第58話 共同戦線と最深部への道
王国騎士団との奇妙な共同戦線が始まってから、数日が過ぎた。
アレスター隊長率いる騎士たちは、俺たちの村の一角に簡易的な駐屯地を設け、そこを拠点として森の本格的な調査を開始した。
「ルイン殿、こちらの西側エリアで異常な魔力反応を感知した。おそらく、凶暴化した魔物の新たな巣が形成されている可能性がある」
「了解だ、アレスター隊長。エリナ、グレン、準備はいいか?」
「はい、主様」
「いつでも行けるぞい」
俺たち『安らぎの庭』の主要メンバーとアレスター率いる騎士団の精鋭たちは、合同で調査部隊を編成し、日々森の深部へと分け入っていった。
その連携は驚くほどスムーズだった。
騎士団がその組織力と戦術で安全なルートを確保し、俺たちがその特殊な能力でこの森特有の障害を排除していく。
エリナの古代魔法は、騎士団の魔道具では防ぎきれない強力な呪いの霧を晴らし、グレンはその怪力とドワーフの知識で巨大な岩石や倒木を取り除き、道を切り拓いた。
そして俺の【状態異常無効】は、毒の沼地や胞子の森を何のリスクもなく踏破することを可能にした。
フェンは、その鋭い嗅覚で隠れた敵や罠を事前に察知し、俺たちの安全を確保してくれた。
「……信じられん……」
アレスターは俺たちの常識外れの能力を目の当たりにするたびに、感嘆のため息を漏らしていた。
「君たちがいなければ、我々はこの森の入り口で早々に全滅していただろう。君たちはまさに、この森の攻略における『鍵』そのものだ」
俺たちの共同調査は、着実に成果を上げていった。
俺たちが作成した『魔瘴の森・新植物図鑑』に騎士団が持つ最新の地理情報や魔物の生態データが加わり、その精度と情報量は飛躍的に向上した。
そして俺たちは、ついにこの森のすべての謎が眠る場所へとたどり着いた。
森の中心部。
天を突くかのようにそびえ立つ、巨大な古代遺跡。
その遺跡は黒い未知の金属で作られており、その表面には複雑で難解な幾何学模様がびっしりと刻まれている。
そして遺跡全体が、今まで感じたどんな魔瘴よりも遥かに濃密で強力な、絶望的なエネルギーのバリアによって守られていた。
「……ここが封印の地……」
エリナが息を呑んで呟いた。
「わたくしたちの先祖が命を懸けて『世界の歪み』を封じ込めた、古代の祭壇ですわ」
「……この結界……。並大抵の力では破壊することはできんぞ」
グレンが腕を組み、唸る。
「わしのハンマーでも傷一つつけられんかもしれん」
アレスターも険しい顔で結界を睨みつけていた。
「我が隊の最大火力を集中させても、おそらくびくともしないだろうな。これほどの古代魔法……。もはや我々の手に負える代物ではない」
やはりこの結GEOを破らなければ先へは進めない。
だが、その方法がわからない。
俺たちが頭を悩ませていると、エリナが何かに気づいたように遺跡の壁に近づいた。
彼女は、その壁に刻まれた古代エルフの文字をゆっくりと指でなぞり始めた。
「……これは……。この遺跡の成り立ちと封印の仕組みについて記された碑文ですわ」
彼女はその難解な古代文字を一つ一つ読み解いていく。
そして、驚くべき事実が明らかになった。
「……なんと……。この結GEOは外部からの物理的な力や魔法的な力では決して破壊できないように設計されているようですわ」
「なんだと!? では、どうやって中に入るんじゃ!」
「……結界を解くための『鍵』が三つ必要だと記されております」
エリナは続けた。
「一つは『森の静かなる心臓』。
一つは『大地の怒れる魂』。
そして最後の一つは『呪いを喰らう無垢なる力』」
三つの鍵。
それはまるで謎かけのようだった。
「……さっぱりわからんな」
俺が首をひねると、アレスターも同意するように頷いた。
だが、エリナとグレンは顔を見合わせ、そしてはっとしたように目を見開いた。
「……まさか」
グレンが震える声で言った。
「『大地の怒れる魂』……。それはわしがこの森で探し求めていたある特殊な鉱石のことかもしれん。地中深くでマグマの熱と大地の怒りを溜め込み、爆発的なエネルギーを秘めた『炎魔石(えんませき)』じゃ」
「そして『森の静かなる心臓』……」
エリナが続けた。
「それはおそらく、この森の生命力が凝縮されて生まれた伝説の植物『世界樹の若木』のことですわ。その若木は清浄な魔力を持つ者しか見つけることができないと言われております」
二人はそれぞれの専門分野の知識から、鍵の正体を推測した。
残るは一つ。
『呪いを喰らう無垢なる力』
その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員の視線が自然と俺に集中した。
「……え、俺?」
俺がきょとんとして自分を指差す。
「……間違いありませんわ、主様」
エリナが確信に満ちた瞳で俺を見つめた。
「呪いを防ぐのではなく『喰らう』力。そしてその力を持ちながら悪意に染まらない『無垢なる』心。それはあなたのその特殊なスキルと、そのお人柄を示しております」
「……つまり、俺自身が三つ目の『鍵』だってことか?」
「おそらくは」
なんとも大げさな話になってきた。
だが、もしそれが本当だとしたら。
俺たちの進むべき道は見えた。
「よし、決まりだな」
俺は仲間たちに向き直った。
「二手に分かれよう。グレンとアレスター隊長はその『炎魔石』とやらを探しに。俺とエリナ、そしてフェンは『世界樹の若木』を探しに行く。期限は一週間。必ず鍵を見つけ出し、ここで再会しよう」
俺の提案に、全員が力強く頷いた。
ついに俺たちはこの森の最深部へと続く道を開くための具体的な手段を手に入れたのだ。
世界の運命を左右する三つの鍵。
それを求める俺たちの新たな冒険が、今、始まる。
俺は隣に立つ頼もしい仲間たちの顔を見渡し、固く拳を握りしめた。
どんな困難が待ち受けていようとも、俺たちなら必ず乗り越えられる。
そう確信しながら。
俺たちはそれぞれの目的地へと歩き出した。
決戦の時は近い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます