかいって小畑健さんのコミカライズとハリウッド版のキービジュアルしか貼ってない投稿にもかなりムカついたな。オリジナルは安倍吉俊さんだっつーの。そこに敬意を払えない奴が「解釈違い」とか言ってんじゃねえや(過激派)。
おそらく下記ツイート*2に対する批判だろう。
チャオの会社さぁ、普通に描けないのか?
解釈違いなデザインってレベルじゃない
原作が小説なのは存じております
あくまでもキャラデザの話ですので
チャオで爆死した絵柄でGOサインが出ているのに我慢ならない所がありました
なお、アニメ制作会社アカウントの予告編ツイートに対する反応を見ると原作小説の表紙をならべた反発も複数あるが、ざっと見たかぎりはコミカライズはアニメ映画版への反発としてもちだされている。
しかしライトノベルとして最初から挿絵があった原作小説*3からコミカライズされた時点で、絵柄が荒々しさが減っただけでなくパワードスーツのデザインも変わっている。さらにハリウッドで実写映画化された時には人種や年齢も変わった。
つい最近、ゲーム『アサシン クリード シャドウズ』のシリーズ新作がアジア人女性と黒人男性のダブル主人公だったことが、アジア人男性を主人公としない人種差別と反発された。
ゲーム『アサシンクリード シャドウズ』が日本を舞台に外国出身の黒人男性を主人公にした差別性は、漫画『ゴールデンカムイ』が北海道を舞台に和人男性を主人公にしたくらいに差別的な可能性はあるが…… - 法華狼の日記
一方で主人公の人種が白人に変更された実写映画版『All You Need Is Kill』は日本のアニメ制作会社を批判する根拠にあげられ、ゲーム『アサシン クリード シャドウズ』に反発したような動きは見られない。理不尽なものを感じる。
そもそも原作の再現は絶対的な理由ではない。オリジナル作品『ChaO』のキャラクターデザインも嘲笑されたり、クリエイターの意向を会社がねじまげたかのような反発がされていた。
←キャラクターデザイン・総作画監督
→キャラクターデザインこれが同じ人だからやっぱ4℃制作の上の方でコレで行けって何かイカれた感性の人おるんやろなって
オリジナル作品と原作イラストにあわせた作品で、前者を制作会社が許容したことはたしかだろうが、強要したかのように考える理由がわからない。
引用で批判している複数の証言によると、やはり『ChaO』こそが本来の絵柄とアニメーター*4自身が語っていたという。
トークショー見に行って実際に聞いてるからわかるが、寧ろクリエイター側が自由にやった結果が左なので、「安易に上の方を敵扱いする」ところと「クリエイターは悉く自分と同じで萌え絵が大好き」という浅慮を変えるべき。
キャラデザ・作監の小島大和さんの話だと自分の性癖で作ったのがChaOで、チャオのギザ歯はやめろと言われたけれどそこは譲れないと、あのデザインになったというような。つまり、←の方が4℃ではなく作画監督の個性。
「F@F_」氏の指摘は、先日の『ぼっち・ざ・ろっく』の性的描写をめぐって脚本家が越権行為をはたらいたかのようにレポート記事が解釈された問題に通じるところがある。
『ぼっち・ざ・ろっく』のTVアニメ化で性的な描写を抑制したことが、関係者の合意でおこなわれたとなぜ考えられないのだろうか? - 法華狼の日記
むしろ、吉田氏がひとりで勝手に物語の要素を決めているとレポート記事から解釈する人々がいて、反発するのはなぜだろうか?
ひとつの可能性として、クリエイターは性的な描写を追及することが通常で、吉田氏の意見は原作者や監督に合意されるはずがない、という誤った考えをもっているのかもしれない。
アニメの絵柄はキャラクターデザイナーや作画監督など作品ごとのスタッフが方向性を決めるものだが、そうしたアニメーターを社員として雇用していない制作会社でも、企画や座組の傾向もたしかにある。
STUDIO4℃への評価には湯浅政明作品を下手に真似ているかのような反応も散見されたが、そもそもショートフィルムなどを除いた本格的な初監督作品『マインド・ゲーム』はSTUDIO4℃制作だ。
残念ながらヒットにはいたらなかったが、素晴らしいアニメーションで国内外で高い評価を受けた。
他にも片渕須直監督の『アリーテ姫』のように、商業的な結果には結びつかなくても、見込みのあるクリエイターに自由にさせることで飛躍の足がかりにさせる、STUDIO4℃はそういう会社という印象がある*5。
また、STUDIO4℃作品で異なる絵柄といえば、ハリウッド映画の宣伝のために複数の制作会社が参加したオムニバスアニメ『バットマン ゴッサムナイト』も思い出す。
かつて米国TVアニメ版を手がけた西見祥示郎を起用した第1話と、この作品の縁から後にアニメ映画版『ベルセルク』を手がける窪岡俊之を起用した第5話で、カートゥーン調とリアル調が楽しめたものだ。
『バットマン ゴッサムナイト』 - 法華狼の日記
もともとSTUDIO4℃制作作品には『彼女の想いで』『スプリガン』『ベルセルク』のようなリアル調アニメのラインもあるが、そちらにしても必ずしも商業的なヒット作という印象がない。一方で外国との共同制作は定期的におこなっており、安定して仕事をできているようではある。
たぶん『All You Need Is Kill』も外国市場を意識してカートゥーンアニメのように売り出すのではないかと想像しているが、これは公式の説明がないかぎり断言はできない。
*2:現ポスト。
*3:『All You Need Is Kill』桜坂洋著 - 法華狼の日記
*4:小島大和 - 作画@wiki - atwiki(アットウィキ)
*5:そうした作品ごとの主軸となるクリエイターを重視するアニメ制作会社のよくある悪癖として、末端のスタッフの過大な負担も無視できないが。