第148話 古代遺物ハンター
「オーパーツ・ハウルだと?」
フェンが双剣を構えながら吐き捨てた。彼女はその名をどこかで聞いたことがあるようだった。
「ああ、確か王都のギルドで指名手配されてる盗掘団だ。遺跡荒らし専門のハイエナどもで、狙った獲物のためなら手段を選ばないって話だぜ」
天井の崩れた穴から次々と降りてくる男たちの姿は、フェンの言葉を裏付けていた。その数は三十名ほど。だがその装備はそこらの盗賊とは一線を画していた。
全身を黒い魔鋼の鎧で固め、その腕には蒸気を噴出するガントレットや歯車が回転する奇妙な弩が取り付けられている。彼らは魔法使いではない。古代の技術『魔導工学』を悪用し、自らの肉体を強化したサイボーグのような戦闘集団だった。
リーダー格と思われる、ひときわ巨大な鎧をまとった男が前に進み出た。その顔は無機質な鉄仮面で覆われている。
「ドーモ。純血守護団の諸君。そしてクレセントの英雄殿。我々はオーパーツ・ハウル。ただのしがないお宝ハンターだ。事を荒立てるつもりはない」
その声は仮面に内蔵された魔道具によって増幅され、不気味に響き渡った。
「ただ、そこに眠っている古代エルフの姫君と、この遺跡に眠る全ての『遺物(オーパーツ)』を我々に譲っていただければそれでいい」
あまりにも虫のいい要求だった。
「ふざけてんじゃねえぞ、鉄クズ野郎!」
フェンが吼える。
リーダーの男は肩をすくめた。
「交渉の余地はない、と。残念だ。まあちょうどいい。君たちのその伝説級の武具も、ついでにコレクションに加えさせてもらおうか。――やれ」
その冷酷な号令と共に、古代遺物ハンターたちが一斉に襲いかかってきた。
ガシャン、ガシャン、と重い金属音が地底都市に響き渡る。彼らの動きは人間離れしていた。強化された脚部が凄まじい瞬発力を生み、一直線に俺たちへと殺到する。
「ルナを下がらせろ!」
俺は叫び、超振動ブレードを構えた。
最初に斬りかかってきたハンターの剣をブレードで受け止める。キィン、と甲高い音が響き、相手の剣は半ばからあっさりと切断された。
だがハンターは怯まない。彼は切断された剣を捨てると、左腕のガントレットから高圧の蒸気を噴射し、その勢いで殴りかかってきた。
「なっ!?」
俺は咄嗟に身をかがめてそれを避ける。拳が通り過ぎた背後の岩壁が、轟音と共に粉々に砕け散った。とんでもないパワーだ。
「こいつら、厄介だぜ!」
フェンもまた苦戦していた。彼女の【双風雷牙】はハンターたちの魔鋼の鎧を切り裂くことができたが、相手は痛みを感じないのか、致命傷を負っても尚機械のように攻撃を続けてくる。
「リアムさん、気をつけて! 彼らの鎧、自己修復機能があります!」
後方で戦況を見ていたルナが叫ぶ。彼女の言う通り、フェンが与えた傷が鎧の内部から漏れ出す緑色の液体によってみるみるうちに塞がっていく。
「ちっ、キリがねえ!」
このままではジリ貧だ。
そして彼らの狙いは明確だった。前衛の俺とフェンを足止めし、その隙に別動隊がルナと、そしてまだ縛られたままのアステリオスたちへと迫っていた。
「姫君は我々がいただく!」
数人のハンターがルナに襲いかかる。
「させません!」
ルナは聖杖を振るい、光の壁で彼らの攻撃を防ぐ。だが彼女の魔力はまだ完全には回復していない。防戦一方で精一杯だった。
「アステリオス様!」
別のハンターたちが、無力化されているアстеリオスたちへと手を伸ばす。彼らエルフ自身もまた、高値で取引される『遺物』なのだ。
「くっ……!」
アステリオスは縛られたまま、屈辱に顔を歪めることしかできない。
その時だった。
アステリオスに迫っていたハンターの一人が、突如として背後から放たれた風の刃によって切り裂かれた。
「……なに?」
ハンターが驚いて振り返ると、そこにはいつの間にか拘束を解かれた純血守護団のメンバーたちが、怒りに燃える目で立っていた。
「我らが姫君と我らが主に、その汚れた手を触れるな」
彼らを解放したのは俺だった。
俺はフェンと戦いながらもハンターたちの死角を突き、【次元倉庫】の力でアステリオスたちを縛っていた網を密かに『収納』していたのだ。
「……人間……。なぜ、我らを……」
アステリオスが、信じられないという顔で俺を見る。
俺は敵の攻撃をいなしながら彼にだけ聞こえる声で言った。
「言ったはずだ。俺はあんたと話がしたいだけだと。だがその前に、目の前のゴミ掃除を終わらせる必要がある」
俺は彼の目を真っ直ぐに見据えた。
「あんたが守りたいものはなんだ? エルフだけの孤高の聖域か? それとも、今まさに目の前で汚されようとしている、あんたの大切な『姫君』と、あんたを信じる『仲間』たちか?」
俺の言葉が、アステリオスの心を貫いた。
彼の脳裏に、妹リリアナの最後の笑顔が蘇る。
『兄様。憎まないで』
そうだ。俺が本当に守りたかったのは、種族の誇りなどという大げさなものではない。
ただ、大切な同胞のあの笑顔だけだったはずだ。
アステリオスの瞳に、迷いの色が消えた。
彼はゆっくりと立ち上がると、白木の杖を強く握りしめた。
そして全ての仲間たちに、そしてこの場にいる全ての者たちに聞こえるように、高らかに宣言した。
「――純血守護団に告ぐ! これより、我々はクレセントと共闘する!」
その声にはもう歪んだ正義の色はなかった。
ただ、守るべきものを守るという一人の戦士としての、揺るぎない覚悟だけが宿っていた。
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