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機会損失2000兆円、運用立国に挑む 「ふやす文化」推進

資産運用立国に挑む(1)

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think!多様な観点からニュースを考える
野尻哲史さん他1名の投稿野尻哲史野崎浩成
【この記事のポイント】
・資産運用立国への改革が本格始動したのは2022年9月
・投資先が預貯金に偏重すると「機会損失」が大きく
・米国では家計金融資産に占める株・投信が約5割に

日本の個人、政府、金融業界がいっせいに資産運用に力を入れている。お金を「ふやす文化」を日本経済の推進力にする運用立国への挑戦が始まった。

「実現性のある対策を持ってきてくれ」。岸田文雄政権が目指す資産運用立国の実現に向けて、金融庁幹部は運用会社や年金基金、証券会社などに連日のように呼びかけてアイデアを募っている。

栗田照久長官は「年内にプログラムを作る」と語る。どうすれば良い投資信託を運用会社は個人に提供できるのか。年金基金は十分に資金を活用できているか。大きな改革の絵を描く。

改革が本格的に動き出したのは2022年9月、首相がニューヨーク証券取引所での講演に向かう政府専用機内の出来事だった。少額投資非課税制度(NISA)の時限的な仕組みを再考する程度の内容だった草案に、首相が「恒久化が必須」との文言を入れた。側近が出発直前に与党に根回しして首相に提案した。

24年開始が決まった新NISAの枠上限は1800万円。対象となる18歳以上の総枠は約1900兆円と家計金融資産に匹敵する。普及の後押し役と目される「職場つみたてNISA」も各地で広がりをみせる。

「このままでは老後資金が足りない」。徳島市の西精工でナットなどの計量・梱包・出荷を担当する田中一生さん(43)は社内勉強会で将来に備える必要性に気づいた。4月から給与天引きで毎月2万円ずつ外国株投信の積み立てを開始。「定期預金の積み立てを投資に変えた。20年はほったらかしで続ける」

西精工では4月の制度導入から4カ月あまりで社員・パートの244人中26人が加入した。「若手に触発され年配にも広がってきた」(西泰宏社長)と浸透を見込む。説明会では過去10年、毎月1万円を日本株投信に積み立てたら元本120万円が214万円になった試算が示された。

西精工に導入を持ちかけた阿波銀行は野村証券と包括提携して取引先に働きかけている。徳島県など586社、約2100人に成果が広がる。

デフレ下では預貯金が正解とされたが、偏重による「機会損失」は大きい。

02年度から預貯金増加分の半分を日米株に均等に投資した場合の家計金融資産の伸びを試算すると、22年度末で2430兆円と実際より390兆円多い。さらに01年度の株・投信の保有比率が米国並みだった想定にすると3990兆円に膨らむ。2000兆円近い機会損失だったことになる。

運用立国の狙いは個人の所得増にとどまらない。リスクマネーを増やし経済の成長力を取り戻すことがある。キャッチアップ型の経済では重点産業に資金を集める銀行融資主体の間接金融が効果的だった。成熟経済には試行錯誤や新陳代謝を促す直接金融が合う。

米国も1980年前後まで株・投信の家計金融資産に占める比率は約15%と現在の日本並みだった。年金制度改革などが中流階級を預金者から投資家にし、現在の比率は約5割になった。投資マネーが企業を伸ばし、株高や配当が家計を潤す好循環を築いた。

直接金融にシフトした米国の投信残高は、銀行融資の源泉となる預金の1.8倍の約30兆ドルと巨大だ。日本の投信残高は私募を含めて約310兆円と預金の3分の1ほどにとどまる。

7月8日、個人投資家の集い「インデックス投資ナイト2023」が東京・渋谷で開かれた。「インフレに見合う賃金上昇がないと感じるか」との問いに会場の約6割が挙手した。3%の物価上昇が20年続けば現預金の実質価値は半分近く減る。日本の英知を集めた改革が求められる。

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  • 野尻哲史のアバター
    野尻哲史合同会社フィンウェル研究所 代表
    ひとこと解説

    貿易立国、金融立国という言葉が、国の富を貿易や対外投資で増やすという意味だとすれば、資産運用立国は資産運用で国の富を増やすこととなる。他国との関係の視点が薄いことから“国を立てる”という言葉としての違和感は残るが、国の富を増やすという点では分かり易い。ただ、せっかくなら目標値(=KPI)を明示すべきではないか。記事にある通り、機会損失2000兆円を避けることができるのなら、個人金融資産は4000兆円になっていたはずだ。個人金融資産4000兆円をKPIにして、施策を集中させることが必要だろう。

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  • 野崎浩成のアバター
    野崎浩成東洋大学 国際学部教授
    別の視点

    長期的視点が必要なGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の四半期実績が芳しくないだけで騒ぎ立て、挙句の果てに「国民の年金を市場でのギャンブルに使うのか」などと批判するメディアから、デフレ時代の投資成功体験の欠如、確定給付型中心の年金制度に至るまで資産運用に係る問題は数え切れません。ここでは敢えて「機会損失」を取り上げます。日本では個人も企業も機会損失が過小評価されていることが、成長機会を妨げていると感じています。リスクを取った経営判断を見送ることで生じる逸失利益への反省もないため、保守的な経営判断を選択するほうが合理的なのです。不作為による機会損失について、客観的レビューを行うべきです。

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