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ブロムスト・サガ ─ 竜ヲ征スル者 ─

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ACT8 出立前夜

 監獄塔の最上階を守っていた衛兵は、二人の騎士の、一連のやり取りには当然気づいていない。 「騎士の叙任式はどうなさったんです?」 「終わったぜ、今日からライヴェンも騎士だ。それより、そこの盗賊を貰い受けにきた」  衛兵は「は?」と間抜けな声を漏らす。「なんですって?」 「身柄を貰い受けにきたんだ。まァ、うちのライヴェンが惚れちまったみたいでな」 「えっ、……あ、そういう……」  混乱する衛兵と、師を睨むライヴェン。  ライヴェンが鍵を開けると、中にいた囚人服のフィノーラは「よう」と声をかける。 「六十一日目。絞首台の用意ができたか?」 「いや。諸般の事情で取り消しだ。釈放だよ」 「おいおい、本気で出してもらえるなんて思ってもなかった……感謝する、ライヴェン。それから、そっちの……」  ノルトは「ノルベルト、だ。ノルトでいい」と軽く応じる。そうしてライヴェンの背中をパシパシ叩いて、「いい女じゃねえか、惚れるのもわかる」と囁く。 「うるさいです師匠。……フィノーラ、お前の装備を取ったら、俺たちもすぐに城を出る。今日は城下で過ごして、新年早々旅立ちだ」 「雪中行軍ねえ。まあいいけど。……改めて礼を言う、ライヴェン。それから……サー・ノルベルト?」 「ノルトでいいと言っただろ。堅苦しいのはやめにしようや」  肩をすくめるノルト。  一行はぽかんと口を開けている衛兵の脇を抜け、一階の装備押収所でフィノーラの装備一式を取り戻すと、パーピガンを通って外に出る。 「俺は馬を用意する。二人は今日の宿と、それから明日に備えて道具類を用意してくれ。いいな」 「わかりました、師匠」 「あー、ライヴェン? お前は放浪騎士とはいえ、騎士なんだ。俺とは対等だ。わかるか?」 「……わかりまし、──わかったよ、ノルト。でも、金は?」  そう言うと、隣のフィノーラがじゃらじゃらいう袋を胸元から引っ張り出す。 「手癖が悪いな、フィノーラ。仲良くやれそうだ」ノルトがにやりと笑った。  ライヴェンは察しが悪く、「なんだ、しっかり稼いでるじゃないか」と生真面目に言った。 「真面目に働く盗賊なんていないっての。あの押収所でくすねたのさ。どうせ汚れた金だから」  思わず閉口するライヴェン。ノルトは笑いながら「俺の馬はまだ三歳、旅に連れて行くにゃあ悪くねえ」と厩舎へ去っていった。  二人は自由すぎる最先任の騎士を見送って、城門から外に出た。  跳ね橋を渡り切るか否か──そこで、背後から声がかかる。 「ライヴェン!」  ドルフだった。彼は肩を怒らせて、押収所で正装を脱いで適当な革鎧と毛皮のコートに着替えていたライヴェンを睨みつける。 「どういうつもりだ!」  首に巻いているマフラーを、彼は思い切り掴み上げた。  顔にはありありと、ライヴェンへの失望が滲んでいる。 「女に絆されたか! 騎士の誇りはどうした!」 「放浪騎士だって、立派な騎士だろ」 「強盗騎士寸前のヤクザ者がか!? お前、本気で言ってんのか!」  ドルフの怒りはもっともだったし、それがわからないほどライヴェンも子供ではない。  けれど、子供ではないからこそ他人の抱く先入観や感情論で、己の人生を左右されると言うのは気に食わなかった。 「放してくれ」 「……──くそっ、お前は、友でいてくれると思った」 「友さ。たとえ不当な拷問をするような奴でも」 「そいつは罪人だ! 絆されたのか!?」 「違う。……離れていたって、俺たちの縁は、」 「どこへでも行っちまえ。くそったれ!」  乱暴にライヴェンを突き飛ばしたドルフは、肩から湯気が立ち上るのではないかと言うくらいに怒らせ、去っていった。  その背中は、途方を無くした犬のように小さく見えた。 「よかったのか?」  声に微かな哀れみと、それから、どこか侮蔑するような色合いを滲ませたフィノーラがそう聞いてきた。 「なんで? いいも悪いもない」ライヴェンの返しは、端的だった。「友達って、別に、対等な関係であって主従じゃあねえだろ」 「……そうだな。そうだった」  二人は城を出て、歩き出した。  城下町を吹き付ける雪風はいよいよ激しくなり、横殴りの雪粒が景色を白く染めていた。      〓  旅の道具は概ね揃った。それらはノルトが連れてきた栗毛の軍馬──雌の荒馬である。  あまりにも気性が荒すぎるからと言う理由で解体(ツブ)して食用にする話まで出たほどだが、ノルトが預かり、立派な軍馬にして見せたのである。  ノルトは丘耳族──バッケン・エルフと呼ばれる種族であり、かの種族は平原や丘の移動に馬を用いるため、馬の調教・乗馬技術に長けるのだった。  錆びた蹄鉄亭で、さしあたって当面の間離れることになるフェスタースでの、別れの食事を取る。  決して最後の食事ではない。 「サー・ライヴェン? どういうプランで行くんだ?」 「からかわないでくれノルト。……っていうか、俺が決めていいのか?」  この中で最も旅慣れているのはノルトで、次にフィノーラだろう。ライヴェンは元農奴のストリート上がりという、腕っぷしの優れた出自とはいえ、所詮都市暮らしである。 「俺が決めたら意味がないだろう? 俺はご意見番、ってくらいがちょうどいい。フィノーラはどうだ」 「魔本があるならそれを頼りにできたんだけど……ま、たらればは嫌いだから、次のいいアイデアが浮かぶまでは武者修行に付き合うよ。命の恩人でもあるしさ」 「そうだなあ……ひとまず、ロジェール公国を巡ろうと思ってる。やっぱり首都に行きたい」  ライヴェンがそう言うと、ノルトは頷きつつジョッキにエールを注いで、飲むこんでいく。その飲みっぷりは彼の中性的な見た目以上にワイルドだった。 「いいんじゃねえか? 首都か……キレーなお姉さんはいるかな」 「変な病気うつされても知らんぞ……ライヴェン、首都ロジェリアへのルートは、どんなに順調でも十日から二週間はかかる」  鴨のモツ焼きをフォークで突き、一切れほろほろのモツを頬張り、ライヴェンは飲み込みつつ頷いた。 「街道沿いに行けば、道の宿駅があるだろう? 南ロジェリア街道三十二次、さ」 「なるほどな、ほぼ十キロおきに宿場があるから確かに安全に移動できる……」フィノーラはそう言った。  この北地域では、とにかく行軍難易度が高い。雪で足を取られる、食事が取れない、病になる、魔物に襲われ怪我人が出るなど。  こうした事態に頭を悩めたある国の国王陛下は「いっそ各街道に一定間隔で軍の拠点を敷設する」という一大プロジェクトを打ち立てた。  ロジェール公国もそれを真似た。  それが首都を中心に伸びる東西南北のロジェリア街道〇〇次、であった。  およそ十キロおきに拠点を設置し、軍隊の移動を迅速化。また、魔物狩りを生業とする冒険者の流通を流動的にし、商人の公益を合理化していったのである。  これによって北地域の国々は、極寒に閉ざされた時期でも比較的迅速な軍事行動が可能となり、それによって、ユゴリア侵攻を押し返した側面もあったのだ。 「街道を通れば比較的安全だが、路銀はどうする? フィノーラの《《戦利品》》はあまり大っぴらに使えるもんじゃない」  ノルトの問いはもっともであるが、ライヴェンにはもう答えがあった。  ちなみにさっきの買い物では結局ライヴェンのこれまでの稼ぎから捻出していた。  盗品──その押収品を支払に使い、足がつけば厄介である。これは然るべき場面で使うべきなのだ。 「道中、魔物退治なり山賊退治なりを受ければいい。何もせず街道をいくだけでは腕が鈍るだろう?」  それもそうだ、とノルトとフィノーラは承諾した。  そのようにして、一行は旅の前夜、酒で温まって、眠りにつくのである──。  そして翌日、新年を迎えた幻冬季一日目──旅は始まるのだった。

 ハイペースに投稿してしまい書き溜めが尽きているので、しばらく資料整理と書き溜め構築のお時間をいただきます

初回投稿日時:2025年10月29日 19:17

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  • アヌビス

    Lance

    ♡1,000pt 2025年10月30日 19時47分

     ライバルとの喧嘩別れもありましたが、これから先、旅が楽しみですね。師匠が同行してくれるとは心強い……と思いましたが、女性が好きみたいですね^^; 続き、楽しみにしてますが、無理はなさらないで下さいね。

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    Lance

    2025年10月30日 19時47分

    アヌビス

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