監獄塔の最上階を守っていた衛兵は、二人の騎士の、一連のやり取りには当然気づいていない。
「騎士の叙任式はどうなさったんです?」
「終わったぜ、今日からライヴェンも騎士だ。それより、そこの盗賊を貰い受けにきた」
衛兵は「は?」と間抜けな声を漏らす。「なんですって?」
「身柄を貰い受けにきたんだ。まァ、うちのライヴェンが惚れちまったみたいでな」
「えっ、……あ、そういう……」
混乱する衛兵と、師を睨むライヴェン。
ライヴェンが鍵を開けると、中にいた囚人服のフィノーラは「よう」と声をかける。
「六十一日目。絞首台の用意ができたか?」
「いや。諸般の事情で取り消しだ。釈放だよ」
「おいおい、本気で出してもらえるなんて思ってもなかった……感謝する、ライヴェン。それから、そっちの……」
ノルトは「ノルベルト、だ。ノルトでいい」と軽く応じる。そうしてライヴェンの背中をパシパシ叩いて、「いい女じゃねえか、惚れるのもわかる」と囁く。
「うるさいです師匠。……フィノーラ、お前の装備を取ったら、俺たちもすぐに城を出る。今日は城下で過ごして、新年早々旅立ちだ」
「雪中行軍ねえ。まあいいけど。……改めて礼を言う、ライヴェン。それから……サー・ノルベルト?」
「ノルトでいいと言っただろ。堅苦しいのはやめにしようや」
肩をすくめるノルト。
一行はぽかんと口を開けている衛兵の脇を抜け、一階の装備押収所でフィノーラの装備一式を取り戻すと、パーピガンを通って外に出る。
「俺は馬を用意する。二人は今日の宿と、それから明日に備えて道具類を用意してくれ。いいな」
「わかりました、師匠」
「あー、ライヴェン? お前は放浪騎士とはいえ、騎士なんだ。俺とは対等だ。わかるか?」
「……わかりまし、──わかったよ、ノルト。でも、金は?」
そう言うと、隣のフィノーラがじゃらじゃらいう袋を胸元から引っ張り出す。
「手癖が悪いな、フィノーラ。仲良くやれそうだ」ノルトがにやりと笑った。
ライヴェンは察しが悪く、「なんだ、しっかり稼いでるじゃないか」と生真面目に言った。
「真面目に働く盗賊なんていないっての。あの押収所でくすねたのさ。どうせ汚れた金だから」
思わず閉口するライヴェン。ノルトは笑いながら「俺の馬はまだ三歳、旅に連れて行くにゃあ悪くねえ」と厩舎へ去っていった。
二人は自由すぎる最先任の騎士を見送って、城門から外に出た。
跳ね橋を渡り切るか否か──そこで、背後から声がかかる。
「ライヴェン!」
ドルフだった。彼は肩を怒らせて、押収所で正装を脱いで適当な革鎧と毛皮のコートに着替えていたライヴェンを睨みつける。
「どういうつもりだ!」
首に巻いているマフラーを、彼は思い切り掴み上げた。
顔にはありありと、ライヴェンへの失望が滲んでいる。
「女に絆されたか! 騎士の誇りはどうした!」
「放浪騎士だって、立派な騎士だろ」
「強盗騎士寸前のヤクザ者がか!? お前、本気で言ってんのか!」
ドルフの怒りはもっともだったし、それがわからないほどライヴェンも子供ではない。
けれど、子供ではないからこそ他人の抱く先入観や感情論で、己の人生を左右されると言うのは気に食わなかった。
「放してくれ」
「……──くそっ、お前は、友でいてくれると思った」
「友さ。たとえ不当な拷問をするような奴でも」
「そいつは罪人だ! 絆されたのか!?」
「違う。……離れていたって、俺たちの縁は、」
「どこへでも行っちまえ。くそったれ!」
乱暴にライヴェンを突き飛ばしたドルフは、肩から湯気が立ち上るのではないかと言うくらいに怒らせ、去っていった。
その背中は、途方を無くした犬のように小さく見えた。
「よかったのか?」
声に微かな哀れみと、それから、どこか侮蔑するような色合いを滲ませたフィノーラがそう聞いてきた。
「なんで? いいも悪いもない」ライヴェンの返しは、端的だった。「友達って、別に、対等な関係であって主従じゃあねえだろ」
「……そうだな。そうだった」
二人は城を出て、歩き出した。
城下町を吹き付ける雪風はいよいよ激しくなり、横殴りの雪粒が景色を白く染めていた。
〓
旅の道具は概ね揃った。それらはノルトが連れてきた栗毛の軍馬──雌の荒馬である。
あまりにも気性が荒すぎるからと言う理由で
ACT8 出立前夜
ハイペースに投稿してしまい書き溜めが尽きているので、しばらく資料整理と書き溜め構築のお時間をいただきます
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Lance
ライバルとの喧嘩別れもありましたが、これから先、旅が楽しみですね。師匠が同行してくれるとは心強い……と思いましたが、女性が好きみたいですね^^; 続き、楽しみにしてますが、無理はなさらないで下さいね。
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Lance
2025年10月30日 19時47分
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